マイクロソフト株式会社は、小学生・中学生・高校生など子どものPC利活用促進に向けた取り組みを強化。小・中学校でのPC利活用促進に向けたプログラムの提供、子ども向けソフトの提供、児童・生徒向けの新ライセンスプログラムの提供などの施策をパートナーと連携し実施する。子ども向け施策を強化することで、「韓国並みの個人PC保有率とすることで、新たに400万台規模のPCマーケットが生まれ、PCビジネス全般が活性化する」(マイクロソフト 執行役常務 パブリックセクター担当・大井川和彦氏)との見方を示している。
マイクロソフト自身が実施する施策としては、初等中等教育分野の教育機関におけるPC利活用促進に向けた取り組みとして、「Innovative Education Program(イノベーティブ エデュケーション プログラム)」を6月から実施する。
このプログラムは、自治体、教育委員会や学校などの教育機関と連携し、学校や家庭を含めたシームレスな教育環境など21世紀型先進教育環境づくりの提示に取り組む「Innovative Schools Program(イノベーティブ・スクールズ・プログラム)」、教師を対象に、教育委員会と連携し、授業や校務における効果的なICT活用を支援するためのオンサイトおよびオンラインのトレーニングを提供する「Innovative Teachers Program(イノベーティブ・ティーチャーズ・プログラム)」、教育委員会、教職員を対象に、海外や国内などの21世紀型スキル育成のICT利活用の事例の共有や、教育関係の有識者によるパネルディスカッションやワークショップなどのイベントを行なう「Innovative Teachers Day(イノベーティブ・ティーチャーズ・デイ)」の3つから構成されている。
マイクロソフトが提供する教育現場向け施策「Innovative Education Program」 | 新たに提供するInnovative Schools Programの概要 |
子ども向けOffice「Dr.シンプラー 2010 Lite」の概要 | 教育機関向けプレゼンテーションツール「Microsoft Mouse Mischief」の概要 |
イノベーティブ・スクールズ・プログラム以外の2つはすでに実施されている。また、「スクールズ・プログラムの詳細については、来週、首都圏の自治体と共にあらためて発表を行なう」(マイクロソフト・大井川執行役常務)と述べた。
児童向けの新ライセンスプログラムの概要 | マイクロソフトが提供する親子のためのPC活用サイト「きっずナビ」 |
今後実施予定の子ども向けプログラム | コンテンツ、サービスの賛同パートナー |
教育機関及び子供向けのソフトウェアツールとしては、小学校低学年児童向けのOffice対応ソフトウェアとして2009年11月から提供してきた「Officeきっず2007」を機能強化。ゼッタテクノロジー株式会社(田中義彦社長)と連携し、無償のアドインツール「Dr. シンプラー 2010 Light」を6月30日から、ゼッタテクノロジーのサイトから提供する。また、従来有償で販売していた「Dr. シンプラー」のOffice 2010対応版のパッケージを全国の小学校対象に無償配布することも計画している。
サイトから無償で提供する「Dr. シンプラー 2010 Light」は、Office IME 2010用学年別辞書の提供により、学年にあわせた漢字の表示が可能となり、キーボードが使えない子ども向けにソフトウェアキーボード、音声読み上げソフトへの対応などを実現。ポスターや絵日記、感想文などのテンプレート集200種類を追加している。
Dr.シンプラー 2010 Liteを利用すると、「きっず」というタグが表示される | Dr.シンプラー 2010 Liteのソフトキーボード |
Dr.シンプラー 2010 Liteの辞書モードを利用すれば、小学校1年生なら小学校1年生の間に習う漢字のみを表示することができる |
また、図書室や公民館など子どもの数に対して少ない台数のPCを利用する際に利用することを想定した教育機関向けプレゼンテーション用ツール「Microsoft Mouse Mischief」を6月2日からマイクロソフトのWebサイトを通じて提供する。
図書室など子どもに比べて台数が少ないPC利用を想定した「Microsoft Mouse Mischief」では、まず教師のマウスを指定。最大25台までのマウスを接続し、それぞれ異なるデザインのマウスポインタを表示し、質問への回答、お絵かきなどを共同で行なえる |
このツールは、先生の質問に対し、子どもの感想や意見を、マウスを使って回答してもらうことを可能とする。有線または無線のマウスが、最大で25台まで接続することができる。動作環境はPowerPoint 2007、およびPowerPoint 2010で、対応OSは、Windows Vista/7のどちらかになっている。
家庭で子どもがPCを使うことを想定し、Windows 7には家族それぞれのアカウントごとに利用時間の設定などが行なえる機能が用意されている |
新たに開始する「児童生徒向けライセンスプログラム」は、家庭で子どもが安心してPCを活用できるように、Microsoft Officeなどのマイクロソフトの製品、子ども向けのOfficeアドオンツール、セキュリティ対策ソフトウェアを従来よりも購入しやすい価格で提供する。対象となるのは、マイクロソフトとボリュームライセンス契約を締結した教育委員会がカバーする地域の小・中学校、高等学校に在籍する児童生徒。すでに全国に先駆けて兵庫県教育委員会と生徒向けの提供方法について、パートナー企業を交えて協議を行なっている。
今後は、財団法人学習ソフトウェア情報研究センターと連携し、全国の教育委員会に本プログラムを提案していく計画だ。
提供時期は7月中旬を予定しており、対象となる製品は「Microsoft Office 2010」など4製品で、「Office Professional Plus 2010」の税抜き参考価格は8,000円を予定している。
家庭でのPC利活用については、6月2日から「マイクロソフト きっずナビ」の名称で、子どもが最新のPCを効果的に活用し、安全に楽しく学ぶためのPC利活用方法の紹介、親に向けて学習効果を上げている教育現場の事例の紹介などを行なうWebサイトを立ち上げた。
さらに、子供向けPCやサービス提供をパートナーに呼びかけ、子どもが活用するのに最適なPC「キッズPC」提供、コンテンツやサービスを提供するパートナーに向け協業を訴える。
教育関連のコンテンツ、ソフトウェアを提供するパートナーとしてイーフロンティア、大日本印刷、がくげい、ゼッタテクノロジーなど13社が賛同を表明。賛同PCメーカーとしても、アスース・ジャパン、日本エイサー、NECパーソナルプロダクツ、エプソンダイレクト、オンキヨー、サードウェーブ、デル、東芝、富士通、マウスコンピューター、レノボ・ジャパンなど17社が賛同を表明している。
子どものPC利活用促進が必要な背景として、マイクロソフト樋口泰行社長は、「日本の中で諸外国に比べPC利活用が遅れている分野がいくつかあるが、教育分野もその1つ。教育現場でのIT利活用については、デメリット部分に脚光をあて、普及の遅れに拍車をかける傾向にある。これが結果的に人材育成、国の競争力が劣る原因にもなる。個人のPC所有台数を比較すると日本は米国の3分の1で、韓国と比較しても2分の1と遅れをとっている」と欧米に比べ、利活用が遅れている分野が教育現場であると指摘した。
個人でのPC所有台数の他国との比較 | キッズモデル対応パートナーであるデルの教育向けPCの概要 | デルの教育向けPC「Latitude 2110」を手にしたマイクロソフト・大井川執行役常務 |
その上で、その実情を変えていくために、「先進国に比べ予算が少なく、利活用シナリオが不足しているなど色々な問題が重なっている。先週は私自身がデジタル教科書教材協議会の準備会に参加させて頂き、産官学連携の活動が始まっていることをアピールさせて頂いた。今後日本での教育現場でのPC利活用を推進していくためには、PCメーカー、コンテンツやサービスプロバイダー、公的機関、教育機関、さらに子どもさんや子どもを持つ親御さんなどと業界を超えたパートナーと心を1つにして取り組まないと改善も成果も生まれない。日本の実情をふまえ、パートナーの皆さんと共に、さらなる学習環境の充実を呼びかけていく」とさまざまな業界のパートナーを交えての取り組みが不可欠であると強調した。
教育現場からの声として、樋口社長と同様、デジタル教科書教材協議会の発起人の1人である立命館大学 教育開発推進機構教授の陰山英男氏をゲストに招き、PC利活用の必要性を次のように訴えた。
「大げさに聞こえるかもしれないが、タブレットPCを全ての子どもに配布することで教育が変わり、日本の教育の遅れを取り戻せる最後の機会になる。今のHDD容量からすれば、小学校1年生から高校3年生までの教科書全て入り、子どもたちは自由に復習、予習ができるようになる。また、先生の数に比べ、子どもたちの数が多すぎて、子どもたちが先生の指導を待つ間に学習したことを忘れてしまうという問題も、ネットワークを利用すれば改善できる可能性がある。日本の教育現場をどうすべきか、未来を見つめ、世界をリードするような教育システムとは何か、国家戦略として考えるべきではないか。デジタル教科書教材協議会のような民間の協議会もできたし、政府内にも懇談会が出来て、数年前には夢物語でしかなかったこと、実現できる素地できてきた。現在はシンガポール、韓国に大きく遅れをとっている日本が逆に世界をリードするというのも決して夢物語ではない。もっとメーカーの皆さんに教育に入ってきてもらいたい。そしてその技術を生かして、日本の教育現場を変えてもらいたい」。
(2010年 6月 2日)
[Reported by 三浦 優子]