Apple、「Let's Talk iPhone」イベントを開催
~「iPhoneについて語ろう、iPhoneに語りかけよう」

10月4日開催(現地時間)
会場:米Apple Campus Town Hall(中継録画)



新しいCEOとして初めての新製品発表を行なうティム・クックCEO

 既報のとおり、米Appleは同社内にあるシアター施設Town Hallにおいて「Let's talk iPhone」と題した新製品発表会を開催した。発表内容はWWDC 2011で紹介されたiOS 5とiCloudの正式ローンチ、iPod製品ラインの更新、そしてiPhoneの新製品となる「iPhone 4S」の発表である。

 発表会冒頭、同社の新しいCEOであるティム・クック氏が自ら発言しているように、この発表会は言うなればカリスマ経営者だったスティーブ・ジョブズ前CEOの辞任以降はじめて行なわれるもの、つまりクックCEOのデビュー戦だ。ティム・クック体制になって同社がどのように変革を遂げていくのかも、あわせて注目されていた。

 実際に現場にいたわけではなく、録画上映されたスクリーンを通して見るかぎりは、製品発表のスタイルや、会場に訪れたメディアを通じてエンドユーザーに伝えたいと思われるメッセージの方向性については、従来と大きく変わるところはなかった。客観的に見れば良い面も悪い面も、むしろ忠実に踏襲されていたと言っていいだろう。言い換えれば、今までも「ジョブズ流」ではなく「アップル流」であったことを示したととらえることができる。

 今回の発表は、ここTown Hallで行なわれる発表会としてはかなり長めとなる約100分に及ぶ内容。それでもiOS 5やiCloudの概要などは招待されたメディア側がWWDC 2011の基調講演等を通じて、ある程度理解していることが前提となるものであった。加えてこのTown Hallが2001年に初代iPod、1年前には11インチと13インチのMacBook Airなど多くの重要な発表を行なってきた場所であることを強調。Appleの社員にとって第2の家とも言えるここで行なわれるイベントは、同社にとって大きなステップを踏み出す舞台でもあるとクックCEOはコメントしている。


●iOSデバイスで市場を牽引

 まず最初にクックCEOは直近の同社の状況をサマライズ。まず店舗拡大が続く直営店のApple Storeが11カ国357店舗に達したことを紹介した。映像は9月末に相次いで開店した中国の上海、香港でのオープニングの模様を映しだした。クックCEOによれば、上海市南京路店は開店以降1週間の来場者が10万人に及んだとのこと。同社がこれまで大成功ととらえていたロサンゼルスにある店舗が1カ月で10万人来場という数字に、わずか1週間で到達したと、巨大市場となる中国に期待を寄せた。

 製品やサービスに関するアップデートでは、ダウンロード販売という新しい試みとなったOS X LionとMac製品、iTunesとiPodを中心とした楽曲配信、スマートフォンの単体モデルとして世界一の販売台数となるiPhone 4、そしてもっとも新しいジャンルであるタブレットの4つの分野にフォーカスして、それぞれさまざまなデータを提示して、同社の業績を紹介した。

 OS X Lionはダウンロード販売という新しい試みだが、すでに600万件のダウンロードを達成。前バージョンであるSnowLeopardを80%上回るペースと説明した。またオペレーティングシステムの競合製品であるWindows 7を引き合いに、各プラットフォーム内での最新版への更新ペースを紹介。10%のユーザーが最新OSへ更新するのに要した期間がWindows 7では20週間だったのに対し、OS X Lionでは2週間とスムーズなアップグレードを強調した。

 もちろんこれは数字のマジックでもあり、長く企業導入が続いていて全体としてのパイが大きく、ドラスティックな転換の難しいWindowsプラットホームと、急激にシェアを伸ばしてはいるものの、それ故に新規ユーザーが全体に占める割合の多いMacプラットホームという違いは、プレゼンターであるApple側からは発言されない内容だが忘れてはいけないポイントとなる。

 楽曲配信サービスについては、ポータブル音楽プレイヤーでは78%と相変わらず高いシェアを誇るiPod製品について紹介。依然としてナンバーワンの製品であることと累計3億台に及ぶ販売実績などを示した。2010年7月から2011年6月末までの1年間では、4,500万台のiPodを販売、うち約半数近くがリピーターや買い換え需要ではなく、初めてのiPodであるとして、初代から10年を経た今も同社にとって新規顧客を獲得するための重要な製品であるとしている。

 iPhoneについては顧客満足度をデータとして取り挙げた。約70%は「大変満足」で、続くHTC端末の49%を引き離しているという。また「おおむね満足」まで含めるとiPhone製品の顧客満足度は約96%に達するとしている。iPhoneはスマートフォンとしてはトップシェアだが、全世界で年間15億台が販売される携帯電話市場においては、まだ5%のシェアに過ぎない。クックCEOはいずれほとんどの携帯電話がスマートフォンへと移行していくと予測。スマートフォン市場の拡大にともない、さらにiPhoneのシェアを拡げる意欲を示している。この背景には前述した中国や新興国での販売拡大を見こしたものがある。後述するiPhone 3GSという二世代前の低価格モデルの投入は、まだスマートフォンを導入できない所得層が多いこれら新興国をターゲットとしたものとなるはずだ。

 タブレットについては、タブレット製品のニーズの約4分の3をiPadが占めているというデータを紹介。市場を起ち上げてさらに牽引している状況を説明した。このiPadに関連しては導入事例を数多く紹介。北米では教育分野で大きく普及を果たしているほか、紙のマニュアル置き換えとしては航空機を例にとり、パイロットが持つ十数kgにおよぶ膨大な運行マニュアルがiPadにすべて納まるとして、航空会社が試験導入している事例などを挙げた。こちらは半ば冗談混じりに(重量の軽減と運行効率の向上で)燃費もよくなると説明した。また医療分野でも数多くの医療機関が試験導入を行なっている段階だとしている。タブレットについてはアーリーアダプターは個人顧客だが、中長期的には法人需要が大きな市場となると見られており、この点においても同社が先行していると強調する狙いがあるものと想像される。

Windows 7がプラットホームの10%で更新されるまで20週間、Lionは2週間と強調航空機の運航におけるパイロット用のマニュアルにもiPadが試験導入されている。
スマートフォン以外の携帯電話端末を含めると、iPhoneのシェアは5%にすぎないとクックCEO購入者の満足度では「大変満足した」が70%を占め、2位のHTC端末の49%を大きく上回る

●10月12日から無償アップグレードが行なわれるiOS 5

 こうした好調さをもとに、現在iOSを搭載するデバイスは2億5,000万台が出荷されているとのこと。これらiOSデバイスのうち、対象製品には10月12日から新バージョン「iOS 5」が無償で提供される。iOS 5の紹介はこれまでと同様、ソフトウェア担当の上級副社長、スコット・フォーストール氏にプレゼンターが交代した。

 iOSの数字的なまとめとしては、現在約50万本のiOS向けAppがApp Storeに登録されている。うち約14万本がiPad専用のもの。Appのダウンロード総数は月間10億ダウンロードに及ぶとしている。最近のプレゼンテーションではすっかり恒例となったApp開発者に向けたAppleからの支払額は、総額30億ドルと紹介された。

 iOS 5のアップデートに関しては、WWDC 2011で紹介した内容を改めて紹介することが中心。この日初めて公開される項目としては、純正のApp「Cards」があった。Cardsは撮影した写真などから、本物のグリーティングカードが作成できるAppとサービスの組み合わせ。iPhotoから作成できるPhotoBookの、グリーティングカード版のようなものだ。

 Cardsを起動し、背景やデザインなど、あらかじめ用意されているテンプレートと使用する写真をユーザーが選択する。そうして作成したグリーティングカードはエンボス加工のある上質な紙に印刷されて、希望する宛先にAppleが代行して発送してくれる仕組み。切手や消印は、Apple独自デザインのものが使われるということでブランドによる付加価値を高めている。また宛先をデータ管理することにより、配達状況をトレース。iOS 5に含まれる通知センター機能で、受け取りが確認できるようになっているとのこと。

 価格は米国内の発送は1通あたり2.99ドル。国際便としては4.99ドルで世界中に配送できるとしている。AppとサービスはiOS 5と同じ10月12日にリリースされる。ダウンロードはApp Storeから行なえる。App自体は無償で、あくまでグリーティングカードの代行発送サービスが課金対象となる。

 CardsのApp自体は日本語ローカライズがなされている。ただしサービス自体は米国ベースで行なわれるため、宛先が例え日本でも海外発送扱いとなる模様。反面、米国内あての場合は国内向け価格となる可能性がある。支払いに関してはドル建てか、あるいは先日調整されたiTunes Storeのレートによる円建て(4.99ドル=450円)になるかは確認中。

 iOS 5のアップグレード対象製品はWWDC 2011の発表どおり、iPhoneは3GS以降、iPadは全製品、iPod touchは第3世代、第4世代製品となる。アップグレードは10月12日からiTunesを通じて行なうことができるが、これまでの例から、製品販売とは異なって提供開始時刻は北米時間が基準になるものと予測される。iOS 5からはOTA(Over the Air)による差分更新も可能になるが、iOS 4.xからiOS 5への更新にはPCあるいはMac製品が必要。

あらかじめデザインされたテンプレートに写真をはめ込んでグリーティングカードを作成配送状況をトレースして、受け取りの確認を通知センターで知ることもできるWWDCと同じように、10個の新しい機能について駆け足で紹介した

●「Find My friends(友達を探す)」機能を追加したiCloudが間もなく登場

 続いてiOS 5とも密接に関連するiCloudは、インターネット・ソフトウェア&サービス担当上級副社長に就任したばかりのエディ・キュー氏がフォーストール氏から直接バトンタッチされる形で紹介を行なった。こちらもiOS 5と同様にWWDC 2011でスティーブ・ジョブズ前CEOが紹介した内容をあらためて説明した形となる。

 概要はMobileMeから連絡帳、カレンダー、メールの機能を改善して移行。新たに、書類、音楽、書籍、そして写真の同期機能が加わる。同期はPCあるいはMacとiOSデバイスなどApple IDを同一にする機器間で(通信環境などの条件が整った状態になった時に)自動的に実行される。

 iCloudでは5GBの基本容量が無料で提供されるが、この容量に楽曲や書籍などiTunes Storeを使って購入したものは含まれないのがポイント。iCloud上には購入履歴だけが記録される。また写真は「Photo Stream」としてiCloudには30日間、iOSデバイスには1,000枚、MacとPCには(ローカルの保存容量がある限り)無制限に保存できる。また、これまではPCやMacに保存されていたiOSデバイスのバックアップもiCloud上へと移行できる。これもまた、前述した5GBには含まれない。

 iTunes Store以外の手段(CDからのリッピングなど)で入手した音楽もiCloudの同期対象となるが、こちらは実際のデータをクラウド上に保存するロッカー型のサービスになるので、前述の5GB容量を消費する対象となる。この基本容量を超える場合には、iCloudストレージの追加アップグレードとして10GBを年間1,700円、20GBを年間
3,400円、50GBを年間8,500円で利用可能。なおMobileMeサービスから移行したユーザーは2012年6月末までに限り20GBの容量が上記の課金対象から除外される。

 なおCDなどからリッピングした音楽でもiTunes Storeで提供されているものと一致すれば購入したものとして扱うiTunes Matchは、既報のとおり当初は米国内限定のサービスとなる。サービスの導入時期は10月下旬を予定。価格は年間24.99ドル。以後、他国への展開も交渉過程としているが、米国以外での導入時期は未定だ。

 iCloudでも、iOS 5と同じようにWWDC 2011では明らかにされなかった新しい機能が1つ追加して紹介された。友人や家族間で位置情報を共有する「Find My friends(友達を探す)」がそれだ。GPSやWi-Fiアクセスポイント情報などを元にデバイスの位置を特定、許可したユーザーにデータを開示しあうことで「自分が今どこにいるか」「家族や友人がどこにいるか」を地図上で確認することができる。

 用途としては家族旅行や友人同士の外出などを想定。プライバシー保護のため位置情報の公開範囲を細かく設定できるほか、期間を決めた一時共有などが行なえる。またペアレンタルコントロールにより保護者が子供の「Find My friends(友達を探す)」の使い方を管理することも可能としている。AppはApp Storeからのダウンロードで無償で提供される。

 iCloudはiOS 5と同じく10月12日より提供開始。利用にはPC向けのソフトウェアインストールや、OS X Lionのアップグレードを伴う。PCの対象OSはWindows VistaとWindows 7。

「Find My friends(友達を探す)」機能のプライバシー設定地図上に、位置情報を公開している家族、友人などが表示される

●iPhone 4Sは14日に発売。予約は7日から

 続く製品紹介は、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当の上級副社長、フィル・シラー氏が登壇して行なった。クックCEOが冒頭でiPod関連製品は新規顧客獲得のために重要な製品ラインと述べたとおり、iPod nanoの機能アップを紹介。これまで1画面に4個表示されていたアイコンを1個に拡大する新UIや、歩数計を元にしたNike+との連携を追加した。また、サードパーティ各社からiPod nanoを腕時計化する各種アクセサリーが続々と発表されているのを受け、16種類の新しい時計表示のデザインを導入するという。デザインは機械式からミッキーマウスなどのキャラクターものまで多岐にわたる。

ファームウェア更新、iOS 5のプリインストール、低価格化などでリフレッシュされたiPod関連製品

 ハードウェアとしては基本的に従来モデルと同一で、ファームウェアのアップグレードにより従来モデル(第6世代iPod nano)も前述の機能追加を行なうことができる。また価格も値下げ。従来13,800円だった8GBモデルを10,800円に、16,800円だった16GBを12,800円として提供する。発売とファームウェアのアップグレードは発表同日より行なわれている。

 iPod touchも同様に、ハードウェアとしては従来モデルの第4世代製品と同じままでiOS 5をプリインストール出荷することで製品としてはリニューアルされる。やはり価格改定をともない、8GBモデルが従来の20,900円から16,800円に、32GBが27,800円から24,800円に、64GBが36,800円から33,800円に設定される。加えてすべての容量を対象に、フロント側がホワイトのモデルも追加される。

 iOS 5をプリインストールすることで、購入後のセットアップはiPod touch単独で行なうことができるようになる。3G通信やGPS機能などハードウェア的にサポートしないものを除いて前述したiOS 5の機能がWi-Fiベースで利用できる。もちろんiCloudにも対応する。販売開始はiOS 5の提供が始まる10月12日の予定。こちらは日本時間にあたるので、日本でiOS 5をもっとも早く利用できるiOSデバイスとしては、このiPod touchになるものと予測される。


ハンズオン会場に用意された「iPhone 4S」。従来のiPhone 4と外観上の変化は少ない。ミュートスイッチの位置がVerizonモデルと同じなのでケースによっては合わない場合がある

 そして、本日の主役となる「iPhone 4S」はシラー上級副社長から発表された。ハードウェアスペックは既報のとおり。シラー氏からは特にデュアルコアプロセッサのA5を採用したことでiPhone 4比で約2倍となるCPUパワーと、GPUもデュアルコアで約7倍となるグラフィック能力が強調された。グラフィック能力のデモンストレーションとしては、この日唯一のサードパーティとしてEpic Gamesが壇上へと招かれ、12月1日に販売開始を予定している「INFINITY BLADE II」のデモンストレーションを行なった。


競合他社の4Gとして案内する製品と、スペック上の転送速度は同一と説明

 続いてフィラー氏が紹介したのは、アンテナ設計の改善。昨年(2010年)のiPhone 4発売直後は、デスグリップの通称のもと、握り方次第で3G通信の受信感度が変わるとして、今回と同じ会場となるここTown Hallでメディア向けの説明会も行なわれた経緯がある。その後、Appleにより無償で純正のバンパーやサードパーティのケースを希望者に配布する手続きがとられた。こうした部分と年初のVerizon向けの端末提供開始を受け、共通モデルとなるiPhone 4Sではアンテナデザインを改良。送信用と受信用に2つのアンテナを自動的に切り替えるインテリジェントな設計になったとしている。また、HSDPAのサポートにより、理論値としては最大14.4Mbpsの下り転送速度に対応。何をもって4Gと定義するかは言及しないとしながら、これは競合する他社が「4G」として案内する速度と同一であると説明した。


従来の4枚から5枚に増えた新設計のレンズ群を採用。F値2.4の明るさを実現した

 続いてはカメラ機能の向上を紹介。WWDC 2011において、Flickrへの写真投稿総数として近日中にニコンの「D90」を抜くと説明したとおり、最新のデータでは最上位に位置したグラフを示して見せた。そうしたカメラ機能をさらにiPhone 4Sでは強化するとして、製品スペックを紹介。800万画素の裏面照射型CMOSセンサーのカメラモジュールを搭載する。撮影される写真は3,264×2,448ピクセル。裏面照射型を採用したことでセンサーに届く光量が73%増加するとしている。またレンズも従来の4枚から5枚の構造に改良。F値2.4を実現して、30%シャープになったと説明した。

 またiPhone 4SのプロセッサであるA5には、同社設計によるISP(イメージ・シグナル・プロセッサ)を組み込んでいるとし、オートホワイトバランスや顔認識などの撮影に関する機能を強化。撮影速度も競合する他社製スマートフォンのカメラ機能よりも高速だとしている。同時に動画撮影機能も1080pに対応。手ぶれ補正やノイズの低減機能などを追加したとしている。

 ハンズオンで実機を操作したところ、従来モデルのiPhone 4と比べて画角がやや広いもの(広角寄り)と思われる。撮影自体は可能だったが、撮影データの外部持ち出しは許可されていない。操作はシラー氏の説明のとおり前モデルよりも明らかに軽快。ただハンズオン会場がやや暗めで特殊な光源下ということもあってか、顔認識機能に関してはどこまで認識できているのか、環境と時間の制限により詳細までは判断がつかなかった。

 ほか、iPad 2で先行して搭載されたAirPlayのミラーリングにも対応。非Wi-Fi環境下では専用アダプタによるHDMI出力で映像のミラーリングができると紹介している。

 この時点で、iPhone 4Sが「史上、もっとも素晴らしいiPhoneだ」とコメントした上でもう1つの技術「Siri」の紹介を行なった。ジョブズ前CEOによるプレゼンテーションではなかったせいか、One more thing……の前置きは使われなかったが、同氏にとってはほぼ同等のサプライズと位置づけられたものと想像される。


 「Siri」については既報の記事が詳しい。担当者の年齢の違いか、ナイトライダーでイメージされた例えも、こちらは「スタートレック(宇宙大作戦)」のイメージが浮かぶ。また古くからAppleのテクノロジーを追っている人ならば「ナレッジ・ナビゲーター(Knowledge Navigator)」のビデオを想像するかも知れない。いずれにせよ、疑似人格を持つAIによるエージェント(アシスタント)サービスは、見るだけでワクワクする層も少なくないだろう。紹介したシラー氏をはじめ、実際にデモを行なったフォーストール氏にも、そうした何か楽しげな表情を見ることができた。

 今回のイベントの招待状にある「Let's Talk iPhone」とは、「iPhoneについて語ろう」であるとともに、「iPhoneに語りかけよう」のダブルミーニングになっているものと思われる。

 「Siri」のサービス自体はiPhone 4S向けにβ版として提供される。当初対応する言語は英語、仏語、独語。いわゆるラテン系の言語が中心で、通常会話としては主語の後に動詞が付いてくる言語である。単なる音声による単語認識ではなく、自然な会話に近づけるという点ではここは難しいポイントになりそうだ。日本語や韓国語のように、末尾に動詞をもつ言語に対して「Siri」の技術がどう対応できるのかは未定。同じ表意文字を持つ言語圏で考えるなら、中国語のほうが対応が早いものと思われる。


ベータ版ということで、実際どのような問いにどういう受け答えがあるか、モデルケースがいくつか紹介されているアポロ11号の月面着陸で、人類としてに初めて月面に降り立ったニール・アームストロング氏をWikipediaで表示

 想定される利用シーンとしても、車社会のアメリカと日本では大きく異なる。日本国内では見かける機会の少ないBluetoothヘッドセットによる会話も欧米(特に米国)では日常的だ。クルマを運転しながらはもちろんのこと、歩いていても突然話し出す。何かたずねられたのかとビックリして振り返ると、そこには電話をしている人がいるというのは決して珍しいシーンではない。

 一方、日本の通勤電車や駅のホームでそれをやると、一発で変な人扱いされかねない。公共の場所あるいは会社の中で、デバイスに向かって語りかける、あるいは会話するという景色には、テクノロジーを超える壁がありそうな予感がする。とはいえ、技術として楽しむには十分に面白いので、iPhone 4Sを入手したら、まずは自室でこっそり試してみるのがいいだろう。また本来の目的とは大きく異なるが、日常言語である日本語がまだサポートされていない以上、むしろ宴席の話題としては格好の材料と発想を転換してしまうという方法もある。

 現在「Siri」が対応して連携できるAppはApple純正のAppのみが紹介されている。サードパーティ向けにAPI等が公開されるかどうかについては言及されなかった。

日本国内向けである可能性は低いが、iPhone 3GS 8GBモデルやiPhone 4 8GBといった新しい容量設定の低価格モデルも世界的には用意される

 最後にシラー氏はiPhone 4Sの価格について言及。iPhone 4では存在しなかった64GBも加えて16/32/64GBで、199/299/399ドル(いずれも米国で2年間の回線契約を伴う価格)で提供される。日本市場向けにはApple側からの価格のアナウンスはなく、おそらく10月6日中にも、国内のキャリアであるソフトバンクモバイルと、KDDIから料金プランを含めた発表が行なわれるものと予想される。

 米国を含む世界市場向けには、2世代前となるiPhone 3GS、そして従来機のiPhone 4が低価格で提供される。iPhone 3GSに至っては2年の回線契約を伴うとはいえ、本体価格は実質無料扱いだ。iPhone 4も従来構成にはなかった8GBというモデルが設定され99ドル(やはり回線契約を伴う)で提供される。

 これらの価格は米ドル表記で発表されており、もちろん米国向けの製品でもあるが、冒頭に述べたとおり、中国や新興国におけるシェアの拡大を意図しているのは間違いないところだ。

 iPhone 4Sは米国と日本を含む計7カ国で10月14日に発売される。シラー氏は、米国におけるキャリアとして、既存のAT&T、VerizonにSprintが加わると紹介した。米国以外では唯一日本のキャリアについて言及し「長年の良きパートナーであるソフトバンク、そしてKDDI」と紹介した。製品の予約はいずれも7日に始まる予定。

 また10月28日には、さらに22カ国で販売が開始される。ちなみにこの時点でアジア圏は日本とシンガポールだけで、中国や韓国は含まれていない。シラー氏は年内に70数カ国、およそ110のキャリアから発売されるとコメントしているので、中国や韓国では2011年内の発売を目指しているものと想像される。

 最後はティム・クックCEOが再び登壇。今日の発表内容を振り返った。Q&Aセッションなどは現地のイベントでも日本国内の中継録画上映でも特に設けられなかった。

(2011年 10月 6日)

[Reported by 矢作 晃]