情報処理学会、情報処理技術遺産認定式を名古屋工業大学で開催
~PCでは東芝のT1100が新たに情報処理技術遺産に認定

3月6日 開催



 一般社団法人情報処理学会(古川一夫会長)は、情報処理技術遺産および分散コンピュータ博物館認定式を、2012年3月6日、名古屋工業大学御器所キャンパスで開催した。

 情報処理技術遺産および分散コンピュータ博物館認定制度は、日本のコンピュータ技術発達史上の貴重な研究開発成果や、国民生活、経済、社会、文化などに顕著な影響を与えたコンピュータ技術や製品など、次世代に継承していく上で重要な意義を持つ情報処理技術遺産の保存と活用を図るために、2008年度よりを開始している。

 今年度の認定は、4回目となり、12件の情報処理技術遺産と1件の分散コンピュータ博物館を新たに認定した。

認定式は、名古屋工業大学で行なわれた情報処理学会第74回全国大会の中で開催された

●12件の情報処理技術遺産と1件の分散コンピュータ博物館を認定

 午前9時30分から行なわれた認定式では、情報処理学会の古川一夫会長が、所有者や製造メーカー関係者などに対して、認定証を授与した。

 情報処理学会の古川一夫会長は、「情報処理技術遺産の認定式も4回目を迎え、広く認知されるようになってきた。日本のコンピュータの歴史は古く、1904年に開発された機械式自動計算機から100年以上の歴史がある。だが、歴史的なコンピュータが離散しており、これを大切に保管しようと考えたのがこの制度の発端。まだまだ眠っているものがある。身の回りにあれば遠慮なく学会に知らせていただき、遺産を広げていきたい」と挨拶した。

 情報処理学会では、日本のコンピュータ発達史上、重要な成果や製品を、約1,700点の写真をはじめとする約3,000点の史料として、同会ホームページの「コンピュータ博物館」に掲載。月に10万件前後のアクセスがあるという。

 だが、それら史料の大半は実物としては存在しておらず、現存する史料を、コンピュータに特化した実博物館などで保存することが急務と考え、同学会では各方面に働きかけてきた。しかし、実博物館実現の可能性がみえないことから、情報処理技術遺産の認定制度を設け、次世代に継承していく活動を開始したとしている。

 認定式において、選定基準概要の紹介と選定経緯を報告した情報処理学会歴史特別委員会委員長の発田弘氏は、「日本の貴重な遺産を将来に残していくことを目的としている。過去の技術史的成果および製品であり、生活、文化、経済、社会に著しく貢献した情報処理技術、システムと認められるものを認定した。現存する貴重な史料についてのデータベースから候補を選定。数百にのぼる候補のなかから、選定候補の現状確認、所有者の意思の確認を経て、歴史特別委員会が選定し、理事会で承認した。今回の12件の選定を含めて、これまでに55件の情報処理技術遺産を認定したが、その中でソフトウェアは2件しかない。ソフトウェアを選んでいきたいと思っているが、保存されていないものが多く、認定が難しい」とした。

 また、「認知度の高まりとともに情報処理学会に、保存や寄贈の申し出があるものの、情報処理学会で実物を保存するスペースがなく、対応に苦慮しているという実態もある。今は、認定した分散コンピュータ博物館や個人的コレクションに受け入れをお願いしているが、申し出があったものの多くが保留となっている。また、数年前には世界トップのスーパーコンピュータであった地球シミュレータは、保存計画がないまま解体が始まっている。一部分でも保存しておけるところを探しているが、受け入れ先がないといった課題が出ている」などと語った。

 今回、新たに情報処理技術遺産に認定された中で、PC分野で唯一選ばれたのが、世界初のIBM PC互換ラップトップPCである東芝の「T1100」。東芝のデジタルプロダクツ&サービス社システム技師長の西垣信孝氏が認定証を受け取った。

 西垣システム技師長は、「このほど技術遺産に認定され大変光栄である。T1100を発売した当時は、机の上でしかPCを利用できず、そうした中で、当社はどこでも使えるPCの開発を目指した。出張先や外出先で利用できるように工夫を凝らし、今のノートPCの世界を作り上げた。軽薄短小を目指した先見性はいまにつながっている。こうした先人の努力を誇りに思っている」としたほか、「現在でも、世界最薄、世界最軽量を目指した究極のPCを目指した開発を行なっている。記録、記憶に残るPCの開発をこれからも続けていきたい」と抱負を語った。

 なお、認定式は、情報処理学会第74回全国大会のなかで行なわれ、認定式に続いて、特別講演「私の詩と真実」を開催。筑波大学の中田育男名誉教授による「コンパイラの最適化を追求して」、名古屋大学/中京大学の福村晃夫名誉教授による「質と量」をテーマにした特別講演が行なわれた。

東京大学生産技術研究所 微分解析機。東京大学生産技術研究所が1953~55年に開発し、当時世界最高水準の性能を実現した機械式微分解析機の構成部品。日立製作所 HIPAC MK-1。1957年に製造した日立初のディジタルコンピュータ。論理素子にパラメトロン、記憶装置に磁気ドラムを使用している。日立製作所のHIPAC MK-1のパラメトロン演算ユニットボードを会場に現物を展示
NEC NEAC-1101。1958年に日本電気が開発した同社初のディジタルコンピュータ。日本で初めて浮動小数点演算方式を採用したNEC NEAC-1101のパラメトロン演算ユニットボードの現物を展示
三菱電機 MELCOM 1101。1963年頃に製造された三菱電機の最初のディジタルコンピュータ。全回路トランジスタ化。主記憶に遅延線形磁気ドラムを採用している東芝 電気試験所(現・産業技術総合研究所)によるASPET/71光学的文字読取装置。産業技術総合研究所と東芝が1971年に共同開発したビジコン Busicom 141-PF。1971年に製造された電子式卓上計算機。Intel 4004の開発のきっかけとなり、それを初めて搭載した
Intel 4004現物が展示されたBusicom 141-PF
NEC NEACシステム100。1973年にNECが発売した初期のオフィスコンピュータ。伝票処理、一括処理、オンライン処理を可能にした富士通 LSIパッケージMB11K搭載MCCボード。1976年に製造された世界初の全面LSI採用の超大型コンピュータモデルに用いられたLSIパッケージおよび高密度実装ボード沖電気工業 オートテラーターミナルAT-20P。1977年に製造された現金自動預払機。1日本における本格的なATM時代の幕開けを担った
神戸大学 Lispマシン FAST LISP。神戸大学工学部システム工学科が1978~79年に製造。日本初のLispマシン大阪大学 EVLISマシン。大阪大学工学部応用物理学第一講座が、1979~82年に開発。Lispの並列処理を目的とするEVAL IIプロセッサを搭載している東芝 T1100。1985年に東芝が開発した世界初のIBM PC互換ラップトップPC。現在のノートPC市場の創造に大きく貢献した
NTT技術史料館。MUSASINO-1B,DIPS-11/45など、NTTが開発した歴史的なコンピュータを展示している
挨拶する情報処理学会の古川一夫会長情報処理学会歴史特別委員会の発田弘委員長これまでに認定された情報処理技術遺産の内訳
情報処理技術遺産認定式の様子授与された認定証NTT技術史料館に授与された分散コンピュータ博物館認定
認定式のあとに行なわれた特別講演「私の詩と真実」の様子東芝 デジタルプロダクツ&サービス社システム技師長の西垣信孝氏東芝に授与さたれ認定証。東芝博物館に飾られることになりそうだ

(2012年 3月 6日)

[Reported by 大河原 克行]