【IDF 2010レポート】
すべてのデバイスを1つのプラットフォームで実現するための支援策を紹介

Senior Vice President, General Manager Software and Services GroupのRenee James氏

会期:4月13日~14日
会場:中国国家会議センター(China National Convention Center)



 4月12日に開幕したIntel Developer Forum 2010 Beijingの初日基調講演は、ダディ・パルムッター氏によるプラットフォームに関する基調講演に続き、ソフトウェア&サービスグループを担当する上級副社長であるリネイ・ジェームス氏が登壇した。ジェームス氏は肩書きからも分かるとおりソフトウェアやサービスに関連した事業を担当しており、ソフトウェアデベロッパに向けたメッセージが色濃い内容となる。

 まず語られたのは、Intelのプラットフォームをどう使うのか、そしてどのような生活の変化がもたらされることをIntelが目指しているか、についてである。Atomプロセッサを用いたネットブックが普及したが、Atom PCは'81年のIBM PCに換算すると384台分の性能を持っているという。こうした安価なPCが高い性能を持つことによって、それまでになかったサービスが実現可能になり、ユーザーが期待する得られる体験も変わってくるとする。

 しかしユーザーは、そうした体験をコンピューティングのタスクとしては捉えない。だからこそ、そうした体験は生活の一部に組み込まれる、コンピュータを使うということを意識することなく、いろんなことがどこでもできるシームレスコンピューティングが必要であるとした。

 最終的にはサーバーからTVやハンドセットを含むすべてのデバイス上の、アプリケーションやデータが、クラウドを通じてつながるとジェームス氏は語る。このシームレスコンピューティングにおいては、クラウドへの収斂が進むとしている。

 こうした環境が実現したときに、どういった世界が訪れるかのデモも行なわれた。このデモでは、再生した動画をPCやTVで楽しんだうえで、出先ではスマートフォン上から続きを見るといったもの。さらには、町中の端末でクーポンを携帯電話で受け取るといったデモも行なわれた。

Intelが提供するアプリケーションディストリビューションサービス「AppUp」からメディアプレーヤーを利用PCでもTVでも同じ動画を視聴
出先では、先にPCやTVで再生した“続き”からスマートフォンで再生する町中の端末から携帯電話へクーポンを転送する。いずれのデモも、クラウドでつながったIAベースのデバイスによるものであることが強調されている

●MeeGoが登場したAtomデベロッパプログラム

 ここからはセグメント別にデベロッパに向けた取り組みの紹介が行なわれた。まずはAtomプロセッサが使われるネットブックやスマートフォンなどの小型デバイスに関する話題である。

 インターネット接続可能なスマートフォンが爆発的に増えており、ネットブックも普及している。ジェームス氏は、新しいプラットフォームが立ち上がるときにデベロッパマーケットも成長が見られるものとし、イノベーションへの期待を示した。

 一方で、1つの課題を提示した。それは、スマートフォン1つを取ってみても、多くのプラットフォーム、OSがあるということだ。調査会社のデータに、ソフトウェア開発において複数プラットフォームの開発を行なおうと思うと5倍の開発期間を必要とするものがあることを紹介している。

 Intelが、Atomを複数のセグメントに対応させているのは周知のとおりである。それをさらに進めて、携帯電話やTV、統合エンターテインメントシステムなど、さまざまなデバイスをAtomベースのシングルデベロッパプラットフォームで動かせるようにしようとしている。

 その1つの取り組みが、2月にスペインで行なわれたMobile World CongressにおいてNokiaとともに発表した「MeeGo」である。MeeGoはIntelが進めてきたMoblinプロジェクトと、Nokiaが開発したMaemoという両Linuxを統合し、AtomとARMに対応した共通のプラットフォームとして提供するものだ。

 このMeeGoによって、すべてのAtomデバイスが動く、共通のプラットフォームを作るというのがIntelの狙いである。プラットフォームが同じなので、デベロッパは開発期間、コストを削減でき、革新に注力できるとした。このMeeGoにはすでに多数のパートナーが関わっており、今年の下半期にもネットブックやタブレット、携帯電話などへの導入が見られることになるとしている。

 また、こうした開発プロセスに関わることだけでなく、デベロッパが収益を上げることも重要なことだが、1月にInternational CESで発表したソフトウェアディストリビューションサービスの「AppUp」を紹介。中国のAtomデベロッパプログラムのパートナーに向けては、AppUpベータ版を通じたアプリケーション配布を可能とすることをアナウンスした。

携帯電話やネットブックの販売台数が飛躍的に伸びているさまざまなデバイスに適応できる共通プラットフォームとして提供される「MeeGo」2月に発表されたMeeGoのエコシステムには、すでに多くの企業が参入している
モバイルフォン向けアプリケーションダウンロード数は今後も成長を続けることを予測したリサーチデータ1月に発表したAppUpが中国においても利用可能になることを発表

●サーバからクライアントPC向けの取り組み

 一方、Xeonに代表されるサーバ向けの話題では、データセンターやクラウドサーバーの用途での、Intelが掲げるビジョンやデベロッパサポートを紹介。

 サーバーの用途がデータセンターだけでなく、クラウドによって個人の生活にも密着してきているという、その一例として、Newsoft CEOのLiren Liu氏が登壇。開発中の医療システムの紹介を行なった。これは端末を各病院に置き、各病院で得られた患者のデータをクラウドを通じて共同利用するもの。小さな病院で測定した血圧の情報などを、総合病院で診断するといったことが可能で、医療コストを劇的に削減できるとしている。これはIntelで共同して開発したものだという。

 サーバーが置かれるデータセンターで重要な、消費電力や冷却、スペースの管理を行なうソリューションも紹介された。Intelligent Power Node Manager、Data Center Managerといったツールで、ラックの中の個々のサーバの消費電力などを監視。Baidu(百度)では、これらを用いて20%ラック面積削減を達成したという。

Liu氏が指さす方向にあるタブレット型端末やノートPCなど、さまざまなデバイスで、クラウドから医療情報を引き出せるデータセンターのマネージメントを行なうソリューションの紹介。消費電力や冷却などを、ラック内の個々のサーバー単位で管理できるBaiduではData Center Managerを使用することで、20%のラック面積削減を達成したという

 クライアントPCであるCore i7/i5の話題では、飛躍的に伸びている性能をどのように活用するか、という点に着目し、Intelがリリースしている「Parallel Studio」のデモを行なった。

 中国においてポータルサイトを提供するTenCentが、オンラインゲームでParallel Studioを活用した例では、同じシーンをParallel Studioを用いて最適化したことで、描画クオリティを向上したうえで、より高いフレームレート実現したことを紹介。

 さらに、このオンラインゲームはCore i5の内蔵グラフィックスを用いて実行されていることを紹介し、これも性能が飛躍したことを示す一例としている。

 ジェームス氏の講演は40分弱と、IDFの基調講演にしては短いものだったが、サーバーから小型デバイスまでをカバーした広範な内容だった。同氏は最後に、Intelが全世界でデベロッパ向けプログラムを展開し、ツールやWebサイトの情報、資料によってサポートを行なっていくことを紹介。デベロッパに対し、IAベースのデバイスやソフトウェアを導入して、よりクリエイティブな創造性を発揮してほしいと訴え、講演を締めくくった。

 

【動画】TenCentによるParallel Studioの使用例。Parallel Studioを活用することで描画クオリティを向上したうえに高フレームレート化。使用前が20fps、使用後は30fpsが出ているという

(2010年 4月 14日)

[Reported by 多和田 新也]