■多和田新也のニューアイテム診断室■
Intelは6月3日、Core i7シリーズの最上位モデルとなる「Core i7-975 Extreme Edition」を発表した。同シリーズ最高クロックを更新するフラッグシップモデルとして投入され、このパフォーマンスをチェックしたい。
●動作クロックが3.33GHzへアップ2008年11月に発表されたCore i7シリーズ。その上位モデルとなる、Core i7-965 Extreme Edition(以下、Core i7-965と表記)とCore i7-940は、生産が打ち切られることが5月初めに発表された。
その後継として登場するのが、今回発表された「Core i7-975 Extreme Edition」(以下、Core i7-975と表記)だ(写真1)。動作クロックは3.33GHz。Core i7-965はベースクロックの133MHを24倍して3.20GHzの動作クロックだったが、この倍率を1段アップし、133MHz×25で動作するモデルということになる。QPIの速度は6.4GTps、TDPは130Wと、この辺りの仕様は同一である。
表向きの仕様では、単なるクロックアップモデルということになるわけだが、製造レベルの話でいえば、異なるステッピングのコアが使われる点を特徴として挙げることができる。それは、Core i7-975がD0ステッピングが採用していることである(画面2~3)。
D0ステッピングはオーバークロック耐性がまずまず良い傾向にあるようで、Core i7-920にD0ステッピング版が登場して一時話題になったことが記憶に新しい。素行の良くなったステッピングが登場したことは、より高いクロックが製品化されたことの背景の1つと考えられる。
【写真1】Core i7-975 Extreme Edition | 【画面1】CPU-Zの結果。Core i7-975はD0ステッピングが用いられていることが分かる | 【画面2】Core i7-965ではC0ステッピングが使用されていた |
●どの程度の性能アップが見込めるか?
それではベンチマーク結果を紹介する。テスト環境は表に示したとおりで、ここで旧モデルとなったCore i7-965との比較を行ない、どの程度の向上具合なのかをチェックしたい。テストに用いたマザーボード、ビデオカードは写真2~3のとおりである。
CPU | Core i7-975 Extreme Edition Core i7-965 Extreme Edition |
チップセット | Intel X58+ICH10R |
マザーボード | ASUSTeK P6T Deluxe |
メモリ | DDR3-1066(1GB×3,8-8-8-20) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce GTX 280(GeForce Release 185.65) |
HDD | Seagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS) |
OS | Windows Vista Ultimate Service Pack 2 |
【写真2】Intel X58 Expressを搭載する、ASUSTeK「P6T Deluxe」 | 【写真3】GeForce GTX 280を搭載する、ASUSTeK「ENGTX280/HTDP/1G」 |
では、順に結果を紹介していきたい。まずは、CPU性能のチェックである。テストはSandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)だ。
【グラフ1】Sandra 2009 SP3a Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark |
【グラフ2】GPCMark05 CPU Test(シングルタスク) |
【グラフ3】GPCMark05 CPU Test(マルチタスク) |
Core i7-975はCore i7-965から約4%のクロックアップが行われた製品となるが、これらのテスト結果も4%程度の性能向上となっており、まずは順当に演算性能が向上したことを確認できる。
次にメモリ周りの性能をチェックする、Sandra 2009 SP3aのCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)の結果である。
【グラフ4】Sandra 2009 SP3a Cache & Memory BenchmarkBenchmark |
【グラフ5】PCMark05 Memory Test(シングルタスク) |
こちらも妥当な結果に落ち着いている。キャッシュの範囲内では、動作クロックが向上した約4%前後、Core i7-975のキャッシュ速度向上が見られる格好だ。一方でメモリ速度は誤差程度の違いになっている。
続いて一般アプリケーションを用いたベンチマークテストの結果を紹介する。テストは、SYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)である。
【グラフ6】SYSmark 2007 Preview |
【グラフ7】PCMark Vantage |
【グラフ8】CineBench R10 |
【グラフ9】動画エンコードテスト |
SYSmarkやPCMark Vantageにおいて、スコアが逆転してしまう場面があり、導入効果が非常に低いシーンも散見される。ただ、基本的にはCore i7-975が順当に性能を伸ばした格好になっており、多くの利用シーンにおいて性能が上積みされた結果といえる。
次に3D関連のベンチマークテストである。テストは、3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、Crysis(グラフ13)、LOST PLANET COLONIES(グラフ14)を実施している。
【グラフ10】3DMark 06/Vantage CPU Test |
【グラフ11】3DMark Vantage Graphics Test |
【グラフ12】3DMark06 SM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test |
【グラフ13】Crysis |
【グラフ14】LOST PLANET COLONIES |
こちらはCPUにフォーカスしたテストや、負荷が低い条件においてわりと大きな性能差を見せている。グラフィック描画にフォーカスしたテストの高解像度条件ではさすがにGPUがボトルネックになっているが、ゲームにおける全体的な性能底上げが期待できそうだ。
最後に消費電力の測定結果だ(グラフ15)。ここは、Core i7-975のほうがアイドル時、ピーク時ともに消費電力が低い結果に落ち着いた。これは、D0ステッピングの恩恵とみて間違いないだろう。
【グラフ15】消費電力 |
減少した消費電力は10W未満と大きくないが、単純に考えれば動作クロックがアップした分Core i7-975のほうが消費電力が高くなってもおかしくないわけで、消費電力が抑制されたインパクトは大きい。
●Core iシリーズのポテンシャルを再確認させる製品以上のとおり、新しくフラッグシップとして君臨することになるCore i7-975のパフォーマンスを見てきた。わりと安定的に性能向上が果たされており、最高性能の引き上げという、このクラスの製品が果たすべき役割はちゃんと為されている。一方で、D0ステッピングの採用で消費電力が減ったことは歓迎すべきだ。Core i7という製品がもつポテンシャルを全体的に引き上げたといえるだろう。
ちなみに、多くの自作ユーザーは、Nehalemアーキテクチャを採用したメインストリーム向けクアッドコアCPUとして予定されているCore i5などを気に留めていることと思う。このCore i5も、Core i7と同じ45nmプロセスでの投入が予定されている。この45nmの製品に、電力効率の良くなったステッピングが登場したことは、メインストリーム製品の登場を待つユーザーにとっても喜ばしいことだ。