日本ヒューレット・パッカード株式会社は9月30日、個人向けPCの冬モデルを発表。これに伴い製品発表会を都内で開催した。
冬モデルは、ノートPCでは9シリーズ、デスクトップでは7シリーズを発売。詳細については関連記事を参照されたいが、発表会では新たに発表された「ENVY」ブランドのノートPCと、オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV」対応モデルに焦点を当てて説明した。
●パーソナルなコンピュータ岡隆史氏 |
発表会の冒頭では、同社 取締役 副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の岡隆史氏が、同社の個人向けPCの戦略を説明。「我々の日本個人市場への復帰から3年が経過した。この3年間、“The computer is personal again”をキャッチフレーズをもとに、個人向けに展開してきた。PCは生産性を向上させるためのツールだけでなく、パーソナル(個人のライフスタイル)においても重要なツールになると考えているからだ」とした。
その“PCのパーソナル化”に向けた取り組みとして、PCを設計する際に4つのテーマを念頭に置いているという。具体的には、IMPRINT技術による表面印刷による独創性、パーソナル空間に溶け込むフォルム、チープではない高級感への配慮、そして同社が“マジカル”と呼ぶ“何か1つの面白い要素”、すなわち機能的なインスピレーションやフィーリングの4つだという。
前3者が具現化した製品として、和の模様を入れた「Pavilion Notebook PC」シリーズや、ファッション的な要素を取り入れ、ファッションとともに身につけられるデジタルアクセサリ感覚の「Vivienne Tam Edition」シリーズなどを挙げた。
一方“マジカル”においては、タッチスクリーンによる直感的な操作を実現した「TouchSmart」シリーズを挙げ、「新しいテクノロジーの中でユーザーに対して面白いものを提案していけた」と説明した。
同社が考える個人向けPCの4つのテーマ | デザイン性やフォルム、高級感へのこだわり |
マジカルと呼ばれる何か1つの面白い要素の一例 | The computer is personal againのキャッチフレーズ |
同氏は、「現在、ユーザーが使う場所や使い方にあわせて、PCが進化する時代が来ている。ユーザーのニーズに合わせて進化するからこそ、PCの活躍の場がさらに広がる。我々はそのユーザーの細かなニーズに、新しいテクノロジーによって応えていきたい」と述べた。
●ENVY 14 Beats Editionの特徴中原和洋氏 |
続いて、同社 パーソナルシステムズ事業統括 コンシューマービジネス本部 コンシューマー製品部 部長の中原和洋氏が新製品の特徴について解説。なかでも、新たに立ち上げたENVYシリーズについて詳しく説明した。
同社はこれまで、低価格と高性能を両立させた「G」シリーズ、プレミアムデザインと性能を両立させた「Pavilion」の2製品で展開してきたが、今回、“最上級の”デザインと性能を両立させたブランドとして「ENVY」シリーズを新たに展開する。
同氏は、「ENVYは直訳すると羨望といった意味があるが、そういった意味でも他人から羨望されるようなデザイン性と性能を実現した」とした。
その第1弾として、ヒップホップミュージシャンであるDr.Dre(ドクター・ドレー)がプロデュースする、Beats Audioのシグネチャーモデル、「ENVY 14 Beats Edition」を発売する。
ENVYの位置づけ | ENVY 14 Beats Editionのプロモーションビデオ | ENVY 14 Beats Editionを掲げる中原氏 |
Dr.Dreは米国におけるヒップホップミュージックの第一人者であり、2000年からはBeats Audioブランドでヘッドフォンを中心とした音響機器をプロデュースしているが、今回の製品も彼のプロデュースのもと、音質にこだわって設計された。具体的には、独自のデジタルシグナルプロセッシング技術と、アルミニウム/マグネシウム合金による筐体とスピーカーの配置などを最適化することで、迫力のある重低音から高域までカバーする音質を実現したという。
Dr.Dreプロデュースモデル | Dr.Dreの紹介 |
発表会には、日本音響研究所 所長の鈴木松美氏がゲストとして招待され、ENVYの音質の特徴について解析結果を説明した。鈴木氏はまず、ノートPCにおけるスピーカーの設計の難しさを掲げ、「ノートPCでは薄型や軽量化が重視されるため、スピーカーが他の部品に押されて、変な配置になり、音響的に良くない傾向がある。そのため私もノートPCを持ち歩いているときは、常に小型のスピーカーを共に持ち歩き、それで聴くようにしている。小さいスピーカーでも音がかなり違う」と述べた。
鈴木松美氏 | ノートPCにおけるスピーカー設計の難しさ |
一方、ENVY 14 Beats Editionについては、設計当初からスピーカーの位置や、アルミニウム/マグネシウム合金の筐体との共振効果を緻密に計算することで音質を改善。HP Pavilion Notebook PC dv6aとの分析比較結果では、8,000Hz以上の高音部で平均約14.43dB、300Hz以下の低音部で平均約3.68dBブーストされ、高音部ではよりフラットに、低音部ではより迫力のある効果が得られるとした。
ENVY 14 Beats Editionの測定結果。低音がブーストされているほか、高音部もフラットに | HP Pavilion Notebook PC dv6aとの比較 |
鈴木氏は音質について、特に筐体との共振によって得られる効果を加味する必要があるとする。同氏はオルゴールを取り出し、そのまま手に持って回した時の音と、何も入れていないアルミニウム製の名刺入れの上に乗せて回した時の音の違いを実際にデモしながら見せ、後者のほうが低音が響き温かみのある音になることを説明した上で、「ENVY 14 Beats Editionも同様の原理で、アルミニウムとマグネシウム合金、ラバーによる筐体の共振をうまく使って音質を改善できている」と述べた。
鈴木氏がオルゴールを例に筐体の共振による音質変化の重要性を説明 | ENVY 14 Beats Editionの音響特性 |
鈴木氏の説明の後、中原氏はENVY 14 Beats Editionのそのほかの特徴についても説明。赤と黒を基調とした筐体デザインやデスクトップテーマ、キーボードバックライト、そしてパフォーマンス面においてもCore i5/i7やMobility Radeon HD 5650の最新テクノロジーの採用、ソフト面においてもAdobeのPhotoshop Elements 8とPremiere Elements 8のプリインストールなどを挙げ、「Beatsの世界観を十分に堪能できる製品に仕上げた」とした。
発表会で展示されたENVY 14 Beats Edition | 本体天板にもBeatsのロゴが入っている | キーボードバックライトは赤に光る |
スピーカー付近にもBeatsのロゴ | 本体右側面 | 本体左側面 |
キーボードは標準的な配列 | オーディオコーデックはIDT製 | 独自のデスクトップテーマ |
「Beats Audio」のソフトウェア。低音を中心としたイコライザ設定などが行なえる | ヘッドフォン接続時はセンターの位置なども調節可能 |
●ファイナルファンタジーXIV対応モデルやそのほか
オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV」対応モデルである「HP Pavilion Desktop HPE390jp」については、2008年から展開している有名ゲームプロバイダーとのコラボレーションの一環として展開しているとした。GeForce GTX 460やSSDの採用による高速性をアピールし、「ゲーマーにおいて、PCは“武器”であり、今回の製品でユーザーは強力な武器を手に入れることができるだろう」と説明した。
ゲーミングデスクトップPCのこれまでの展開 | ファイナルファンタジーXIV対応モデルの特徴 |
会場に展示されたデスクトップPCのゲーミングモデル |
一方、ノートPCのほかのラインナップでは、店頭で展開する「HP Pavilion Notebook dv6 Premium」に筆まめベーシックを添付することで、年末商戦で重視される年賀状需要に応えられるとした。デスクトップのラインナップでは、セパレート型の前モデルに、ピクセラ製の10倍W録画に対応したTVチューナを選択できるようにし、2011年のデジタル放送移行への需要の高まりに応えるとした。
さらに、アフターサービスを強化し、「HP安心サポート365」の30日版を標準添付。同サービスでは、ネットワークの設定方法や、ユーザーが持つ周辺機器との接続方法、ソフトウェアの活用方法などもサポートし、土日祝日にも対応を行なう。
ノートPCの冬モデルラインナップ | デスクトップPCの冬モデルラインナップ | アフターサービスの強化 |
質疑応答では、今後の日本におけるマーケティングについての質問がなされ、岡氏は、「デスクトップPCでは、MADE IN TOKYOによりある程度のシェアを獲得しているが、ノートPCでは苦戦している。これは製品の問題ではない。日本全国の店舗で我々の製品が実際に見られるのは150店舗程度にしか過ぎないため、ユーザーの認知度の低さが課題となっている。今後は量販店への展開を強化し、ブランドの認知度を高めることからスタートし、現在の2倍、シェア2桁台を目指したい」と述べた。
また、日本での生産体制について問われると、岡氏は、「デスクトップ、ワークステーション、サーバーの9割は日本で生産できているが、ノートPCは現在のところ海外生産である。デスクトップはパーツを共用できるが、ノートでは難しいためだ。しかしユーザーが決めた納期に品を納めるためには、国内に生産拠点があったほうが良いと思っており、できれば今後国内に持ちたい」と答えた。
(2010年 9月 30日)
[Reported by 劉 尭]