【WWDC 2011レポート】
【速報版】Mac OS X Lion、iOS 5、iCloudを発表
〜 Lionは7月出荷、Mac App Storeのみで販売。iOS 5、iCloudは今秋

会期:6月6日〜6月10日
会場:Moscone Center West



基調講演で「iCloud」を紹介するスティーブ・ジョブズCEO

 米AppleによるWWDC(Worldwide Developers Conference:世界開発者会議)が、6月6日(現地時間)に開幕した。午前10時から始まった基調講演では、同社のスティーブ・ジョブズCEOをはじめ、フィル・シラー上級副社長、スコット・フォーストール上級副社長らによって、事前の予告どおりそれぞれ「iCloud」、「Mac OS X Lion」、「iOS 5」が紹介された。病気療養中のため体調が危惧されるジョブズCEOは基調講演の冒頭で会場いっぱいのWWDC参加者から、大きなスタンディングオベーションで迎えられた。本稿は速報として、基調講演の概要と製品情報、出荷時期などを紹介する。

●Mac OS X Lionを正式発表。Mac App Store経由でダウンロード販売
Lionのダウンロード容量は約4GB。インストールは現行のSnowLeopardを起動した状態のまま実行できる仕様。同一のApple IDを利用するすべてのMac製品で利用可能なライセンス形態となる

 最初に紹介されたのは「Mac OS X Lion」(以下、Lion)。ジョブズCEOの冒頭挨拶から引き継ぐ形で、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当のフィル・シラー上級副社長がこのセクションを担当した。Lionには250を超える新機能が加わるという。講演ではこの中から10個の機能がピックアップして紹介された。これらは、講演で使われたスライドの写真を中心にお伝えする。

 Lionの出荷開始は7月とアナウンスされた。販売価格は29.99ドル(日本国内価格は2,600円)。販売は既存のディスクメディアではなく、先行してSnowLeopardに導入されているMac App Store経由によるダウンロードのみで行なわれる。6月6日以降のMac製品購入に関してはUp-to-Dateプログラムが適用され、無償でLionへのアップグレードが可能。Mac製品へのプリインストール時期については、現時点では言及されていない。

その1:ポータブル製品のトラックパッドをはじめ、Magic MouseやMagic TrackPadを利用した「マルチタッチジェスチャー」による操作が強化される その2:アプリケーションのフルスクリーン化。標準搭載のSafari、MailやiLife、iWorkなど、まずApple製の15のアプリケーションがフルスクリーン操作に対応する その3:「Mission Control」。現行の仮想デスクトップであるSpaces/ExposeとDashboardを統合。前述のマルチタッチジェスチャーとあわせて、マルチタスク、マルチアプリケーションのデスクトップ環境を効率化する
その4:「Mac App Store」。Lionでは最初からOSに統合される。アプリケーション内課金に対応するほか、アップデートのプッシュ通知をサポート。マイナーバージョンアップ等を一元管理する その5:「LaunchPad」。iOSに似たアプリケーションランチャーを搭載。つまむようなジェスチャー操作でアプリケーション一覧が表示できる。前述のMac App Storeで購入したアプリケーションが自動登録されるほか、フォルダ管理にも対応 その6:システムレベルで、操作中の状況を丸ごと保存、再開する機能が「Resume」。ウインドウの配置や、テキストや範囲などの選択状況、ダイアログ表示の途中でもそのまま保存して、復帰が可能
その7:書類の自動保存機能「Auto Save」。システムが定期的に作成中の書類を自動保存。タイトルバーからの操作で、書類のロックや複製、履歴の参照が可能 その8:前述のAuto Saveに関連する「Versions」。TimeMachineはシステム全体の差分をバックアップしているが、同じように書類の差分のみを自動保存。現行の作業画面からさかのぼって、いったん削除したテキストや画像なども簡単に現行バージョンへ復旧できる その9:「AirDrop」。同一のWi-Fiネットワーク内において、P2Pでファイルの転送を行なう機能。設定は自動で行なわれるが、受信者側で受け取りの許可、不許可を選択できる
その10:大幅に機能強化される「Mail」。検索に「差出人」「内容」「日時」などの条件を組み合わせた絞り込みなどを追加。スレッドの自動折りたたみや、選択表示機能などを追加。フルスクリーンを利用した横方向の2または3ペイン表示を標準化 前述した10項目を含め、全部で250もの新機能を搭載するLion。開発者向けには約3,000の新APIを追加。最新のDeveloper Previewは本日付けで開発者に公開される LionはMac App storeでダウンロード販売される。価格は29.99ドル(日本国内価格は2,600円)

●iOS 5は今秋に登場。PCレスでのセットアップやアップデートに対応
後述するiCloudとも関連するが、iOS 5では、いわゆる母艦マシンなしでのセットアップ、運用に対応する。

 シラー上級副社長に続いて登壇したのが、iOSソフトウェア担当のスコット・フォーストール上級副社長。同氏によると、iOSを搭載するデバイスはすでに2億台を販売したという。モバイル環境におけるiOSのシェアは現在44%。またiPadは、初代モデル、iPad 2をあわせて約14カ月で2,500万台を販売した。

 iOSのメジャーバージョンアップとなる「iOS 5」では、約1,500のAPIと200の機能を追加。Lion同様に、こちらも10個の新機能がピックアップされている。iOS 5のユーザーへの提供開始時期は今秋を予定。アップデートが可能なiOSデバイスは、iPhone 3GS以降、iPadは全モデル、iPod touchは第3世代、第4世代が対象になる。

その1:これまで頻繁に画面にポップアップしていた通知機能を「Notification Center」を導入して一元化する。ロック画面のトップにも表示 その2:米国内の出版社、新聞社が参加する定期購読サービス「NewsStand」。定期購読を申し込んだ雑誌、新聞などをバックグラウンドで自動的にダウンロード配信 その3:Twitterをより積極的にサポート。OSレベルで管理することでマップや写真、コンタクトリストなどその他のアプリケーションとの連携をより簡単かつ強化に統合する
その4:標準ブラウザの「Safari」を機能強化。タブブラウジングを採用するほか、長い文書を整形して読みやすくするReader機能、後で読む「Read It Later」、Twitter連携などを追加 その5:備忘録の「Reminders」。カレンダーと連携した日時だけでなく、GPSなどのロケーション情報を利用した通知にも対応。例えば、特定の店に行ったら買うお土産リストなどを登録すると、そのエリアに近づいたときに通知してくれる その6:カメラ機能は大幅に強化。ボリュームの+ボタンをシャッターボタンにできる。また、ロック画面から直接カメラを起動する機能、プレビューにグリッドを表示する機能も加わる
カメラ機能ではほかに、ピンチ操作でのデジタルズーム機能、AE/AFロック機能などを追加。さらに撮影した写真のクロップや赤目補正などの編集機能も加わる その7:メール機能の強化。アドレスのドラッグ&ドロップ、受信ボックスのスワイプによる表示、全文検索などを追加している メール機能と一緒に紹介されたキーボードの2分割表示。iPadでの両手持ちで両親指を利用した入力に対応。そのほか、辞書もシステム内に組み込まれており随時参照が可能になる
その8:ついにセットアップがMac/PCなしでも可能になる。セットアップをデバイス単独で実行。ソフトウェアのアップデートもOTAに対応。従来までの全容量ダウンロードではなく、差分形式でのアップデートにも対応する その9:「GameCenter」の機能を強化。友達を見つけやすくする機能や、友達の遊んでいるゲームをGameCenter内から直接ダウンロードする機能などを追加。ターン形式のマルチプレイにも対応する その10:新機能の「iMessage」。iOSデバイスのユーザー同士での新しいメッセージングサービス。メーセージの到着、目をとおしたかどうかも確認が可能。チャット相手が返信の入力作業状態であるかも表示される
Lion同様に、今回ピックアップされなかったそのほかの機能も紹介。iTunesとのWi-Fi同期や、iPadに対応する新しい音楽プレーヤー、ジェスチャー操作でのタスク切り替えなども含まれる 開発者向けのiOS 5 SDKは今日から提供が開始される ユーザー向けには今秋にiOS 5を提供。対応するのはiPhoneは3GS以降、iPadは全モデル、iPod touchは第3世代、第4世代が対象となる

●iCloudは今秋サービス開始。iTunes Matchを米国で導入

 iOS 5に続いては、スティーブ・ジョブズCEOがふたたびステージに戻ってきて「iCloud」の紹介を行なった。まず、10年前のPCがデジタル家電製品のハブになるいう「デジタルハブ」の構想を振り返った。そしてデジタル機器が個別の機能を持っていたときはMac(とPC)がそのハブとしての役割を負ってきたが、近年はそれ自体が困難な状況になりつつあると説明。iOSデバイスをはじめとして、あらゆるデジタル機器が個々の役割ではなく、写真や動画、音楽、そして書類の作成などさまざまなことができるようなったためだという。

 そこでMacとPCをハブとしてではなくiOSデバイスと同列の1つのデジタル機器と位置づけ、ハブをクラウドにする時期が来たとiCloudの導入理由を説明した。クラウドを単なるネットワーク上のストレージではなく、接続されるすべての機器を自動的に同期するのがiCloudの役割としている。同期されるのは書類やコンタクトリストなどだけではく、アプリケーションそのものも含まれる。

これまでのデジタルハブの位置づけ。Mac(とPC)がハブになっていた これからのハブはクラウドへ。Mac(とPC)はiOSと同列のデバイスへと位置づけがかわる

 まず最初に、これまでAppleが提供してきたクラウド「MobileMe」は最良のものではなかったとして、MobileMeに対応するコンタクトリスト、カレンダー、メールのアプリケーションは根本的にiCloud対応に置き換えることにするという。同一のApple IDで管理されたデバイスは、すべてのデバイスで自動的に同期が行なえるようになる。例えばコンタクトリストに追加したり変更したりした連絡先は、自動的にほかのデバイス上でも書き換えられる。また、カレンダーのスケジュールやToDoなども同様。メールでも、新釈メールは自動的に全てのデバイスにプッシュ通知され、すべてのデバイスで既読、未読の管理も含めて同じ状態が保たれるようになるとのこと。

 これまでMobileMeは、試用期間を終えると年間99ドル(日本国内価格は9,800円)で提供されてきたが、iCloudのサービスは無料で提供される。

 さらに上記のMobileMeで提供されていたサービスの改善に加えて、iTunes Storeで購入したiOSデバイスのアプリケーション、音楽、書籍の同期が行なえるようになる。いずれも購入済みのものであれば、該当するデバイスに未ダウンロードの場合でも、1タップでダウンロード、あるいは削除後の再ダウンロードが可能。またデイリーバックアップ機能として、購入済みの音楽、アプリケーション、書籍、写真、ビデオ、各デバイスの設定状態、そしてアプリケーションの設定状態も含めて自動的にWi-Fi経由のバックアップがiCloudへ行なわれると説明した。

MobileMeでも提供されていた3つの同期サービス。iCloudでは一から書き直される 1つのデバイスで変更された情報は、他のデバイスにも自動的に反映される 有料サービスだったMobileMeに対して、iCloudは無料のサービスになる

 次に紹介されたのは、書類のiCloud同期。KeynoteやPagesといったApple製アプリケーションで作成した書類は、他のデバイスにも自動的に同期が行なわれる。また、この書類の自動同期システムは、「iCloud Storage APIs」としてApple以外のデベロッパにも公開。開発者が同じ仕組みで自らが開発したアプリケーションからも利用できるようになる。これはiOSデバイスに限らず、MacやPCのアプリケーションでも利用が可能だ。

 さらに、写真の同期方法を紹介。これまで紹介してきたものと同様に、1つのデバイスで撮影したり保存したりした写真はすべてのデバイスに自動的に同期される。これを「Photo Stream」と呼んだ。写真の保存容量だが、iCloudには30日間、iOSデバイスでは1,000枚、MacとPCでは無制限に保存が行なえる。iOSデバイス上で長期的に保存を行ないたいのであれば、アルバム化することで可能になるという。

購入済みで未ダウンロードのコンテンツは1タップでダウンロード可能 Wi-Fi経由でのデイリーバックアップ、写真の同期、iOSデバイスの設定なども保存 写真は「Photo Stream」としてiOSデバイスに1,000枚、クラウドに30日、Macにはすべて保存される

 そして期待されていた音楽のクラウド化は「iTunes in the Cloud」。こちらも同様に、iTunes Storeで購入した音楽は最大で10台までの全デバイスで自動的に同期が可能。同期のON/OFFは選択が可能で、購入済みでもまだ該当するデバイスにダウンロードされていないものは、1タップでダウンロードが行なえる。自動同期をONにしていれば、例えばMacのiTunesを使って購入した楽曲がほぼ同時に、同一のApple IDで管理されているiOSデバイスにもダウンロードされる。

 iCloudで提供される保存容量は5GB。これはメール、書類そしてiOSデバイスのバックアップ情報が含まれる。iTunes Storeで購入した音楽やアプリケーション、書籍などはこの容量に含まれない。いずれも「購入済み」という履歴のみが記録されるので、ファイルそのものを保存する必要がないというわけだ。

 iTunes Storeから購入したコンテンツの同期システムは、iOS 4.3βとして同日より一部利用が行なえるようになっている。また開発者向けにはプレビューとしてiCloudのサービスが同日より提供される。iCloudの正式サービスは今秋を予定。明言はされていないが、iOS 5の導入時期と一致するものと考えられる。

購入済みの楽曲はこのボタンをタップして、iOSデバイスにダウンロード可能 自動同期をONにしていた場合、一方で楽曲を購入すると同時に他のデバイスにもほぼ同時にダウンロードされる 5GBの容量制限には「Photo Stream」も含まれない

 加えてジョブズCEOは、ちょっとした“One More Thing”だと前置きした上で「iTunes Match」の紹介を行なった。これは、ユーザーが所有する音楽ライブラリとiTunes Storeで扱う楽曲の照合を行なうサービス。例えばユーザーが購入したCDをリッピングしてiTunesのライブラリに入れた場合は、iTunes Storeの購入履歴には残らない。しかし、Store上に同一の楽曲がある場合は「購入したもの」として扱うサービスだ。ロッカー型と異なり、データを一致させるだけなので、アップロードに時間を要することはない。「わずか数分で終了する」とジョブズCEOは説明した。一致した音楽はiTunes Storeの楽曲同様に、256kbpsのAACエンコードで他のデバイスと同期が行なえるようになる。このサービスは有料となり、年額24.99ドル。当面のサービスエリアは米国内のみで世界展開は未定。

 「ちょっとした」という前置きとは裏腹に、ジョブズCEOはAmazonとGoogleのクラウド型音楽サービスとの比較表も提示。ロッカー型では実際にファイルをアップロードすることになるためサービスの使い始めには膨大な時間がかかるが、Music Matchでは短時間で済む点を優位点とした。また、例えば元の楽曲がMP3や128kbpsなどだった場合は、他社はそのままの音質だがiTunes Matchでは256kbpsにアップグレードされる点、そしてすでに有料サービスを行なっているAmazonと比較した価格の優位製などを強調してみせた。

iTunes Matchの概要。自分で購入したCD楽曲がiTunes Store上にあれば同期対象になる ロッカー式とは異なり、アップロード時間は不要。品質は256kbos AACに統一される AmazonとGoogleとのサービス比較。優位点を強調。ただし、iTunes Storeにない楽曲は自動同期ができない。複数デバイスで同期したい場合はこの点でロッカー式に劣る。

ノースカロライナ州に新設したデータセンターを紹介。「人があんなに小さい」と、その規模を示してみせる

 最後に、このiCloudのサービスを運営するために建設したデータセンターを写真で紹介。MobileMeの導入時は運用がスムーズにいかず、しばらくの間は混乱が発生していた。そして、有料サービスを受けていたユーザーには契約期間を延長したという経緯がある。こうして新しい設備の写真を見せたのは、その轍を踏まないという決意もあるのだろう。

 最後に、WWDC 2011に参加する5,200人もの開発者に、「素晴らしい1週間にして欲しい」とエールをおくり、約2時間に及んだ基調講演は幕を下ろした。開発者は、6月10日までの期間、秘密保持契約の下に、さまざまな技術情報の開示を受け、セミナーなどに参加して、Lion、iOS 5、iCloudに対応するアプリケーションやサービスの開発の礎にすることになる。

(2011年 6月 7日)

[Reported by 矢作 晃]