Googleのソーシャルメディアストリーミングプレイヤー「Nexus Q」を試す


 6月末にアメリカで開催されたGoogle I/Oの基調講演において、Nexusシリーズの新ハードウェアとして「Nexus Q」が発表された。“世界初のソーシャルメディアストリーミングプレイヤー”を謳うNexus Qだが、実際にどのように動作するのか詳しく見ていくことにしよう。ちなみに、Nexus Qの動作検証はアメリカ滞在中に行なっており、日本国内でどのように動作するかは未検証だ。この点はご了承願いたい。

●アメリカで設計/製造された球状の独特な筐体

 まずはじめに、Nexus Qの本体をチェックしていこう。Nexus Q本体はほぼ球状というプレイヤーとして独特の形状となっている。直径は116mmで、砲丸投げの砲丸に近いサイズ。完全な球ではなく、底面部が面で切り取られているので、テーブルなどに置いても転がることはない。重量は923g。実際に手に持ってみると、見た目以上にずっしりと感じる。筐体色はブラックで、マット調の加工が施されている。

 本体後方には、各種接続端子が並んでいる。円形のジャック4個は、スピーカ接続用のバナナプラグジャック。その下には、光デジタル音声出力ポート、100BASE-T対応の有線LANポート、Micro HDMI出力、Micro USBポートが並ぶ。Micro HDMI出力には専用ケーブルが用意されているが、市販のMicro HDMIケーブルの利用も可能。それらポートの下部には電源コネクタが用意されている。

 本体は、斜めに二分されており、上部がくるくる回転する。この動作でボリューム調節が行なえるようになっている。境界線部分にはLEDイルミネーションが内蔵され、動作時に鮮やかに輝くようになっている。回転する部分の天頂部にもLEDが内蔵されているが、ここにはタッチセンサーが内蔵され、タッチすることで音声のミュートが可能となっている。

Nexus Q本体。球体から底面の一部を切り取ったような形状となっている直径は116mm。砲丸投げの砲丸に近いサイズで、やや大きめの筆者の手なら楽々つかめる

 本体重量が923gと重いのは、音質を重視した設計となっているからだろう。内蔵するスピーカ用のアンプは、25W(12.5W+12.5W)のD級(Class D)アンプと、このクラスのデバイスとしては比較的高出力だ。加えて、最大限の音質を得るため、オーディオアンプなどと同様に、重量のあるダイキャスト製のシャシーのようなものを採用していると思われる。Nexus Qが発表された基調講演では、Nexus Qには家の中で最も高音質なスピーカを接続するようにと語られ、同製品のアクセサリとしては、アメリカのハイエンドオーディオメーカーであるTriad製のブックシェルフスピーカもラインナップしており、音質に関してかなり自信を持っているようだ。

 ところで、Nexus Qは全てアメリカ国内で設計/製造されているという。実際に底面には、「Designed and Manufactured in the USA」と記されており、この部分も大きな特徴となっている。実際の製造メーカーは公表されておらず不明だ。各種認証マークも見えるが、その中に日本の技術基準適合証明マークはない。

側面から見てもほぼ球。斜めのラインから上の部分はくるくる回る。またこのライン部分はLEDイルミネーションとなっているくるくる回る部分の天頂部にもLEDを内蔵。この部分をタッチするとミュートになる背面には、各種接続端子が並んでいる
上部の丸い端子は、スピーカーのバナナプラグ端子。その下には、光デジタルオーディオ出力、100BASE-TX対応有線LAN、Micro HDMI出力、Micro USB端子、電源端子が並ぶ底面には「Nexus Q」のロゴと各種認証マークが記されているが、いわゆる技適マークはない重量は公称923g、実測で991gと、見た目よりかなり重い

●内部システムはGalaxy Nexusとほぼ同等

 次に内部システムだ。ソーシャルメディアストリーミングプレイヤーと紹介されたNexus Qだが、その内部は一般的なAndroidデバイスとほぼ同等となっている。

 プロセッサは、TI製Cortex-A9デュアルコア「OMAP4460」を採用。メモリは1GB、ストレージは16GB搭載。OSはAndroid 4.0(Ice Cream Sandwich)が採用されている。このスペックは、Android 4.0のリードデバイスである「Galaxy Nexus」と同等のもの。背面に用意されているMicro USB端子は“ハッキング用”となっている。

 無線機能は、IEEE 802.11 a/b/g/n対応の無線LANとBluetoothを搭載。また、近距離無線通信技術であるNFCも搭載する。NFCのアンテナは本体天頂部に搭載されており、NFC内蔵のAndroidデバイスを利用して操作できる。

●専用アプリを導入したAndroidデバイスで操作

 Nexus Q本体には、ボリューム調節機能とミュート機能は用意されているものの、操作用のボタン類は一切しない。電源ボタンすら、電源を接続するとすぐに起動する。起動すると、ミュートLEDが点灯するとともに、側面のLEDが鮮やかに回転をはじめ、接続したTVの画面には、Nexus Qを模した模様とともに、日本語を含むさまざまな言語で“ようこそ”と表示される。そして、この時点で動作は一時止まる。

【動画】電源投入時の本体の様子
【動画】:電源投入時のTV画面の様子

 ここからの操作には、「Nexus Q」アプリを導入したAndroidデバイスが必須となり、Nexus Qアプリを導入したAndroidデバイスをNexus Qに登録しない限り、先ほどの画面から先に進めない。

 Nexus QアプリはGoogle Playで無償配布されており、記載されている情報を見ると、Android 2.3以降のAndroidデバイスで利用可能とされている。ただし、現時点ではGoogle I/Oで配布されたGalaxy 7およびGalaxu Nexusのみで動作するようで、他のAndroidデバイスからGoogle Playで検索しても表示されず、インストールパッケージを取り出して他機種にインストールしようとしてもできなかった。Nexus Qの販売が開始されれば、他のデバイスでも利用可能となるだろう。

 Nexus Qアプリのインストールは、Google Playで手動で検索してもいいが、NFC搭載デバイスであれば、Nexus Q天頂部に筐体をかざすことでダウンロードページが表示されるようになっている。なお、Nexus Qアプリは標準で日本語表示にも対応している。

 Nexus Qアプリを起動すると、初期設定が開始される。初期設定では、BluetoothによってAndroidデバイスがNexus Qをみつける。そして、設置場所(任意)やNexus Q側の無線LANの設定(有線LAN接続時には無線LANの設定は省かれる)を行なうと初期設定が完了する。ここで画面表示やNexus Qの側面LEDの光り方が変わり、登録したAndroidデバイスからNexus Qの操作が可能となる。初期設定を行なったAndroidデバイスはNexus Qに親デバイスとして登録され、Nexus Qへの音楽や動画の再生指示や、Nexus Qの細かな設定が可能となる。

 Nexus Qに音楽や動画の再生を指示できるのは、親デバイスだけではない。初期状態では、Nexus Qはゲストにも開放されており、同一LANに接続された、Nexus Qアプリ導入済みAndroidデバイスの全てがアクセスでき、Nexus Qから音楽や動画を再生できる。もちろん、ゲストデバイスへの公開は切ることも可能で、その場合には親デバイスのみが操作可能となる。

 例えば、パーティなどで友人が集まった場合などに、各人がそれぞれかけたい曲を指示すれば、プレイリストにどんどん追加されていき、順に再生されることになる。親デバイス、ゲストデバイスとも、Nexus Qに対して自分のアカウントを登録する必要はないので、異なるアカウント(ユーザー)が管理/所有するデータを扱えるというのは、これまでのAndroidデバイスにはなかった発想だ。GoogleがNexus Qを“ソーシャル”メディアストリーミングプレイヤーと呼ぶ理由は、ここにあるわけだ。

Nexus Qの操作は、Google Playで配布されている「Nexus Q」アプリで行なう。Android 2.3以降のAndroidデバイスで利用可能とされているアプリを起動すると、初期設定がはじまる初期設定時には、Bluetoothを利用してNexus Qを探す
Nexus Qが見つかると、このように表示される。複数のNexus Qが存在している場合には、本体のイルミネーションの色が変わるものと思われる設置場所を設定。複数のNexus Qを利用する場合でも、設置場所を指定して再生できるため混乱しないNexus Q側の無線LANの設定を行なう。有線LAN接続時にはこの設定は表示されないものと思われる
設定が完了すると、アプリに表示されている3種類のアプリからNexus Qにアクセス可能となる初期設定完了後は、Nexus Qアプリで本体の各種設定ができる各種出力のオン/オフやデータの初期化などが可能
本体イルミネーションのパターンも変更できる初期状態ではゲストに公開するように設定されており、同一LAN内の不特定多数のAndroidデバイスが接続可能だ遊びに来る友人などに、あらかじめNexus Qアプリをインストールすることを知らせるメッセージの定型文も用意されている

●再生できるのはクラウド上のコンテンツだけ

 Nexus Qでの再生に対応しているアプリは、現時点では「Google Play Music」、「Google Play Movies & TV」、「YouTube」の3種類のみ。Google Play Musicは、手持ちの楽曲を最大2万曲まで無料でクラウドにアップロードでき、端末側にデータを置かずとも音楽を再生できるサービス。Google Play Movies & TVは、Google Playで販売/レンタルされている映画やTV番組を視聴するアプリ。YouTubeは、おなじみのYouTube掲載動画を視聴するアプリだ。

 これらアプリを起動し、画面上部に表示されるNexus Qでの再生を示す専用アイコンをタップした状態で、再生したい音楽や動画を選択すれば、ネットワーク経由でNexus Qにキューが転送され再生が開始される。Android端末側からは、再生や停止、スキップや、ボリューム調節が可能。まさに、端末で再生している場合と同等の感覚で操作できる。この操作は、ゲストデバイスでも同じだ。

 ただ、NFCを利用し、再生したい曲や動画を選択した状態でNexus Qにタッチすれば、その曲や動画がNexus Qで再生されるとされているが、実際に試した限りでは、各アプリで再生したい曲や動画を選択した段階でNexus Qでの再生が始まってしまう。また、アプリ上で再生したい曲や動画を長押しすれば、Nexus Q側のプレイリストに登録可能だが、その状態でNexus QにタッチしてもNexus Qアプリのダウンロードページに飛ぶだけで、曲や動画の転送はできなかった。

音楽を再生する場合には、「Google Play Music」アプリを利用し、上部の専用アイコン(検索アイコンの右側)をタップして再生したい曲やアルバムを選択すれば、Nexus Qでの再生が始まる曲やアルバムを長押しして表示されるメニューから「リビングルームに追加」(初期設定時の設置場所に応じて表示は変わる)を選択すれば、Nexus Qのプレイリストに追加される再生時には、画面には音楽のリズムに合わせて幾何学模様が表示され、本体のイルミネーションが輝く

【動画】音楽を再生している時の様子
【動画】YouTube動画を再生する様子

 再生できるコンテンツはクラウド側に存在しているデータのみだ。Android端末からNexus Qに直接コンテンツデータが送信されるわけではなく、Nexus Qにはクラウド上のデータにアクセスするために必要となるアカウント情報などが送られ、クラウド上のデータが直接ストリーミングで渡される。こういった仕組みのため、ゲストデバイスが指示したデータも簡単に再生できるわけだ。逆に、端末内にしか存在しないローカルコンテンツをNexus Qに転送し再生することは不可能だ。

 さて、アメリカでの利用ならこの仕様でも大きな不満は感じないだろう。というのも、既にアメリカでは、多くのAndroidユーザーがGoogle Play Musicを活用しているからだ。また、基調講演で発表されたとおり、アメリカではGoogle Playで多数の映画やTV番組、雑誌の配信が開始されており、多数のコンテンツを楽しめる環境が整っている。

 それに対し日本では、Google Play Musicはサービスが開始されておらず、アメリカに行ってサインインしない限り利用できない。また、日本のGoogle Playでは映画のレンタルは行なわれているものの、その数はかなり少ない。そのため、現状では日本ではNexus Qが登場しても、活躍する場面がかなり限られてしまう。そのため、日本での近い将来の販売はないと考えた方がよさそうだ。

 Nexus Qは、現時点では、NFCがうまく動かなかったり、親デバイスとして登録したはずのAndroidデバイスが親デバイスから外され、設定が一切行なえなくなる場合があるなど、安定度や完成度はまだまだこれから、と感じる部分がある。

 それでも、複数のアカウントが管理するコンテンツを一元的に扱えるという特徴は、Androidデバイスの新たな可能性を示す非常におもしろい試みだ。ぜひとも日本でも展開してもらいたい。そして、このコンセプトから派生して生まれる、新たなサービスの登場にも期待したい。

●分解してみた

 一通りの評価も終わったところで、分解して内部を見てみることにした。ボリューム調節を行なう上部の回転するカバー部分は簡単に開けられ、一部トルクスネジが利用されていたが、分解は比較的簡単にできた。

 内部は、電源、オーディオ、システムの3枚の主基板と、付随する小さな基板で構成されている。

 システム基板には、プロセッサやメモリ、フラッシュメモリ、無線LAN/Bluetoothモジュールなどを搭載。チップは全て金属プレートでシールドされている。搭載チップの中で、エルピーダメモリ製の「B8064B2PB-8D-F」は、Texas Insturments製プロセッサ「OMAP4430」と、8GbitのDRAMを内蔵するSoCだ。フラッシュメモリは、Samsung製の容量128Gbit チップ「KLMAG4FEJA-A002」を搭載。このほかには、SMSC製の100BASE-TX対応LANコントローラ「LAN95000A」や、村田製作所の「FA221648A」(おそらく無線LANコントローラと思われる)などが搭載されていた。

 最初に外したカバーの天頂部にも基板が搭載されており、ここにはNXP Semiconductors製のNFCコントローラ「44501」と、Atmel製8bitマイコン「MEGA328P」などが搭載。また、本体シャシー部分の外周部にも円形の基板があり、ここには側面ライティング用のLEDが32個搭載されている。

 オーディオ基板には、Texas Insturments製のClass Dアンプ「TAS5713」が搭載されている。電源、オーディオ基板は、コンデンサなども高品質なものが利用されている。また、小型筐体なので、ノイズ低減などの効果がどの程度あるかはわからないが、電源、オーディオ、システムと基板を分離して搭載している点も、音質にこだわっているなという印象を受けた。

上部のカバー部分は簡単の取り外せるカバーを開けた状態では、無線LANのアンテナやフレキケーブル、天頂部のLEDなどが見える上部の黒いカバーを外した状態。中央に電源回路が見える
電源回路は独立した基板となっている。基板上にも「MADE IN USA」の文字が見える電源回路の下にはオーディオアンプの回路を搭載した基板があるTexas Insturments製のClass Dアンプ「TAS5713」を搭載。出力は左右12.5Wずつ、合計25Wだ
オーディオ基板の下には、システム基板がある。システム基板に搭載されるチップは、全て金属板でシールドされているシールドを外した状態。OMAP4430と8GbitのDRAMを内蔵するエルピーダメモリ製のSoC「B8064B2PB-8D-F」やSamsung製のフラッシュメモリチップ、村田製作所製のチップなどが搭載されている基板を外したシャシー側。ダイキャストボディでこの部分だけで全体の半分近い重量を占めている
はじめに外したカバー部には、このような基板が搭載されているNXPP Semiconductors製のNFCコントローラ「44501」と、Atmel製8bitマイコン「MEGA328P」を搭載する本体側面イルミネーション用LEDを搭載する基板。LEDは全部で32個搭載している

(2012年 7月 18日)

[Reported by 平澤 寿康]