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なぜLGは21:9液晶を推すのか。その背景と狙い

左から森斗志也氏、ヤン・ソンシク氏、宇佐美夕佳氏

 LG Electronics Japan株式会社は13日、21:9のアスペクト比を持つ液晶ディスプレイ5機種を一斉に発表した。

 現在のPC用液晶ディスプレイの主流は16:9で、解像度は1,920×1,080ドットとなる。最近は、横が2,000ドットを超える高解像度製品も出てきているが、それらの多くもアスペクト比は16:9で、一部ハイエンド用に16:10が用意されているといった状況だ。

 そんな中、LGでは2012年にアスペクト比が21:9で、解像度が2,560×1,080ドットの29型液晶を他社に先駆けて日本を含む各市場に投入した。その後、他社も29型21:9のモデルを販売開始しているが、まだこのアスペクト比は少数派と言っていい。だが、LGは今回、5機種もの新製品を一挙に発表した。その狙いや背景について、同社C.E.商品企画&マーケティングチーム課長の森斗志也氏、プロダクトマーケティングチーム マーケティングマネージャー/課長の宇佐美夕佳氏、PM & B2Bセールスチーム課長のヤン・ソンシク氏に話を伺った。

 製品の細かな仕様はこちらのニュース記事を参照されたい。また、25型はレビューも行なっている。

21:9はユーザーの要望から生まれたもの

 21:9という比率は、映画館の劇場スクリーンのそれに近いため、エンターテイメント向けという位置付けだと考えるユーザーは少なくないだろう。もちろん、横長の画面は映画などを観る際に没入感が高まるが、2,560×1,080ドット(ウルトラワイドフルHD)にネイティブで対応したコンテンツというのはほとんどない。それどころか、1,920×1,080ドット(フルHD)で上下に帯が入ったBDコンテンツをこの液晶で再生すると、左右にも黒枠が表示されることになる。

 むしろ、LGではこの21:9型をコンテンツ作成などクリエイティブな用途に訴求しようとしている。

 同社が行なったユーザー調査によると、ユーザーは現行の液晶ディスプレイに対して2つの大きな不満点を持っていたという。その1つが、作業領域の狭さだ。

 フルHDであれば、多くの用途で解像度の不足を感じるケースは少ない。しかし、複数のウインドウを並べ、何かを参照しながら作業するようなケースでは、フルHDでも足りなくなることがある。そこで、LGでは、同社の技術でこの問題を解決しようと考えた。ウルトラワイドフルHDなら、フルHDで1画面表示させても、まだ640×1,080ドット余裕があり、そこそこの情報量を表示できる。また、左右に2等分すれば、1,280×1,080ドットのウインドウを2つ表示でき、ちょうどSXGA(1,280×1,024ドット)の液晶を2台並べたようになる。

 基本的に解像度は高ければ、高いほど生産性が高まる。その意味では、ウルトラワイドフルHDより、2,560×1,440ドット(WQHD)の方が良いという意見もあるだろう。それは事実だが、4:3程度の写真を2枚並べて作業する場合などは21:9の方が好適で、プロカメラマンからも好評を得ているという。

 また、ウインドウの整列をアシストする独自ツールを用意しており、最大4つまでのウインドウをきれいに並べることができる。境界部分は全てのウインドウの端を同時にドラッグできるので、1つのウインドウだけもう少し大きくしたいというこだわった配置にも対応できるよう配慮している。

 なお、前述のBDなどの場合だが、今回の新製品にはズーム機能があるため、黒帯の入った映像の場合は、その機能を使うと、きれいに21:9に引き延ばされ、黒帯はなくなる。数字で言うと、ウルトラワイドフルHDはフルHDより画素数は約30%多いが、21:9の映像をぴったり表示させると、映像表示画素数は75%増える計算になる。

 また、1機種を除き7W+7Wの高出力スピーカーを内蔵しており、ビジネスにもプライベートにも幅広く利用できる。

 21:9の従来機は、予想を超える売れ行きで、在庫が希少となったため、一部のショップでは販売価格が上がる事態になったが、それでも売れたのだという。その意味で、同社はすでに21:9に関して、一定の手応えを掴んでおり、今回のラインナップ拡充は、満を持してのものだったと言える。

黒帯付きの動画を表示すると、標準ではこのように左右にも黒帯が出るが、画面サイズの変更により、ぴったり21:9に拡大することができる

他社との差別化は迅速な製品化

 LGがディスプレイ本体だけでなく、パネルから製造している点は周知の事実。21:9においても、それは変わりはないが、この比率のパネルはまだ少数派だ。逆に言うと、21:9液晶の多くはLG製パネルを使っている。では、LGはどのように最終製品を差別化しているのだろう?

 1つは、迅速な製品化が挙げられる。パネルの量産化の時期など詳しいことが前もって分かっているので、それに併せて製品の作り込みを行なうことができ、パネルが準備できてから間を置かずにディスプレイとして発売できるのは、LGならではの強みだ。実際、今回、従来の29型に加え25型と34型が他社に先駆けて発表された。

 特に25型の存在意義は大きい。25型の実売価格は34,000円前後となっている。フルHDは、格安なものだと1万円前後からあるので、それとドット数だけを比較すると、割高に見えるかもしれないが、既存の21:9製品より1万円以上、WQHDモデルと比べると3万円以上安価に設定されているのだ。この価格であれば、一般ユーザーでも十分手が出せる。

 34型では3,440×1,440ドットという4Kに迫る解像度のモデルも用意される。こちらは、解像度の高さに加え、10bit(約10億7千万色)表示や、ハードウェアキャリブレーションにも対応するプロ向け製品だ。

 ちなみに、他の4機種も製造時に工場でハードウェアキャリブレーションを行なっている。これは目視による作業になるため、年間数千万台を出荷する同社にとって、かなりの手間なのだが、品質を確保するため、こういった作業を行なっているのだという。

 もう1つ、これは21:9以外でも今後の製品は全てそうなるが、「ブルーライト低減モード」と「フリッカーセーフ」機能を搭載するのも、同社が差別化要因として挙げる点だ。前者は文字通りブルーライトを低減し、後者はちらつきをなくすことで、眼精疲労を低減する。使っていて目が疲れるというのは、前述のユーザー調査における2大不満点のもう1つでもある。

34型3,440×1,440ドットの「34UM95-P」。Excelシートを一目見ただけで高解像度ぶりが分かるだろう
横長画面は、2ウインドウ同時表示の作業に好適
独自ツールで4画面までを自在に整列できる

今後は21:9でのさらなるラインナップ拡充や4Kも検討

今回発表の5製品

 同社は、液晶ディスプレイについて以前にも大胆な決定を下したことがある。それは、全機種でのバックライトLED化だ。当時まだLEDバックライトは高価だったが、省エネなどの観点から一斉採用を決め、発表会でも前面に打ち出した。以降、他社もその動きに追随し、LGが予想したよりも遙かに速いペースで普及が進んだという。

 21:9についても、LGは全てのモデルを21:9にするわけではないが、フルHDを超える高解像度が認められ、一気に主流になっていく可能性はゼロではないだろう。

 まだ新製品を発表したばかりで、今後の製品の具体的な計画については明らかにされていないが、例えば120Hz表示のゲーマー向けモデルや、より上下の価格帯の製品という可能性など、21:9のラインナップ拡充は十分にあり得るという。また、21:9以外で注目を集めている4K製品についても、検討は行なっているという。

 21:9の拡充は、LGが全世界で推し進めるものだが、国内市場については、先だって三菱電機が個人向け液晶から撤退を発表したことを受け、三菱電機が持っていたハイエンドユーザーを取り込んでいくような製品展開を行なっていきたいとしている。

(若杉 紀彦)