【iOS 5編】今秋にリリース。PCレスでの利用が可能となるiOS 5
iOSソフトウェア担当のスコット・フォーストール上級副社長 |
WWDC2011の基調講演において初めて公開された「iOS 5」。その紹介は、iOSソフトウェア担当のスコット・フォーストール上級副社長によって行なわれた。同氏は、ここ数年のWWDCはもちろんのこと、iPadなどのiOSデバイスに関連して開催される同社のスペシャルイベントにも登壇しているAppleにおけるiOSの顔でもある。これまでは、iOSデバイスのマーケットシェアや売り上げ、市場予測など、総括的な部分はスティーブ・ジョブズCEOのスピーチが担ってきた。しかし今回、基調講演の中のiOS 5に関するセクションにおいてはフォーストール上級副社長がすべての数字を挙げ、技術的な部分にとどまらずプレゼンテーションを行なっていたのは非常に興味深い部分である。
さて、同氏によると現時点でiPhone、iPad、iPod touchなどiOSを搭載するデバイスの販売総数は世界中で2億台を超えている。そして、モバイルデバイスとしてトップとなる44%のシェアを獲得していることを示した。確かにここ数年はスマートフォン分野の拡大にともなって急激にAndroidがシェアを伸ばしている。日本からではなかなか分かりにくいが、元々大きなシェアをもっていたのはBlackBerryをもつRIMで、どちらかと言えばAndroidが浸食しているのはRIMのシェアとする見方もある。
そして、最新のiOS搭載デバイスとして3月から出荷が始まっているiPad 2を紹介。発売開始初日のニューヨーク五番街にある直営店舗の様子をスライドに示し、その人気ぶりを強調した。同氏によると、昨年の初代iPad販売開始から14カ月が経過した現在、iPad 2を含めて2,500万台のiPadが出荷されているという。こうしたiOSデバイスの人気を支えている要素の1つはiTunes Storeにあり、すでに150億曲の楽曲がiTunes Storeを通じて販売されている。また、約1年前にiPad発売とともにスタートしたiBook Storeは、米国において6つの主要出版社と契約。すでに1億3,000万冊がダウンロードされているという。ただし、日本国内ではやや事情が異なっており、iBook Storeは事実上まだ起ち上がってはいない。
さらに、現在iOS向けのアプリケーションは約425,000種類が登録されており、うち約90,000種類がiPad専用のアプリケーションとなっている。アプリケーションのダウンロード総数は140億件に達し、この場に集った開発者達に支払われたアプリケーション売り上げ総額が25億ドルにのぼったことを明らかにした。ちなみに昨年のWWDCにおいてジョブズCEOがアナウンスした額が10億ドル。約1年間で15億ドルの上積みをした計算になる。iTunes Storeに登録されているアカウントで、クレジットカードと1-clickの登録をしているアカウントは2億2,500万アカウント。この数がアクティブなiOSアプリケーションの顧客数であることを示唆した。
今秋に登場するiOS 5はメジャーなアップデートにあたり、開発者にとっては新たに1,500ものAPIが公開され、ユーザーには約200の新機能が提供される。速報で紹介したとおり、講演ではこのなかで10個の重要な機能がピックアップされている。
●iOS 5で注目される10個の新機能をピックアップ最初に紹介されたのは「Notificatons」。これはプッシュ通知機能だが、この時会場の開発者からも大きな歓声があがった。既存のプッシュ通知は、ダイアログが開き、音声が鳴り、該当するアプリケーションにバッジが付く。そして、世界中では1,000億ものプッシュ通知が行き交っている。そしてそのプッシュ通知が来るたびに、ゲームや他の作業が一時停止し、いくつもバッジが重なれば最新の通知がどのアプリケーションにきたものかすらわからなくなる現状だ。
その解決策として、iOS 5は「Notification Center」を搭載し、プッシュ通知を一元管理する。Nofiticaton Centerの表示は、画面を上から下へとスワイプする。これはAndroidにおける操作とほぼ同様だ。また、天気予報やスポットニュースなどのWidget機能も備えている。前述したゲームなどのプレイ中にプッシュ通知があっても、画面上部がアニメーションして通知があったことを表示し、しばらくすると元の画面に戻る。以前のようにゲームが中断することはない。実際のところAndroidが持つ機能の後追いではあるが、後発なだけに見た目が洗練されたものになっている。到着したプッシュ通知は、ロック画面にも表示され、項目ごとにスライド操作で確認が可能だ。Notification Centerからタップによって、アプリケーションも直接呼び出すことができる。
2番目に紹介されたのは「Newsstand」。これは米国で「The Dairy」の発刊からスタートした定期購読(定期自動課金)モデル。意外にも日本では、AKB48の公式アプリケーションが、この定期課金モデルの最初の採用例になっている。すでに米国では雑誌、新聞等がこのビジネスモデルに参入している。同氏が紹介するように、NATIONAL GEOGRAPHICやWIRED、NewYork Timesなど数多くの有名な雑誌や新聞が電子化されている。App Storeではすでにこれらをカテゴライズしているが、アプリケーションのダウンロード先に関しても一元化したのがNewsstandとなる。iOS 4でフォルダ機能が搭載されてから、類似の電子書籍などを1つのフォルダにまとめているユーザーは多いだろう。そうした作業を自動的にやってくれるのがNewsstandだ。そして、新聞なら毎日、定期刊行の雑誌なら発売日ごとにバックグランドで更新されるという点がポイントになる。例えば新聞なら寝ている間に更新が行なわれ、起きてすぐにオフラインでも当日の朝刊に目を通せることになる。ただし日本市場においてはまだこの定期購読モデルが普及していないこともあって、iOS 5の登場時にどれだけ国内の雑誌や新聞がこの棚に並ぶことになるかは未知数と言える。
Newsstand。アイコンの見た目どおり、雑誌や新聞など定期刊行物の本棚である | カテゴライズとバックグラウンドでのダウンロードが使い勝手のポイントになる。 |
3番目はTwitter機能のシステムレベルでの実装。1週間あたりにiOSデバイスでは世界中で約10億件のつぶやきがあるとされるTwitter。システムレベルでTwitterのAPIを実装することで、アカウントを各種のアプリケーションごとに登録する必要がなくなる。また、カメラ機能、GPSによる位置情報などの添付も容易。Safari、YouTubeなどあらかじめiOSにプリインストールされているアプリケーションでも同様だ。アプリケーションからリンク情報を含めたツイートが簡単に行なえる。しかし、一方でこれはTwitterクライアントや関連サービスを開発している企業や個人の開発者にとっては痛し痒しの部分。拍手もあったが、開発者にとっては手放しで喜びにくい背景がある。
Twitterとシステムレベルでの連携。各種のアプリケーションごとにアカウントを登録する必要がなくなる | カメラロールから写真を選んで直接ツイート。位置情報の付加も同一画面で設定できる | コンタクトリストとの連携。写真のない連絡先には、自動的にTwitterのアイコンが反映される |
4番目はiOS標準のWebブラウザ「Safari」。フォーストール氏はここでもデータを示し、モバイルブラウザの使用状況として、iOSが64%、Android標準ブラウザが27%という数字を出した。元々オープンソースのWebkitをベースにしている両者だが、iOS 5ではより磨きをかけるために、いくつかの機能が追加されることになる。ひとつはReader機能。例えば複数ページにまたがるようなWebページを1つにまとめて整形し、縦スクロールだけで読みやすくする機能だ。2つ目はReading List。よく見るWebページのヘッダ部分を自動的にスクラップしておき、既読/未読のチェックができる。MacやPCのSafariに搭載されているトップビューページの部分がテキスト化されているようなイメージだ。そして3番目、タブブラウズ機能が搭載される。このアナウンスには場内からも拍手と歓声が上がった。ここでもTwitter連携のデモンストレーションが行なわれ、リンクの添付、そしてMention先アカウントの頭文字の入力でコンタクトリストから自動的に候補を自動補完していく様子を披露してみせた。
モバイル用Webブラウザの使用率。元は同じオープンソースからなるSafariとAndroid標準ブラウザで9割を占める | Reader機能。デバイスにあわせて、Webページを読みやすく整形する | Reading List。良く見るページのサマライズと既読管理ができる |
モバイル向けのSafariにもタブブラウス機能を搭載する | Safariのフォワード先にもツイートボタンが設定されている |
5番目は「Reminders」。いわゆる備忘録だが、通常はカレンダー機能と連携して、日時をベースにToDoリストを通知する。MacにおけるiCalとの連携、WindowsにおけるExchange連携などが基本要素だ。そしてこれに位置情報を付加することができる。例えば、出張先に着いたらすること、あるいは特定のレストランに入ったら注文すべきお薦めメニューなどを登録しておくことで、移動先でこうしたToDoが通知される仕組みである。
Reminders、いわゆる備忘録。iCalなどカレンダー機能とToDoリストを元にプッシュ通知 | 通知のトリガーに、位置情報を設定することもできる。「この店で買い物」といった用途に使える | Mac OS X LionのiCal、WindowsのExchangeとももちろん連携している |
6番目に紹介されたカメラは、大幅な機能強化が行なわれる。もはや洋の東西を問わず携帯電話、スマートフォンで写真を撮るのは日常的な光景だ。実際、現行のiPhone 4は蛍光灯下での撮影でホワイトバランスに乱れが出る嫌いを除けば、高い描写性能がある。特に自然光下での撮影は専用機とくらべても遜色がない。もちろん手軽さがあってのことだが、フォーストール氏はFlickerへの写真投稿数のデータから、発売以来、iPhone 4での投稿件数が右肩上がりに伸びており、Canon 5DやNikon D90に匹敵する数の写真がiPhone 4で撮影されていることを示した。
そして機能強化の1つとして、ロック画面から直接カメラ機能を呼び出すショートカットを付加すると発表している。ホームボタンのダブルクリックにカメラ機能を設定することができるが、それよりもスライドバーの横をタップする方が動作としても早い。パスコードロックがかかっていても撮影自体は行なうことができ、後でパスコードロックを解除した時に記録が行なわれるという。さらに、側面にあるハードウェアスイッチのボリュームアップボタンをシャッターボタンに割り当てることができ、よりカメラっぽい使い方ができるようになる。また、設定によってプレビュー画面へのグリッド表示ができるほか、スライダー操作だったデジタルズーム機能をピンチ操作に変えて、よりスムーズにズームが行なえるようになるという。AE/AFロック機能も追加する。
カメラ機能の強化にあわせて、写真ライブラリには編集機能も加わった。これまではカメラAPIの公開でサードパーティが積極的に開発を行なっていた写真編集機能であるクロップや回転、赤目補正、カラー補正機能などが標準装備される。これもユーザーとしては嬉しい反面、カメラや写真編集アプリケーションの開発者からすれば、純正の強力な対抗馬があらわれるということで手放しには喜べない要素でもある。
7番目は「Mail」。こちらも機能強化で、リッチテキストへの対応が加わった。メールの内容を判断し、URLなどの範囲を自動選択する機能、メールアドレスのTo、CC、BCC間でのドラッグ&ドロップも行なえる。メールへのフラグ付けや、さらに内容の全文検索も加わる。さらにiPadでは、メールボックスのリストが側面から引き出せるようになった。受信リストを表示する際、その時に読んでいるメールを表示したままリストの確認ができる。デモンストレーションでは単語の範囲を自動認識してビルトインされた辞書と連携して単語の意味を表示して見せた。
また、このMail機能のデモで披露されているが、iOS 5全体で使える機能として、キーボード機能の拡張も紹介された。iPadでは、キーボード画面を上にすりあげるジェスチャーを行なうことで、キーボードを左右に分割することが出来る。タブレットを両手持ちで操作する際、両親指でのタイピング操作ができるという仕組みだ。これは操作画面の写真を見てもらうのが一番分かりやすいだろう。
3度目の大きな歓声が上がった8番目の要素は「PC Free」。現状は使用開始にあたって、MacやPCとの接続が必須のiOSデバイスだが、タブレットを中心に1台目のインターネット接続機器としての需要も増えている。ここでは、主要国における家庭内にPCがない世帯の数字を示し、日本や米国などは10~20%と低率だがイタリアで30%超、中国では70%に迫る世帯に家庭内PCがないという。こうした世帯が最初にインターネットにアクセスできるデバイスとして、iOSデバイスがポストPCとしてのあり方を見せるというわけだ。
これまではiOSの開封後、最初に電源を入れるとiTunesへのケーブル接続をうながされる表示がなされていたわけだが、iOS 5のプリインストールモデルからは、スライド操作で直接セットアップが始まるようになる。このスクリーン表示に、またも会場は沸いた。ソフトウェアのアップデートもOTAで行なうことができるようになる。これまでは、OSをアップデートする際、例えマイナーバージョンのアップデートであってもケーブルを接続して、システム全体の総アップデートが必要だったが、iOS 5以降は単独かつ差分のみのアップデートが可能となる。これは、既存のユーザーであっても嬉しい向上点といえる。
9番目はiOS 4から搭載されている「Game Center」。こちらは、テコ入れに近い機能強化といえる。今回のフォーストール氏に限らず、ジョブズCEOの講演の時から、iOSは大きなゲームプラットフォームであるというメッセージを発信し続けてきた。実際、今回フォーストール氏が発表したように、App Storeには10万ものゲームやエンターテインメントのタイトルが存在するが、これは必ずしも従来の携帯ゲーム機と同列にして語るべき数字ではないことが現実的だ。iOS 4でGame Centerは実装されたが、スコアランキングや友達機能などはまだまだ成長過程にあったと言うべきだろう。
8年を経過したXbox Liveの登録ユーザーが3,000万人であることを引き合いに出して、登録数としては5,000万人のGame Centerユーザーが存在するとしているが、これはGame Center対応アプリケーションを一度でも使ったことがあるユーザーの数で必ずしもアクティブユーザーの数とは一致しない。それゆえ、今回のユーザーアイコンとなる写真の登録、友達検索機能などの追加が行なわれていると考えられる。
また、iOS 5での機能強化傾向と一致するのは、これまでステップバイステップで進めていた部分にダイレクトアクセスが実現すること。Game Centerでは友達が使っているゲームアプリケーションで自分が持っていないものがあれば、Game Centerから直接ダウンロードが可能になる。これまでは、そのタイトル名を覚えて、App Storeを起動して検索をするという手間が必要だっただけに、大幅な改善と言えるだろう。また、デベロッパ向けには、友達同士でターン制で行なうゲームの開発ができるようになる。
Game Centerでスコアを競う友達を見つける機能を強化する | 友達が持っていて自分が持っていないゲームのダウンロードは、GameCenterから直接行なうことができるようになる | 開発者向けには、友達同士で交互にプレイするターン制ゲームの制作ができるようにする |
最後の10番目はまったくの新機能「iMessage」。これはいわゆるチャットクライアントで、SMSやMMSのように通信キャリアには依存しない。テキスト、写真、動画、連絡先、グループメッセージ機能と、チャットクライアントに必要な要素を備えている。MacユーザーにはiChat、PCユーザーにはWindows Live Messengerと言えばわかりやすいかも知れない。送信確認、読了確認、また相手が返信のメッセージを入力している状況も把握できるので、会話におけるメッセージのすれちがいも少ない。Wi-Fi接続でも3G接続でも利用できるが、プラットホーム横断型ではなく、iOSユーザー同士で上記のコミュニケーションがとれるチャットクライアントだ。
●講演の中には新iOS搭載デバイスのヒントも?
そのほか、200と言われる新機能の一部が一覧されたが、なかにはAirPlayのミラーリングや、Wi-Fi接続によるiTunesの同期機能、iPad向けの新しい音楽Playerなど興味深い内容も多い。これらは、この場では詳細が語られなかったが、iOS 5での実装を楽しみに待ちたい要素だ。
開発者向けにはSDKが同日付けで提供され、ベータ版へとアクセスができる。一般ユーザー向けには今秋の提供とアナウンスされており、現行のiOS 4からのアップグレードが可能だ。アップグレード対象機種は現行のiOS 4.3と同じで、iPhoneは3GS以降、iPadは全モデル、iPod touchは第3/第4世代が対象となる。アップグレードが有償になるか無償になるかは発表されていない。前述したとおり、iOS 5からはPCレスのOTAでソフトウェアアップデートが可能になるが、現行のiOS 4からiOS 5へは従来どおり、ケーブル接続によるアップグレードが必要になると思われる。
また、今回iOSデバイスの製品発表はなかったわけだが、iOS 5とiCloudが今秋にリリースされることが発表されたことで、同時にiOS 5がプリインストールされた新製品か、あるいは現行製品のiOS 5搭載バージョンが登場する可能性が高まったととらえることができる。
講演の中にもいくつかヒントはあり、例えばカメラのハードウェアスイッチによるシャッター機能が挙げられる。もし手持ちのカメラ付きiOSデバイスがあれば手に取って確認してもらえばわかりやすいが、写真のように右手でシャッターを切る場合、リア側のレンズは右手下部に位置することになる。多くのコンパクトカメラや携帯電話のカメラから分かるとおり、光軸の配置は中央かあるいは上部、つまりシャッター側に位置するのが自然だ。そう考えれば、新製品のレンズ位置は左右反転した位置か中央部に移動するものと考えられる。
これまでも、iOS(以前はiPhone OS)のメジャーアップグレードはiPhoneの新製品発表をともなってきた。今回の講演内容からも分かるように、iOS 5における機能強化は現行ユーザーにとっても嬉しく、また新製品発表への期待を高めるものでもある。OTAやNotificaton機能など、Androidではすでに実装済みで、機能としては後追いとなる点も目立つが、後発ゆえにグラフィカルな要素や操作感で勝っているという部分もある。機能競争になるのは致し方ないところで、あとはユーザビリティやバックエンドのサービスが鍵を握る。別稿となるがiOS 5の利用にあたってはiCloudの存在を抜きにしては成り立たない。なにより一ユーザーとしてiOS 5の登場を期待させる講演内容となった。
(2011年 6月 8日)
[Reported by 矢作 晃]