【フォトレビュー】セルシスの人型入力デバイス「QUMARION」
〜実機を使って3D CGアニメーションを作ってみた

「QUMARION」



 セルシスの人型入力デバイス「QUMARION (クーマリオン)」の発売に先立ち、製品を評価をする機会を得た。後日、開発者インタビューを交えた詳細なレポートも予定しているが、まずは写真を中心に本製品の概要を紹介したいと思う。

 なお、今回試用したハードウェアは製品版だが、ソフトウェアがベータ版であり、その挙動、仕様などは製品版では変更になる可能性があることをお断わりしておく。

 QUMARIONは、「QUMA技術」と呼ばれるセンサー技術を内蔵した、人型の入力デバイスだ。頭の先から爪先に至るまで32個のセンサーが内蔵されており、各部を動かすと、その情報がリアルタイムでPCに取り込まれ、対応の3Dアニメーションソフトでキャラクターに任意のポーズを取らせることができる。6月21日から予約開始され、初回価格は67,800円となっている。なお、初回出荷分の販売については、「創作活動応援サイトCLIP」での予約販売のみとなる。

正面 左側面
背面 右側面

 これまで、3D CGで人型のキャラクターアニメーションを作成するのは、ハードルが高かった。まず、一般的にソフトが高価である。そして、それを入手しても、キャラクターのモデリングには、2Dのペイントとは違う操作技術や経験、絵心も必要だろう。さらにそれをアニメーションさせるとなると、ボーンと呼ばれる骨格や関節に相当するものを設定し、それをパーツ毎にXYZの3次元軸に対して位置や向きを調整するという、骨の折れる作業が必要となる。

 しかし、そのハードルは、時代とともに取り払われつつある。たとえばソフトに関しては、ニコニコ動画用ツールとして一躍有名になった「MikuMikuDance」(通称MMD)というフリーソフトが樋口優氏によって開発/無償提供された。これに端を発し、さまざまなキャラクターのボーン込みのモデリングデータが有志によって提供されるに至った。

 さらに、MMDにはMicrosoftのKinect用のアドオンまで開発され、たとえばユーザーがダンスを踊り、そのモーションをそのまま取り込んで、キャラクターにダンスさせるといったことも容易にできるようになった。

●人形にポーズを取らせて、取り込むだけで3D CGアニメーションが完成

 今回紹介するQUMARIONは、MMD用として開発されたものではないが、Kinect同様、経験と手間のいる3D CGのアニメーション作業を、簡単で直感的なものにしてくれるツールだ。

 ユーザーが行なう作業は、QUMARIONをPCにUSBでつないで、ポーズを取らせる。ただ、それだけだ。

 本製品には、標準でセルシス独自の「CLIP STUDIO ACTION」というアニメーションソフトが添付されているので、このソフトでの手順を例に説明する。なお、QUMARIONは、PCからHID準拠デバイスおよびUSB入力デバイスとして認識され、Windows標準のドライバで動作する。また、製品版にはイラスト制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT PRO」やキャラクター編集ソフトウェア「CLIP STUDIO COORDINATE」も付属する。

背負っているブースターのような物の中にMini USB端子がある CLIP STUDIO ACTION(ベータ版)

 まずは他のソフト同様、一連のアニメーションの中で、キーとなるポーズを取らせ、それをキーフレームとしてタイムラインに追加する。、キーフレーム間のアニメーションは自動生成され、なめらかなアニメーションができあがる。筆者は、3D CGアニメーションについて、若干の基本的知識は持ち合わせているが、制作についてはずぶの素人と言っていい。今回、試しに3つのキーとなるポーズから成る短いアニメーションを作成してみた。

 QUMARIONをPCにつないだ状態でCLIP STUDIO ACTIONを起動し、「QUMARIONからの接続」、および「QUMARIONからの入力」のアイコンをクリックしてそれぞれをオンにすると、画面内のキャラクターがQUMARIONと全く同じポーズを取る。今回試用して初めて分かったのだが、QUMARIONには関節の稼働を検知するセンサーに加え、加速度センサーも内蔵しており、「QUMARIONの加速度センサー」のアイコンをオンにすると、2軸の傾き加減もリアルタイムで再現される。

実際につないだところ。QUMARIONのポーズが画面のキャラクターに反映される

【動画】画面内のキャラクターもリアルタイムで同じポーズになっているのが分かる。途中で画面内のキャラクターが座るのは、高さを検出しているのではなく、「QUMARIONの接地」オプションをオンにしているので、足先が床の高さに自動的に揃うため
【動画】加速度センサーで2軸(前後左右)の傾きも検知できる

 ポーズを決めたら、タイムライン上でキーフレームを追加する。3つのポーズを取らせて、キーフレームを追加するのにかかった時間は、5分足らず。後は、タイムラインの再生ボタンを押すと、中間フレームが自動生成され、アニメーションが完成する。これなら、3D CGどころか、PCすらまともに触った経験のない人でも、アニメーションが作れてしまう。

特に意味はないが、このような3つのポーズを作ってみた。ポーズを決めたら、青いタイムライン上で、キーフレームを追加する。3つくらいなら5分もあれば作業完了する

 ただし、自動生成される中間フレームでは、場合によって一部の関節がおかしな方向を向いたりすることもある。また、キーフレーム間のアニメーションは、緩急がないなだらかなものになる。そのため、このベータ版だけの機能で、見栄えのするアニメーションにするには、中間フレームにも適度にキーフレームを追加して、微調整を行なう必要がある。

CLIP STUDIO ACTIONには、手動調整時に関節がおかしな方向に曲がらないよう制限をかけられるが、現在のベータ版で自動生成された中間フレームでは、このような軟体人間ができることがあるので、手作業で修正した

 先にも述べたとおり、制作経験のないことに加え、評価機材に添付されていたソフトには、まだ詳細なマニュアル類がなかったので、納得のいく(といってもかなり質は低いのだが)アニメーションを完成させるのに、微調整を繰り返し、最終的に数時間がかかってしまった。

 経験のないユーザーが、「数秒のアニメーションに数時間かかった」と聞くと及び腰になってしまうかもしれない。だが、それは筆者が素人なりにも、より良いものを作ろうと夢中になってしまったからだ。微調整に当たって、ボーンの回転や移動作業を行なうのに、最初なかなか勝手が分からず苦労したのは事実だが、やり方さえ分かったら、楽しみながら試行錯誤することができた。なにより、自分で作った基本のポーズが完成しているので、とっかかりの部分で躓くことがないのだ。

 そうして完成したアニメーションのデータは、CLIP STUDIO ACTIONの専用形式のほか、標準的なBVH形式にエクスポートできるので、他のソフトに取り込んで編集できる。

 今回のベータ版CLIP STUDIO ACTIONには1体のキャラクターのポーズ作成とアニメーション作成の機能しかないが、製品版では背景の追加や動画の書き出しが可能。後は別途音楽をつければ、作品に仕上がる。また、中間フレームの動きの緩急をコントロールする機能も搭載予定なので、微調整作業の時間も短縮されるだろう。

 ちなみに、今回試してはいないが、Autodeskの3ds MaxおよびMaya用のQUMARIONプラグインも用意されている。また、セルシスではこの件について近日中に何かしらのニュースを発表予定というので、期待して待ちたい。

【動画】3つのキーフレームから中間フレームを自動生成しただけのアニメーション。動きに緩急がないし、途中関節がよじれている
【動画】手動調整で緩急をつけ、不自然な関節を直したもの

●自立は困難なこともあるが、あらゆるポージングが可能

 さて、QUMARION本体についても使ってみた感想を述べておこう。

 QUMARIONの見た目は、デッサン人形に酷似しており、丸みを帯びたスリムな体格からは中性的な雰囲気が醸し出されている。全高は290mmで、ちょっと大きめのフィギュアといったとこだろうか。外殻は白いプラスチックでできている。重量は、手元の秤で量ったところ、258gだった。

 背後から見ると、多数のネジが見受けられるのだが、正面からは一切見えない。本製品のデザインは、アクションフィギュアの原型師としてfigmaシリーズ等を手掛けている浅井真紀氏によるもので、このあたりはこだわりがあってのものだろう。

 主な可動部は、首、肩、胸、股関節、腿、膝、足首、肘、手首など。頭や胸、股関節は3自由度ある。肩と手首は2自由度だが、上腕部に1自由度あるので、人間のほとんど全てのポーズを再現できる。

 1つ残念なのは、自立させにくいことだ。直立の姿勢なら、うまくバランスを取れば自立させられるが、足を大きく開いたり、お辞儀させて重心を移動させたりすると、自立は難しい。また、バランスがうまく取れても、例えば、がに股にさせると、自重で腰が下がりM字開脚の状態になってしまう。

 おそらく本製品は最初から自立させることは考えていないのだろう。今回入手できなかったが、製品版には背中につなげられるスタンドが付属する。これを使えば、手を離したまま、いろいろなポーズで固定できる。


(2012年 6月 14日)

[Reported by 若杉 紀彦]