イベントレポート

【詳報】ARM、新CPU「Cortex A73」とGPU「Mali-G71」を発表

~Core i5+GeForce 940Mよりも速くて低消費電力とアピール

ARM上級副社長兼CCOのレネイ・ハス氏

 CPU/GPUなどのIPを提供する英ARMは30日(台湾時間)、COMPUTEX TAIPEIの会場で記者会見を開催し、OEM SoCベンダーに提供する新しいIPスイートとなるCPUの「Cortex-A73」、GPUの「Mali-G71」を発表した。

 Cortex-A73は64bit ARM ISAとなるARMv8のCPU IPの最新版で、2015年に発表され今年(2016年)の製品に採用され始めている「Cortex-A72」の改良版となる。

 GPUのMali-G71は、従来のARM GPU IPのハイエンドだった「Mali-T880」の後継となる。Mali-G71は、Mali-T880では16個だったシェーダーコアが倍の32個に強化され、50%のグラフィックス性能の向上、20%の電力効率の改善、1平方mmあたり40%の性能向上を実現しており、ARMによれば現在市場にあるノートPC用単体GPUのミッドレンジ製品(具体的にはIntel Core i5+NVIDIA GeForce 940Mだという)を性能で上回ることが可能だとアピールしている

Core i5とGeForce 940Mの組み合わせよりも高い性能を発揮するMali-G71

 記者会見の冒頭で壇上に立ったのは、ARM上級副社長兼CCO(最高コマーシャル責任者)のレネイ・ハス氏。ハス氏は、以前はNVIDIAに勤務しており、NVIDIA時代も副社長としてノートブックPC向けのGPUのマーケティングなどを担当していた業界のベテランだ。ハス氏は「以前私もコンピュータ業界の関係者としてこのCOMPUTEXに来ていた。その時から10年が経ち、今やCOMPUTEXはデスクトップの時代からモバイルの時代に移行している。スマートフォンは30億台にもなり、1人が2台も3台も持っている時代で、今後VR/AR、グラフィックス、モバイルゲーミング、4Kビデオなどどんどんとユーセージが拡大していくだろう」と、スマートフォンの市場/用途がまだまだ広がり続けていることを説明した。

スマートフォンの普及でコンピューティングがより手軽になった
スマートフォンは今やほとんどのユーザーが持つようになっている

 ハス氏の後を受けて登壇したのがARM CPU事業部マーケティング/戦略担当副社長のナンダン・ナンプリー氏。ナンプリー氏は、Mali-G71およびCortex-A57に関しての技術的な説明を行なった。

 同氏は「我が社のGPU IPに基づいた製品は、2015年に全世界で7億5千万ユニットが出荷されている。我が社がGPU IPのビジネスを開始してから数年しか経っていないのにここまで来ることができた」と、ARMのGPU IPビジネスが急速に成長していることを強調した。ナンプリー氏によれば、デジタルテレビの75%、タブレットの50%、スマートフォンの40%が同社のGPU IPに基づいたSoCを採用しているとのことで、今やARMはGPU市場でトップシェアになりつつあるのだ。

ARM CPU事業部マーケティング/戦略担当副社長 ナンダン・ナンプリー氏
Maliのデモ動画
7億5千万個のMali GPUが2015年に出荷された

 また、「2010年に最初のデザインとなる開発コードネームUtgardをMali-T400として発表し、その後その後継製品を発表してきた。今回開発コードネーム「Bifrost」(バイファースト:ノルウェー語の読み)に基づく製品をMali-G71として発表したい」と、Mali-G71を正式に発表した。

 ナンプリー氏によれば、Mali-G71には3つの特徴がある。1つ目は新しい命令セットを採用し、より簡素なデザインにするなど完全に新しい設計のシェーダーユニットを採用していることで、電力効率が前世代に比べて大幅に改善されている。2つ目はCPU、GPUが同じメモリアドレスを共有できるなどの新しいSoC構造に対応可能なこと。3つ目としてVulkanなどの新しいAPIにも対応し、より簡単にプログラマがコーディングできる。それらにより、前世代となるMali-T880に比べて、約1.5倍の性能を実現しているのだという。

Mali-G71の開発コードネームはBifrost(バイファースト:ノルウェー語の読み)
新しいマイクロアーキテクチャ、Vulkan対応、CPU/GPUのメモリアドレス共有などが新機能
前世代のMali-T880に比較して約1.5倍の性能

 性能面についてより具体的にはMali-G71は、同じプロセスルールであれば20%の電力向上、倍のシェーダコア、同じプロセスルールであればダイの面積は40%で済み、帯域幅が20%向上する。さらに、10nmプロセスルールに対応が可能で、その場合はさらなる性能を得ることができ、非常に高い性能を実現するとしている。

 また、「現在のノートPC向けのミッドレンジの単体型GPUよりも高い性能を実現できる。しかも、消費電力は圧倒的に低い」と述べた。その単体GPUというのは、GeForce 940MとCore i5の組み合わせを示している。GeForce 940MとCore i5の組み合わせでは25Wが必要だが、Mali-G71を採用したSoCは4Wでより高い性能を実現できるという。

Mali-G71の性能
GeForce 940M+Core i5を上回る性能を発揮するが、消費電力は4Wに過ぎない

 加えて、ナンプリー氏は「Mali-G71では、4K/120Hzに対応可能で、グラフィックスパイプラインのレイテンシを4msに抑えることができ、4xMSAAにも対応することで、グラフィックスの表現力も高い」とし、Mali-G71を利用することでスマートフォンのようなモバイル機器でも、現在ハイエンドGPUが必要になっているVRのプレミアムコンテンツ再生にも十分耐えうるとした。

Mali-G71はVRにも最適である

Cortex-A73はCortex-A57に比較して倍の性能

 ついで、ナンプリー氏はCortex-A73についての説明を行なった。「スマートフォンは、2010年から現在まで45%も薄型化されている。今後もっと薄型を実現していくためにはさらなる電力効率の改善が必要だ。そのためにARMが投入するのがCortex-A73。Cortex-A73の焦点は性能より電力効率の改善にある。メモリ周りや分岐予測の改善などが行なわれている」としており、基本的にはCortex-A72の改良版だと考えていいだろう。

スマートフォンは2010年と比較すると45%も薄くなっている
Cortex-A73の特徴

 Cortex-A72と比較して、30%の性能向上で、30%の電力効率改善としており、ARMv8の最初の世代の製品となるCortex-A57に比べると倍の性能を実現しているという。ARMv7のCortex-A7に比較すると、性能では7倍近くになっているが消費電力は劇的に下がっており、電力効率の改善がこの世代の特徴である。CPU、GPU、メモリコントローラを接続するインターコネクトにはCCI-590を採用しており、SoC全体の性能を上げていくことが可能になる。

Cortex-A57と比較すると2倍の性能を実現
Cortex-A7と比較したチャート、A73は性能は上がっているが、同じ処理をさせれば消費電力は低下している
Cortex-A73とMali-G71ををCCI-550で接続するとより効率が上昇

 先にも述べたが、Cortex-A73もMali-G71も、10nm FinFETプロセスルールに対応している。プレミアム向けの製品は10nm FinFETのプロセスルールで登場することになるだろう。

 Cortex-A57、Mali-G71を採用するパートナーとしては、HiSilicon、Marvell、HUAWEI、MediaTek、Samsung Electronicsなどがいる。

ARMは他にもIPスイートを提供していく
Cortex-A73ないしはMali-G71を採用予定のパートナー各社
まとめ
記者会見の最後に行なわれた記念撮影

(笠原 一輝)