Lenovo「Skylight」開発責任者に聞くSmartBookの狙い
~ケータイ並みの接続性とPC並の性能を両立

Lenovo Skylight


 2010 International CESで関連レポートが上がっている通り、Lenovoはこのタイミングでいくつかの特徴的な新製品を一挙に発表した。その中には、携帯電話や携帯型インターネットデバイス(MID)向けARM系プロセッサであるQualcommの「Snapdragon」を採用した、ノート型デバイス「Skylight」も含まれる。今回、その開発責任者である、Peter Gaucher氏(Executive Director, Mobile Internet Products, Idea Product Group)に話を伺う機会を得たので、同製品の狙いなどを聞いてみた。

LenovoのPeter Gaucher氏

 すでに製品の仕様などについては、関連記事で説明しているが、正確な本体サイズなどより細かなことも分かったので、ここにおさらいする。Skylightの見た目は、液晶を開けて、キーボードで入力するという一般的ノートPCと似たフォームファクタだ。しかし、そのCPUにはQualcommのSnapdragonを採用している。ARM系のCPUなので、当然Windowsは動作せず、独自にインターフェイスを用意したLinux系OSを搭載する。

 メモリはDDR2を512MB搭載。OSが入ったメインストレージは8GBのフラッシュメモリ。ユーザーデータを保存するストレージはいくつかあり、まず1つ目が本体に収納可能な4GBのUSBメモリだ。このUSBメモリは普段はキーボード面のヒンジ付近に収納されているが、アンテナのようにぱかっと開けて、着脱できるようになっている。

 USBメモリを開くと、中には3G用のSIMスロットと、microSDカードのスロットがあり、ここには8GBのmicroSDが標準で装着されている。さらに、本体の左側にはSDカードスロットもあり、これもユーザーデータ用ストレージとして利用できる。

 このように、複数のフラッシュメモリを装備するのは、将来的にUSBポートにメモリ以外のデバイスを挿して、機能拡張することなどを考えているからだ。SDカードスロットは、デジカメのメモリを挿したりと、頻繁に出し入れすることが考えられるので、恒常的なストレージにはやや使いづらいが、microSDカードは本体の内部に近い部分にあり、容量を考えても、これがメインのストレージとなりそうだ。なお、2GBのWebストレージ利用権も付属する。

ヒンジ近くにUSBメモリが収納されており、アンテナのように開くことができるUSBメモリの収納部の中には、SIMカードとmicroSDカードも入っている左側面のカバーを開けるとSDカードスロット(右)もある。左側はmini HDMI

 これ以外のインターフェイスとしては、本体左側面に音声出力と、mini HDMIがあり、130万画素のWebカメラも内蔵する。通信機能は3GとWiFi。液晶ディスプレイは1,280×720ドット表示対応の10.1型と高精細だ。ちなみに、液晶は180度まで開くことができる。

 本体サイズは253×201.1×17.2~18.9mm(幅×奥行き×高さ)とかなり薄い。イメージとしては一般的なノートPCのキーボード部分のみの薄さくらいだ。重量は1kg未満となっている。

 このような薄型を実現できたのには、Snapdragonの発熱の少なさがある。実際、本製品には携帯電話がそうであるように、ファンどころか、排熱の穴すら存在しない。また、HDDを搭載しないことも薄型には寄与している。バッテリはリチウムポリマーで、一般的な用途で10時間以上、動画を再生させても7時間以上動作する。

 Gaucher氏によると、Skylightのハードウェア上の最大の目標は薄く作ることだったというが、同時に、キータッチにもこだわった。ThinkPadに代表される同社PCはキータッチの良さで定評があるが、Skylightにもこの思想は受け継がれ、安定したタイピングができることを志したという。実際、ファンクションキーこそ小型化されているが、一般的なキーはフルキーの92%のサイズを確保し、配列にも無理がない。

非常に薄く作られており、液晶はこのように180度開くこともできるカラーリングはレッド、ブルー、シルバーの3つを予定。シルバーはまだ世界に2つ程度しかサンプルがなく、CES会場にも展示はなかったもの。写真では光沢が強く白く見えるが、実際はメタリックな感じ

 発売は当初はアメリカと中国、西欧のみで、4月から5月頃の予定。本体の価格は499ドル程度だが、米国ではAT&Tと提携し、AT&Tの契約がセットになったものは299ドル程度になる見込み。

 このように、Skylightはスマートフォンの基本ハードウェアを、ノートPC的なフォームファクタに展開したものと言える。実際、CPUを開発したQualcommでは、このような製品セグメントを「Smart Book」と呼んでおり、Lenovoでも同様だ。

 Lenovoは、なぜこういった新しいカテゴリに取り組もうとしたのか? Gaucher氏によると3つの要因があるという。1つには、携帯電話向けのプロセッサにも、PCに近い性能がもたらされたこと。もう1つは、インフラが整備され、無線LANや3Gの使える場所が広がったこと。そして3つ目が、アーリーアダプタと言われるマニア層のみならず、一般層においてもWebアプリケーション/サービスが身近な存在になったことが挙げられる。

 3番目については、例えばそれがFacebookなのかMixiなのかという違いはあれど、ソーシャルネットワークサービスは日本でもかなり一般的になりつつある。また、クラウドの整備が進むことで、これまではローカルPCにアプリケーションをインストールして行なっていたことが、ブラウザだけでもできるようになってきている。余談だが、Skylightという名前には、クラウド(Cloud:雲)を意識した点もあるという。

 Skylightの主だった用途もやはり、Webアプリケーションということになる。ただし、Skylightは、マルチタスクで複数のアプリケーションやウィンドウを立ち上げられる点や、高解像度液晶により、横スクロールせずにPC向けフルサイトを閲覧できると言う点で、スマートフォンよりも秀でているとGaucher氏は説明する。

 また、Skylight専用のコンテンツサービスも行なう。これはLenovoが自社でやるのではなく、CinemaNowと提携した映画配信や、Amazon.comと提携した音楽配信などのサービスが決定している。

独自OSのスタート画面。各種ガジェットで、Gmail、天気予報、RSS、YouTube、動画などを表示している当然ウィンドウサイズも変更可能。解像度に余裕があるので、ブラウザは横スクロールが不要な程度に広げても、さらに横にガジェットを表示できる動画はFlash 10に対応

 では、ネットブックに対する優位点は何なのか? 499ドルという基本価格は、ネットブックと同等か、場合によっては100ドル近く高い。そして、当然Windows用のアプリケーションは動作しない。

 前者については、バッテリ駆動時間、薄さ/軽さ、ネットへの接続性、デザインなどの点で優位であるとした。モバイルPCでは3G対応のものも増えつつあるが、ネットブックではあまり例がない。Skylightは標準装備であり、(ローミングの問題はあるが)世界中のあらゆる場所でネットに繋げることができる。

 非Windowsである点については、問題にならないとGaucher氏は語る。その理由として同氏は、この製品がターゲットにする若者層は、iPod、ゲーム機、PC、スマートフォンなど、異なるユーザーインターフェイスを使い分けることに慣れており、苦を感じないという例を挙げた。それらのユーザーにとっては、インターフェイスが同じであるかどうかはさほど関係なく、それよりもインターフェイスが十分に分かりやすく簡単であれば受け入れられるのだという。

 とはいえ、LenovoではSmart Bookがネットブックやスマートフォンを完全に置き換えるとは考えていない。あくまでも両者にないメリットを持ち合わせる、補完的なデバイスと位置づけている。実際、Skylightの発表会では、同社のスマートフォンも発表された。

 ただし、この3G接続とコンテンツサービスは、Skylightのメリットであると同時に足枷にもなっている。というのも、Lenovoはこの2つの点をパートナーに頼っているからで、例えば日本でSkylightを売りたくても、キャリアやコンテンツプロバイダとの提携を済ませてからでないと販売することができない。もちろん同社は日本への展開もにらんでいるが、具体的な予定は未定となっている。

 日本でもiPhoneは好調で、NTTドコモもつい先日、Android携帯の「Xperia」を発表するなど、スマートフォンは今後急速に普及していくと思われる。しかし、スマートフォンを一度使うと、場合によってはより大きな画面や、キーボードなどが欲しくなることもでてくる。そういった点から、携帯性があり、接続性も高いSmart Bookは、ニッチな市場に収まらず、一定の歓迎を受けるものと思われる。その需要が顕在化するまでにLenovoを初めとしたメーカーがSmart Bookを日本でも展開できるか、注目したい。

(2010年 1月 22日)

[Reported by 若杉 紀彦]