Let'snote S8/N8開発者インタビュー
~ハイパワーと16時間駆動を両立

Let'snote S8



 パナソニックが発売したLet'snoteシリーズの新モデル「Let'snote S8」および「Let'snote N8」は、標準電圧版Core 2 Duoを搭載しながら、公称16時間という非常に長いバッテリ駆動時間を実現するとともに、S8で約1.32kg、N8で約1.265kgという軽量さも兼ね備えた、非常に魅力的なモバイルマシンに仕上がっている。

 ただ、これだけのスペックとバッテリ駆動時間、軽量さを全て実現するのは、そう簡単なことではなかったはず。

 そこで、Let'snoteシリーズの企画および開発を担当している、パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 テクノロジーセンター主幹技師の坂田厚志氏と、パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 市場開発グループ 商品企画チーム ビジネスモバイルユニットリーダーの福岡昭徳氏に、Let'snote S8/N8の開発経緯や、開発に苦労した点などを伺った。



●標準電圧版Core 2 Duo搭載で16時間バッテリ駆動は最初から決まっていた

Q:今回登場した、Let'snote S8およびN8は、標準電圧版のCore 2 Duoを搭載していながら、公称で16時間、実際に(ベンチマークなどの)テストを行なっても10時間を優に超えるバッテリ駆動時間を実現していますが、これは開発当初からの目標だったのでしょうか。

パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 テクノロジーセンター主幹技師 坂田厚志氏

坂田氏:そもそも、モバイルPCであっても、メインマシンとして使いたいということで、高性能という部分を要求されるお客様は多くいらっしゃいます。目に見えないところでウィルスソフトやファイルの暗号化ソフトが動作している中で、メール、Web、Word、Excelを同時に開きながら作業をするといったことが頻繁に行なわれています。もちろん、ULV版CPU搭載マシンの性能でご満足いただいているお客様もいらっしゃいますが、より快適に使っていただくためには、高性能が必要と考えました。また、パフォーマンスを重視して、本当はモバイルPCが欲しいけれどA4ノートを選ばれているお客様もいらっしゃいます。

 そこで、そのようなお客様に喜ばれる製品をなんとかご提供したいというのがありまして、初めから標準電圧版Core 2 Duoを搭載して性能を高めるという点は狙っていました。ただ、ULV版のCore 2 Duoに比べると動作クロックはほぼ2倍、電圧も若干上がりますし、発熱も大幅に増えます。このCPUをこのサイズのボディに入れて、その上でバッテリ駆動時間も伸ばすというのは、非常に苦労した部分です。

Q:標準電圧版のパワフルなCPUを搭載するというのは、ユーザーからの要望が大きかったからでしょうか。

パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 市場開発グループ 商品企画チーム ビジネスモバイルユニットリーダー 福岡昭徳氏

福岡氏:ある業界の方が、スムーズに作業をこなすには、A4デスクノートのパワーが必要ということでしたので、まずFシリーズを試していただきました。すると、パフォーマンスはこれで問題ないが、外に出ることが多いので、できれば持ち歩きたいけど、Fでは大きい。しかし、WやTではパワーが足りない。このようなご意見をいただきまして、それなら(WやTの携帯性を維持したまま)パフォーマンスも追求していきましょう、と考えたのが1つ。

 一方、我々も会議などでWやTを持ち歩いて使っていますが、公称11時間のバッテリ駆動時間とは言っても、液晶の輝度を上げて、無線LANを使ってメールの送受信やファイルのアクセスなどを行なっていると、1日使えません。そういった中で、普通に使って最低8時間使えてほしいと、我々も実感として感じていましたし、パフォーマンスがいくら上がろうと、その点はお客様も同じだろうと思っていました。

 そこで、実用で8時間使えるとしたら、JEITA(JEITAバッテリー動作時間測定法(Ver.1.0))でどのくらいかを考えて、やはり倍は必要だろうということで、16時間に設定しました。この2つの要素から、標準電圧版Core 2 Duoのパフォーマンスとバッテリ駆動時間が16時間というターゲットを決めました。

Q:ということは、バッテリ駆動時間16時間という数字が初めから設定されていたのですね。

福岡氏:はい、そのとおりです。

Q:それは、ものすごく高いハードルだと思いますが、それを聞いて技術の方はどのようにおっしゃっていましたか?

福岡氏:それはもう、単刀直入に「できるか!」と言われました(笑)。

坂田氏:「そんなものできるか!」というよりは、「本当にやるのか?」というほうが強かったですね(笑)。ただ、一般的にお客様からの要望として、バッテリ切れに対する要望は強いものがありますから、確かにそれが実現できれば、お客様に満足していただけるだろうとは思いました。

Q:バッテリ駆動時間を延ばすのは、搭載するバッテリのセルを増やせば簡単に実現できると思います。しかしS/Nは、W/Tの後継ですから、当然重さの上限は設定されているはずで、そう簡単なことではないですよね。

坂田氏:その通りです。重量が大幅に重くなってもいいのかというと、そんなわけにはいきません。少なくとも現行モデルと大差ない重量でなければならない、と。その中に、標準電圧版のCPUを入れて液晶もワイドになって。本当にいけるのか、というのが当初の感想でしたね。

福岡氏:ただ、それを実現してくれるのが、我々の技術のメンバーですから。

坂田氏:単純にバッテリのセル数を増やせば何とかなるが、それでは重くなるので、重さをどうやって削るのか。そのためには何をやればいいのか。メンバー全員で目標を共有して取り組みました。

●ワイド液晶搭載の経緯について

Q:先ほど液晶の話が少し出ましたが、企画スタートの時点から、液晶のワイド化という部分は決まっていたのですか?

坂田氏:それはまだ決まっていませんでした。

Q:私自身、Let'snoteといえば4:3液晶というイメージが強いですが、今回S/Nで液晶のワイド化を決断されたのはどう言った理由があるのでしょうか。

坂田氏:コンシューマの方々からの(液晶ワイド化に対する)声は大きかったです。法人の方々は、まだ4:3のほうがいいかな、という声も多かったのですが、解像度が増えると表示出来る情報量も増えますから、そのことから、思い切ってワイドにしようか、ということになりました。

福岡氏:我々は、法人の方々をご招待して意見をお聞きする場を設けているのですが、一昨年(2007年)は「ワイドになるんじゃないですよね」という意見が多かったのですが、昨年(2008年)ぐらいから「いつワイドになるの?」というように風向きが変わっていたというのもあります。

Q:法人の方も液晶に対する考え方が変わってきていたわけですね。

福岡氏:そもそも、4:3の液晶を搭載するこのクラスのマシンは(Let'snote以外には)全くないですから。周りの環境がワイドに移行している中で、ずっと4:3である必要がなくなってきていたということもあります。

Q:今回液晶がワイドになったのは、ある意味必然だったとも言えるのでしょうか。

福岡氏:そうですね。

坂田氏:コンシューマの方々の声が非常に大きかったという部分も、もちろんあります。

福岡氏:それと、法人様向けにはTとWを併売していますので、それも含めて冒険ができたとも言えます。

坂田氏:結構冒険はしていますよ。法人の方は、まだ手放しでワイドでいいとはおっしゃっていませんから。「4:3も残すんですよね」とおっしゃるお客様もいらっしゃいますし。ですから、TとWもしばらくは併売となります。

Q:TとWの中身をNやS相当に変更するといったことは考えていませんか?

坂田氏:標準電圧版CPUを搭載するためには、基板形状やサイズ、また筐体構造を一から見直す必要がありますので、それは難しいですね。

Let'snote S8/N8に搭載されている、12.1型ワイド液晶。やや青みが強いが、解像度が増え、ビジネス用途でも扱いやすい

Q:液晶がワイドになって、消費電力は変わりましたか?

坂田氏:もちろん変わっています。4:3の液晶と比べてドットが増えていますので、その分パネルの消費電力は増えています。しかし、今回はバックライトがLEDになりましたので、それによって消費電力は下がっています。

Q:バックライトをLEDに換えることで、どの程度省電力になるのでしょうか。

坂田氏:例えば、ULV版Core 2 Duoを搭載しているWでバックライトをLEDに変更するだけで、少なくとも30分、おそらく1時間程度はバッテリ駆動時間が変わってくると思います。ですので、かなり大きいです。

Q:もちろん、パネル自体の省電力も高まっていますよね。

坂田氏:そうですね、パネルの省電力性も高まっています。

Q:パネルが変わって、バックライトも変わると、従来モデルと同等の表示品質を実現することが難しかったのではないですか。

坂田氏:色味という観点では、バックライトをLEDに変更したことで従来モデルと多少変わっていますが、ビジネスモバイル用途においては、十分使っていただけるものと考えています。

Q:文字がしっかり認識できる表示品質を確保することが重要なわけですね。

坂田氏:そうですね。映像をたくさん使うような使い方は外(外部ディスプレイ)に出していただければと考えています。

HDMI出力が用意され、高解像度液晶や大画面TVなどを利用したプレゼンも容易になった

Q:HDMIが用意されたので、そちらを経由すればAVで使えないことはないですね。

坂田氏:基本的にAV用途はそちら側で対応していただければと思います。

Q:HDMIの搭載は、特別な意図があったのですか?

福岡氏:最近の外部ディスプレイは解像度が高くなっていて、アナログ出力だと滲みとかの問題が出てきますので、ビジネス用途でもデジタルの映像出力を用意して欲しいという要望は以前から挙がっていました。

坂田氏:ビジネス系だと、会議室に大型液晶TVを置かれている所が増えていて、その時にデジタルの映像出力があるといいね、ということで、今回HDMIを搭載しました。

Q:ちなみに、もう一回り大きな液晶パネルを搭載するといったことは考えたりしませんでしたか?

坂田氏:実は、当初は考えました。12.1型の4:3の液晶と同じドットピッチにするには、ワイドだと13.3型なんですよね。12.1型のワイドだと、ドットピッチはRとほぼ同じぐらいになります。ただ、13.3型を搭載すると本体のフットプリントが大きくなり、もっと重たくなってしまうので、モバイル用途で使っていただけるのかと考えて、12.1型に決めました。ただ、文字が小さいといわれるお客様もいらっしゃると思うので、フォントサイズを簡単に変更できるアプリケーションを準備しています。

Q:また、Rのワイド化の予定はいかがでしょう。

福岡氏:Rは迷っています。本当は、順番からいうとRの方が先だったんですが、今回はW/Tの後継ということでS/Nを先に出しました。Rについては、あの大きさじゃないと、という根強いファンのお客様がいらっしゃるので。そういった意味で、どう変えるべきか悩んでいるところです。

●標準電圧版Core 2 Duo搭載による熱処理について

Q:標準電圧版Core 2 Duo搭載で放熱にはかなり苦労されたと思います。その要となるのが新しいファンでしょうか。

坂田氏:従来のものより直径が小さくなった代わりに、厚さを増やして羽の形状も変更しました。これで、羽の面積を増やしています。この新しいファンは、Fに搭載されているファンと同じ風量を確保しています。

Q:最低限、Fのファンと同じ風量が必要だったということでしょうか。

坂田氏:そうですね。最低Fのファンと同じ風量を確保しなければいけないというのはありました。それと、Fはサイズが大きいので、さらにFよりも熱効率も高める必要があります。そこで、気流の流れなども考えつつ、搭載位置やヒートパイプの形状などを詰めていって、なんとかこのサイズを実現しました。あと、騒音の点も考えて、回転数は従来よりも落としています。

S8/N8に搭載されている空冷ファン。W8/T8搭載ファンよりも厚さが増し、標準電圧版Core 2 Duoの発熱にも十分対応できる風量を確保している上のF8の基板に搭載されているファンよりもかなり小さいが、同じ風量を実現している

Q:私も実際にSを使ってみて、ファンの音がほとんど気にならなかったのは少々驚きました。

坂田氏:我々も、いろいろな製品でフルパワー時の騒音を計測したりしていますが、そういった中でもかなり騒音は低い方だと思います。

Q:そのほかで苦労した部分はありましたか。

坂田氏:従来のファンは薄型だったので、基板の上に搭載していました。しかし、今回の新しいファンは厚みがありますから、搭載するためには基板を削らなければならなかったのです。その分、基板が小さくなるわけですから、パーツの実装にかなり苦労しました。

 そこでまず、PCカードスロットを外に出しました。また、ポートリプリケータの利用を省いて、拡張ポートを取り払いました。あともう1つ、本当は嫌だったのですが、メインメモリをオンボード搭載ではなく、2段のSO-DIMMスロットにしました。メインメモリをオンボードではなくSO-DIMMにすると、10gほど重量が増えてしまうのです。Let'snoteだと、10g増えるなんてとんでもないことなのですが、そうしなければ通常電圧版のCore 2 Duoが搭載できないので、思い切ってSO-DIMMを採用しました。

 その代わり、ファン周りの重量は削れ、Wのファンと同じ重さにしろ、そして基板を削れ、と開発メンバーには号令をかけました(笑)。結果的に、ヒートパイプもFのものよりも薄くするなどして、重量はWのファンとほぼ同じになっています。

これはW8の基板に搭載されているファン。ファンの厚さが薄く、基板上に取り付けられているそれに対しS8のファンは厚さが増えているため、基板に穴を開けて取り付けられている基板が小さく、さらにファンの穴も開けたため、メインメモリは基板に実装できず、2層のSO-DIMMによって搭載することになった

Q:過去のLet'snoteで、CPUをパッケージではなくダイで直接搭載していたものがありましたが(AL-N1など)、そのような手法は考えたりしませんでしたか。

福岡氏:確かにありましたね。ただそれはもう無理でしょう(笑)。

●本体の厚さについて

Q:標準電圧版のCPUを搭載していますが、本体は若干薄くなっています。

坂田氏:キーボードから下は、前の部分がやや厚くなっていますが、バックライトをLEDにしたので、その分厚さを増やさずにすんでいます。薄さという部分では、バッテリパック内のセルの並べ方も変えています。従来は、セルを縦に並べていましたが、今回は横に並べています。セルは円筒形なので、横に並べると、バッテリパックの手前の部分の角を切り落とせますので、そういったことで軽量化や薄くするといった努力を行なっています。

 ただ、そのためにバッテリパックの横幅が大きくなって、無線LANなどのアンテナが本体側に搭載できなくなりました。そこで、アンテナを液晶側に持って行ったのです。当初は、額縁が今の1.5倍ぐらいあったのですが、それはおかしいだろということで、ギリギリまで削って、今のサイズを実現しました。

LEDバックライトの採用で液晶部が薄くなった分、本体側が厚い印象を受ける

Q:それでも、液晶側が薄くなっている分、本体側が厚いという印象が強くなっている気がします。光学式ドライブをシェルドライブ以外の構造にして薄型化を実現するのは難しいですか。例えば、薄さを際立たせた製品ではスロットインタイプの光学式ドライブを採用している例もありますが。

坂田氏:そうですね、重くなるのと場所を取るので難しいですね。例えばスロットインタイプのドライブは、ディスクを回転させるモーターと、ディスクを出し入れするモーターと2個のモーターが必要ですから、絶対重くなります。だから、絶対いやです(笑)。

 実は、ドライブの構造は白紙に戻して、シェルドライブにするか、トレータイプにするか、スロットインにするか考えたことはありました。まず、トレータイプは場所を取るのと重くなるので最初に外しました。スロットインは、モーター2個必要だけど薄くできる可能性はある。ただ、シェルドライブ以上に軽くできなかったので、そちらも今回は諦めました。

Q:やはり、Let'snoteとしては薄さよりも軽さの方が重要なわけですね。

坂田氏:そうですね。薄くなっても重くなるのは、個人的にもすごく嫌なんですよ。見た目に軽そうなのに持ったら重いというのは嫌で。もちろん、薄くして欲しいという声はあります。しかし、耐久性を犠牲にしてまで薄くするのは、我々の本意ではないのです。

福岡氏:Rの場合では、軽くするにはどうすればいいのか、耐久性を高めるにはどうすればいいのかということを考えて、厚さを犠牲にしました。耐久性を確保するには、やはりどうしてもある程度の厚さが必要だったのです。薄くて軽くて、格好良くて、持ち運びやすくて、でも持ち運んで使おうと思ったら使えない、というよりは、持ち運んでも確実に使えるというのが基本的な考え方です。例え500gや600gという軽さを実現しても、使えなければ意味が無いですから。

坂田氏:我々は、HDDに対しても76cmや30cmからの落下でも物理的に壊れないように配慮しているので、緩衝材も含めてた厚さのHDDを入れることを前提と考えていますので、本体はある程度厚みが必要なのです。

Q:HDDではなく、モジュールタイプのSSDを採用すれば、薄型化も突き詰められそうですが。

坂田氏:モジュールで組み込めると、(薄くするには)確かにいいので、考えたりはしています。ただ、万が一の時に交換したいということもありますので、モジュールタイプの採用はなかなか難しいかもしれません。

Q:HDDは簡単に交換できるようになっているのですか?

福岡氏:はい。お客様に(HDDの)交換をお勧めしているわけではありませんが、保守のために簡単に取り出せるようにしています。

坂田氏:ネジを2本外せばフタが取れて、HDDを引き出せます。もちろんこれは、修理サービス用で、お客様には簡単にHDDが交換できますと言っているわけではありません(笑)。ただ、法人様はセキュリティのために、修理の時にHDDを手元に残しておきたいという声もありますので、サービス拠点でHDDを取り出して修理を受けるようにしています。もちろん、HDDを抜き出すのはお客様にやってもらうのではなく、我々のサービスマンがお伺いして行ないます。

Q:緩衝材を加えてHDDを見ると、やはりかなり厚いですね。本体後部の厚さは、このためなのですね。

坂田氏:そうですね。ただ我々としては、これは妥協できない部分でもあります。もちろん、緩衝材として新しい素材が見つかって、薄くできるなら、当然本体も薄くしていきます。

バッテリスロット横のフタを外すことで、HDDを簡単に取り出せるようになっている耐衝撃性を高めるためにHDDは厚い緩衝材で覆われおり、その分本体の厚さも確保する必要がある

●本体の強度について

Q:天板のうち、アンテナが搭載されている部分は樹脂製になっていますが、強度的な問題はありませんか。

坂田氏:耐荷重100kgfという部分は全く変わっていませんし、26方向の落下試験も行なって、その点でも問題がないということは確認しています。ボディ素材は、天板とボトムがマグネシウム合金という点は変わっていません。ボンネットの形状と、場所による厚みは変わっていますが、基本的な構造も変わっていません。ただ、全体的にボディは0.05mmぐらい薄くしています。

Q:ボディを薄くして堅牢性を保つのは難しいと思いますが。

坂田氏:そこはもうアナログの世界ですね。デザインは3~4パターンぐらいで、さらに厚みも変えつつ、検証して耐圧性が確保できるか確認する、ということの繰り返しでした。

福岡氏:ただ、試作ができてそこからが大変ですね。実際に落として試しますから。

坂田氏:落下試験は、壊れるまでやりますから。その中で、我々の中で目安がありまして、そこをクリアした上でどこまで耐えるか検証します。1回で30~40台壊すぐらい試しています。

Q:試験とはいえ、作ったものを壊すというのは複雑ですね。

坂田氏:そうですね。ただ、そこは我々が差別化できている部分だと思っているので、手は抜けません。

福岡氏:市場で壊れるとお客様にご迷惑をおかけしますので、内部で徹底的に検証した上で市場に出すようにしています。もしこの部分を妥協してしまうと、市場に出して不良として戻ってきてしまう可能性がありますから。

坂田氏:実は、最初の試作はかなり軽く仕上がっていて、この軽さならいけるんじゃないの、と思っていましたが、落としてみたらダメでしたね。薄いところはすぐに壊れてしまいました。強度を高めるために、ボディを局部的に厚くしたりして、最終的に今回の厚さ、重量に落ち着いたのです。

Q:耐久性を突き詰めていくのは、計算ではなく経験則による部分が大きいですか。

坂田氏:ある程度は計算するのですが、計算通りにはうまく行かないことが多いです。そういった意味では、最終的には経験が物を言います。

天板およびボトムは、従来と同じマグネシウム合金を採用しているが、厚さは従来よりも0.05mmほど薄くなっているキーボード面は、S8とN8ともに同じものを利用。N8では、シェルドライブ部がフタで固定されている

●搭載デバイスについて

Q:光学ドライブは新しいものですか?

左はF8のシェルドライブユニット、右がS8のシェルドライブユニット。メカは同じだが、基板の小型化やシャシーの薄型化で約2gの軽量化を実現

坂田氏:ベースはFに搭載されているドライブです。それをどれだけ軽くできるか、ということでチャレンジして、約2g軽くなっています。

Q:メカはFのドライブと同じですか。

坂田氏:メカは同じです。あとは、基板を小さくしたり、シャシーを薄くするなどして、約2g軽くしました。

Q:この軽くなったドライブをFにフィードバックすることはありますか?

坂田氏:いつかFにフィードバックすると思います。インターフェイスがSATAに変わっていますので、今すぐフィードバックはできませんが、共用化する必要はありますので、FのインターフェイスがSATAに切り替わった時点でフィードバックされることになると思います。

Q:キーボードとポインティングデバイスも新しくなりましたね。

坂田氏:(ポインティングデバイスの)ボタンはかなりこだわりました(笑)。

Q:従来のキーボードよりも若干堅くなった印象です。

キーボードは、パンタグラフの構造を変更してやや固めのタッチにするとともに、キーの形状も変更してキートップが外れにくくなった

坂田氏:そうですね、そういう感じになっているかもしれません。そのあたりは個人差が大きいのですが、海外のお客様は、あるメーカーさんのキーボードはキータッチがいいと言われる方が多いんですよね。そこで、パンタグラフの構造を変えて、タッチを変えています。あと、キートップの形状も角張ったものに変更して、キートップが外れにくいようにしています。

Q:キーボードの上下のピッチを増やすのは難しいですか?

坂田氏:今回、液晶をワイドにしたので、奥行きが若干短くなっています。ですから、上下のピッチを増やすのはできなかったですね。キーの一部を切り取って、シェルドライブの構造に組み込むことも考えたりはしましたが、強度などの問題もあって断念しました。

Q:Sを試用して面白いと思ったのは、ACアダプタのコネクタ部分です。L字ではなくフレキシブルに曲がる構造になっていますよね。

坂田氏:L字にするとLANコネクタとぶつかるんですよ。LANとL字の電源を繋いだ状態で本体を持ち上げると、L字コネクタとLANコネクタがぶつかってコネクタ部分を壊す可能性があったのです。そこで、コネクタの形状を変えました。

Q:それは、電源コネクタを置く場所が他になかったということも理由だったりしますか?

坂田氏:それはあります。電源コネクタを後方に持って行こうとしたら、横幅が5mmぐらい大きくなるんです。

福岡氏:これに関してはかなり議論しましたね。

坂田氏:何でこんな所に置くんだ、と言われたりして。でも、ここに置かないと筐体が横5mm増えて、これだけ重量が増えるから、ここしかないということで、コネクタを新しくしました。

Q:マイレッツ倶楽部限定モデルではBluetoothを搭載できますが、標準で搭載しなかった理由はありますか?

福岡氏:そこは迷ったところです。Bluetoothを使うとしたらどういった用途かヒアリングはかけたのですが、マウスぐらいかなあ、という答えが多かったので。

坂田氏:我々が、お客様の使用シーンを考えて、どういった訴求ができるのか、というところもあって、いろいろ聞いてみても使い方がばらばらでして。繋ぐことはできても、その先にお客様にとってどういったメリットがあるのか、我々としても悩むところがあって、今回は(標準搭載は)見送りました。もちろん乗せることは可能です。

 乗せられるという意味では、指紋認証システムやFeliCaも乗せられるようになっています。法人様では、指紋やFeliCaを使いたいという方は多いですので。ただ、このデバイスを使えばこんなメリットがあってこんな世界が広がりますよ、という点をうまく伝えられるかな、というのがあったので、Bluetoothや指紋の標準搭載は見送りました。

Q:最後に、今回SとNと新しいモデルを出されましたが、まだやり残している部分があれば教えてください。

坂田氏:今回のSとNについては、できることは100%やりきったと思っています。ただ、やり残したというより、軽さの追求など、今後もやり続けていかなければならないと思っている部分はいろいろあります。今回は、バッテリを大きくして省電力も追求して16時間というバッテリ駆動時間を実現しましたが、Wよりも重くなっているのは事実なので、次もう一度ブレイクスルーを実現して、軽さを追求していく必要があるでしょう。

(2009年 10月 27日)

[Reported by 平澤 寿康]