株式会社東芝は、想定された以外の機器に接続されると、記録データを瞬時に無効化する2.5型HDDを開発。これをPCおよびデジタル複合機、POSシステムなどに搭載する方針を示した。
今回、発表したHDDは、2010年8月に発表した「暗号化技術を応用したデータ無効化技術」をベースに開発したもので、盗難による情報漏えいの防止や、廃棄時のデータの無効化などに利用することができる世界初の技術だという。2011年4月下旬からサンプル出荷を開始。6月下旬から量産を開始する計画である。
今回の製品を東芝独自の「Wipe Technology Storage(ワイプテクノロジーストレージ)」として、高度なセキュリティに対するユーザーニーズに応える製品として事業拡大を図るという。
また、将来的には、同技術を採用したSSDの製品化も検討していきたいとしている。
発売するのは、640GBの「MK6461GSYG」など5機種。640GB版のほかに、500GB、320GB、250GB、160GB版をラインアップする。
現在、採用されているHDDのセキュリティ技術の多くは、搭載機器からの指示でデータを無効化することができるが、同製品では、HDD本体が搭載されたPCやデジタル複合機などと認証を行ない、あらかじめ決められた機器以外のシステムからアクセスされた場合には、自動的にデータを無効化することができるという。
東芝 ストレージプロダクツ社HDD事業部ストレージソルーション推進部参事の中島一雄氏 |
「従来の当社の技術では、電源断となった場合にデータを無効化できたが、それでは電源が切れるたびにデータが無効化されるため、広く利用してもらうためには現実的ではなかった。HDDがホスト内にあるときには無効化せず、HDDがそこから持ち出された場合にだけ無効化することができるのが今回の進化。搭載機器からの指示がなくても自動的にデータを無効化できるため、盗難時の情報漏洩防止に適している。今回はWipe 2の技術と位置づけており、電源断に依存するWipe 1では不可能だった、PCなどの幅広い機種への搭載が可能になった」(東芝 ストレージプロダクツ社HDD事業部ストレージソルーション推進部参事の中島一雄氏)という。
また、廃棄時には、磁気破壊などの物理的な方法や、データ上書きといった方法があったが、専用設備が必要なこと、処理に時間がかかることなどの課題があったが、この点についても、作業時間の短縮による省力化や省エネ化、ストレージの再利用が可能になる技術としている。
機器との事前の認証には、乱数を利用して毎回異なるデータの送受信を行なう交信手法である「チャレンジレスポンス方式」を採用。HDDが、それ以外の機器に接続された場合には、ディスク上に記録された暗号化データの解読に必要な暗号鍵を自動的に消去し、データの解読が瞬時にできないようになる。
無効化するエリアと、無効化せずに暗号化状態で保存するエリアを設定することができ、「搭載機器からの指示でデータを無効化するモード」、「電源供給が遮断されたときにデータを無効化するモード」、「想定外の機器に接続されたときにデータを無効化するモード」から選択することができる。
電源断でのデータ無効化を設定すれば、外出先に持ち出すPCやシンクライアントPCでも、利用後にデータが残らないという強固なセキュリティ環境が構築できるという。
記録データを瞬時に無効化するHDD「Wipe Technology Storage」 | Wipe Technology Storageの概要 | 今回発表したWipe 2の技術の概要 |
チャレンジレスポンス方式による認証を採用 | POSシステムで接続していたHDDをノートPCに接続した際に、HDDは認識されるものの、データは無効化されている |
【動画】ノートPCに接続し、データを無効化した際のデモストレーション |
なお、今回の技術は無効化であり、データは消去されずにディスク上に残っている。「暗号鍵は、米国商務省標準技術局(NIST)によって選定されたAES 256bitに準拠したプロテクションであり安全性は高いと考えている」(中島参事)としている。
また、「企業向けノートPC市場は年間2億台弱あり、その中で、4分の1から5分の1の市場に対して、セキュリティソフトが提供されているとされており、そこが1つのターゲットになる」(中島参事)とした。
主な仕様は、インターフェイスはSATAで速度は3Gbps、平均シーク時間は12ms、回転数は7,200rpm、バッファ容量は16MBとなっている。消費電力は、シーク時が2.3W、リード/ライト時は2.1W。外形寸法は、69.85×100×9.5mm(幅×奥行き×高さ)。重量は、ディスクを2枚搭載している640GB、500GB版が115g、ディスク1枚の320GB、250GB、160GB版が98g。
一方、同社のスレトージ事業への取り組みについても説明した。
東芝 執行役常務 ストレージプロダクツ社HDD事業部の錦織弘信事業部長 |
東芝 執行役常務 ストレージプロダクツ社HDD事業部の錦織弘信事業部長は、「東芝のストレージ事業は、2009年10月に富士通のストレージ事業を統合したことにより、HDDとSSDの両方の技術を持ち、さらに、頻繁なアクセスと高速性を求められるエンタープライズ向けSSD、旧来型のエンタープライズ向けHDD、そして、大量のデータを蓄積することが中心となるニアラインHDDの3つの市場に向けた製品を提供できる」と語り、「今後のストレージ事業は、この3つの市場に向けた製品の組み合わせが大切なビジネスになってくる。HDDとSSDがどう成長するのかを見極めるのは難しいが、東芝はどちらの技術も持っており、ユーザーに対して選択肢を提供できるメーカーでもある。唯一のHDDおよびSSDのワンストップメーカーとして差別化を図り、現在、12~13%のシェアとなっているストレージ市場において、2013年度にはシェア20%以上を目指す。中でも、エンタープライズHDDでの市場シェアは6%に留まっており、今後拡大の余地がある。今回発表した付加価値製品のラインアップの拡充などにより、2015年度には25~26%のシェアにまで拡大したい」とした。
東芝では、HDD/SSDの市場は年間6億3,000万台に達しており、エンタープライズストレージ市場では、年率10%で成長、パーソナルストレージ市場も年率20%の成長が見込まれるとしている。
「クラウド市場の広がりによって、データセンターにおけるストレージ導入が増加するとともに、クライアント市場においても、クラウドからデータをダウンロードするといった用途が増加することで、ともに旺盛な需要が期待できる。ストレージ市場は有望な市場であり、東芝は、クラウド・クライアント新時代のコアストレージサプライヤーとして展開していく」などとした。
東芝と富士通のストレージ事業の統合により製品ライン拡充 | 今後の東芝のストレージ事業の成長戦略 |
シェア20%以上の獲得を目標に掲げる | 今後のHDD/SSD市場の成長 |
(2011年 4月 13日)
[Reported by 大河原 克行]