株式会社日立製作所は21日、人間共生ロボット「EMIEW2 (エミュー・ツー)」の探索/案内機能を開発したと発表して、デモンストレーションを行なった。探してほしいものの名前をロボットに尋ねると、ウェブ上のデータをもとに作成したデータベースを使ってモノを識別して、屋内に設置した複数台のネットワークカメラが撮影した画像からモノがある場所を探し出し、その場所まで通路や曲がり角でも速度を落とさず人を案内できる。
日立製作所では搬送/管理、案内/巡回、生活支援を目的として、ロボット開発を進めている。中でも人間共生型ロボットの機能としては、人混在環境での安全で俊敏な移動機能、人とのスムーズなコミュニケーション機能、ネットワークの活用による知能/知覚の強化などが必要としている。
「EMIEW」は同社が2005年の愛知万博で開発してステージデモを行なっていたロボット。その後、2007年に開発した人間共生ロボットEMIEW2は、身長80cm、重さ14kgの小型軽量のヒューマノイドロボットだ。全身の自由度は25.2輪と4輪の変形移動機構を持っていることが特徴で、オフィスや公共施設での案内サービスを目的として、人の早足と同じ時速6kmで自律走行を行なうことができる。
立体的音源定位ができる14チャンネルのマイクアレイを頭部に搭載しており、2010年には、雑音の中でも人の声を聞き分けて対話して、配線や床面の段差を乗り越えて円滑に走行できる技術を開発して実装、発表してきた。
日立の考えるサービスロボットのフィールドは搬送/管理、案内/巡回、生活支援 | 人間共生型ロボットに必要な機能 | EMIEW2の頭部には14チャンネルのマイクアレイを搭載 |
【動画】EMIEW2登場。倒立2輪での移動方式が特徴 |
【(動画】頭部のカメラで人の顔やモノを認識。認識の処理はサーバーで行なっている |
今回の技術について日立中央研究所情報システム研究センタ長の山足公也氏は「ロボット単体だけではなく周囲の環境を含めたシステムとしてどうあるべきかと考えて開発した」と述べた。具体的には、天井に設置されたネットワークカメラと連携してロボットが動くというもの。
まず、公共空間やオフィス室内全体をカメラでサーチ。モノの位置と名前を常に把握する。これにはWeb情報を活用して物体を認識する技術が使われている。同社ではWeb情報をベースに物体の特徴をデータベース化した「類似画像検索エンジン」を開発して発表している。これはウェブ上をクロールして集めた画像データベースで、画像1つ1つとテキストが対になっている。そのデータはおよそ1億件あるという。それに対して撮影した画像でクエリをかけて、統計解析することで最終的に見たものが何であるかを決定する。この処理はネットワークで接続されたロボットと随時通信しているサーバーで行なっている。認識性能の定量評価はこれからとのことだ。
なお物体認識技術の詳細は3月15日から16日まで東京工業大学で開催される、情報処理学会第181回コンピュータビジョンとイメージメディア研究発表会で発表される予定。
今回実現したネットワークカメラと連携した探索/案内機能の概要 | ウェブ情報を使って物体の認識ができる | デジタル一眼レフカメラを認識しているところ |
ロボットは上記の技術を用いて、音声認識で人の問いかけを理解して対象の物体が部屋の中のどこにあるのか見つけて、そこの場所まで案内することができる。案内時の移動には、今回新規開発された「モデル予測姿勢制御技術」が活用されている。ロボットがカーブを曲がるときには外側に向けて遠心力が発生する。そのためこれまでの「EMIEW2」では、カーブでいったん止まる必要があった。今回、リアルタイムに遠心力と安定な姿勢を算出して、サスペンションを使って姿勢を安定制御することで止まることなく走行することができるようになった。制御周期は80ms。処理時間は5ms以下。
天井に設置されたネットワークカメラ | カーブでの遠心力を考慮したモデル予測姿勢制御技術 | 探しものがあるところまで人を誘導する |
(動画)カーブをスムーズに曲がれるようになった |
(動画)これらの技術を組み合わせて、天井のネットワークカメラを利用して人間の問いかけに応じて物品の場所まで案内するデモ |
今後は実証試験を行ないながら、各要素技術を含めて実用化の方向性を探っていく。
(2012年 2月 21日)
[Reported by森山 和道]