ASRockの力作、「Z77 OC Formula」と「X79 Extreme11」を見る

Z77 OC Formula

発売中
価格:オープンプライス



 ASRockから、オーバークロック(以下:OC)向けのIntel Z77 Express搭載マザーボード「Z77 OC Formula」と、ハイエンド構成向けのIntel X79 Express搭載マザーボード「X79 Extreme11」が発売された。

 前者は同社初のOC向け、後者は実売で64,800円もするハイエンドモデルであり、低価格でユニークな路線を歩んできたASRockにとってマイルストーン的な位置づけになるだろう。今回両方とも借用できたので、写真などを中心に見ていきたい。

●Z77 OC Formula

 Z77 OC Formulaは、ASRockとしては初めてOC機能に注視して設計したモデルだ。実売価格は25,800円前後。

 Z77 OC Formulaを企画したのは、同社でマザーボードの設計を担当するNick Shih氏(Product Manager MB H/W Dept.)。Z77 OC FormulaとCore i7-3770Kを使い、液体窒素による冷却で、クロック7GHz超を達成したOC記録保持者でもある。本製品の開発にあたり、IntelのCPUを徹底的に解析し、そこで得られた知識を元に製品に反映したという。

 まずはパッケージから見て行こう。パッケージ表面はスポーツカーをモチーフとした製品イメージで、このあたりはWebサイトの特集ページでも一貫したデザイン。背面は自動車のダッシュボードをモチーフとした機能説明となっている。また、パッケージはこのクラスのマザーボードではもはやお馴染みの見開きタイプで、内部には機能が事細かに説明されている。また、マザーボード本体のヒートシンクも一部覗けるようになっている。

 パッケージは2層構造で、上部にはマザーボード本体、底部には付属品が収納されている。その付属品はすべてポーチに収められており、かなり豊富だ。具体的には、マニュアル、バックパネル、SATAケーブル6本という基本的なものに加え、ペリフェラル4ピン→SATA変換ケーブル2本、USB 3.0のフロントパネル、その交換用バックプレート、ネジ、SLIブリッジ、OC Formulaのロゴシールも添付されている。

 OC向けのアクセサリとして、GELIDのハイエンドグリス「CG-Extreme」(小容量パッケージ)と、マザーボードのネジ穴に底面から差し込むことで簡易スタンドとなるプッシュピンが10本付属する。プッシュピンは単なるアイデアモノだが、CG-Extremeは低温環境下でも固化による性能低下が抑えられたタイプのグリスで、一般的に1,000円以上で売られている高級品である。これだけ付属していれば25,800円の価値も十分にあるといえるだろう。

Z77 OC Formulaのパッケージパッケージの裏パッケージは見開きになっている
付属品など付属のハイエンドグリス「CG-Extreme」

 さて本体を見ていこう。Z77 OC Formulaの開発コンセプトは「電力」、「冷却」、「接続」の3点としているので、これを順に追っていく。

 まず「電力」の面では、デジタルPWMコントローラ「CHIL8328」と、12+4フェーズの回路を採用いる点が挙げられる。CHIL8328自体、IntelのExtreme Boardシリーズにも採用されているので、これといって珍しい装備ではない。また、12+4フェーズという構成も今時それほど多フェーズではないだろう。

 しかしNick氏によれば、これ以上フェーズを増やしてもOC性能向上に繋がるわけではないという。これはコア損失を70%低減できる特殊配合のチョークコイルや、ダイを積み重ねることでオン抵抗を抑えたデュアルスタックMOSFET、低周波から高周波までのノイズをフィルタできる「マルチフィルターキャップ」を採用したことによる組み合わせの効果が大きい。

 マルチフィルターキャップとは、積層セラミックコンデンサ、タンタルコンデンサ(POSCAP)、DIPコンデンサの3種類のコンデンサからなるノイズフィルタで、それぞれのコンデンサが持つ異なるフィルタリング特性を組み合わせることで最大限のフィルタ効果を得るものである。これによりCPUに安定した電力供給を可能にしている。

Z77 OC Formula本体本体裏面。実装部品が少ないCPU周辺の電源回路
12+4フェーズの電源回路設計マルチフィルターキャップの採用電源回路の実装は裏面まで及ぶ

 「冷却」面は、VRM部に空冷と水冷を組み合わせた独自設計のヒートシンク「ツインパワークーリング」と、4層の2オンス銅レイヤーを含む8層PCB基板の採用を指す。空冷と水冷を同時に行なえるVRMヒートシンクは、コンシューマ向けマザーボードとして本製品が初搭載という。このヒートシンクにより、高負荷時でもアイドル時+2~3℃程度の温度上昇に抑えられる。Nick氏によれば、カスタム品のため原価も20ドル程度とかなり高くついたそうだ。実際取り外して手に持ってみてもその重さに驚く。

 8層のPCB基板も、ASRockのマザーボードとしては初。これまでASRockのエンジニアは4~6層基板しか設計したことがなく、今回は初めての8層設計だった。また、製品発売のスケジュールもかなり詰まっていたため難航したという。基板上には、正真正銘の8層を示す透過レイヤー部も用意されているなど、かなりのこだわりが見える。この8層基板に2オンスの銅レイヤーを4層挿入することで、高い冷却性を実現したという。

「ツインパワークーリング」と名付けられたVRMヒートシンクネジ止め式で密着度は高い水冷パイプが通っていることがわかる
水冷に加えて、空冷ファンも搭載MOSFETだけでなくコイルにも密着していることがわかる8層を示すPCBレイヤー

 「接続」とはその名の通りコネクタのこと。1つ目はCPU用12V補助コネクタで、スクエアピンの「高密度電源コネクタ」を採用。電源のコネクタとの接触面積を増やし、損失を減らす効果があるという。2つ目はCPUソケットおよびDRAMスロット用の金メッキで、競合他社が一般的な3~4μmメッキであるのに対し、コストが2倍近くなるという15μm品を採用した。伝導効率向上とノイズ低減を図った結果であるという。手に入れた個体ではFoxconnのソケットが採用されていた(リテンションメカニズムはLotes製)。

 なお、PCI Expressスロットには15μm金メッキが採用されていない。ビデオカードはモデルによってPCBの厚みが異なり、モデルによってはきつくなってしまう可能性があるからだという。また、ビデオカードを頻繁に抜き挿しするようなオーバークロッカーも少ないし、本製品ではディップスイッチで各スロットを無効にする機能も備えているので、必要がなかったという。

高密度電源コネクタ15μm金メッキのFoxconn製CPUソケット同じく15μm金メッキ採用のメモリスロット

 そのほか、OCに必要なオンボードOC用ボタン「ラピットOC」、別売りのテスターを接続することで電圧計測ができる検出ポイント「V-Probe」、オンボードで電源のON/OFFやリセット操作が行なえるハードウェアスイッチ、POSTコードを表示する7セグメントLED、7つのファンコネクタ(うち2基はPWM)などの実装も目立つ。

 ラピッドOCボタンは、OCにおいてかなり便利に使える機能だ。専用のWindowsユーティリティをインストールすると、キーボードのホットキーで調整項目(コア電圧、クロック倍率、ベースクロック)を割当、それで切り替えながらラピッドOCの+/-ボタンですぐさま調整できる。他製品にはない機能といえるだろう。

 OC向け機能特徴から述べることになったが、デザインに目を移すと、黒をベースとし、黄色をアクセントとしたメモリスロットやSATAコネクタ、PCI Expressスロット、コンデンサ、そしてヒートシンクのデザインなど、かなりユニークな外観を持っている。

 以前レビューしたMSIのOC向けマザー「Z77 MPower」も同じ黄色であるが、Z77 MPowerはヒートシンクを取り払ってしまうと素っ気ない基板になってしまうのに対し、本製品はヒートシンクを取り除いても黄色のアクセントカラーが残る。整然とした電源回路の設計や、チップの並び方などにも開発者のこだわりが見られ、所有する満足感がかなり高い。

 このほか、PLX TechnologyのPCI Express Hub「PEX8605」、Marvellの「88SE9172」SATA 6Gbpsコントローラ、Broadcomの「BCM57781」Gigabit Ethernetコントローラも、Z77 MPowerにはないチップだ。Z77 MPowerはOCに特化しているのに対し、Z77 OC Formulaはハイエンドユーザーの常用も視野に入れた設計と言えるだろう。このほか、Etron製のUSB 3.0ホストコントローラ「EJ188H」の実装も見える。

 SATA 6Gbpsポートは合計6基、SATA 3Gbpsポートは合計4基。バックパネルはeSATAの搭載がなく、USB 3.0が6基、USB 2.0が4基、HDMI出力、Gigabit Ethernet、PS/2、音声入出力、CMOSクリアスイッチと比較的シンプルだ。DVIやDisplayPortの非搭載はやや残念だ。

オンボードの電源/リセットボタンラピッドOCのボタンと、POSTコード表示の7セグメントLED、PCI Expressスロットを無効にするスイッチSATA 6Gbps対応ホストコントローラ88SE9172を2基装備
合計10基のSATAポート。うち6基は6Gbps対応PLX TechnologyのPCI Express Hub「PEX 8605」NuvoTonのSuperI/Oチップ「NCT67760」
Realtekのオーディオコーデック「ALC898」ファンコネクタは7つだが、PWM対応は2基のみで、残りは3ピンタイプ
NVIDIA SLIやAMD CrossFire X、Lucid Vurtu MVPへの対応が謳われているバックパネルインターフェイス。取り立てて変わったところはない

 フォームファクタはSSI-CEBとやや特殊だが、ATXよりも奥行きがやや増えた程度であり、ミドルタワー以上であればATX対応とされていても収まる可能性が高い。また、OC向け機能が充実しているものの、基本設計の良さは通常利用における安定性にも反映されるはずで、比較的豊富なインターフェイスとあわせて、高い安定性を求める一般ユーザーにもオススメできるモデルと言えるだろう。

●X79 Extreme11

 X79 Extreme11は、Z77 OC Formulaに先立って発売された超ハイエンド製品だ。実売価格は64,800円と、デュアルCPUを搭載できるワークステーション向けマザーボードに匹敵する価格帯である。

 X79 Extreme11の特徴は「ハイエンドユースに求められる機能は全部詰めた」ことに尽きる。今までASRockの製品は、「Z68でありながらIDEとFDDが使える」、「790GXチップセットを搭載しながらSocket 939」といった、古い資産を活用する変化球的なマザーボードが多かったが、X79 Extreme11は打って変わって最新鋭の装備をすべて取り入れた製品に仕上がっている。

 まずはパッケージから見ていこう。パッケージ本体は上位モデルに相応しい、非常に大型でハンドル付きのもの。表面にはASRock独自機能XFastによる「555」が大きくあしらわれている。また、Z77 OC Formulaと同様見開きとなっており、本体が一部覗ける。

 ちなみに555とは、ネットワーク最適化ソフトによる5倍のLAN速度、USBプロトコル圧縮ソフトによる5倍のUSB速度、RAMDISK作成ソフトによる5倍のシステム速度を表すもので、本当に5倍の性能が得られるかどうか微妙だが、GIGABYTEの「333」(3倍のUSBバスパワー、USB 3.0、SATA 3.0)を超える数字としてマーケティング上付けられたネーミングだろう。

 付属品も上位モデルらしく豊富で、マニュアル、ドライバDVD、バックパネル、SATAケーブル6本といった基本的なアクセサリに加え、3.5インチベイ用USB 3.0フロントパネル、これと換装して使う拡張スロット用バックパネル、固定用ネジ、3way SLIケーブル、SLIケーブル×3、ペリフェラル4ピン→SATA電源変換ケーブルとなっている。

X79 Extreme11の製品パッケージパッケージは見開きタイプ付属品など

 マザーボード本体を見ていこう。まず目に付くのは8本のメモリスロットと7本のPCI Expressスロット、そしてソケット上部のVRM電源部。整然と並んでおり、最上位モデルに相応しい外観となっている。

 本体左下の、Creative製サウンドプロセッサ「Sound Core3D」の実装も非常に目立つ。Core3DはGIGABYTEのG1.Sniper M3などでも採用されているクアッドコアのチップだが、PCI Express x1用サウンドカード「Recon3D」でも採用されているプラスチックカバーが装着されており、カバーがないG1.Sniper M3より明確に採用がアピールされている。

 本製品に搭載される大半の主要チップはヒートシンクに隠れており、これを外す必要がある。ヒートシンクはチップセット部がファン付きで、VRM部のヒートシンクとヒートパイプによって接続される仕組みだ。

製品本体フォームファクタはZ77 OC Formulaと同じSSI-CEB裏面にもいくつかのチップが実装される
CPU周辺の整然としたレイアウトIntersilの6+1フェーズPWMコントローラ「ISL6367」CPU補助電源コネクタは8ピン×2となっている
CPU周辺にはタンタルコンデンサを採用LGA2011ソケットSound Core3Dの装備

 そのヒートシンクを外すと、まず目に付くのは2つのPCI Express 3.0 Hub、PLX Technologyの「PEX 8747」。Sandy Bridge-EのCPUは、内部に40レーンものPCI Expressバスを内蔵しているが、X79 Extreme11ではPEX 8747によって16レーン×2を16レーン×4に増やしている。これにより、4枚のビデオカードを用いてSLIやCrossFire X構成を行なっても、最大限の性能が得られるようになっている。

 また、例えすべてのスロットを使ったとしても、一番上のスロットは16レーンで動作し、残りの6スロットは8レーンで動作。また、いずれもチップセット側ではなく、CPUのPCI Expressコントローラから直結している。つまり、現時点において最高のパフォーマンスが得られる構成となっている。

ヒートシンクを取り払ったところPEX 8747を2基装備する
7本のPCI Expressはなかなか圧巻だPCI Expressスロットのラッチはスライド式

 LSIの「SAS 2308」チップによるSAS 6Gbpsもサポート。このチップは、800MHzのPPC440プロセッサを内蔵し、PCI Express 3.0に対応したSASホストコントローラだが、本製品ではこれをオンボードに採用することで、最大8基までのSASドライブを搭載可能にした。

 ちなみにこのコントローラを搭載したボードとして、LSI純正のPCI Express x8インターフェイスカード「SAS 9205-8e」が挙げられるが、これ単体でも4万円超の価格である。当初からSAS環境を構築するつもりであるならば、X79 Extreme11を購入したほうがむしろお得である。ASRockでは、LSIの「MegaRAID」ユーティリティで8個のSSDをRAID 0で構築したベンチマーク結果を公開しており、それによれば3.8GB/secを記録したという。PCI Express 3.0の実力が十分発揮された結果だといえるだろう。

 このSAS 2308の周囲には、BIOS ROMとみられるMacronix製128KBのフラッシュメモリ「MX29GL128F」、さらには基板背面にはCypress製の256Kbit不揮発性SRAM「CY14B256LA」の実装も見える。

LSIのSASコントローラ「SAS 2308」基板背面に装備された不揮発性SRAM「CY14B256LA」

 電源部はデジタルPWMを採用し、24+2フェーズとされている。また、Z77 OC Formulaの発売に先駆けてデュアルスタックMOSFETを採用している。裏面までに及ぶ電源実装で、多フェーズとコンパクトさを両立している。日本製の高導電性固体コンデンサを採用する点も、Z77 OC Formulaと同等である。

 また、裏面にはBroadcomのGigabit Ethernetコントローラ「BCM57781」を2基装備。さらにVIAのIEEE 1394コントローラ「VT6315」を備えるなど、インターフェイス周りはとにかく至れり尽くせりな構成になっている。

24+2フェーズのデジタルPWM電源電源の実装は裏面にも及ぶオンボードの電源/リセットボタンと、デバッグLED
2つのGigabit Ethernetコントローラ「BCM57781」X79はディスプレイインターフェイスがないので、このバックパネル装備は過剰とも言える
テキサスインスツルメンツの4ポートUSB 3.0コントローラ「TUSB7340」を2基装備する

 価格は先述の通り6万円台と、最近のマザーボードとしてはかなり高価な部類だが、以上見てきた通り、装備も「超弩級」であり、真のハイエンドと呼ぶにふさわしいマザーボードに仕上がっている。「CPUも、メモリも、ビデオカードも、ストレージも、オーディオも……とにかく最強にこだわりたい」ユーザーに手にとってもらいたい1枚だ。

(2012年 9月 14日)

[Reported by 劉 尭]