10月末に発売された日本サーマルティクのフルタワーケース「Level 10」の第一印象を簡潔に表わすなら、「ごつい。でかい。重い」というちょっと否定的な言葉が並んでしまう。しかし、この製品の設計は、BMW Group Designworks USAとの協業に基づくもので、その背景にはハイエンドユーザーを満足させるための理由が潜んでいる。
現在日本では市販されるPCの約7割がノートブックであり、その中でも5万円前後で購入できるネットブックやCULVなどが人気を博している。こういったご時世の中、自作ユーザーをターゲットにしているとはいえ、60cm以上の高さがあり、実売価格が9万円前後もするPCケースは時代に逆行しているとも言える。
しかし、これが誰にも見向きのされない製品かと言われると、そうではない。SLI、CrossFire、RAIDといった贅沢な最高仕様のPCを求める層は数こそ減ってはいるものの、確実に存在する。
実際、僚誌「AKIBA PC Hotline!」では、その発売のニュースが週間アクセスランキングで1位となり、驚くことに、正確な数こそ明らかにはなっていないが、秋葉原の店頭では初回ロットが即日完売したという。
そんなマニアックなLevel 10の特徴を順に見てみよう。製品名にも現われているが、本製品はサーマルティクの創立10周年を記念して開発された製品だ。前述の通り、設計にはBMW Group Designworks USAが参加しており、冷却性能の検証にあたっては、風洞実験も行なっているという。
外観は非常に独特。本体サイズは318×614×666.3mm(幅×奥行き×高さ)となっているが、正面から見て、左右非対象の形状となっている。材質はアルミニウムで、重量は21.37kgもある。ちなみに、筐体表面は爪の先があたると、爪の先が削れて、すっと跡が残ってしまう。そのためか、光沢仕上げでもないのに、クリーニングクロスが同梱されている。
正面から向かって右手は、ついたてのようになっており、その左側に、ドライブや電源、マザーボードを収納するボックスがモジュールのように取り付けられている。個人的にはこの状態は、「マンハッタンシェイプ」と謳われたX68000に通じるものがあると思う。ついたて部の上側はハンドル状になっていて、手でつかむことができる。ただし、重心の問題で、ここを持つと傾くため、底の部分が足下にあたってしまい、あまりスムーズに移動させることはできない。
ついたて状の部分の側面には、2つの鍵穴があり、片方を開けるとマザーボードと電源部分、もう片方を開けると光学ドライブとHDD部分が開けられる。また、この鍵と横にあるネジを開けることで、この側板も取り外せる。
鍵を開けて、筐体を裏返すと、電源、マザーボード、光学ドライブのボックスは、外側に開くことができる。同社ではこれを「Open Compartment Architecture」と呼んでいる。車のガルウイングにも似たこの構造は、メンテナンス性を高めているが、同時に各部の熱気が交わらないようになっている。しかし、このせいで電源のケーブルは、ついたて状の部分を経由してマザーボード部に引き込む必要があるので、かなり長めのものでないと届かないので、電源の選定には注意がいる。
マザーボード部の手前側には14cm角、後部側には12cm角のファンが標準で取り付けられている。側面にも吸排気用のスリットがあり、内部には防塵フィルタが備わっている。拡張カード部は310mmのカードまで対応となっている。そのため、Radeon HD 5870は問題ないが、Radeon HD 5970はかなりぎりぎりになるかもしれない。マザーボードのトレイは取り外せる。
側面から見て右下にあるHDD部は、6台までの3.5インチドライブを取り付けられる。ここは他のボックス部分と違い、1つ1つのベイを引き抜く構造になっている。奥の方はヒートシンクがあり、ほかのベイと密着しているので、HDD部全体も1つの大きなヒートシンクになっている。これにより、ドライブの熱が中にこもらず、外部へ発散される。
各ヒートシンクの中央には円形の穴が開いており、6cm角ファンを取り付けられる。標準では上側2つのヒートシンクにファンが装備されている。また、この2つのベイには、SATAのコネクタも直づけされている。なお、マニュアルにはこれがホットスワップ対応となっているが、ホームページで訂正されているように、実際には対応していない。
現在、売り切れ中で、次回入荷はクリスマス頃と1カ月ほど先になってしまうが、秋葉原ではT・ZONEとドスパラ秋葉原本店に展示がされているので、気になるユーザーはまず実物を見てみるといいだろう。
(2009年 11月 26日)
[Reported by 若杉 紀彦]