Android 2.3にアップデートしたシャープ「GALAPAGOS」を試す
~Androidマーケットが利用可能。一部機能には制限も

GALAPAGOS モバイルモデル(EB-W51GJ)



 シャープのメディアタブレット「GALAPAGOS」をAndroid 2.3へとアップデートするシステムソフトが11日に公開された。実質的な専用読書端末だったGALAPAGOSは、このアップデートを適用することで、汎用的なAndroidタブレットとして利用できるようになる。本稿ではアップデートの手順に加え、具体的にどのように仕様が変わったのかをレポートする。

●「Linuxベース」からAndroid 2.3へ

 GALAPAGOSの「中身」がAndroidであることは、これまでも周知の事実だったと言ってよい。実際、GALAPAGOSという名称が初めて発表された2010年9月の発表会では、Android採用である旨がアナウンスされていたのが、12月の発売時には「Linuxベース」という表現に改められていた。これは、ライセンス上の何らかの理由があってAndroidを名乗れなくなったのであろうことは想像に難くない。

 同様の例は他の読書端末でも見られる。海外でも、読書専用端末として発売されたBarnes & Nobleの「NOOK Color」がやはりアップデートによってAndroidアプリがインストールできるようになった例がある。メーカー側の意向というよりも、AndroidのCTS(Compatibility Test Suite)の認証基準が今春緩和されたことで、一部の機能に手を加えることでAndroidと名乗れるようになったというのが、ニュアンスとしては正しそうだ。

 従って今回のアップデートも、中身がそっくり入れ替わって違う製品に変貌を遂げたというよりも、従来の読書端末としての機能はそのままに、これまで使えなくなっていたAndroidの機能が利用できるようになったものと解釈したほうがよさそうだ。事実、読書端末としてのインターフェイスにほぼ変わりはなく、後述する一部機能を除いて従来の機能のほとんどはこれまで通りに利用できる。

●アップデート作業は約30分で完了。ウィザード形式で容易

 アップデートの手順は、従来のファームウェアアップデート手順と同じく、「ツール」にある「サービスからのお知らせ」に更新データがある旨がアイコンで表示され、そこから実行する。既存ユーザにとってはおなじみの手順だ。ちなみに当初はPC経由のアップデートも可能であるとアナウンスされていたが、最終的に端末からのアップデートのみに改められた。

 アップデート直前のファームウェアの最終バージョンは「1.10a」だったが、今回のAndroidアップデートではまずこれを「1.10c」にアップデートし、それをさらにAndroidアップデートすることで「2.00a」に書き換える形になる。つまり更新手順が2段階に分かれているわけで、筆者環境(ADSL 24Mbps/無線LANは11g)においては前半が約10分、後半が約20分の計30分で作業が完了した。

 具体的な手順は写真をご覧いただきたいが、基本的にはウィザードに従っていくだけで、難しい操作は何もない。時間が長めにかかるというだけで、通常のファームアップデートと同じだ。唯一、再起動後の電子書籍データの移行作業のみ、本棚にどれだけの本がストックされているかによって、所要時間が変わってくると思われる。ちなみに作業時は電源ケーブルをつないでおく必要がある。

アップデート作業は従来のファームアップデートと同様「システム管理」→「バージョン確認」のメニューから行なう。従来の最新ファームである1.10aをいったん1.10cにアップデートしたあと作業を行なうAndroidアップデートで利用できなくなる機能や、カメラやGPSなど非サポートの機能についてなどの注意書きが表示されるので同意して次に進む更新作業開始。まずは必要ファイルをダウンロード
ソフト書き換えが行なわれる。再起動後のロック状態解除についての説明も書き換えが完了するとリスタートが行なわれる。ここで数分待たされる再起動直後の画面。鍵マークを右側にドラッグしてロックを解除する。ちなみにアップデート開始からここまでおよそ15分ほど
Android 2.x系のホーム画面が表示される。この時点ではまだシステムの更新は完了していない。中央には「GALAPAGOS App for Mediatablet」のウィジェットが表示されているが、下段のサムネイルは空白のまま更新完了の画面が表示されたあと、続いて設定の移行、電子書籍データの整理が行なわれる。筆者環境ではこの前後で2度ほどエラーが発生したが、最終的には特に問題なく従来環境からの移行が完了したこれまではホーム画面として表示されていた本棚画面(GALAPAGOS App for Mediatablet)をどのように表示するか尋ねられる。これまで同様ホームボタンで呼び出す方法(従来型)と、1つのアプリとみなして利用する方法(新型)のどちらかを選ぶ
作業は以上で完了。従来と同様の本棚画面(デスク)が表示された設定画面から新しいソフトのバージョンを見ると「2.0.1-mt01」となっているシステムのバージョン。Androidバージョンは「2.3.3」となっている

●「Android標準」、「従来のデスク」のいずれかをホームとして設定可能

 従来のGALAPAGOSでは、本棚を模した「デスク」という画面がホームに表示され、本を選んで読んだり、電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」に接続することができた。またブラウザやメールなどのアプリも、この「デスク」を基点に起動する仕組みになっていた。

 今回のバージョンアップ後は、Android 2.x系列でおなじみのホーム画面が表示されるようになる。ちなみに本体下部右端のホームボタンを押した際に表示される画面は、この「Android標準のホーム画面」、「従来のデスク」のいずれかから選択できる。つまり素のAndroid端末と同様の使い勝手以外に、従来の本棚を中心とした画面遷移でも利用できるというわけだ。このあたりは従来ユーザーへの配慮も感じられて好印象だ。

従来のホーム画面。「デスク」と呼ばれる。これは今回のAndroidアップデート直前の状態新しいホーム画面はAndroidデフォルトとなる
ホーム画面中央のウィジェットをタップするか、下部のアイコンを選択することで「GALAPAGOS App for Mediatablet」が起動し、従来とほぼ同じデザインの「デスク」が表示されるホームボタンを押した際の画面は「GALAPAGOS App for Mediatablet」を指定してデスクを表示させるか「ランチャー」を選んでAndroid標準のホーム画面を表示させるかの2択

メニューボタンはホームボタンの長押しで代替される

 操作方法は一般的なAndroid端末そのままだが、Androidで言うところの「メニュー」ボタンがハードウェアとして用意されていないため、ホームボタンの長押しがメニュー表示に割り当てられている。一瞬戸惑うが、分かってしまえば特に問題はない。一方でハードウェアとして音量調整ボタンが搭載されておらず、YouTubeなどの視聴時に音量調整が面倒なことのほうが、どちらかといえばクリティカルな問題だ。

 さて、従来「デスク」と呼ばれていた本棚画面は、「GALAPAGOS App for Mediatablet」という単体のアプリとして提供される。4つの本棚がローテーション表示される仕組みやTSUTAYA GALAPAGOSへの画面遷移といったフローは従来のままだが、細かいデザインや使い勝手の面ではいくつか改良点がみられる。

 中でも、読み込み中であることを示すアイコンが進捗バー方式へと変更され、位置が画面の右下から画面の上になったのは、使い勝手の大幅な向上をもたらしている。というのも、従来の表示位置では本体を持つ手で隠れてしまい、読み込みの進捗がわからないことも少なくなかったからだ。今回のように上部に表示されていれば見逃す機会も少なく、また細長い進捗バーなので場所を取ることもない。

 またTSUTAYA GALAPAGOSのストアアイコンも分かりやすくなるなど、デザインも全体的に洗練されている。デスク画面の起動時にバナーが表示されるようになった点は若干気になるが、目くじらを立てるほどではないというのが率直な感想だ。

デスク画面。従来はこれがホーム画面だったが、今回は「GALAPAGOS App for Mediatablet」というアプリで提供される。サムネイルの表示サイズが変更できるようになったのも特徴フリックで本棚を回転させて「未読・おすすめ」、「最近読んだ本」、「お気に入り」、「定期購読」を切り替える仕組みは従来と同じ電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」を表示したところ
読み込み中の表示は画面上部の進捗バー(写真のオレンジ色の帯)で行なわれるようになり、見やすくなった従来はカートアイコンの上に「ストア」と書かれただけだったTSUTAYA GALAPAGOSの表示も、ロゴ入りの洗練されたデザインへと変更されている

 余談だが、かつては検索性に難のあったTSUTAYA GALAPAGOSだが、著者名からの呼び出しが可能になるなど、かなり使い勝手が向上している。講談社の漫画コンテンツの取り扱いが始まったことでコンテンツ数も一気に35,000点にまで増加しているほか、定期配信コンテンツも増えており、2010年末の発売直後のイメージからすると別物といっていいくらい進化している。

著者名にリンクが貼られており、同一著者のコンテンツにワンクリックでジャンプできる。ECサイトでは一般的な機能だが、前回レビューした2010年12月時点では実装されておらず、その後改良されたものだ今春から提供されているAndroid用アプリについても、今回のアップデートと前後してデザインの変更が行なわれている。左はGALAPAGOSモバイルモデル、右はGALAXY TabでそれぞれTSUTAYA GALAPAGOSを表示しているところ

●カメラ/GPSなどの一部機能は非対応。バッテリの減りが速い点も注意

 若干話が脱線したが、Android 2.3タブレットへと変貌を遂げたGALAPAGOSが、汎用端末としてどのくらい使えるものかは気になるところだ。1週間ほど使ってみて気づいたところを整理しておこう。

 プリインストールされるアプリは、Android標準アプリや「GALAPAGOS App for Mediatablet」に加えて、マカフィーの「ウィルススキャンモバイル 30日期間限定版」などが用意されている。従来あったmixiやTwitterのアプリは省かれ、それぞれのショートカットをダブルクリックするとブラウザでそれらのサイトが表示される仕様に改められている。

インストール済みアプリの一覧。デフォルトではこの1画面のみで、新たにアプリを追加すると上下方向にスクロールされるようになるマカフィーの「ウィルススキャンモバイル 30日期間限定版」がプリインストールされるmixiやTwitterの専用アプリは廃止され、それぞれスマートフォン用のサイトをブラウザで開く仕様に改められた
PDFビューアが省かれたため、PDFデータを閲覧するには、AndroidマーケットからAdobe Readerなどをインストールする必要がある辞書コンテンツも利用できるようになった。書籍の中からの辞書検索はもちろん単体利用にも対応する

 面白いのは、アップデート直後はGoogleのアカウントを登録していないにもかかわらず、これらのアプリが起動できることだ。もちろんGmailなどを利用する場合はGoogleアカウントの入力が必要になるが、Android端末であるにもかかわらず通常の初期設定プロセスなしでとりあえず使えてしまうのは、アップデートでAndroidへと変貌を遂げた端末ならではの挙動だと言えるだろう。

Googleアカウントの初期設定を行なっていないため、Gmailなどのアプリを利用しようとするとアカウント追加の画面が表示されるAndroidマーケットが利用できる。ただし「本機に非搭載のデバイスが条件として設定されているアプリケーションおよび機能などは利用できません」とメーカーサイトに注釈がある。詳しくは後述GALAPAGOSアプリだけではなく、さまざまな読書アプリを追加できる
Dropboxなど定番のアプリも利用できる画面上端を下方向にドラッグして通知領域を表示させることができる

 ところで気を付けたいのは、本製品はカメラやGPS、Bluetoothなどを搭載していないため、これらの機能を使うアプリはたとえインストールできたとしても利用できない場合があることだ。例えば「プレイス」を起動すると、「現在地を検出しています……」のダイアログが表示されたままになってしまう。またそもそもAndroidマーケットで検索しても表示されないアプリがある。汎用のAndroid端末として本製品の購入を考えているユーザは要注意だろう。

GPS機能がないため、「プレイス」を起動すると「現在地を検出しています……」のダイアログが表示されたままの状態になる非対応アプリについては、Androidマーケットであらかじめ表示されないようになっている。著名どころでは「Evernote」がこれに該当しているらしく、本稿執筆時点では検索結果に表示されないほか、直接リンクをたどっても「見つかりませんでした」と表示される他のAndroid端末(GALAXY Tab)では検索結果の最上位にEvernoteが表示される

 このほか、Android化によって機能のいくつかが削減されたり、制限が追加されたりしている。もっとも大きな違いとして挙げられるのは、バッテリ駆動時間が短くなったことだ。例えば5.5型のモバイルモデルはこれまで省エネ動作モード時で7時間、通常で4時間だったのが、今回のアップデート後は省エネ動作モードが省かれて駆動時間は4時間となっている。もともと駆動時間が長いモデルではないだけに、この変更はちょっと痛い。

 実際に試した限りでも、およそ500ページの電子書籍を読んでいったところ、4時間10分を経過したところでバッテリ残り10%のアラートが表示されたので、ほぼ公称値通りということになる(アラートが出たのがちょうど読了間近のタイミングだったので、バッテリの残量が尽きるまでページを500回近くめくった計算だ)。なるべくバッテリを消費しないよう、明るさ自動調整および無線LANをオフにしていてこれなので、やや心もとないのは事実だ。

●起動速度は従来よりも高速化。パフォーマンスはやや微妙

 起動速度、およびパフォーマンスについてはどうだろうか。

 まず起動速度だが、従来に比べて高速化されている。筆者環境ではこれまで電源オフ状態から起動完了までに52秒かかっていたのが、Androidアップデート後はこれが39秒に短縮された。本製品はバッテリが短命なためにいちから電源を入れ直す機会が多いのだが、今回の起動時間の高速化はこの点をカバーできるので、メリットといえばメリットだ。

 ベンチマークについてはどうだろうか。同じくAndroid 2.3を採用したGALAXY Tabとの比較は以下の通りで、パフォーマンスではかなりの差が付けられている(ベンチマークソフトはQuadrant Professionalを利用)。筆者はGALAXY Tabをかれこれ9カ月ほど使っていて応答速度はほぼ体に染みついているが、実際に操作していても、今回のGALAPAGOSはワンテンポ遅い印象だ。ブラウザで縦に長い画面をスクロールする際などに、それを顕著に感じる。

 もっとも、ページをめくるようなシンプルな動作ではあまり違いを感じないほか、プリインストールされているYouTubeは意外とサクサク動いてしまったりするので、一概に使えないというわけではなく、用途に依存するという印象だ。

ベンチマーク結果。上から6つ目、「Your device」として表示されているのがそれで、Galaxy Sに次ぐ「768」というスコア。グラフを見るかぎり、メモリ周り(赤)と、2D(橙)3D(黄)が弱めだが、いっぽうでI/O周りはそこそこのパフォーマンスがあるAndroid 2.3アップデート済のGALAXY Tabで同様のベンチマークを走らせたところ。スコアは「1412」で差は歴然YouTubeの映像を全画面表示したところ。音量の調整をするためにいったん画面を閉じて設定画面を表示しなくてはいけないのが難点だが、動画そのものはかなり快適に閲覧できる

●カードリーダー経由でmicroSDにコピーしたデータもそのまま読める

 今回のアップデートで使い勝手が大きく変わったのが、メモリカード周りだ。本製品はmicroSDスロットを装備しているが、これまではカードリーダー経由で直接microSDにコピーしたPDFデータを読むことはできず、PC用ソフト「GALAPAGOS Station」を経由してコピーしてやる必要があった。

 今回のアップデートの結果、カードリーダ経由でmicroSDに書き込んだPDFなどのデータが、本製品で直接読めるようになった。筆者がふだんGALAXY Tabで使用しているmicroSDを抜いてそのままGALAPAGOSに挿入してみたところ、まったく問題なくPDFデータの認識および表示が行なえた。

 前述のように本製品はアップデートによってPDFビューア機能が省かれてしまっているので、これらデータを表示するためには、Adobe ReaderなどのPDFビューアアプリを導入する必要がある。今回はNagisaWorksの「i文庫 for Android」を導入したことで、PDFのほかZIP圧縮JPEGなどの自炊データも快適に読めるようになった。読書端末であるGALAPAGOSに別の読書アプリを入れて読書を楽しむというのも妙な感覚ではあるが、とくにモバイルモデルについては5.5型というハンドリングのよさもあり、使い勝手はなかなか良好だ。

「i文庫 for Android」で、Jコミで配布されている「ラブひな」のPDFを表示したところ。5.5型の画面は単行本の単ページ見開きと相性がいい3.5型サイズのスマートフォンとは二回りほど大きさが違うため、読みやすさの差は歴然「i文庫 for Android」で青空文庫を読んでいるところ。Android用のさまざまな読書アプリを利用できる

●既存ユーザーは迷わずアップデートを。新規ユーザは判断が分かれる

 以上ざっと見てきたが、しばらく使った上での感想を、既存ユーザー、および新規ユーザーの両方の観点からまとめておこう。

 まず既存ユーザーについては、バッテリ持続時間が短くなるといったマイナス要因がまったくないわけではないが、Android化によって得られるメリットはこれらを相殺してお釣りが来るものであり、ぜひアップデートすることを推奨したい。筆者が試した限りでは、読みかけの書籍の既読位置まで完全に引き継がれるなど、継続利用においても十分に配慮されており、心配する必要はなさそうだ。ただしいったんアップデートすると従来環境に戻すことは不可能なので、その点だけは注意したい。

 逆に判断が分かれそうなのが、Android端末としての本製品を新規に購入する価値があるか否かだ。昨今はAndroid 3.x系列のタブレットが続々登場しつつあり、近々イー・モバイルから発売される「GALAPAGOS A01SH」も、Android 3.2を採用している。本製品はAndroid 2.3へのバージョンアップこそ果たされたものの、ここから先の大幅なアップデートについては望み薄であり、将来性という点からはやや微妙だ。

 今本製品、特にモバイルモデルを購入する強い動機となりうるのは、5.5型という、ほかにないサイズだろう。GALAXY Tabや先のイー・モバイル製GALAPAGOSなど7型端末は、片手で持てるサイズではあるものの、いざ操作をしようとすると両手が必要になる。その点、本製品は操作まで片手でこなせる。電車内で吊革につかまって読書するといった用途では、これは大きなメリットだ。

 本製品とサイズ的に競合するAndroid端末としては、Dellの「Streak」(5型)が挙げられるが、米国ではすでに販売終了がアナウンスされており、今後この画面サイズの競合は少なくなってくることが予想される。また他のAndroid端末では採用例がほとんどないトラックボールに惹かれる人もいそうだ。

 いずれにせよ、2010年12月の発売時点とは比べものにならないくらい本体もストアも使い勝手が向上しており、あらためて注目する価値はありそうだ。1つだけ言えるのは、先にも言及しているイー・モバイル製の7型タブレット「GALAPAGOS A01SH」の評価を待ってから判断してもよさそうだということだ。

(2011年 8月 22日)

[Reported by 山口 真弘]