やじうまPC Watch

理研、電気で生きる微生物を特定

~海底岩石に流れる電気を使い二酸化炭素から有機物を合成

A.ferrooxidansの顕微鏡像

 理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チーム、東京大学大学院工学系研究科の共同研究チームは25日、電気エネルギーを直接利用して生きる微生物を初めて特定したと発表した。

 一部の生物は、生命の維持に必要な栄養分を自ら合成する。具体例として、植物は太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成する。また、太陽光が届かない環境には、水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを合成に利用する化学合成生物が存在する。

 これまで、二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、光合成か化学合成のどちらかを用いていると考えられていたが、共同研究チームは、太陽光が届かない深海熱水環境に電気を非常に良く通す岩石が豊富に存在し、電気を流す岩石が触媒となって、海底から噴き出る熱水が岩石と接触することで電流が生じることを発見した。

 このことから同チームは、海底に生息する生物の一部が光と化学物質に変わる第3のエネルギーとして電気を利用して生きているのではとの仮説を立て、研究を行なった。

 鉄イオンをエネルギーとして利用する鉄酸化細菌の一種であるA.ferrooxidansに着目し、鉄イオンが含まれず、電気のみがエネルギー源となる環境で細胞の培養を行なったところ、細胞の増殖を確認し、細胞が体外の電極から電子を引き抜くことで、ニコチンアミド-アデニンヌクレオチドを作り出し、ルビスコタンパク質を介して二酸化炭素から有機物を合成する能力を持つことを突き止めた。

 この微生物は、二酸化炭素からの有機物合成の際に0.3V程度の小さな電位差を利用する。通常、0.3Vの電位差では二酸化炭素から有機物を作り出せないが、外膜から内膜にかけて広がる分岐型の電子輸送経路を「昇圧回路」として用い、電位差を1.14Vにまで高めていることも分かった。

微小の電力を使って生きる生物の代謝経路。細胞内に存在する分岐型電子伝達系を昇圧回路として利用。それにより、わずか0.3Vの電位差を1.14Vまで高め、二酸化炭素から有機物を作り出す

(若杉 紀彦)