イベントレポート

最新版HoloLensで感じた新しいUIとしての可能性

 Microsoftがアメリカ サンフランシスコで開催したソフトウェア開発者向けの年次会議「Build 2016」では、兼ねてから同社が開発を進めてきたHoloLensのアプリケーション開発者向けキットの出荷がアナウンスされるなどの動きもあった。また、それに合わせて、メディアを対象にHoloLensの体験会なども披露された。本物の開発者向けの数時間に渡る長丁場の体験会を90分ほどに凝縮したもので、写真の撮影は許可されていたが、その公開は禁止されているため、この体験会の様子をここでお見せすることはできない点をご了承いただきたい。

 同様の体験イベントは昨年(2015年)のBuild 2015でも開催されている(別記事「付けた、見た、聴いた、触ったHoloLens」)。昨年に続き、約1年ぶりのHoloLensの体験となったが、ハードウェアそのものも大きく変わっていることに気が付く。実測値がないのだが、具体的には重量的なダイエットが施されていることが分かる。

 ただ、装着感としては昨年の方が良かったように思う。軽量化が原因なのか、フィット感という点が犠牲になっているように感じた。また、昨年は最初に物理的に瞳と瞳の間の距離を測り、その値をパラメーターとして個別にセットしていたようだが、今年(2016年)は、装着後、ソフトウェアを使って対話的にパーソナライズするようになっていた。そこでなんらかの誤差が発生する可能性は否定できない。

 昨年の体験会は、HoloLensで何ができるか、どのような世界観をもたらすのかといったことを体験させるものだったのに対して、今年の体験会はもっと具体的だった。HoloLensのコンセプトや機能的なことの理解が前提で、開発者が実際の開発に際して、どのようにこのデバイスを扱うと、どのようなことが起こるのか、そしてそのためのプロセスはどうなっているかを説明しようというのが趣旨となっていた。

 今回の体験会は、数十名が1つの部屋に集められて行なわれた。前回は、一部屋に1人で、各種書き割りなどのセットが配置されるという贅沢なものだったが、今回はとてもシンプルだ。何もない空間といってもいいくらいだ。だが、セットではなくリアルな人間というオブジェクトが数十人いる。それが今回の体験空間だ。

 2人に対して1人の補助が付き、あれやこれやと世話をやいてくれる。目の前にはPCのディスプレイがあり、傍らにはHoloLens。Micro USBコネクタ経由で、常に充電するように指示され、軽量化はしたものの、バッテリの問題が残っていることが分かる。どうやらこのケーブル接続は充電のためだけのようで、はなから有線によるデータ転送は考えられていないようだ。

 目の前のディスプレイでは、ゲームエンジンのUnityとVisual Studioを操作する。Unityを使って各種のパラメーターや異なるシナリオをセットし、Visual Studioで処理したものを、Wi-Fi経由でHoloLens本体に送っているようだ。HoloLens側で受信が完了するとアプリケーションが動き出し、プログラミングされたHoloLensの世界が目の前に広がる。

 今回のデモでは、リアルな空間にホログラフを投影し、その位置を認識し、自分の指先のジェスチャーでオブジェクトを動かしたり、リアルな空間中に存在するリアルなオブジェクトを、どのように認識しているのかをその表面をテクスチャで覆って見せたりしていた。

 さらに、HoloLensを装着した数十名がその場にいることを利用し、IPアドレスでグループ化された数名が、同じホログラフを見ることを体験させられた。具体的には、本人の選んだ色のアバターが自分の頭の上に浮かぶのだが、HoloLensを通して見ると、他人の頭の上にそれを確認できるといった具合だ。

 昨年は感じなかったこととして、デバイスそのものの装着感が悪く、HoloLensの筐体が動いてしまいやすいこと。また、レンズ面に投影される矩形の画面がはっきりと識別できてしまい、空間に浮かぶホロググラフ的なイメージが抑制されてしまうことが気になった。かといって、輝度を落としてしまうと矩形は目立たなくなるがコントラストが悪くなり視認性に影響を与えてしまう。会場が薄暗かったこともあり、この現象は特に目立ったように思う。

 さらに、ちょっと視線がずれてしまうと、ホログラフ自体が視野から消えてしまったり、一部が視野の外にはみ出てしまう現象も経験した。これは、瞳と瞳の距離をキャリブレーションする際の誤差のせいかもしれない。

 昨年も感じたことだが、気になるのは、リアルな風景とホログラフが重なり合う時の解像度の落差だ。ちょうど実写の映画にアニメーションのキャラクタが登場するイメージといえば分かってもらえるだろうか。それで違和感を感じないコンテンツも多いとは思うが、そうではないものもたくさんあると思う。リアルな空間にCGを重ねる際の工夫については、これからさらに対策を考える必要がありそうだ。

 華々しく新技術をお披露目した昨年と違い、開発者向けキットの発売も始まったタイミングで、より具体的で現実的な側面をデモする必要があったからか、今回の体験会は決して驚きを演出しようというようには構成されていなかった。それでも、確かに、実際のプログラミングの結果がデバイスに反映されて仮想空間が実現されるのだということが実体験として提供されたことで、開発のプロセスがどのようになっているのかが明らかになったという点を評価したい。まさにこれからアプリが作れるというリアリティがそこに感じられたのだ。

 現時点のキットが開発者の手に渡り、実際のアプリ開発が始まり、それと同時にハードウェアや開発環境にも改良が加えられていく。エンドユーザーが量販店で購入できるようになるまでは、あと数年かかるかもしれない。それでもMicrosoftが本気でこの新しいデバイスの将来を考えていることはよく分かった。

 今、Microsoftは「プラットフォームとしての会話」を新たな戦略として打ち出している。HoloLensもその一環として考えられているなら、HoloLensは言わば「見つめ合うUI」として、新たな方向性を見せるのではないだろうか。

(山田 祥平)