nano tech 2011は、東京ビッグサイトの東4~6ホールと会議棟を利用して開催された。ナノバイオ Expo 2011やプリンタブルエレクトロニクス 2011なども併催されている |
会場:東京ビッグサイト
会期:2月16日~18日
nano tech 2011は、ナノテクノロジーに関する総合展示会/技術会議であり、今回でちょうど10回目の開催となる。今年は、20カ国/地域、638企業/団体が出展し、3日間の合計来場者は46,000人を超えるという、ナノテクノロジー専門展示会としては、世界最大規模を誇る。
ナノテクノロジーとは、ナノメートル(1mの10億分の1)オーダーの構造(結晶の大きさや膜厚、粒子の直径など)を持つ物質の創製、およびそれらの物質を組み合わせて、デバイスやマイクロマシンなどを創製する技術の総称だ。物質をナノメートルオーダーで制御することによって、新たな性質が発現したり、特性が向上することがあるので、ITだけでなく、さまざまな分野での応用が期待されている。
nano tech 2011では、ナノテクノロジーを利用したデバイスや研究開発、超微細加工のための機器など、さまざまな展示が行なわれていたが、ここではその中から、本誌読者の関心が高いと思われるIT関連の話題を取り上げる。
●HDD用超高記録密度媒体などを展示していたNEDONEDOブースの外観。全ブースの中で最大のブース面積を誇る |
今回のnano tech 2011で、最大のブース面積を誇っていたのが、NEDOブースだ。NEDOは、新エネルギー・産業技術総合開発機構の略で、エネルギー/地球問題の解決と産業技術の競争力強化を目指すために作られた独立行政法人である。
NEDOブースには、40近くの展示が行なわれていたが、その中でも注目したいのが、HDD用超高記録密度媒体に関する展示だ。HDDの面記録密度は年々向上を続けており、最新製品では650Gbit/平方インチ程度まで到達している。しかし、現行のヘッドと記録媒体では1Tbit/平方インチ程度が限界とされており、このままではHDDの大容量化もあと1.5倍程度で限界となってしまう。
その限界を超えるための技術がいくつか提案されているが、その1つが、媒体に微細で規則的なパターンを形成し、そのパターンにデータを記録するという手法だ。一般にビットパターンドメディアなどと呼ばれているが、NEDOは、金属ガラス薄膜のインプリント加工を利用することで、直径12nmのナノホールアレイを簡便に作製できるプロセスを確立した。ガラス薄膜に直径12nmのナノホールアレイを作製した場合、その面記録密度は1Tbit/平方インチ相当となる。この手法は、インプリント加工によってビットパターンを形成できるため、量産性に優れていることが利点だ。今年度中に、2Tbit/平方インチの実現が目標となっているが、その目処はすでに立っているとのことだ。
ナノシリコンを利用した非振動型小型高機能スピーカーも面白い。小型スピーカーの代表である圧電スピーカーは、圧電素子を振動させて音波を発生するが、このスピーカーは金属薄膜ヒーターによって空気を加熱し、空気層を瞬時に膨張/収縮させることで、音波を発生させるというもので、振動板がない。そのため、5×5×0.4mmという超小型化が可能で、デジタル駆動への適応性も優れている。高音の再生は得意で、100KHzを超えるような超音波領域まで再生が可能だが、1KHz以下の低周波領域での出力が低下することが課題だ。
NEDOが開発した非振動型小型高機能スピーカーの解説。機械的振動部分がなく、空気層を瞬時に膨張収縮させることで、音を出す仕組みだ | ヒーターでナノシリコンを加熱し、空気層を膨張収縮することで、音波を発生する |
試作した小型高機能スピーカー。超音波エミッタも試作している | 小型高機能スピーカーからの再生音をデモしているところ |
電池関連では、CNT(超極細炭素繊維)を利用することで、出力密度とエネルギー密度を高めたリチウムイオンキャパシタや有機ラジカルポリマー採用薄型電池に関する展示が行なわれていた。
また、タブレット端末やスマートフォンなどの液晶やタッチパネルを搭載した製品の需要増加を見越し、新透明電極材料の開発に関する展示にも注目が集まっていた。現在、液晶やタッチパネルなどに用いられる透明電極としては、主にITO(酸化インジウムスズ)が使われているが、ITOはレアメタルであるインジウムを使っているため、代替材料が望まれていた。
NEDOブースでは、ITOに代わりZnO(酸化亜鉛)透明電極を利用した、液晶ディスプレイが展示されていた。ZnOは、ITOよりも可視光の透過率が高いため、より明るく鮮やかな液晶ディスプレイを実現できる。その他、小型振動発電デバイスを利用した電池レス無線センサーモジュールや、次世代半導体GaNを利用したFETの試作、レアメタルを使わない新しい熱電材料による熱電発電モジュール、トンネル効果を利用したナノギャップ不揮発性メモリ、次世代トランジスタとして期待されているSiナノワイヤトランジスタ、ベリリウム銅の特性を超える電気接点材料など、興味深い最新技術が多数展示されていた。
【動画】電池レス無線センサーモジュールに搭載されている振動発電デバイスのデモ。センサーモジュールを置いている台が微妙に振動しているのだが、その振動による電力で、手前のLEDが点滅する |
【動画】GaN FETを利用したインバータ回路によって交流モーターを駆動するデモ |
●グラフェンを利用した透明電極材料などを展示した産総研
産総研ブースの外観。NEDOの次にブース面積が広かった |
産総研(産業技術総合研究所)も、大きなブースで出展していた。産総研も、NEDOと同じく独立行政法人であり、産業技術の幅広い分野におけるさまざまな技術開発を総合的に行なっている、日本最大級の研究機関である。
産総研ブースでも、NEDOと同様に、ITOに代わる透明電極材料に関する展示が行なわれていたが、NEDOではZnOを推していたのに対し、産総研では、炭素から構成されるグラフェンを推していた。炭素は身の回りに多量にある元素だが、これまでのグラフェンの合成法である熱CVD法では、1,000℃の加熱が必要であり、多量の工業生産には向いていなかった。産総研が開発したマイクロ波プラズマCVD技術では、300~400℃という低温での合成が可能になり、工業生産にも適している。グラフェンによる電容量型タッチパネルを試作したところ、正常な動作を確認したという。
産総研が開発したグラフェンの大量合成技術に関する解説。グラフェンは、炭素から構成されており、透明電極材料としての利用が期待されている | グラフェンを利用した静電容量型タッチパネルの試作品 |
世界最大の1インチ単結晶ダイヤモンドウェハの作製と、そのウェハを利用したパワーショットキーダイオードに関する展示も興味深かった。ダイヤモンドも、シリコンと同じく、半導体材料として利用できる性質を持つのだが、大きな単結晶ウェハの作製が難しいことがネックであった。産総研では、ウェハにイオン注入することで、ウェハをコピーするダイレクトウェア化と、およびウェハ同士を接合する技術を開発し、世界で初めて1インチ単結晶ウェハの作製に成功した。
さらに、そのウェハを利用して、250℃で動作するパワーショットキーダイオードを試作した。ダイヤモンドは、熱伝導率が最も高く、高温でも安定なため、200~250℃という高温でも冷却せずに動作する、究極の省エネパワーデバイスの実現が可能だという。
産総研が開発した1インチサイズのダイヤモンドウェハとそのパワーデバイス応用に関する解説 | 左が種結晶から成長したダイヤモンド。右がカットしてウェハにしたもの |
左上が天然のダイヤモンドで、右上が高圧合成ダイヤモンド。下がそれから成長させたダイヤモンドだ | 左が4つのダイヤモンドウェハを接合して製作した1インチ大の単結晶ダイヤモンドウェハ。右がそのウェハを利用して作られパワーショットキーダイオード |
また、エバネッセント光の干渉を利用する高効率LEDに関する展示も行なわれていた。エバネッセント光は、全反射に伴って発生する光で、伝播せず、その場にとどまる光だが、エバネッセント光同士が干渉することで、空気を伝播する光に変換される現象を発見したという。この革新的な光取出し技術では、従来のLEDよりも格段に高い効率で光を取り出せるという。
新しいメカニズムによる光取り出し技術を利用した高効率LEDに関する解説 | 試作した高効率LED |
●東芝は世界最小64Gbitフラッシュメモリやナノワイヤトランジスタなど
東芝ブースの外観。東芝はnano techの常連であり、毎年ブースを出している |
東芝は、nano techの常連であり、毎年出展を行なっている。中でも興味深かったのは、24nmプロセスルールで製造された64Gbitフラッシュメモリである。24nmという、世界最先端のプロセスルールで製造することで、世界最小のチップ面積を実現している。
さらに、1パッケージに最大16チップを積層可能なので、最大128GBの容量を1パッケージで実現できる。10年前の2000年時点のSDカードの最大容量は32MBであったが、半導体技術の進化によって、2010年にはその2,000倍の64GBの容量を同じサイズのSDXCカードに集積できるようになった。
最先端工場を瞬間的な電圧低下から守る超電導電力貯蔵装置に関する展示も行なわれていた。
超電導電力貯蔵装置は、超電導体で作られたコイルに電流を流し、磁力の形でエネルギーを保持する仕組みである。現在はNbTi系の超電導導体を利用しているが、次世代システムでは、イットリウム系高温超電導薄膜を利用することで、さらなる小型化と省力化を実現できるという。
最先端工場を瞬時電圧低下から守る超電導電力貯蔵装置に関する解説 | 手前が現在使われているNbTi系超電導導体、奥が次世代のイットリウム系超電導薄膜導体 | 次世代のイットリウム系超電導薄膜導体を使った超電導コイル。現行の物に比べて小型化を実現 |
東芝が開発した急速充電が可能で、サイクル寿命も6,000回と長い、二次電池SCiBも展示されていた。今回展示されていたSCiBは、大型の20Aセルで、車載用や定置用として使われるものだ。
また、次世代トランジスタとして期待されているナノワイヤトランジスタや、2Tbit/平方インチ級の大容量HDD用の再生ヘッドとして有望視されているスピントルクデバイス、高耐圧SiCダイオードを搭載した高効率鉄道車両駆動インバータなどに関する展示も行なわれていた。
●新開発の透明導電材料を展示していた富士フイルム
富士フイルムブースの外観 |
富士フイルムのブースでは、nanotech Gardenというテーマで、いくつかのナノテクノロジーが出展されていたが、その中でも興味深かったのが、透明導電材料に関する展示だ。
ITOの代替となる透明導電材料は、NEDOや産総研でも展示されており、今回のnano tech 2011の注目トピックの1つといえるだろう。富士フイルムが開発した透明導電材料は、詳しい組成は秘密とのことだが、有機材料であるフォトポリマーに、無機材料である金属ナノ粒子を混ぜた、ハイブリッド材料となっていることが特徴だ。パターニング用レジスト材料が不要で、ITOに比べて透明性が高く、屈曲性や歪性も高いことが利点だ。ブースでは、その屈曲性の高さを活かした半球状の3Dタッチセンサーや静電容量式タッチパネルが展示されていた。
富士フイルムが開発中の透明導電材料に関する解説。透明導電材料は、タッチパネルなどに使われるため、需要が増大している | 透明導電材料としては、ITOが一般的に使われているが、富士フイルムが開発中の透明導電材料は、ITOよりも透明性が高く、屈曲性と歪性も高いことが利点だ |
新開発の透明導電材料を使った3Dタッチセンサー。屈曲性の高さを活かしている | 新開発の透明導電材料を使った静電容量式のタッチパネル |
●キヤノンの高級レンズに用いられている低反射技術SWC
NBCIブースに展示されていたSWCに関する解説 |
NBCI(ナノテクノロジービジネス推進協議会)のブースでは、キヤノンが開発した低反射技術SWC(Sub Wavelength Structure Coating)に関する展示が行なわれていた。SWCとは、光の波長以下のナノ構造を利用した反射防止膜で、波長以下の錐形状の微細構造をレンズ面に形成することで、連続的な屈折率変化を実現し、光の反射を大幅に抑制するというものだ。SWCは、2008年12月に初めて製品化され、その後、キヤノンの高級レンズであるLレンズでの採用が進んでいる。ブースでは、SWCと従来品との比較も行なわれており、SWCによってレンズ面の反射が大幅に抑えられていることが体感できた。
(2011年 2月 25日)
[Reported by 石井 英男]