LGA1366 Core i7のクロックを更新する「Core i7-990X」を検証


 Intelは、LGA1366用プロセッサとして最高クロックモデルとなる「Core i7-990X Extreme Edition」(以下、Core i7-990X)を投入した。発表・発売からは少し月日が経ってしまったが、このパフォーマンスをチェックしてみたい。

●アーキテクチャに変更の無いCore i7-980Xの純粋な高クロック版

 Core i7-990Xは、32nmプロセスで製造された6コア12スレッドプロセッサだ。コードネームは「Gulftown」であり、Core i7-980Xをそのまま高クロック化したものである。ステッピングもリビジョンも変わらない。

 動作クロックは3.46GHzで、Turbo Boost時の最大クロックが3.73GHz。これはCore i7-980Xに対して、それぞれ133MHzほど引き上げられていることになる。ただしTDPは変わらず130W。また、VID電圧も0.8V~1.375V、T CASEも67.9度、とここも変わらない。つまり、実際の消費電力は多少変わるとしても、電圧/発熱面での仕様に違いは無い、ということになる。

 言うまでもなく、場合によってはBIOSの更新の必要があるにしても、これまでのLGA1366マザーボードでそのまま利用できる

【表1】Core i7-990Xの主な仕様
プロセッサー・ナンバーCore i7-990XCore i7-980XCore i7-970Core i7-2600K
コードネームGulftownGulftownGulftownSandyBridge
コア数6664
スレッド数1212128
動作周波数(GHz)3.463.333.23.4
ターボ時最大クロック(GHz)3.733.63.463.8
L3キャッシュ(MB)1212128
製造プロセス(nm)32323232
TDP(Watt)13013013095
DDR3メモリ(MHz)1,0661,0661,0661,333
チャネル数(Ch)3332

3.46GHzに動作クロックを引き上げた「Core i7-990X」Core i7-990XにおけるCPU-Zの結果Core i7-980XにおけるCPU-Zの結果

●クロック上昇分がきれいにスコアに反映される結果に

 それではベンチマーク結果を見ていこう。テスト環境は表2のとおりだ。比較するのはこれまで最上位だったCore i7-980Xと、場合によってはLGA1366を揺るがす存在であるCore i7-2600K、そして同じ6コアCPUであるAMD Phenom II X6 1100Tの4製品とした。多少異なる点はあるが、おおよそのベンチマークテスト構成は多和田氏の関連記事に準じている。

【表2】テスト環境
CPUCore i7-990XCore i7-980XCore i7-2600KPhenom II X6 1100T
クロック3.46GHz3.33GHz3.40GHz3.33GHz
マザーボードIntel DX58SOIntel DX58SOGIGABYTE GA-H67A-UD3H-B3ASUSTeK Crosshair IV Formula
チップセットIntel X58+ICH10RIntel X58+ICH10RIntel H67 ExpressAMD 890FX
メモリDDR3-1066 4GBx3DDR3-1066 4GBx3DDR3-1333 4GB×2 + 2GB×2DDR3-1333 4GB×2 + 2GB×2
GPUGeForce GTX 580GeForce GTX 580GeForce GTX 580GeForce GTX 580
HDDWD20EARSWD20EARSWD20EARSWD20EARS
OSWindows 7 Ultimete 64bitWindows 7 Ultimete 64bitWindows 7 Ultimete 64bitWindows 7 Ultimete 64bit

 まずCPUとメモリ周りの性能から見ていきたい。テストはSandra 2011bのProcessor Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance TestCPU Test(グラフ2)、Sandra 2011bのCache & Memory Benchmark(グラフ3)である。

 基本的にクロックの上昇分が素直にスコアに現れ、SandraもPassMarkも、Physicsテストを除けば、Core i7-980Xに対して概ね3%の向上を見せている。SandraのMultimedia系テストやPassMarkのSSEでは、Core i7-2600Kが、PassMarkのFloating Point MathではPhenom II X6 1100Tが突出していたりというアーキテクチャの違いによる首位の入れ替わりはあるものの、総合的にはCore i7-980Xを抜き、コンシューマ向けCPUのトップを更新したと言って良いだろう。

 キャッシュ性能は、1MBレンジまでで見れば平均5%の向上を見せ、それ以降4GBまではCore i7-980Xと変わらないラインを辿っている。

【グラフ1】Sandra 2011b(17.25)(Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PassMark PerformanceTest v7.0(CPU Test)
【グラフ3】Sandra 2011b(17.25)(Cache & Memory Benchmark)

 続いてアプリケーションベンチマークと3D関連のベンチマークを見ていこう。テストはSYSmark 2007 Preview(グラフ4)、PCMark Vantage(グラフ5)、CineBehch R11.5(グラフ6)、POV-Ray(グラフ7)、HD動画のエンコード(グラフ8)、3DMark Vantage(グラフ9、10)、3DMark 11(グラフ11、12)、Lost Planet 2 Benchmark(グラフ13)、FinalFantasy XIV(グラフ14)である。

 SYSMarkでは、最高スコアを記録したのはCore i7-990XではなくCore i7-2600Kである。Core i7-990XはVideoCreationやProductivityでトップ(ただしProductivityはCore i7-2600Kに対し僅差)であるが、3DでCore i7-2600Kに対し大きく劣る結果となっている。Core i7-980Xも同様であって、単純に6コアを使い切るシーンが少ないということだ。

 CineBenchやPOV-RAY、HD動画のエンコードでは、クロック上昇分がきれいに現れた結果となっている。POV-RAYのOne CPUでCore i7-2600KがTurbo Boostの向上幅の大きさでトップのスコアを示しているが、こうしたレンダリングで1コアのみ使うような状況は無いので、CPUを使い切るアプリケーションにおける6コア、そしてそのクロックが更新されたことによるメリットは大きいと言える。

 3DMark等の3Dベンチマークも、着実にスコアを向上しているのが確認できた。しかし3DMark VantageのCPU TestのみがここまでのCPUベンチマーク同様3%の向上を見せたのに対し、その他は1%未満、Lost Planet 2に関しては1FPS程度というわずかな向上にとどまっている。もちろんその1FPSが欲しいユーザーには有効な製品であるが、Core i7-980Xから乗り換えるほどではないだろう。

【グラフ4】SYSMark 2007 Preview Patch-5(v1.06)
【グラフ5】PCMark Vantage Build 1.0.1.0
【グラフ6】CINEBENCH R11.5
【グラフ7】POV-Ray v3.7 RC3
【グラフ8】動画エンコード(HD動画)
【グラフ9】3DMark Vantage Build 1.0.2(CPU Test)
【グラフ10】3DMark Vantage Build 1.0.2(Graphics Test)
【グラフ11】3DMark 11(Physics Test)
【グラフ12】3DMark 11(3DMarks)
【グラフ13】Lost Planet 2(DX11)
【グラフ14】Final Fantasy XIV Official Benchmark(DX9)

 最後に消費電力のテストである(グラフ15)。Core i7-980Xと同じTDP 130W枠であるが、実際の消費電力は5W程度増える傾向が出ている。とくにCineBench時やHD動画エンコード時の消費電力は、Core i7-2600Kの2倍に及び、演算性能と消費電力のバランスが気になるところだ。

【グラフ15】消費電力

●最後のLGA1366フラッグシップ?

 Core i7-990XはCore i7-980Xの高クロック版として、とくに手を加えられたこともなく、全体的に素直にそのクロック向上分がスコアに現れている。ただし、その恩恵を得られるのは3Dレンダリングや動画のエンコードなどCPUに大きく依存したアプリケーションとなる。その他の一般的なスレッド数のアプリケーションとなると、クアッドコアでありながらも、アーキテクチャが進んだCore i7-2600Kに追い上げられている。

 Core i7-990Xは、9万円前後という価格からも使う人を選ぶ。フラッグシップであるため仕方のないものだが、Core i7-980Xが居た999ドルラインをそのまま入れ替わった格好だ。一応、円高の影響でCore i7-980Xの発売当初よりは安く、少し前のCore i7-980Xの価格でCore i7-990Xが導入できるという情況ではある。ただし、Core i7-2600Kのパフォーマンス/コストと比べてしまうと一般ユーザーが選択肢に入れるタイプの製品ではないと思われる。

 もちろん僅かな性能向上にこだわるベンチマーカーやゲーマーにとっては有効な製品である。そろそろLGA1366プラットフォームも終息する見込みであり、これまでクアッドコアでがんばってきたLGA1366ユーザーが最後のアップグレードとして選択することも有りではないかと思う。

(2011年 4月 5日)

[Reported by 柚ノ木 護]