【CES 2010】【Qualcomm編】
SmartBookの製品化や新モバイルプラットフォームのBrew MPを発表

Qualcomm CEOのPaul Jacobs氏

会期:1月7日~10日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center
   Sands Expo and Convention Center/The Venetian



 ネットワーク機器に関して幅広い製品展開を行なっているQualcomm。2009年のCOMPUTEXで提案された同社のSnapDragonを搭載したSmartBookは、LenovoやHewlett-Packard(HP)が製品化を進めるなど、PCにとってますます身近な企業になってきている。ここでは、CEOのPaul Jacobs氏による基調講演の内容を中心に、カンファレンスや同社ブースなどで得た情報を含めて紹介する。

●Brew Mobile Platformをアナウンス、搭載製品がHTCから

 Jacobs氏は講演の冒頭、「みんなに知られた会社ではないが、3Gの携帯のすべてに我が社の技術が入っている」と自社を紹介。今後は、3Gアクセスを中心にワイヤレスネットワーク接続がより重要度を増すこと、そして、それを実現するためにパートナーの存在が欠かせないことをアピール。基調講演は、同社の技術と、そのパートナーを紹介する内容となった。

 同社はCDMA接続方式を使って規格を作りあげたことで知られるが、CDMAの製品を開発した段階で会話やテキストメッセージ以上のことが行なわれると予想し、TCP/IPを組み込んでおいたことが、今日の携帯電話によるデータ通信、スマートフォンの反映に役に立ったと紹介。携帯電話を並べて壁を作ると、その長さは万里の長城を超えるほどの台数になっているという。現在、世界の3Gユーザは9億人、3G以外のワイヤレス加入者も含めると40億人という調査結果も紹介。携帯電話のプラットフォームは、おそらく人類最大のプラットフォームになるだろう、という見込みをたてている。

 そして、この携帯電話のプラットフォームにおいて、さらにコンピューティングの能力が求められる今日、ハードウェアとソフトウェアのインテグレーションが、ユーザー体験にも大きな影響を与えると問題を提示。このインテグレーションのサポートとして、QualcommはAndroid、Linux、Symbian OS、Windows Mobileなど多くのOSのサポートを行なってきた。この基調講演では、これまでサポートしてきたOSに加え、Chrome OSのサポートを開始することを発表。こうした多数のOSサポートが産業界に貢献するものと考えているとした。

 さらに、Qualcommが提供するOSとして、Brew Mobile Platform(Brew MP)も発表。過去、Brewと呼ばれるアプリケーションプラットフォームを提供してきたが、Brew MPは、これをスマートフォンをターゲットにしたOSに昇華させたものと考えていいものだ。Brewのようにアプリケーションの追加や、アプリケーションストアという形態が取れることはもちろん、JavaやFlashのサポートという現在のトレンドに合った新たなアプリケーションサポートなども行なわれている。

 このBrew MPのパートナーとして壇上に登場したのがHTC CEOのPeter Chou氏で、Brew MPベースのスマートフォンとして「HTC Smart」を、今春に提供することを紹介。このHTC Smartは、HTC Senseという「本能的に使えるようにした設計」(Chou氏)を行っているのが特徴で、誰とコミュニケーションするのかに集中できる端末としてアピールした。

 このほか、AT&TもBrew MPのパートナーに加わっていることが紹介されている。

Qualcommプレスカンファレンスで紹介されたBrew Mobile Platformの説明スライド基調講演でHTC Smartを紹介する、HTC CEOのPeter Chou氏

●LenovoとHPがSmartBookの製品化を計画

 Jacobs氏の次の話題は新しいハードウェアプラットフォームに関するものである。「あくまで書籍を買っている感覚であって、ワイヤレスのデバイスだと意識して使ってない」というKindleを例に挙げ、人と人が日常的にネットワーク接続する今日には、そのための新しいプラットフォームが必要と考えているという。そのための製品がSnapDragonである。

 SnapDragonは1GHzで動作するARMベースのScopionプロセッサ、600MHz動作のDSP、ワイヤレスデバイスによるプラットフォームで、現在15メーカーが、40種類のデザインに携わっているという。このSnapDragonを使った新しいカテゴリのデバイスがSmartBookである。

 SmartBookについては、昨年のCOMPUTEXでコンセプトが示されていたが、このCESでLenovoが「Skylight」の名で製品化を表明。4月にも発売されることになっている。この製品については、CESの開幕前々日に行なわれたUnveiledイベントのレポートや、元麻布氏によるレポートを参照されたい。

 基調講演ではLenovo CEOのYuanqing Yang氏も登壇。「より軽く、いつでもオンである、かっこいいもの」という伝統的なノートブックでは満たせないニーズを満たすものとSnapDragonプラットフォームを評し、今後大きなビジネスになってくると期待を寄せた。

 SnapDragonを採用したSmartBookを検討しているもう1つのメーカーがHPである。こちらは現状ではテクノロジデモに留まっており、製品化はこれから検討するようだが、OSにAndroidを採用している。

 HPのSmartBookについては、CESの併設イベントであるShowStoppersで実機の展示も行なわれた。あくまで技術デモということでストレージ容量などのスペックなどは教えてもらえなかったが、担当者はSnapDragonのアドバンテージとして「バッテリ駆動時間。それと、レンダリング性能が高いのでリッチなユーザーインターフェイスを提供できる」という2点を挙げ、後者の例としてCoverFlow風のフォトビューワなどをデモンストレーションしている。

 このほか、プレスカンファレンスの場では、SnapDragonの簡単なロードマップも紹介された。こちらによると、現在65nmで製造されているScopionプロセッサは、45nmへシュリンクした1.3GHz動作版を開発中。その次のステップとしては1.5GHz動作でデュアルコア化する予定という。このデュアルコア版も年内にリリースしたいとしている。

プレスカンファレンスで示されたSnapDragonの特徴をまとめたスライドUnveiledイベントで展示されたLenovoの「Skylight」Skylightに搭載されたLunixベースの独自OS。ガジェット風にさまざまなコンテンツを表示させられる
右側に情報をツリー表示し、左側に大きくコンテンツを表示するモードも備えるShowStoppersで展示されたHPのSnapDragon採用機。OSにAndroidを使っているのが特徴タッチパネル周辺のボタンはAndroid用に専用ボタンを装備している
本体右側にはSDカードスロットを装備本体左側はUSB端子やヘッドホン出力などCoverFlow風のフォトビューワをデモ。タッチパネルになっているので指で操作している

●ワイヤレスネットワークが入り込む生活の場

 Jacobs氏は、このSnapDragonによってコンピューティングのコストが下がることで、世界のさまざまな分野へワイヤレスを提供していくことができるとし、ヘルスケア、教育、ワイヤレスによる漁業サポートなど、さまざまなプロジェクトを紹介した。

 その1つとして、携帯電話を使用するユーザーは、通話以上に、液晶画面を見て操作をしている時間のほうが長いという調査結果に基づく技術紹介が行なわれた。ここで問題になるのが液晶ディスプレイの消費電力である。この問題の解決策として紹介されたのが、Mirasolである。蝶の羽根の原理を用いて発色させるこのディスプレイは、屋内外を問わず省電力で映像を見ることができるのが売りだ。

 このMirasolのデモでは、Wikipediaや動画をカラーで楽しめることを紹介。カラー表示によって、電子書籍リーダー、ビデオによる宣伝広告などへの活用を検討しており、今年の終わりには商業化されるとしている。

 また、ホームネットワークにおいては、ワイヤレスLANの高速化技術である「N-Stream」を紹介。D-Linkの「Rush」は、4x4 MIMOを用いて600Mbpsの帯域を持つワイヤレスLANアクセスポイントで、これを用いて3ストリームのHDムービーを配信するデモを披露した。これは第2四半期にも製品化を予定しているという。

【動画】Mirasolを使った動画再生のデモ

MirasolでWikipediaを閲覧しているところ。e-Inkと違ってカラー表示が可能な省電力ディスプレイであることから、電子書籍リーダなどへの商業展開を今年中にもスタートさせるとしているD-LinkのRushは4x4 MIMOにより最大600Mbps転送が可能なワイヤレスLANアクセスポイント。IEEE 802.11n/b/gとの後方互換性も持つ基調講演では、4x4 MIMOを使って、3つのスクリーンにHD映像をワイヤレス転送するデモが行なわれた

●Qualcommブースではワイヤレス給電のデモなど

 基調講演では触れられなかったが、Qualcommブースではワイヤレス給電のデモも行なわれていた。磁界共鳴型のワイヤレス給電システムで、最大6mAを供給可能。複数デバイスに同時に給電を行なえるほか、デバイスごとにIDを割り振ることで、プライオリティを付けた電力給電も可能という。

 このワイヤレス給電システムの実用事例として、自動車のダッシュボードなどに給電システムを埋め込んでおき、そこにiPhoneを置いて充電する、といったデモも行なわれている。熱を発生させずに利用できる磁界共鳴型であることから、幅広い応用が可能であることをアピールした。

 その自動車のデモ機では、Qualcommのプロセッサを使ったMMIシステムも展示。3G接続によってGoogle Earthのデータを活用したカーナビを実現している。また、Qualcommが展開するFlo TVを後部座席で視聴するシステムなども提案した。

iPhoneに取り付けて使用するワイヤレス給電のジャケット自動車に埋め込まれたMMIシステムで、Google Earthを使ったカーナビが動作している

【動画】時分割により複数デバイスでの同時利用が可能。LEDの点滅により、交互に給電されていることが分かる

(2010年 1月 13日)

[Reported by 多和田 新也]