レビュー

Windowsの使い方を拡張する「Surface Dial」の魅力とは

~クリエイター以外にもさまざまな用途で活躍

米国で販売されているSurface Dial、99ドル(税別)

 Microsoftが10月に発表した「Surface Studio」は、28型で4Kを越える解像度のディスプレイにハイエンドスペックのCPUやGPUなどを搭載した液晶一体型PCとして、クリエイター界隈などから大きな話題を呼んだ。

 そのSurface Studioと同時に発表されて注目を集めたのが、新しいホイール型デバイスの「Surface Dial」だ。Surface Dialは、PCとBluetoothで接続し、Surface Studioと一緒に利用すると、Surface Dialを置いた画面上の周囲にメニューを表示する「ダイヤルオンスクリーン」を利用できる。

 Surface Dialのメニューを表示させる機能こそSurface Studio専用(現時点では)だが、Surface BookやSurface Pro 4などでは公式に動作が保証されている。また、保証外の使い方になるが、一般的なWindows 10 PCでも利用できる。今回は日本での発売に先駆けて、米国で販売されていたSurface Dialを個人的に購入してみたので、そのレビューをお届けしていきたい。

Bluetooth LEでPCとやり取りを行なうロータリースイッチ型デバイス

 Surface Dialは、Windowsの世界では新しく定義されたホイール型のデバイスとなる。左右に無段階に回転するホイールがあり、クリックや長押しが可能。つまり、右への回転、左への回転、ワンクリック、長押しという4つの動作が行なえる。PCとの接続は、Bluetooth 4.0以降でサポートされているBluetooth Low Energy(BTLE)で行なわれており、比較的低消費電力での動作が可能だ。

 Surface Dialが発表された時には、Surface Studioとセットで紹介されたこともあり、専用デバイスだと受け取った読者も少なくなかったと思われるが、前述の通りSurface Studio以外でも利用できる。ただ、機能の全てを使おうとすると、Surface Studioが必要で、ダイヤルオンスクリーンの利用にもSurface Studioが必須だ。

Surface Studioと組み合わせて利用すれば、写真のような「ダイヤルオンスクリーン」機能が活用できる

 このダイヤルオンスクリーン機能を利用するには、液晶ディスプレイのタッチセンサーが、Surface Dialが置かれたことを検知できる必要がある。MicrosoftでSurfaceのマーケティングを統括しているMicrosoftデバイス担当 副社長(Corporate Vice President, Microsoft Devices)を務めるブライアン・ホール氏は、「デバイス側のタッチスクリーンにダイヤルオンスクリーンを実現する仕組みが必要になる」と説明している(別記事参照)。従って、Surface Studio以外では、机の上などに置いて使う「オフスクリーンメニュー」での利用となる。

Surface Studio以外のPCと利用する場合にはこのようにオフスクリーンメニューで利用する

 なお、ホール氏は同じインタビューの中で、Surface BookやSurface Pro 4などでもダイヤルオンスクリーン機能を有効にする可能性があることを示唆しており、それが可能だと言うことは、このSurface Dialの認識はソフトウェア的に処理していると考えられるだろう。具体的なことは分からないが、おそらくSurface Dialの大きさのデバイスが画面上に置かれたことをタッチセンサーが認識したら、ダイヤルオンスクリーン機能を有効にするといった仕組だと推測できる。

単4乾電池2本で動くほど低消費電力だが、電源スイッチはないので持ち運びには適していない

 米国では既に販売されているSurface Dialだが、価格は99ドル(税別、1ドル=117円換算で11,583円)で、筆者は米国のサンフランシスコにあるMicrosoftストアで購入したため、別途カリフォルニア州の州税(日本で言えば消費税)がかかっている。

海外のホテルでSurface Dialを利用しているところ

 なお、念のために言っておくと、現状米国で販売されているSurface Dialには日本で無線を出す機器に必要な技術適合認定のマークが表示されていない。このため、旅行者などが国外から持ち込んだ、Wi-Fi/Bluetooth機器を90日までの利用を認める例外規定を適用する条件を満たしでもしない限り、日本では利用できないので注意したい。

 今回は国外で利用しており、電源が入っている状態での撮影はすべて海外のホテルなどで行なった。日本の電波法には違反しない形でのレビューになっていることをお断りしておく。

Surface Dial
裏蓋を明けたところ、単四電池2本で動作している
電池の横にBluetoothペアリングのためのボタンが
裏側はラバー素材になっていてずり落ちないように工夫されている

 さて、本論に話しを戻すと、Surface Dialそのものは非常にシンプルな構造になっており、マグネットで本体に吸着している裏蓋を開けると、単4乾電池が2本入っているだけだ。ほかにあるのは、Bluetoothペアリングのためのスイッチで、これを長押しするとペアリングモードになり、PCからSurface Dialを見つけて接続できる。

 ただ、一度ペアリングすると、Surface Dialそのものにはスイッチが存在していないので、常に電源が入りっぱなしになり、接続状態が維持される(PC側の電源が入っていればだが)。PCとの接続はそもそも超低消費電力なBTLEだし、特にスイッチがなくても問題ないということなのだろう。

 だが、それ故に持ち運びは一切考えられていないようだ。というのも、電源がずっと入りっぱなしになってしまうので、カバンの中に入れておくと、勝手にPCに接続されて、カバンの中でホイールが回転するたびに、PCの操作が行なわれるという“悲劇”が発生する。PCがS3メモリサスペンドする従来型のクラムシェル型PCでは、PC側の電源が入ることはないが、Surfaceシリーズのように、InstantGoに対応した機器ではホイールが回るたびにPCの電源がオンになるので困ることになる。

 従って、持ち運ぶ場合には電池を外す必要があるが、そうした格好の良くない使い方を強いられることを考えると、Microsoftとしては据え置き利用以外は想定していないという理解で間違いないだろう。

標準でも豊富に機能を用意。アプリ側でのサポートがあるとさらに使える

 既に述べた通り、PCからSurface Dialを利用するには、Windows 10 PC(Anniversary Update以降を適用する必要あり)とBluetoothで接続する。今回は標準サポート環境であるSurface Book、さらにはサポート対象外のVAIO Z(2015年モデル)で試してみたが、いずれのPCでも利用できた。

「設定」の中の「デバイス」→「ホイール」とたどっていくと設定できる

 接続後は、Windows 10の「設定」のデバイスの中に、「ホイール」という項目が追加される。このホイールに表示されている設定項目を利用して、Surface Dialの各種設定ができる。ホイール設定では、Surface Dialのメニューに6つの項目が割り当てられており、「ボリューム」、「スクロール」、「拡大」、「戻る」、「輝度」、「カスタムツール」となっている。それぞれの設定は下表のようになる。

【表】Surface Dialの機能
ワンクリック右へ回す左へ回す
ボリュームミュート/アンミュートボリュームアップボリュームダウン
スクロール-上へ下へ
拡大-拡大縮少
戻る-リドゥーアンドゥー
輝度-輝度アップ
カスタムツールキーボードショートカット

 ここで注目したいのは「カスタムツール」という設定だ。カスタムツールでは、ワンクリック、右へ回転、左へ回転のそれぞれにキーボードショートカットを割り当てることができる。つまり、Ctrl+Cでのコピー、Ctrl+Xでの貼り付けといったものを、Surface Dialのワンクリック、ホイールを右へ回転、ホイールを左へ回転それぞれに割り当て可能なのだ。

 なお、ここでは規定されていなくても、アプリによっては独自の機能が実装されている場合がある。例えば、Microsoft Officeの場合には、描いたペンの軌跡がどうなっていたかを再生する「Ink Replay」という機能を呼び出すメニューが実装されており、ホイールを回すことで軌跡を確認できる。

ExcelでのInk Replay。このようにアプリによって機能が拡張されている場合がある

 そうした独自の機能を大規模に実装しているアプリの1つが、UWPのイラストアプリ「Sketchable」になる。Sketchableでは、クリエイターの利便性を考え、ペンを右手で握ったまま左手でSurface Dialを操作し、ペン先の色を変えたり、太さを変えたりといった動作ができるようになっている。

 ただ、現状ではSketchableのこの機能は、Surface Dial向けの独自拡張になっており、アプリ側で実装する必要がある。従ってAdobe Photoshopなどでは、現状は先ほど紹介したような標準機能のみが利用できるだけで、Sketchableで使えるような機能に対応していないので注意したい。将来的にはアプリ側のサポート次第で、同じような機能が利用できる可能性があるので、Adobeには早期に対応をお願いしたいものだ。

UWPアプリの「Sketchable」。ダイヤルでペン先などを変えられる
Surface Studioで利用していれば、このように使える

カスタムツールをうまく使うとさまざまな用途で利用可能。リモコン的に使うことも

 実際にSurface Dialで各種アプリを利用して分かったことは、アプリの種類にもよるのだが、どのタイプのアプリでも意外と便利だということだ。

 例えば、Windows 10標準の動画再生アプリである「映画&テレビ(UWPアプリ)」を利用して動画を再生する時には、Surface Dialをワンクリックすると動画の再生/一時停止に、ホイールを右に回すと30秒進む、ホイールを左に回すと30秒戻すという操作が行なえ、リモコン的な使い方ができて便利だと感じた。

 Windows 10標準の音楽再生アプリであるGrooveミュージックでは、ホイールをワンクリックすると再生/一時停止、ホイールを右に回すと次の曲、左に回すと前の曲という形で使えた。

 Grooveミュージックを使っている時にもう1つの特筆すべきことは、ほかのアプリがフォアグランド(つまりGrooveミュージックがバックグランドに回っている場合)であっても、「次のトラック」という項目がSurface Dialのメニューに表示され、次の曲へ進めたり、前の曲に戻ったり、一時停止などが可能になる。ウィンドウを切り換えなくても、バックグランドのGrooveミュージックを操作できるので便利だ。

Grooveミュージックを利用してバックグランドで音楽を再生している場合には、Surface Dialを利用して一時停止/再生、次の曲、前の曲という操作が可能に

 また、筆者が意外と便利だと感じたOneNoteでの使い方もある。筆者は仕事柄、インタビューした録音データを文字起こし(いわゆるテープ起こし)することが少なくない。録音はOneNote 2016(Win32版)を利用しているのだが、その作業の際にマウスなどでいちいち再生、停止を行なう必要があって効率が悪いなと感じていた。

 そこで、OneNoteの再生/一時停止のショートカット(Ctrl+Alt+P)をSurface Dialのワンクリックに、10秒進める(Ctrl+Alt+U)をホイールの右へ回すに、10秒戻す(Ctrl+Alt+Y)をホイールの左へ回すに割り当てて使っている。これだと、OneNoteをフォアグランドにするだけで、再生/一時停止をSurface Dialのワンクリックで、再生部分を10秒進めるをホイールを右に回すで、逆に10秒戻るを左に回すで実現できており、非常に便利だ。この一例だけでなく、キーボードショートカットをうまくカスタムツールに割り当てるだけで、ほかにもさまざまな使い方が考えられるだろう。

Surface Dialを使い、OneNote 2016上で録音データの再生操作などをしている様子。クリックで再生/一時停止、ホイールを右に回すと10秒送りができる

 このように、Surface DialではMicrosoftがSurface Studioの発表会で見せたようなクリエイター向けの使い方以外にも、いろいろな用途に応用できそうだ。Windowsのユーザー体験を拡張するデバイスとして大きな意味があると思うので、ぜひとも日本でも発売して欲しいし、Microsoft以外のベンダーからも同様のデバイスが発売されることに期待したいところだ。