ソニーは29日、都内で発表会を開催し、通信機能を搭載した電子書籍端末の新製品「PRS-T1」、「PRS-G1」を発表すると同時に、これまでPC向けのみだった「Reader Store」の電子書籍端末対応版の公開を発表した。
PRS-T1、PRS-G1はいずれも9月1日のIFAコンファレンスにて海外モデルとして発表されていた製品で、Wi-Fiおよび3G+Wi-Fiを搭載し、「Reader Store」からコンテンツの直接購入が行なえることが特徴。発売日は、Wi-Fi搭載の「PRS-T1」(市場想定売価20,000円前後)が10月20日、3G+Wi-Fi搭載の「PRS-G1」(市場想定売価26,000円前後)が11月25日とされている。
ハードウェアその他詳細については、別記事にて紹介されているのでそちらを参照されたい。本稿では、発表会の様子を中心にお届けする。
●通信機能を搭載、すぐにストアに接続して購入できる左から、ソニーマーケティング株式会社執行役員 松原昭博氏、KDDI株式会社 商品統括本部長兼コンバージェンス推進本部長執行役員 牧俊夫氏、ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部デジタルリーディング事業部長 野口不二夫氏 |
発表会ではまず、ソニー株式会社コンスーマープロダクツ&サービスグループVAIO&Mobile事業本部デジタルリーディング事業部長の野口不二夫氏が登壇。野口氏は2010年12月にサービスをスタートして以来の展開について、記事単位での雑誌の販売、.bookのサポートによるコミックの配信といったトピックを紹介し、現在はReader Storeを通じて28,000のコンテンツを提供しているとの実績を明らかにした。
また6月に発表した紀伊国屋、楽天、パナソニックとの協業、さらに9月に発表したSony Tabletといったプラットフォームの拡大など「今後はより多くの電子書籍を楽しんでもらうための環境整備をしていきたい」と、今後のさらなる展開への意欲を語った。
続いて電子書籍リーダーの新モデルとなるWi-FiモデルPRS-T1と、3G+Wi-FiモデルPRS-G1が順にお披露目された。新たに搭載されたワイヤレス機能により、端末から直接Reader Storeに接続してコンテンツが購入できることに加え、発売済みのベストセラー10作品や電子書籍初登場の5作品、Reader Store先行販売の16作品の計31作品のお試し版がプリインストールされており、試し読みで気に入ればすぐにストアに接続して購入できるといった利便性の高さをアピールした。
さらに転送ソフト「eBook Transfer for Reader」は従来のWindows版に加え、新たにMac版をリリース。これらの機能については「海外版と見た目は同じだが、中身はまったく違う」とし、日本向けに新たに用意されたことを強調した。
製品としては2世代目にあたる今回の製品だが、通信機能以外の特徴として、従来モデルの215gに比べて50g近くも軽い168gと、大幅に軽量化されたことを野口氏は挙げる。同氏は「長く本を読むためには1gでも軽いことが重要」とし、200gを超えている競合の製品との大きな差別化要因になっているとの見方を示した。
また、幅が昨年の商品より約10mm小さくなったことでサイズは新書と同等となり、厚みは新書の半分程度となったことも、実際に新書を取り出してのデモンストレーションを通じてアピールした。
最後に今後の展開として、EPUB3への対応を無償アップデートで実施するほか、楽天のRabooと紀伊國屋書店のBookWeb Plusに対応し、Readerからコンテンツを購入できるようにすることを予告。いずれも準備ができ次第告知を行なうとし、発表を締めくくった。
●KDDIとの協業によって実現した3Gの定額接続プラン
続いてソニーマーケティング株式会社執行役員の松原昭博氏が登壇。松原氏は既存のReaderの利用者を分析した結果、本を月2冊以上読む層が、利用者の7割を超えていると指摘。Readerが読書好きのユーザーに支持されているとの見方を示した。同氏はこれらユーザーに対してさらなる本との出会いを提供していきたいとし、ハードだけにとどまらない、ブックストアを融合したサービスの強化に意欲を見せた。
具体的には、これまではコンテンツの購入においてはPCを介する必要があったのに対し、Readerから直接ストアに探しに行って購入するという「いつでもどこでも」を実現したほか、さらに同社の嗜好解析技術「voyAgent」により、より好みに合った作品をReaderから紹介できるとした。
これらを支えるのが、3G対応モデルPRS-G1向けに用意される2種類の利用プランだ。「Reader Storeプラン」では、ストアの閲覧およびコンテンツのダウンロードにおいて3Gの接続料が最大2年間無料となるほか、「Webアクセスプラン」ではこれに加えて月額580円でReader Store以外のインターネット接続も行なえる。au通信契約はReaer Storeの登録とあわせて申込手続きが行なえ、支払いもまとめて行なえるなど、さまざまな手続きをワンストップで行なえるのが特徴だ。
この日ゲストとして登壇したKDDI株式会社商品統括本部長兼コンバージェンス推進本部長執行役員の牧俊夫氏は、通信機能付きコンシューマ向けデバイス市場が今後重要であるとし、「Link→au」と呼ばれる今回のソニーとのアライアンスが実現するに至った過程を紹介。今回のアライアンスを「画期的なビジネスモデル」と評し、全面的な協力体制をアピールした。
【動画】Reader Storeに接続したのち、ホーム画面に戻ってコンテンツのページめくりと文字サイズ変更を行なう様子。画面切り替え時に白黒反転するE Inkならではの挙動だが、動作そのものはきびきびとしている |
●質疑応答ではAmazon Kindleの動向に質問が集中
この日の発表会に先立つこと約12時間前、Amazonが79ドルからの「新Kindle」のラインナップを発表したこともあり、質疑応答ではKindleについての話題が集中。ソニー側の回答に納得しない記者が食い下がる一幕も見られた。
Kindleの新ラインナップを受けて端末の価格戦略をどう考えるかという問いに対し、野口氏は「アメリカではWi-Fiのタッチ対応モデルを149ドルで提供している。Amazonが発表したWi-Fiのタッチ対応モデルは99ドルだが、実態は広告付きモデルであり、広告なしでは139ドルということで(自社がアメリカで提供している同等モデルの149ドルとは)ほぼ互角。我々は5カ国のマルチランゲージ辞書が12冊入っているなど、商品として決して負けているものではない」との見方を示した。一方で「広告モデルという新しいビジネスモデルについては、お客様の利便性を考えつつ、今後研究をしていきたい」とした。
Kindleに対する優位点を尋ねる問いには「端末についてはとにかく使ってみてほしいとしか言えない。カユいところに手が届くように我々が長年培ってきたユーザーインターフェイスをぜひ使ってみてほしい」とした。コンテンツについては「アメリカ、北米、日本のみならずヨーロッパでも展開することで、ソニーがグローバルで持っているコンテンツの量、そして質により、国を超えてお客様によりよいサービス、よりよいサポートができると考えている」(野口氏)と述べた。
国内の電子書籍の普及について残された課題についても質問が飛び出した。野口氏は「課題とは思っていない」としながらも「アメリカは新作の普及率が現在では95%を超えているが、当初は非常に低いカバー率だった。市場が大きくなるにつれカバー率が増え、ある時点で急速に上がった。我々はまだ(事業をスタートして)10カ月であり、お試し版にしても当初からすると素晴らしいコンテンツが出版社や作者から提供されるようになりつつある」とし、アメリカよりも早いタイミングでコンテンツが揃うとの予測を示した。また「お客様に(電子書籍の)良さを訴求し続けていくと同時に、コンテンツを作られている方にビジネスとしてのメリットをお伝えしていくことが重要」とも語った。
Kindle対抗で価格引き下げなどを検討していないのかとの問いについては「各社ともさまざまなビジネスモデルを持っている中、当社としてはソニーが持っているビジネスモデルをいかに大きくしていくかに腐心している。(Amazonなどの)競合他社の動きを追随するのではなく、ソニーのビジネスドメインの中でコンテンツやデバイスを活かしてお客様により楽しいこと、魅力的なことを提供できるかに軸をおいてやっていく」と野口氏は述べ、業態の違い、向かっている方向の違いを強調した。
(2011年 9月 29日)
[Reported by 山口 真弘]