【COMPUTEX 2011レポート】【Intel基調講演編】
マローニ氏、ノートブックPCを再定義するUltrabook構想を語る

COMPUTEX事実上の基調講演でUltrabook構想について語り合うIntelのショーン・マローニ主席副社長とASUSのジョニー・シー会長

会期:5月31日~6月4日(現地時間)



 COMPUTEXの主催者であるTAITRAが併催している「e21Forum」のイベントの基調講演で、Intelの主席副社長 兼 インテル・アーキテクチャー事業本部 事業本部長のショーン・マローニ氏が登壇し、新しいノートPC、タブレット戦略について説明した。

 実はマローニ氏、昨年(2010年)の3月に脳梗塞で入院し、その後復帰してから初めての公式の場への登場ということで、健康の回復具合なども注目されていた。何度か言葉につまることも見られたものの、しっかりとした口調で最後まで講演をやりきり、詰めかけた聴衆から祝福の大きな拍手を受けた。

 そのマローニ氏が説明したのが、Ultrabook(ウルトラブック)とIntelが呼ぶ新しいビジョンで、従来のノートPCに比べて軽量・薄型なだけでなく、ユーザーインターフェイスの応答性やハイバネーションからの復帰時間の短縮や高いセキュリティ性の確保など、モバイル機器に必要な要素をノートPCに追加し、コンシューマが持ち運んで使うモチベーションを高めようというのが狙いとなる。

●病から復活したマローニ主席副社長、次期Intel CEOの座に向けて復活を印象づける
Intel 主席副社長 兼 インテル・アーキテクチャー事業本部 事業本部長 ショーン・マローニ氏

 ショーン・マローニ氏は冒頭で「台湾の皆さん、皆さんもご存じの通り、昨年私は病に倒れましたが、このように無事元気になってここに戻ってきました」と喜んだ。それを受け、詰めかけた聴衆からは大きな拍手が起きたほか、ゲストスピーカーとして登場したASUSのジョニー・シー会長も「あなたは台湾の業界にとって必要な人だ。戻ってきてくれてありがとう」と感情たっぷりに語りかけると、観衆も再び盛大な拍手で応じて、マローニ氏も感極まったようだった。

 マローニ氏は、病に倒れる前までは、誰もが認めるIntelのNo.1であり、現在のCEO兼社長であるポール・オッテリーニ氏後継の最有力候補と考えられていた。しかし、それも昨年3月の入院で、黄色信号が点灯してしまったのは否定できなくなった。仮に健康面に不安があるとすれば、Intelの社内で彼が後継だと考えられても、株主がそれを承認するとは思えないからだ。実際、昨年のCOMPUTEXでもマローニ氏の講演が予定されていたが参加することができず、同僚のダディ・パルムッター副社長が代わりに講演し、マローニ氏はビデオレターだけで登場となっていたからだ。

 そのときのマローニ氏は、正直に言って、大丈夫なのかな、という印象を抱かざるを得なかったのは事実だ。というのも、登場したマローニ氏は声もかなりかすれており、以前の攻撃的な口調からすればかなりゆっくりな話し方だったからだ。その時に比べれば、今回のマローニ氏は、遙かに回復しているのが傍目にも見て取れた。口調こそ以前に比べればゆっくりしたものだったが、声もしっかり出ていて、受け答えなどにも問題がないという印象を受けた。そうした意味では、マローニ氏は入院前までとは言えないものの、かなり回復しているという印象を聴衆に与えることに成功したのではないだろうか。

 Intelは、この復活したマローニ氏の重み付けを変えていないどころか、従来よりも重要なポジションにつけることをすでに決定している。マローニ氏は、現職(主席副社長 兼 インテル・アーキテクチャー事業本部 本部長)のまま、中国法人の会長にも就任させることをすでに発表している。

 現在半導体企業は、中国でのビジネスを最重要視しており、Intelに限らず、AMDも中国政府との折衝などに有利なように重要な人材を送り込んでいる。PC業界にとってまだまだ成長の余地がある中国市場を任されたことで、再びマローニ氏がIntelの次期CEO候補として浮上してきたことは間違いないと言える。その意味で、今回の基調講演にマローニ氏が登壇し、復活を印象づけたことはIntelにとっても大きな意味があると言えるだろう。


●Medfieldを搭載したスマートフォンやタブレットは6~9カ月の間に出荷

 今回の基調講演で、マローニ氏はクライアント向けの分野では主に3つのことについて話をした。それがネットブック、タブレット、そしてノートブックPCだ。

 ネットブック向けプロセッサに関しては32nmプロセスルールで製造されるCedar Trail、タブレット向けプロセッサに関してはAtom Z670+SM35 Express(Oak Trail)に関する説明を行なった。Cedar Trailに関しては、32nmプロセスルールへと移行することでより低消費電力を実現し、かつグラフィックス周りの機能が改善されることが強調され、4月に発表したOak Trailに関しては、OSがWindowsやAndroidから選択でき、すでに多くのOEMメーカーを獲得したことを強調した。マローニ氏はOak Trailを搭載したタブレットを取り出し、Windows 7とAndroidをブートローダーで切り換えて起動することができる様子をデモした。

 さらに、Intelが来年の初頭に出荷することを計画している32nmプロセスルールで製造されるMedfield(メッドフィールド、開発コードネーム)を紹介し、「Medfieldを搭載したスマートフォンやタブレットは、6~9カ月の間に市場に出回ることになるだろう」とのべ、現在OEMメーカーとともに搭載製品を開発中であると説明した。

 Atomのプロセスルールを前倒ししていく戦略についても触れ、「Intelはムーアの法則をスマートフォンやタブレットに持ち込む」と述べ、より強力なプロセスルール戦略を武器にしてスマートフォンやタブレット市場で戦っていくという姿勢を明らかにした。

今年の後半に投入される予定のCedar Trailの特徴4月に発表されたAtom Z670+SM35 Express(Oak Trail)では、すでに多くのOEM/ODMメーカーを獲得ブートローダーを利用して、AndroidとWindows 7を切り換えて利用できる
Medfieldは6~9カ月の間に搭載のスマートフォンやタブレットが出荷されるマローニ氏が手に持つのがMedfieldベースのスマートフォンAtomプロセッサのプロセスルール投入は加速していく
22nmプロセスルールでは3Dトランジスタが導入され、さらなる消費電力の低減が実現される22nmプロセスルールで製造されるIvy Bridgeのダイ写真

●ノートPCを再定義する“Ultrabook”構想を明らかに、ノートPCはよりスマートに

 続いてマローニ氏は、Intelの本業とも言えるPC向けのプロセッサに関しての話をした。マローニ氏は「PC市場は依然として成長を続けている。世界の人口でみれば、10億人はすでにPCを持っているが、持っていない人達が60億人近くおり、そのうち35億人はPCは欲しいけど購入するのが難しい層だ」と述べ、世界規模で考えればまだまだPCの潜在市場は存在していると指摘し、より低価格で魅力的なPCを作れば、まだまだ発展途上国などの市場で成長できると述べた。

 そして、マローニ氏はIntelが2003年のCentrino Mobile Technologyで起こしたような“革命”を起こすためには、「これからは新しい考え方でノートブックPCを作らなければダメだ。我々は業界に対してUltrabookと呼ばれるビジョンを提案したい」と述べ、より魅力的なコンシューマ向けのノートブックPCに、業界を挙げて取り組む必要があると聴衆に語りかけた。

 マローニ氏によればUltrabook構想は、これまでにないほど薄く、長時間のバッテリ駆動が可能で、応答性が圧倒的に優れ、より高次元のビジュアル体験ができ、高いセキュリティを確保したノートブックPCのことだという。それを実現する技術として、マローニ氏はIntel SmartConnect Technology、Intel RapidStart Technologyという2つの技術を紹介した。前者は、レジューム後にネット回線に接続するとすぐにメールやTwitterなどのSNSに接続しデータをとってくる機能で、後者はハイバネーションなどの復活を従来よりも高速にする技術だ。実際にマローニ氏のデモでは、ハイバネーションしている状態から5秒で復帰する様子などがデモされた。

 マローニ氏は「Ultrabook構想に準拠したPCは、2012年の末にはコンシューマ市場の40%がUltrabookになるだろう」と述べ、IntelとしてこのUltrabook構想を強力に推し進め、ノートPCの魅力を増すことで、市場の底上げを図りたいという意向を示した。

PCにはまだまだ潜在的な市場が存在しており、これからも成長が可能。ただし低価格は必須PCの次のステップは、ノートPCの再定義が必要になるUltrabook構想により、これまでにないほど薄く、長時間のバッテリー駆動が可能で、応答性が圧倒的に優れ、より高次元のビジュアル体験ができ、高いセキュリティを確保したノートブックPCが実現する
Ultrabookを実現するためのIntel SmartConnect Technology、Intel RapidStart Technologyという2つのテクノロジーIntel RapidStart Technologyを利用すると、わずか5~6秒でハイバネーションから復帰できる

●Haswell世代では15W以下のTDPがメインストリームに

 引き続きマローニ氏はIntelが2012年に投入する予定の次世代プロセッサのIvy Bridge(アイビーブリッジ)についての説明を行った。Ivy Bridgeでは最先端の22nmプロセスルールを利用して製造されるため消費電力がさがるなどが説明された。マローニ氏によればIvy Bridgeの詳細は、9月にサンフランシスコで行われるIntel Developer Forumで明らかにされるとのことだった。

 マローニ氏によれば、Ivy BridgeはUltrabookを実現するための非常に重要な要素の1つであるという。Ultrabookはまず現在Intelが市場で販売している第2世代Coreプロセッサ・ファミリー(開発コードネーム:Sandy Bridge)で実現される。その第1弾の製品は今年の後半に続々と登場することになるという。そしてその最初の例として紹介されたのが、ASUSTeKのUXシリーズ(別記事参照)で、最薄部3mm~最厚部17mmの薄さを実現している。ステージにはASUSのジョニー・シー会長が呼ばれ「ノートPCがより薄くなることは大歓迎で、大きな可能性を秘めていると思う」と述べ、IntelのUltrabook構想へと賛意を示した。

 そしてUltrabook構想はIvy Bridgeで第2段階を迎え、2013年にIntelがIvy Bridgeの後継として計画しているHaswell(ハスウェル、開発コードネーム)世代において、さらなる進化が見込まれるという。マローニ氏は「2013年の始めに投入するHaswellでは、ノートブックPCのデザインポイントは現在の35Wから半分以下になる15Wがメインストリームになる」と述べ、先日Intelがアナリスト向け説明会で発表した15W以下の熱設計消費電力が、Haswell世代ではメインストリームになると明らかにした。

 これにより、ノートブックPCベンダーは、より薄いノートPCを低コストで製造することが可能になるため、2013年にはノートブックPCの大多数がUltrabookになっていてもおかしくないことになる。そうした意味で、このことはノートブックPCユーザーにとっては非常に大きな意味があると言えるのではないだろうか。

2012年に投入されるIvy Bridgeの特徴Sandy BridgeとIvy BridgeはUltrabookを実現する第1、第2段階ASUSのジョニー・シー会長(左)が手に持つのがUltrabook構想に準拠したASUSのUXシリーズ
現在のSandy Bridge世代などでは、メインストリームのノートブックPCは35W TDPのプロセッサを採用しているがHaswell世代では15W以下のTDPがメインストリームになるHaswellではさまざまな点が改善され、より理想のUltrabookを製造することができるようになる

(2011年 6月 1日)

[Reported by 笠原 一輝]