Clover Trail搭載Windows 8タブレットはOSと同時に登場予定
Intelの研究開発部門の研究成果を発表するイベント「Research@Intel」が、6月26日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。それに先立つ6月25日に、事業部の担当者が同社の戦略や現状などについて記者説明会を行なった。
具体的には、Windows 8タブレットへの取り組み、災害が起きた場合でも部材調達を滞りなく行なうための取り組み、中小企業向けのビジネスPC使い勝手の改善の取り組みなどについて説明がなされた。
●32nm/1.8GHzのClover Trail、22nmのBay Trailと続くIA SoCIntel モバイル・通信事業部 クリス・ウォーカー氏 |
Intelモバイル・通信事業部 クリス・ウォーカー氏は、Windowsタブレット向けプロセッサ戦略について解説した。
Intelのプロセッサと言えば、Core i7/i5/i3などのCoreプロセッサが読者にとってもおなじみの製品だろう。4月には開発コードネームIvy Bridgeで知られる第3世代Coreプロセッサのクアッドコア版が投入され、6月上旬にはデュアルコア版が追加。Ultrabookのような薄型ノートPCなどにも採用され始めている。
従来のプロセッサに比べて低消費電力になっているため、タブレットのような薄型の製品にも搭載可能になりつつある。実際、6月上旬に台北で行なわれたCOMPUTEX TAIPEIにおいても、搭載タブレットなどがいくつか展示されていた。
しかし、Coreプロセッサは元々ハイパフォーマンスなPC向けを前提にしているため、消費電力、特にバッテリ駆動時間に大きな影響を与える平均消費電力は、一般的なタブレット端末に採用されているARMアーキテクチャのSoCに比べてやや高めになっている。
具体的に、Coreプロセッサを搭載したノートPCのシステム全体の平均消費電力は7~10W程度となっており、タブレット端末に搭載されるバッテリの容量である3,000~4,000mAh程度では5~6時間程度の駆動時間という計算になり、タブレット端末としてはやや心許ない。これに対して、ARMベースのタブレットでは製品によるが3~5W程度になっており、10時間を超える駆動が可能になっている製品も少なくない。
IntelのWindowsタブレット向けロードマップ |
そうしたARMベースのタブレット対抗としてIntelが計画しているのが、開発コードネームClover Trail(クローバートレイル)で知られているAtomブランドのSoC(System On a Chip)製品だ。Clover Trailは、Menlowの開発コードネームで知られるAtom Z500シリーズ、そしてOak Trailの開発コードネームで知られる現行のIntel Atom Z670の後継製品となる製品で、現在2チップとなっているOak Trailが1チップに統合されSoCとなる。
ウォーカー氏はタブレット端末向けのロードマップを示し、2012年に32nmプロセスルールで製造され、1.8GHzのクロック周波数で動作するClover Trailを投入。2013年には製造プロセスルールを22nmに微細化した「Bay Trail」を、さらに2014年には14nmに微細化したBay Trail後継製品を投入すると説明した。ただし、いずれもロードマップが示されただけで、具体的にどのような製品になるのかに関しては言及がなかった。
Clover TrailとMedfield(スマートフォン/Androidタブレット向けAtom Z2460)との違いはという質問には「Clover Trailはタブレットに最適化した製品となっている。SoCはもちろんだが、ソフトウェアスタックも含めてだ」とし、Medfieldに比べてWindowsドライバのサポートなどに調整を加えた製品になるという見解を明らかにした。
ウォーカー氏は「現在Intelは10のOEMメーカーとClover Trailを搭載したタブレットを開発しており、すでに20ものデザインウインを獲得している」と述べた。その言葉を裏付けるように、COMPUTEX TAIPEIには、Clover Trailを搭載しているとみられるタブレットがいくつか展示されており、注目を集めていた。また、ウォーカー氏は、IntelがOEM/ODMメーカーが参考にするために試作したリファレンスデザインを公開し、厚さ9mm以下、重量は700gを切っていることなどを明らかにした。
ARM SoCのタブレットが市場にあふれている中で、IA(Intel Architecture)のSoCを搭載したタブレットを作るメリットとして、ウォーカー氏は「IAベースのWindows 8タブレットは400万を超える既存のWindowsアプリケーションをそのまま動かすことができる」と述べ、Winodws 8タブレットではMetro UI上で動作するタッチ操作を前提としたMetro Appsだけでなく、既存のWindowsアプリケーションも同時に動かすことができることがメリットだと強調した(ARMベースのWindows RTタブレットでは既存のWindowsアプリケーションを使えない)。また「既存の企業向けの管理ツールなどはすべてIAベースとなっている。そうした管理ツールもIAのWindows 8タブレットではそのまま利用できる」とした。
なお、ウォーカー氏はClover Trailを搭載したシステムの平均消費電力がどの程度であるのかなどの具体的な数値の公開はしなかったものの「Clover Trail搭載システムでは1日(All day)使うことができる」と述べた。なお、一般的に英語でAll-dayとは24時間のことを意味しておらず、実際にはワーキング時間、8~10時間など半日という意味として使われることが多いので、おそらくそれぐらい持つということを言っているのだと思われる。それでもシステムの平均消費電力としては3~5W程度という計算になるので、タブレット端末としては十分だということはできる。
ウォーカー氏によれば「Clover TrailはWindows 8をターゲットにして開発している」という。
10のOEMで20製品の開発が進んでいるという | Windows 8/RTタブレットでIAを選択する場合のメリットは、既存のWindowsアプリケーションとの互換性 |
スレート型のタブレットだけでなく、コンバーチブル型の開発も進んでいる | IntelのClover Trail搭載Windows 8タブレットのリファレンスデザイン。9mm以下と薄型で、700g以下を実現している |
●災害発生時にもサプライチェーンを寸断しないための取り組み
Intel 技術・製造事業本部担当副社長 ジャックリーン・スターム氏 |
Intel 技術・製造事業本部担当副社長 ジャックリーン・スターム氏は、災害時のサプライチェーン維持への取り組みについて説明を行なった。
日本が2011年に直面した東日本大震災では、地震そのものや津波による人的被害もさることながら、日本の産業そのものへの悪影響に関しても取り上げられることが多かった。例えば、半導体メーカーの工場が被災したことにより、自動車メーカーへのマイコンチップの供給が滞り、自動車メーカーの生産が停止する事態になったことを覚えている読者の方も少なくないだろう。
現代の産業界は、どんな産業でも水平分業があたり前になっており、すべてを1社で生産している製品の方が少なくなっている。例えば、自動車なら自動車メーカーは車体の原料である鉄を製鉄会社から購入し、マイコンに関しては半導体メーカーから、電装品は電装品メーカーから……、といったように部品供給業者からの部品供給を受けて車を組み立てて消費者に販売している。そうした供給の流れの仕組みを英語でサプライチェーンと呼んでいる。2011年の大震災で起きたことは、このサプライチェーンが被害を受けた結果、その部品が足りなくなり、最終製品を出荷することができなくなるという事態だった。
実はIntelにとっても、この東日本大震災は他人事ではなかったのだという。Intelの工場(半導体製造も、チップ組み立ても)は日本にないが、実際にはそのIntelが製造する前の工程、例えば半導体を製造する装置、さらに言えば半導体の原料と言えるウェハの多くは日本製だ。Intelのスターム氏は「我々のサプライヤーの50%は日本に集中している」と、日本が重要なサプライヤーが集中する地域であると説明した。
つまり、仮にそれらのサプライヤーのIntelへの供給が滞ればIntelの半導体製造がストップしたり、ストップしなくても製造量が著しく減少する可能性が出てくる。つまり、東日本大震災で、日本でのサプライチェーンを維持することは同社にとっても非常に重要な課題だったというのだ。
半導体の製造は、Intelだけではできず、サプライヤーからの部材の供給などがあって初めて成り立つシステム | Intelのサプライヤーが集中する国は、米国、イギリス、ドイツ、中国、台湾、韓国、日本。中でも日本の比率は50%を超えているという | Intelの半導体製造工場と組み立て工場がある国。前出のサプライヤーの国からこれらの国へと安定して供給する必要がある |
スターム氏によれば、Intelではこうした自然災害への備えを常に行なっており、自然災害が発生したときにもサプライチェーンが途切れないように、同社のサプライヤー(下請け)も含めて安全を確保し、操業が確保できるようにさまざまな取り組みを行なっているのだという。例えば、同社には危機管理のチームが3つあり、本社の危機管理チーム、ローカルの危機管理チーム、ビジネス継続を管理するチームが、それぞれの役割を持って活動していくという。具体例として東日本大震災では、本社と日本法人が協力してサプライチェーンの維持に努め、すべてのサプライヤーが2カ月半で通常操業に戻り、地震の被害による影響はすべて解消されたという。
過去にもさまざまな災害が発生し、影響を及ぼしそうになったこともあったが、早期に対応してきたという | 危機が発生すればすぐに危機管理チームが作成され、CEO直属の組織として構成されるなど素早い対応が可能になる |
スターム氏自身も、東日本大震災が発生した際には、ちょうど成田空港でアメリカへ戻る飛行機を待っていて、空港が閉鎖され飛行機が飛ばないという事態に直面したのだという。「その時にも会社としての災害管理の仕組みができあがっていたため、すぐに私の部下が私の代わりとして危機管理に当たった。どんなリスクがあるかを評価し、どんな事態に直面しても対処できるように想定しておくことが重要だ」と説明した。
スターム氏によれば東日本大震災で得た教訓として「直接のサプライヤーだけでなく、我々のサプライヤーに原料などを供給するサブサプライヤーが被害を受けるということもあった。また、我々は供給先を複数にしているつもりでも、実はその複数のサプライヤーに原料を供給しているのは1つのサプライヤーだったということもあった」と、直接の取引先だけでなく、さらにその先も含めて、サプライチェーン全体で流れを把握しておくことが重要だと述べた。
質疑応答では日本で地震や原発事故が発生したことによりリスクが明らかになったことで、他の地域にサプライヤーを変えるということはしないのかという質問も出たが、スターム氏は「日本のサプライヤーほど優秀で信頼に値する部材を供給できる地域はほかにはない。このため、我々としてはサプライヤーに対して、東日本だけでなく九州など複数の地域に工場を設けるなどの措置をお願いしている」と説明した。
東日本大震災でのIntelの対処の時間軸。2カ月半ですべてのサプライヤーが通常操業に戻り、9月には震災の影響を解消した | 直接の下請けだけなく、下請けの下請けも東日本に集中していたことがわかったという。そこで、これらのサプライヤーに対して九州にも拠点を持つようになどとお願いしているという |
●中小企業向け管理ツール提供、OEMメーカーが容易にカスタマイズ可能に
このほか、Intelが企業向けPCのソリューションとして提案しているvProとSBA(Small Business Advantage)、教育向けの取り組み、ノートPCのフォームファクター改善の取り組みなどに関しての説明が行なわれた。
その中でも、日本ではあまり取り上げられていないSBAが紹介されていたので、紹介しておきたい。SBAとは、Intelが中小企業向けPCに用意しているソリューションで、専任のIT管理者がいないような企業に納入されるPCの管理を簡単にするためのものだ。SBAは、Intel B75などのビジネス向けのチップセットとCore i3以上のプロセッサの組み合わせに向けたソフトウェアスイートで、vProを導入するほど大規模な企業ではないのだが、もっと容易に管理したいという企業に向けたものとなっている。SBAは4月のIDF北京で発表され、当初は第2世代Coreプロセッサ(Sandy Bridge)に対応していたが、現在第3世代にも対応している。
SBAでは、OEMメーカーやホワイトボックスのPCを製造する中小のチャネル事業者などにツールが提供され、データの自動バックアップ、アンチウィルスソフトなどアプリケーションの管理、省電力管理などの機能などを、インストールされるWindowsに追加できる。ウィザード形式のツールを利用すると、OEMメーカーやホワイトボックスPCメーカーがどれを有効にしたり、メニューの構造を変えたりといったことが簡単にできる。これにより納入先の中小企業のニーズに合わせたカスタマイズが容易になるという。
Intelによれば、SBAはDell、Lenovo、Acer、ASUS、富士通といった大規模なOEMメーカーのほか、中小のホワイトボックスメーカーからも提供される予定。このSBAを使うことで中小企業のビジネスPC管理を容易にできるため、OEMメーカーやホワイトボックスメーカーにとっては他社との差別化に利用可能だと説明した。
中小企業でのPC管理を容易にするSBAのツール | OEMメーカーやホワイトボックスPCメーカーが利用するウィザード形式の設定ツール。ここではツールにメーカーロゴを入れる設定を行なっている |
(2012年 6月 26日)
[Reported by 笠原 一輝]