日本マイクロソフト株式会社は、Internet Explorer 9(以下、IE9)日本語版を26日0時より公開開始した。
●高速、洗練、信頼、相互運用性をテーマにしたIE9IE9は、当初3月15日に公開予定だったが、11日に発生した東日本大震災に伴い、ネットワーク回線への負荷軽減を配慮し、日本語版のみ公開を延期していた。その後、同社は通信業者やISPなどとも協議し、公開日を26日と決定し、今回無事公開へこぎ着けた。
堂山昌司氏 |
これにあわせ25日に、都内で発表会が行なわれた。同社代表執行役副社長コンシューマー&オンライン事業部担当の堂山昌司氏は、IE9の特徴として、「高速」、「洗練」、「信頼」、「相互運用性」の4点を挙げた。
具体的には、GPUの活用により表示などを高速化し、過剰なアイコン類をそぎ落とし見栄えを洗練し、ウイルスやフィッシングに対する防御機能やプライバシー保護といった観点からの信頼性、そしてHTML5への積極的な対応と後方互換性による相互運用性の向上といったものになる。
IE9はこれまで、ベータ版、製品候補版を一般公開してきたが、現在までにそのダウンロード数は4千万を超えている。また、他の地域では3月14日から製品版が公開されているが、それから3月31日までの間に、Windows 7における月間のブラウザシェアでIE9が3.6%に達した。このほか、IE9の新機能に対応するサイトの数もすでに1,000以上に上り、順調な滑り出しとなったことをアピール。また、その背景には、ベータ版より前のPlatform Preview版からの社内外での検証、またそのフィードバックに対する改善に取り組みがあったことを説明した。
IE9の最大の特徴というと、やはりHTML5への対応と言うことになるが、これにより堂山氏は、Windowsネイティブアプリケーションと同じ体験がWebでも可能になると述べたほか、IE9はWindows 7プラットフォーム上でWindows Liveと双璧をなす製品であるとともに、Windows 7ともっとも相性の良いブラウザだと位置付けた。
また、先日米国ラスベガスで開催されたWeb開発者向けのイベントMIX11のレポートでも言及されたように、IE9は今後Windows Phone向けにも提供される。これにより、PCであれスマートフォンであれ、同じコードで書いたWebアプリケーションが同じように動作するようになることを紹介した。
IE9の4つの特徴 | 製品候補版の時点で4千万ダウンロードを記録 | GPUメーカー、およびコンテンツプロバイダとの協業で対応を強化 |
企業向けアプリケーションについても早期から協業を行なっている | IE9はWindows Liveと並ぶ重要プラットフォーム | Windows Phone用も提供される |
●ぐるなびなどがIE9のジャンプリストに対応
そのアプリケーションやサービスについては、パートナー側の対応や協力があってこそになるわけだが、その点についても同社は早い段階から国内のコンテンツプロバイダなどへの働きかけを行なってきた。
その具体例として、ぐるなび、ニワンゴ、ヤフー、カヤックの代表者が登壇し、IE9への対応について説明を行なった。
IE8では、Windows 7のタスクバーにおいて、ブラウザで1つのピン留めしかできないが、IE9では任意のサイト毎にピン留めできるようになった。その際、タスクバーにはサイトのファビコンがアイコンとして表示されるので、任意のWebサービスを1つのネイティブアプリケーションのように扱えるようになる。また、そのジャンプリストもピン留めしたサイト毎にカスタマイズが可能になった。
ぐるなびでは、ジャンプリストに、ぐるなび全国版、myぐるなび、チョットぐ、見比べリストなどの定番のページ(機能)をタスクとして表示するほか、ぐるなびでは過去に訪れた飲食店を再び調べることが多いので、前回見たお店として、閲覧履歴を表示するようにした。今後は、ユーザーの嗜好に合わせ、お薦めを紹介する機能も付与する予定という。
また、一般ユーザーだけでなく、情報を掲載するクライアント向けの管理サイトについても、ジャンプリストに機能を追加し、編集や、集計の閲覧といった作業にすばやくアクセスできるようにする。
ぐるなび執行役員サービス企画開発部門部門長代行副部門長 半田純也氏 | IE9でぐるなびをピン留めした時のジャンプリスト | クライアント用管理サイトでも、それようのジャンプリストを用意 |
ニコニコ動画を運営するニワンゴでも、ジャンプリストにマイページやランキング、マイリストなど利用頻度の高いページへのショートカットを用意するほか、IE8でも行なったように、独自版のIE9を5月11日より公開する。ニコニコ動画では、過半数がIEユーザーということで、IE9ではより長期にわたって独自版を公開していく。
ニワンゴ代表取締役社長 杉本誠司氏 | ニコニコ動画でも専用のジャンプリストを用意 | IE9のニコニコ動画版も提供する |
ヤフーでも、IE9の利用/採用によって、サービスの水準/品質の高度化や、開発時間/コストの削減、パフォーマンス向上といったことが実現されることから、独自版のIEを提供する。ちなみに、ヤフーにおけるユーザー別ブラウザシェアはIEが8割以上という。
ヤフーR&D統括本部制作本部制作部長 是井真氏 | IE9のもたらすメリット | ヤフーでも独自のIE9を提供 |
カヤックはMIX11でも大きな話題となった、SVG(Scalable Vector Graphics)を使った「SVG女子」のサイトが日本語でも4月26日から利用可能になることを発表するとともに、そのデモも行なった。詳細は関連記事に譲るが、SVGを利用することで、これまでは動画でしかできなかったアニメーションが、HTML5のコードで実現できるようになるほか、画面の色を任意に変えたりといったこともできる。
カヤック企画部 杉政英樹氏 | SVGを使ったSVG女子のデモ | ユーザーが色を変更して、そのままの設定でアニメーションさせることも可能 |
●ユーザー/開発者が見るIE9とは
発表会では、マイクロソフトMVP(Most Valuable Professional)の5人によるパネルディスカッションも設けられた。
MVPとは、マイクロソフト製品やテクノロジーに関する豊富な知識と経験を持ち、各種コミュニティやメディアを通じて、その優れた能力を幅広いユーザーと共有している個人として認定された人を意味する。今回招かれたのは、ピクセルグリッドの小山田晃浩氏、NTTコミュニケーションズの小松健作氏、html5-developers-jp管理人の白石俊平氏、HTML5.JP管理人の羽田野太巳氏、シーピーエスの村地彰氏。
HTML5とは一体何かという司会者からの質問に対し、ゲスト達は異口同音に、次世代のコンピュータプラットフォームそのものだと答えた。これまでのHTMLはブラウザで文字を表示するための技術だったが、HTML5では多種多様なAPIが用意され、これまでのホームページというものを超えた、アプリケーションを作成するための土台になるのだという。また、HTML5によって、1つの標準技術の上で、バージョンの差異に留まらず、ブラウザ自体が違ったり、スマートフォンなどの端末を使っても、ユーザーが同じ体験を得られる、とそのメリットを説明した。
そして、最大のシェアを持ち、企業内での利用も多いIE9がHTML5を実装したことで、その利用/採用が加速すると、IE9の登場を歓迎した。
なお、公開の延期にあわせ、関連キャンペーンの日程にもいくつか変更が出ている。IE9を使ったオンライン競書大会は25日付けで優秀賞が発表された。また、小説「裏閻魔」をHTML5を活用してオンライン公開したサイトは、4月15日までの予定だった公開期間が、5月末まで延長された。
IE9に関するパネルディスカッションの様子 | オンライン競書大会特別審査委員の涼風花さんはビデオでコメントを寄せた |
(2011年 4月 26日)
[Reported by 若杉 紀彦]