イベントレポート

あのヴィレヴァンも"AI店員"を導入。大盛況だった第1回AI・人工知能 EXPO

第1回AI・人工知能 EXPOは、東京ビッグサイトの東展示棟で開催された

 2017年6月28日~30日、東京ビッグサイトで「第1回AI・人工知能 EXPO」が開催された。このEXPOは、日本初の人工知能に関する総合展示会であり、第7回コンテンツ東京と併催で実施された。

 近年、急速に発達しているディープラーニング(深層学習)をはじめ、さまざまな人工知能に関する展示やデモが行なわれ、身動きがとれないほどの来場者で賑わっていた。ここでは、そのなかから筆者がとくに興味を持ったものを中心に紹介していきたい。

UEIやモノゴコロ、さくらインターネットなどがディープラーニング関連の展示を行なう

 AIとは広い概念であり、さまざな技術がAIと呼ばれているが、なかでも注目が集まっているのが、機械学習の一分野である深層学習である。深層学習とは、従来の機械学習で用いられていたニューラルネットワークの階層を増やしたディープニューラルネットワーク(DNN)を使って学習を行なわせるものである。

 深層学習には膨大な演算が必要になるため、一般的なCPUでは時間がかかり過ぎるが、CPUよりも遙かに並列演算性能が高いGPUを利用することで、実用的な時間で学習ができるようになった。画像認識や画像生成などが得意だが、最近ではさまざまなネットワークが提案されており、自然言語解析や生成などへの応用も進んでいる。

 今回のEXPOでは、後述するチャットボット関連の展示が多く、深層学習関連の展示は思ったよりも少なかったのだが、UEIやモノゴコロ、さくらインターネットなどが深層学習関連の展示を行なっていた。

 人工知能の研究や開発を行なっているUEIでは、深層学習によるリアルタイム画像認識のデモや深層言語解析技術「DEEPanalyzer」および3次元畳み込み物体認識ソリューション「DEEPvolume」などを説明していたほか、UEIとサードウェーブデジノスが共同開発した深層学習用ワークステーション「DEEPstation DK-1000」も展示していた。

 さらに、UEIとSony CSL(ソニーコンピュータサイエンス研究所)が開発した深層学習GUI環境「CSLAIER」やUEIがGlucoseと共同開発したマストドン専用Webクライアント「Naumanni」のデモも行なっており、来場者の注目を集めていた。

深層学習関連の展示を多数行なっていたUEIブース
深層学習によるリアルタイム画像認識のデモ
UEIが開発したAI専用情報収集ドローン端末「MQ-1」の説明パネル。LTE回線を内蔵した自律型の全周魚眼カメラである
UEIが開発した深層言語解析技術「DEEPanalyzer」の説明パネル。辞書を用いず、深層学習リカレントニューラルネットワークを学習させることで、新語や口語にも対応できる
深層学習用PC。水冷システムを搭載している
ビデオカードを2枚搭載しており、PCI Express接続のSSDが採用されている
三次元畳込み物体認識ソリューション「DEEPvolume」の説明パネル。CTスキャンデータのような三次元ボクセル情報を正確に認識・分類できる
UEIとサードウェーブデジノスが共同開発した深層学習用ワークステーション「DEEPstation DK-1000」とUEIとさくらインターネットが提供するクラウド型深層学習ソリューション「DEEPstation Cloud」の説明パネル
スリムケースを採用したDEEPstation DK-1000のBasic Edition
2つのAIがたがいを騙しあいながら学習する「敵対的生成学習」
UEIと日本マイクロソフトが開発したハイブリッド型深層学習環境「DEEPstation for Microsoft Azure」の説明パネル。重い学習タスクをAzureクラウドを利用して分散学習できる
UEIとソニーCSLが開発した深層学習GUI環境「CSLAIER」の説明パネル。Web上から手軽に畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類の学習などを行なえるほか、LSTMによる文章学習・生成も可能
CSLAIERの画面。Webブラウザを使って、学習用データセットの指定や学習モデルの作成、実際の学習などが可能だ
UEIがGlucoseと共同開発したマストドン専用Webクライアント「Naumanni」。AIによりスパム書き込みやNSFW(職場閲覧不適切)な画像を自動フィルタリングできる
Naumanniの画面

 人工知能関連技術を研究しているモノゴコロは、「高精度・リアルタイム映像解析」のデモを行なっていた。これは、深層学習を活用し、サッカーの試合やアイドルPVのダンスなどをリアルタイムに解析し、ハイライト映像の自動生成や実況解説の生成を目指しているもので、たとえば、サッカーの試合なら、リアルタイムでAIカビラさんやAI松木さんのコメントを挿入することが最終的な目標となる。

 現時点では、ボールや味方チーム、敵チームのリアルタイム識別はできており、プレイの種別の識別に取り組んでいるところだという。また、AIと映像によるバーチャルロボットプロジェクトのデモも行なっていた。

モノゴコロが開発中の「高精度・リアルタイム映像解析」の説明パネル。深層学習を活用し、サッカーの試合やアイドルPVのダンスなどをリアルタイムに解析し、ハイライト映像の自動生成や実況解説の生成を目指している
サッカーの試合映像で、選手のチームを見分けている様子
ボールもきちんと識別している
さらに、どんなプレイをしたかを解析し、適切な実況や解説コメントをリアルタイムに生成することを目指している
AIと映像によるバーチャルロボットプロジェクトのデモ

 さくらインターネットは、同社が提供している高火力コンピューティングに関する展示を中心に行なっており、他社のIaaS(Infrastructure as a Service)よりも性能が高いことや価格的にもメリットがあることなどをアピールしていた。

 さくらインターネット自身も人工知能を業務に取り入れており、サポートセンターにチャットボットを導入しているとのことだ。また、IoTプラットフォーム「sakura.io」の利用例として、オムロンの表情・感情センサーを利用して、年齢や性別、感情を数値化し、LTE経由でクラウド上にそのデータを蓄積していくデモも行なっていた。

さくらインターネットが展示していた高火力コンピューティング用サーバーマシン。NVIDIAのTITAN Xを4基搭載している
高火力コンピューティングの説明パネル。4GPU搭載システムを1時間あたり267円から利用できる
高火力コンピューティング(左)と他社のIaaSサービス(右)の性能比較。TESLA P40×4の高火力コンピューティングはTESLA K80×8の他社サービスの2倍以上の性能を出している
高火力コンピューティングの採用事例。先端素材高速開発技術研究組合やPreferred Networks、UEI、白組、三井住友海上などが高火力コンピューティングを採用している
さくらインターネットの人工知能への取り組み。サポートセンターにチャットボットを導入している
さくらインターネットのIoTプラットフォーム「sakura.io」の説明パネル
sakura.ioの利用例。オムロンの表情・感情センサーを利用して、年齢や性別、感情を数値化し、LTE経由でクラウド上にそのデータを蓄積していくデモ

ヴィレッジヴァンガードがAI店員「渋谷めぐる」を実店舗に導入

 書籍や雑貨を販売しているヴィレッジヴァンガードは、モノゴコロと開発中のAI店員「渋谷めぐる」のデモを行なっていた。渋谷めぐるは、内部が透けて見える透明液晶を採用しており、なかに本などのお勧め商品を陳列することができる。

 現時点では、対話機能は備えていないが、将来的には来店した客の言葉を理解して会話を行なったり、商品が置いてある場所の案内をしてくれるようになるとのことだ。渋谷めぐるは、2017年7月14日にヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店に登場する予定なので、興味をもった人は見に行ってみてはいかがだろうか。

ヴィレッジヴァンガードがモノゴコロと開発中のAI店員「渋谷めぐる」
渋谷めぐるは、2017年7月14日にヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店に登場予定。前面は透明液晶パネルが貼られており、なかに陳列された本などが透けて見える
渋谷めぐるの筐体は、大型の自動販売機と同じくらいの大きさである
渋谷めぐるの動作の様子。お勧めの本などを紹介してくれる。将来的には来店した客の言葉を理解して会話を行なったり、案内をしてくれるようになるとのこと

日立やHPCシステムズが深層学習向けプラットフォームを展示

 深層学習のためのハードウェアを展示しているブースもいくつか見られた。

 日立は、CPUとしてIBM POWER 8を搭載し、GPUとしてTesla P100を2基または4基搭載したスーパーテクニカルサーバー「HITACHI SR24000/DL1」や、NVIDIAの深層学習用システム「NVIDIA DGX-1」を展示していた。

日立の深層学習向けプラットフォームの説明パネル。左はCPUとしてIBM POWER 8を搭載し、GPUとしてTesla P100を2基または4基搭載したスーパーテクニカルサーバー「HITACHI SR24000/DL1」、右はNVIDIAの深層学習用システム「NVIDIA DGX-1」。CPUとしてXeon E5-2688 v4 20cを2基搭載し、CPUとしてTesla P100を8基搭載する
スーパーテクニカルサーバー「SR24000/DL1」の実機
SR24000/DL1の価格は2GPUモデルが199万円(税別)、4GPUモデルが299万円(税別)である
エッジコンピューティングにおける深層学習取り組みについての説明パネル。
Jetson TX1を利用した単眼カメラによる距離予測。深層学習による物体検出結果を用いている

 また、エッジコンピューティングにおける深層学習の例として、組み込み用SoCのJetson TX1を使って、単眼カメラによる物体の距離予測のデモを行なっていた。

 HPCシステムズは、GPU搭載サーバーと画像保存用ストレージサーバーをセットにした「ディープラーニングスターターボックス」や、GeForce GTX 1080Tiを2基搭載した深層学習向けワークステーション「PAW-102」、Tesla P100を4基搭載可能な深層学習用システム「HPC5000-XBWGPU4R1SーPCL」の展示を行なっていた。

HPCシステムズの「ディープラーニングスターターボックス」。GPU搭載サーバーと画像保存用ストレージサーバーのセットである
ディープラーニングスターターボックスでは、深層学習をはじめるのに必要なソフトウェアはセットアップ済みである
HPCシステムズの深層学習向けワークステーション「PAW-102」。GeForce GTX 1080 Tiを2基搭載している
PAW-102で、手書き数字の深層学習による学習を行なっているところ
Tesla P100を4基搭載可能な深層学習用システム「HPC5000-XBWGPU4R1SーPCL」

NTTドコモがコンビニなどの商品棚の商品を識別するデモを行なう

 NTTドコモは、コンビニやスーパーマーケットなどの商品棚をスマートフォンやタブレットなどで撮影するだけで、その棚に並んでいる商品を識別するデモを行なっていた。

 これは、深層学習を活用した画像認識と商品写真データベースを組み合わせることで実現されている。現在、こうした業務は専門の担当者が店舗を回って行なっているのだが、本システムが実用化されれば、発注や在庫管理の効率改善につながる。実際の導入に向けて開発中だという。

NTTドコモの商品棚識別デモ。このように、コンビニなどの商品棚を撮影するだけで、どのメーカーのどんな商品がいくつあるかを識別する
メーカー毎に商品を囲む枠線の色が変わっている
特定の商品をタップすれば、詳細な情報が表示される

道路などのインフラ点検や製品の目視検査の自動化を深層学習によって実現

 NTTコムウェアは、同社の「Deep Learning画像認識プラットフォーム」を利用して、道路の欠陥を映像から見つけるデモや製品の目視検査の自動化のデモを行なっていた。また、チャットボットを実現する業務支援AIや深層学習用クラウドサーバーの展示も行なっていた。

NTTコムウェアのインフラ点検を効率的に実現する「Deep Learning画像認識プラットフォーム」の解説パネル
Deep Learning画像認識プラットフォームを利用して、道路のポットホールと呼ばれる欠陥を見つけるデモ
Deep Learning画像認識プラットフォームのクラウド版の説明パネル。モバイル端末からクラウドに接続して、深層学習による画像認識を利用できる
Deep Learning画像認識プラットフォームのデモ。Webブラウザから学習モデルの作成が可能
深層学習用クラウドサーバー
NVIDIAのTesla GPUアクセラレータ
チャットボットを実現する業務支援AIの説明パネル
業務支援AIの実行デモ
Deep Learning画像認識プラットフォームを利用した製品の目視検査自動化についての説明パネル
製品の目視検査自動化のデモ。ネジの表面の粗さを検査している

チャットボット関連の展示にも注目が集まる

 今回のEXPOで、もっとも多かったのがチャットボット関連の展示だ。チャットボットとは、おもに文字で人とやりとりをするAIであり、比較的古くからある技術だが、いわゆる萌え絵的なアバターと組み合わせたり、音声認識・合成技術と組み合わせることで、よりキャラクターとしての魅力を持たせたアプローチが増えているようだ。

 サイバーエージェントの子会社AI Messengerは、同社が開発したチャットボット「AI Messenger」の導入事例やデモを行なっていた。

サイバーエージェントの子会社AI Messengerが開発したチャットボット「AI Messenger」の説明パネル
AI Messengerの導入事例。MVNO事業者では、日に500件ある問い合わせの4割をチャットボットが担当し、通常の6割の人員体制で対応できるようになった
AI Messengerの動作の様子

 NTTドコモとインターメディアプラニングが共同開発したチャットボット作成プラットフォーム「Repl-AI」は、ドラッグ&ドロップでボックスを追加することで、グラフィカルにチャットボットを作成できることをアピールしていた。

NTTドコモとインターメディアプラニングが共同開発したチャットボット作成プラットフォーム「Repl-AI」
Repl-AIでは、ドラッグ&ドロップでボックスを追加することで、グラフィカルにチャットボットを作成できる
Repl-AIの動作の様子

 FKAIRが開発したチャットボット「ENA」は、電柱棒さんのイラストを3D化したアバターを実装し、AIアイドル的な存在感を持たせていた。

FKAIRが開発したチャットボット「ENA」

パーソナル・アシスタント・ロボット「PLEN Cube」が対話型音声サービスと連携

 ソフトバンクのブースでは、PLENGoer Roboticsが開発中のパーソナル・アシスタント・ロボット「PLEN Cube」のデモが行なわれていた。

 PLEN Cubeは音声認識機能を備えた小型ロボットであり、写真の撮影や音楽の再生、IFTTTを介した家電の制御などが可能であるが、ソフトバンクが開発したAI FAQソリューション「APTWARE」と音声合成ソリューション「Rizbell」と連携することで、対話型音声サービスを実現できる。

 この対話型音声サービスは主に法人向けに提供される予定で、店舗などでのコミュニケーションロボットとしての利用も可能になる。

PLENGoer Roboticsが開発中のパーソナル・アシスタント・ロボット「PLEN Cube」
PLEN Cubeの動作の様子。音声認識機能を備えている
第2回AI・人工知能 EXPOは2018年4月4日~6日に開催予定で、規模が3倍になるとのこと。すでにかなりのスペースが売約済みとなっていた