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無機物質を超える密度の有機メモリ実現に一歩前進
~理研が基盤技術の実験に成功
(2014/10/31 13:33)
独立行政法人理化学研究所(理研)は30日、有機物質であるジアリールエテン分子を銅表面上に均一膜として形成することに成功し、膜の形成メカニズムを解明したと発表した。同分子は光スイッチ機能を持ち、有機メモリ実現の可能性を持つ。
有機物質を用いたデバイスとしては、すでに有機ELや有機FET(電界効果トランジスタ)、有機太陽電池などが実用化されている。有機物質を利用したメモリはまだ研究段階だが、従来の半導体など無機物質では超えられない1平方インチあたり1Tbit以上の高密度メモリを作成できる可能性を持つ。
今回理研が実験に用いたジアリールエテン分子は、光を当てることで分子構造が変化し、分子の性質が変化する。具体的には、通常は白色や透明だが、紫外線を当てると赤や黄色などに変わり、可視光を当てると元に戻るが、光を照射し続けなくても室温で安定的に存在するため、室温で動作可能な不揮発性メモリとして利用できる。
しかし、この分子をメモリとして利用するには、銅表面などの固体基板上に均一構造として整列させる必要があるが、この分子だけを銅表面に蒸着させても、分子はランダムに吸着してしまう。
そこで、研究チームは、同分子に、電子を引っ張りやすい性質を持つフッ素原子が6個集まった部分があることに着目。陽イオンをこのマイナスに帯電した部分と繋ぐ「糊」として使うことを考案し、塩化ナトリウムを前もって蒸着させた銅表面にジアリールエテン分子を蒸着、加熱したところ、分子が列構造に並んだ2次元均一膜が形成された。その後の解析で、形成された構造が、ジアリールエテン分子とナトリウムからなる均一膜であることを実験的に証明した。
また、同チームは、「RICC」スパコンにて、量子力学の基本原理に基づいて分子や結晶の性質を計算する「第一原理計算」を行なったところ、ナトリウム周りの電荷量が減少したためナトリウムが陽イオン化して糊として働き、電荷量が多くなっているフッ素の部分と引き合っていることも分かった。このことは、イオンと分子双極子の相互作用が、膜の形成メカニズムに深く関与していると言い換えられるという。
この研究成果は、複雑な構造をしたスイッチング機能を持つ分子でも、相互作用を工夫すれば表面に均一に分子を配列できることを示しており、有機メモリの実用化に向けた前進となる。