SteelSeriesのCMO、Kim Rom氏インタビュー【Kinzu/マーケティング編】
~実売3,980円のゲーミングマウスの意図

今回インタビューしたKim Rom氏

9月中旬 発売
価格:オープンプライス



 本稿では、SteelSeriesのマーケティング最高責任者(CMO) Kim Rom氏インタビューの際に説明された光学式センサー搭載ゲーミングマウス「Kinzu」と、ゲーミングマウスパッド「9HD」、「4HD」、および今後のSteelSeriesのマーケティングについて紹介する。Xaiについてはこちらを参照されたい。

 なお、発売時期はいずれも9月中旬で、店頭予想価格は、Kinzuが3,980円前後、9HDが4,980円前後、4HDが2,980円前後の見込み。

●戦略的値付けの「Kinzu」
Kinzu

 光学式センサーを搭載したKinzuについては、今回戦略的な値付けがされている。実売価格は3,980円、普通のマウスにちょっと上乗せすれば手が届く価格帯だ。

 Rom氏は「Kinzuに関しては完全にエントリーモデルとして位置づけた。これは一般なユーザーに、もっとプロフェショナルな製品のクオリティを知ってもらいたいからだ。一般のユーザーからすれば、ちょっとしたアップグレードだ」と語る。

 Kinzuの開発にあたって、「既に大半のメーカーが光学式センサーの生産を終了しており、唯一、1つのメーカーだけが、我々の光学式センサーの開発、アップグレードに賛同した」という。


Kinzuの主な特徴

 Kinzuに搭載されているセンサーのスペックとしては、400~3,200CPIの間で調節可能な解像度、20Gの加速度、50インチ/secのトラッキング性能などを謳っているが、「最も重要なのは9,375fpsというスキャン速度」とRom氏は説明する。ゲームにおいては、解像度ではなく、処理速度が重視されるためだ。

 そしてフォルムだが、同時発売の「Xai」のフォルムをそのままに、7%小型化したものを採用した。これは手の小さいゲーマーをカバーするとともに、「マウスを完全に手で覆って、細かな動きで操作したいというゲーマーのニーズに応えるもの」と説明した。

 ボタン数もサイドボタンを省略し、4ボタンとしているが、「これはFPS(ファーストパーソンシューティング)ではなく、RTS(リアルタイムストラテジー)ゲームに特化したためだ」という。RTSでは選択(左クリック)と行動決定(右クリック)のいずれかしか利用されないため、サイドボタンを装備すると誤操作を招くとした。

 従来の「Ikari Laser」がRTS向け、「Ikari Optical」がFPS向けと謳われていたが、今回のXaiとKinzuでは逆の関係だ。Rom氏は、「過去は光学式がトラッキング精度が高くFPSに向くという市場全体のニーズがあったため、そのような戦略を採った。しかしレーザーセンサーはこの2年間完成度を高め、光学式を超えることができたので、このような戦略になっている」とした。

 だが、KinzuがFPSに向かないものであるかといえば、そういうわけでもないという。「Xaiが完成してしばらく、カウンターストライクをプレイする1チームのプロゲーマー達に評価してもらっていた。そして、カウンターストライクの大会が開かれる1週間前に、Kinzuを彼らに渡したら、大会当日、5人中3人が実際にKinzuに変えてプレイし、大会で優勝することができた。当初、Kinzuが市場にどのように受け入れられるか心配していたが、大会で優勝する結果を残したことは誇りに思うし、Kinzuもまた自信を持ってFPSゲーマーに推奨できる製品である証拠であると思う」とRom氏は説明した。

●高品位なセンサーには高品位なマウスパッドも
9HD(写真右)と4HD(写真左)

 続いて、Rom氏はマウスパッドの9HDと4HDについて説明した。

 Rom氏は、新製品のアドバンテージについて、「高性能なセンサーを持つマウスに、高性能なマウスパッドが必要か、という疑問は多く寄せられる。しかし、高性能なセンサーを、粗末なマウスパッドで使用するということは、フルHDのTVにVHSビデオを繋いで見ているようなものだ」と比喩する。

 「もちろん、XaiのレーザーセンサーもKinzuの光学式センサーも、大抵の表面で高いパフォーマンスを実現できるように設計されている。しかしその性能をフルに引き出すためには9HDまたは4HDが必要だ」とした。

 9HDと4HDの違いはサイズだけで、構造は同じだ。いずれも4層構造となっており、一番下のラバー層は強力なグリップ力を持つラバー素材、2番目の層はマウスパッドが変形しないためのプラスチック、そして3層と4層目がレーザーまたは光学式センサーのスキャンに最適化した層だ。

 3層目は、SteelSeriesが印刷された層で、反射率が良いプラスチックを採用。一方4層目は光を拡散する細かい凹凸が施される透明なプラスチックであり、センサーの性能を最大限に引き出せるとした。


●今後の製品戦略について

 最後に、製品戦略について、いくつかの質問をした。

Q:他社がワイヤレスゲーミングマウスを投入していることについて、SteelSeriesはそれをどう見ていますか。製品の予定はありますか?

A:ワイヤレスゲーミングマウスを出すメーカーは、ゲーミングマウスを真摯に受け止めていないか、ゲーミングマウスについてまったく理解していないかのどちらかだ。

 まずは、SideWinder X8でもなんでもいいが、ワイヤレスマウスを持って、ものすごくゆっくりマウスを動かして見て欲しい。ポインタが不安定な動きをするのは一目瞭然だろう。

 次にLANパーティの場を想像してみて欲しい。もし1万人がワイヤレスマウスを使っていたらどうなるだろう? おそらく混信してゲームにならないだろう。

 マウスの重さについて、ゲーマーに問うと、「軽ければ軽い方がよい」という回答が得られる。ゲーマーは軽くなることを望んでいても、重くなることを望んでいない。バッテリによってマウスが重くなるのなら、それは真っ先に排除すべきだ。

 また、バッテリを搭載することによって、センサーの位置がマウスの中心に来なくなることが多くある。すると、右に振ったときと左に振ったときの挙動が微妙に異なってくる。これもゲーミングマウスにあってはならないことだ。

 我々はゲーマーの意見を真剣に受け止めている。だから我々のメーカーのロゴにも「professional gaming gear」という文字を入れている。だから無線のようなソリューションは考えていない。

Q:キーボードやヘッドセットについて、しばらく動きがないようですが、どうでしょうか?

A:キーボードについては、「7G」で1つの頂点に達したと思っている。なので、現在、開発の重要度が下がっている。一方ゲーミングヘッドセットについて、詳細はまだ明かせないが、我々は2009年年内に3製品、オーディオ製品を用意している。楽しみにしてもらいたい。

Q:XaiとIkari Laserは併売していきますか?

A:答えは「Yes」だ。Xaiは確かに高いスペックのセンサーを持ち、Ikari Laserを完全に超えているので、過去にIkariを使ったユーザーもほぼ問題なく移行できるだろう。

 しかし、Xaiは面積相関法を採用した汎用的なセンサー、Ikari Laserは独自の方式を採用したセンサーである。これをもっと一般的な例に例えると、CDとレコードの違いぐらいはある。

 マウスを動かす、あるいは音を出す、という観点からすれば、XaiとIkariも、CDとレコードもまったく同じだ。世の中の99%の人は、XaiとIkariの違い、CDとレコードの違いに気づくことはない。しかし残りの1%の人はこの違いに気づくことだろう。

 LANパーティーの中には、50,000ユーロを賭けて勝負するものもあります。我々は前述のようにゲーミングデバイスを真剣に受け止めている。だからXaiによって、Ikari Laserの出荷を中止することはない。

Q:日本では、まだマイクロソフトやロジクール、Razerほど、ブランドの知名度が高くないようですが、今後の予定としてはどうでしょうか?

A:我々のスタンスは過大な広告をしないということだ。SteelSeriesのブランドはプロゲーマー間の口コミで広まっている。これによって我々は広告費を抑えるとともに、売り上げの一部をコミュニティに反映させている。

 なぜ口コミで広げるかというと、我々がゲーマーとする人種は、基本的に知的で、自分でゲーミングデバイスに関する情報収集ができるものだと位置づけているからだ。

 日本はコンソールゲームが盛んな地域であるが、PCゲームについては普及していない。しかし今ようやく、我々もスタート時点に立っていると思うので、今後の展開に期待してもらいたい。

(2009年 8月 6日)

[Reported by 劉 尭]