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人間は午前中に学習するとより効率的に記憶できる?

~東大がマウスを使い長期記憶に適した学習時間帯を発見

1日のさまざまな時刻における新奇物体認識テストの結果。長期記憶のしやすさは活動期の前半に高くなり、短期記憶は1日を通して一定だった

 東京大学大学院理学系研究科・理学部は9月30日、1日の中で学習による長期記憶をしやすい時刻があることを発見したと発表した。

 これまで、1日のうちの時刻によって記憶のしやすさに違いがあるのではないかと考えられていたが、それが体内時計によるものなのか、どのような脳内メカニズムが使われているのかは解明できていなかった。今回、マウスを使って行なった新奇物体認識による長期記憶テスト(学習から24時間後の変化を見る)において、活動期の始めに記憶のしやすさが最高に達することが分かった。活動期とは、生物の生活リズムを二分して見た場合、活動状態と休息状態に分けられ、前者の状態を指す。

 記憶は大脳にある海馬によって司られていることは広く知られているが、記憶の日内リズムは海馬にある体内時計(海馬時計)が制御しており、海馬時計が生み出している「SCOPタンパク質」の量的変化が重要であると同研究グループは以前に明らかにしていた。

 本実験では、マウスの長期記憶テストをさまざまな時間で行なうことで、活動期前半の学習によって多くのSCOPタンパク質が分解され、記憶力が上昇することを世界で初めて突き止めたという。SCOPタンパク質は海馬時計から時刻情報を受け取り、記憶システムに伝えるという働きを持っており、遺伝子操作でマウスの海馬時計を止めてしまうと、例え活動期の前半であっても記憶ができなくなるという障害が発生する。

 SCOPタンパク質の量は昼夜で大きく異なり、休息期前半の学習前は海馬の細胞膜に存在するSCOPとK-Rasの結合体が少なく、学習の刺激が入ってもSCOPの分解に伴うK-Ras、ERK(細胞外シグナル調節キナーゼ)の活性化量が少ないため長期記憶ができないが、活動期の前半ではSCOPとK-Rasの結合体が多く、このタイミングで学習の刺激が入ると、SCOPの分解に伴って多くのK-Rasが遊離されて活性化するという。その結果多くのERKが活性化し、記憶関連遺伝子の転写が強く誘導されて長期記憶に繋がる。なお、8分間の短期記憶の実験では1日を通して一定の記憶力を示した。

 今回発見した海馬のメカニズムは、同じく記憶の日内変化がある人間にも当てはまるとしており、夜行性のマウスが夜間活動の前半に長期記憶が活性化されるとすれば、昼行性の人間は午前中に長期記憶の学習効果のピークが現われるのではないかと考えられるという。

 この実験結果によって、長期記憶の日内リズムを利用したより効率の高い学習効果が期待されるとともに、将来的には老化による記憶障害の改善に役立てる可能性があるとしている。

新奇物体認識テストでは、実験アリーナでマウスに2つの積み木(AとB)を5分間見せて学習。その後、ホームケージに戻して一定時間(長期記憶の場合は24時間、短期記憶の場合は8分)経過した後、再び実験アリーナにおいて5分間のテストを行なっている。テスト時には、学習時に見せた既知の積み木の1つ(B)を新奇の積み木(C)に換え、2つの積み木(既知Aと新奇C)への探索時間の割合(%)で記憶の強さを評価した