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お気に入りの言葉は「ぐぬぬ」? ニコ生で成長するアンドロイドル「U」育成プロジェクト
~阪大石黒研、ドワンゴ、パルコが開始
2017年2月15日 17:33
国立大学法人大阪大学石黒研究室、株式会社ドワンゴ、株式会社パルコは15日、アンドロイドアイドルである「アンドロイドル『U』」育成共同プロジェクトを開始すると発表し、東京都内・六本木にある「ニコファーレ」で記者発表会を行なった。
「アンドロイドル」という言葉は、「アンドロイド」と「アイドル」をくっつけた造語。アンドロイドル「U」は、ニコニコ生放送での視聴者とのやりとりを通じて対話パターンを蓄積、学習し、ある程度自律的な会話ができるアンドロイド。未完成なアイドロイドルが、ネット上でのユーザーとの対話を通じて徐々に完成に近づいていく様子をエンターテイメントとする。
ニコニコ生放送の場合、多くの質問やコメントが流れるので、それまでに学習で蓄積した対話パターンから答えられる質問だけに答えていくことで自然な対話が実現できるという。大阪大学が頭脳、ニコニコがエンタメ、PARCOが空間を提供することで、社会の中で「アンドロイドのアイドルを育成する」というプロジェクトを通して、ロボットが人と人とを繋ぐ技術の検証を行なう。
石黒教授によるアンドロイド研究の背景
発表会では、まずはじめに株式会社ドワンゴ取締役の夏野剛氏と大阪大学教授の石黒浩氏が背景を紹介。石黒教授は「対話型ロボット技術で世界を変えていきたい」というコンセプトを語った。研究室の中だけでは人と関わるロボットは作れないと考えて、ドワンゴやパルコと共同研究をすることになったという。
なお今回のロボットの具体的技術は、大阪大学石黒研究室の助教である小川浩平氏と、同准教授の吉川雄一郎氏の両氏によるとのこと。
これまで石黒氏らは、等身大で人と似た形のロボットである「アンドロイド」、小型の複数対話ロボット「コミュー」、そしてタッチパネル対話機器などを使って、人とロボットとの対話技術を積み重ねてきた。人と人とがもっと自由に繋がれる社会を目指し、その街中での実証を行なっていきたいと考えているという。
石黒教授のアンドロイドは、もともとはATRで開発されていた「ロボビー」という対話ロボットが起源だ。それに柔らかい皮膚を持たせ、さらに外見も人に近づけたのが現在のアンドロイドだ。石黒教授は、自身とそっくりのジェミノイド、ショーウインドウや演劇のなかで使われるロボット、デパートで売り子として使われるロボット、著名人を使った落語ロボットなどを開発してきた。デパートで使われるロボットではタッチパネルを対話に用いた。
映画にもアンドロイドは登場し、「コドモロイド」は日本科学未来館でニュースを読んでいる。もっとも有名なのはマツコロイドだろう。最新作は夏目漱石のアンドロイドである。アンドロイドの可能性を探求し続けている。
「コミュー」は社会的対話ロボットだ。音声認識しなくても、2台のロボットの間で作られたストーリーの中に人を巻き込むことで自然な対話ができるのではないかという考えのもと、実験で使われている。
タッチパネルは、人間がタッチパネルを使って選択することでロボットと対話を進めるというものだ。人と人との対話にも使っており、コンピューターの中に作り込まれている限られた対話であるにも関わらず、人が自ら選択することと音声で発話が出て来ることで、自然な対話が進んでしまうという。
石黒教授は、これらのメディアを使って、人と人とを繋がる街を目指していると背景をまとめた。
「ニコ生主」として活躍予定のアンドロイドルU
背景紹介のあと、アンドロイドルUが紹介された。アンドロイドルUは、研究室から「ニコニコ生放送」を1カ月くらい行ない、その中でコメントを読んで対話学習を繰り返すことで、ある程度自律的に答えることができるレベルに達したという。学習した対話パターンの中で、アルゴリズム上、近いものを発話するという仕組みだ。
だいたい1,000パターンの対話で10%程度の対話が自動化できていることになり、現在の対話パターンは4,000程度。対話パターンと自発的な発話を組み合わせることで、ある程度の範囲ならば、完全自律での対話も可能になっているという。
石黒教授は「多くのコメントが流れる中で、答えやすいものを答えたり、応えられない場合は黙ってしまうことで、4割程度のパターン完成度であっても対話を続けることができる」と述べた。もちろん、対話の参加者にも寄るようだ。
リアルタイムで実際のニコニコ生放送で流れるコメントに答えるデモも行なわれた。このデモではなぜか「ぐぬぬ」を連発。さらに弾幕で「ぐぬぬ」が埋まり、よけい「ぐぬぬ」を連発することになった。
石黒教授は「真のアイドルはアンドロイドしかなれないかもしれない。Uが本当に人気が出れば真のアイドルを作れるかもしれない」、「ネットの力も使って人に影響を与えられるアンドロイドになるといい」と語った。夏野氏はアイドルに期待されているものとして、「人間性ではないかもしれないけれど、人間であってほしい」という気持ちがあるとして、ニコニコのインフラで「U」を育てていきたいと続けた。
表現力は今後高めていくとのことだが、石黒教授のアンドロイドは動くことができない。そこでまずは、池袋にあるニコニコの本社のサテライトスタジオでネット上の生放送「U-なま」を行なう。現地でDJをやっている様子を見ることもできるし、ニコニコ生放送で見ることもできるようにするという。
ペースは週1回程度を予定している。また、深夜の地下倉庫での「寝姿」を生放送する。詳細は後日発表となる。
石黒教授は「アンドロイドはどのくらい存在感を持てるのか、人はどの程度帰属感を感じるのかという側面で、結構興味深い実験になるのではないか」とコメントした。
ニコニコ神社ともコラボを行なう。ニコニコ神社では、神社の中にカメラがあって、全国の視聴者がその様子を見ている。そして見ている人が、コメントとしてお告げをするというものだ。これとコラボする。「U」は、神様の立場である視聴者と参拝者とを繋ぐ「巫女」となる。場所は計画中で後日発表予定。
石黒教授は「アンドロイドがいきなり人間と同じところに立つのは難しい。テキストベースでコミュニケーションできるニコニコ生放送は、ロボットを世の中に出すちょうどいい中間地点。アンケート調査もリアルタイムでできる。あれはすごく強力なツール。実験室だと多くて100人だが、瞬時に数万人のアンケートがとれる。ロボットが社会に出ていくとはどういうことか、ちゃんと評価していく上ではドワンゴのインフラはすごく価値が強い」と語った。
アンドロイドがネットと実空間を繋ぐ
また、別の角度からのコラボレーションも行なわれる。パルコだ。石黒教授は「ドワンゴのサイバー空間に加えて、物理的な空間を提供してもらうパルコさんにも期待している」と述べた。
株式会社パルコ常務執行役の泉水隆氏は、取り組みは現在構想中であり、あくまで「たられば」の話として、体験スペースの設置、インフォメーションスタッフとしての活躍、ファッションブランドとのコラボレーション、外壁のイメージビジョンでの活躍などを想定していると語った。
夏野氏は「夜にイメージビジョンでアンドロイドが映っていたら映画『ブレードランナー』の世界」とコメントした。渋谷パルコは2019年にリニューアルオープンする予定で、テクノロジーを活用したものになるという。
最後に夏野氏は「ドワンゴはネットとリアルをどう繋ぐか、AIと人間がどう近づいていくかについて、会社全体として関心がある。経験したことがないことを試していきたい」とコメント。
パルコの泉水氏は「空間がネットとどうリアルに繋がるのかをやっていきたい」と語った。
石黒教授は「社会の中に研究成果を届けるのは重要。次はエンタメや空間だと思っている。自らの手で作っていくのが未来。これから、いろんなことが起こっていく。人と人とが繋がりやすい明るい未来が待っているのではないか」と会見を締めくくった。