笠原一輝のユビキタス情報局

Windows 8.1 with Bingの正体は“0ドルWindows”

~拡大する低価格Windowsタブレット、東芝が7型を展示

 米Microsoftは5月末にブログを更新し、OS製品Windows 8に「Windows 8.1 with Bing」と呼ばれる新しいSKUを追加したことを明らかにした(僚誌Internet Watchの別記事参照)。今回のCOMPUTEXでは、MicrosoftやIntel、東芝や中国のODMメーカーなどのブースで、低価格なWindows 8.1 with Bingを搭載製品が多数展示された。

 Windows 8.1 with Bingは、Internet Explorerの標準検索エンジンがBingに設定されているだけのバージョンだが、その分低価格に提供される。その後の筆者の取材で、このWindows 8.1 with Bingが、これまで伝えられてきた“0ドルWindows”そのものであることが分かった。OEMメーカーは、Microsoftが提示する各種の要件を満たすことで、Windows 8.1 with Bingをライセンス料0ドルで搭載できる。

 Windows 8.1 with Bingにより、大手OEMメーカーだけでなく、中国のODMメーカーなどにWindowsタブレットの製造を促すことで、今年(2014年)から来年(2015年)にかけて、市場の爆発的な拡大が期待されている199ドル以下のデバイス市場でのシェア拡大を目指す。

Bay Trail Entry搭載の低価格なWindowsタブレットが多数

 COMPUTEX TAIPEI 2014の会場を歩けば、ODMメーカーやOEMメーカーのタブレットでの展示が大きく様変わりしていることが分かる。昨年(2013年)までは、PCのOEM/ODMメーカーだったところがARMベースのAndroidタブレットを展示していた。プロセッサはRockchipやMediaTekなどを搭載しており、それらが低価格Androidタブレット市場を作っていた。だが、今年はブースに展示された低価格タブレットの多くが、Bay Trail EntryやBay Trail-Tを搭載し、OSはWindowsとIA Androidになっていたのだ。

 中でも、Windowsを搭載した製品は、昨年の比にはならないほど増えていた。それらのタブレットにOSとして搭載されていたのが、Windows 8.1 with Bingという新しいSKUだ。これまでWindows 8.1は、ARM向けのWindows RT、x86向けの無印Windows 8.1、ビジネス向けのWindows 8.1 Proという3つのSKUだったのが、Windows 8.1 with Bingは4つ目のSKUということになる。従来の無印Winodws 8.1との違いは、Internet Explorerの標準検索エンジンがMicrosoftのBingに設定されているだけだ(もちろんユーザー自身が購入後に変更することは可能だ)。

 今回、IntelとMicrosoftブースには多数のWindows 8.1 with Bingを搭載した製品が展示されていた。コントロールパネルにあるシステムのプロパティを見ると、SKUがWindows 8.1 with Bingであることを確認できた。さらに、多くの製品がメモリが1GBと、従来のWindowsタブレットの2GBから減っていた。これは、Microsoftが4月に米サンフランシスコで開催したBuildで発表した、デバイス要件の緩和に伴う措置で、実際1GBでもモダンUIの動作に支障はなかった。

 さらに、各製品の詳細を見ていくと、ユニークなことが分かった。従来のBay Trail-Tを搭載したWindowsタブレットでは、例外なくWi-Fi/BluetoothのコントローラにBroadcomのICが使われていたのだが、低価格なWindowsタブレットにはRealtekのWi-Fi/BluetoothのIC(RTL8723BS)が採用されていたのだ。BroadcomのWi-Fi/BluetoothコンボICは高品質であることは知られているが、コストは決して安くない。これに対してRealtekのICはコストパフォーマンスが優れている。

 つまり、IntelがOEM/ODM向けに用意している低価格向けのリファレンスデザインで、このRealtekのICが利用されているということだ。もちろん、機能面ではほぼ同等(例えばConnected Standby=InstantGoに対応など)なので、コスト重視という論理的な選択だ。

 今回Microsoftブースには、東芝の「Encore 2」(アンコール2)の8型、10型のWindowsタブレットが展示されていたが、いずれの製品もAtom Z3735G(ベース1.33GHz/ターボ1.83GHz)が採用され、メモリ1GB、ストレージは32GBになっていた。すでに発表(別記事参照)されている通り、8型は199.99ドル(日本円で約2万円)、10型は269.99ドル(日本円で約2万7千円)となっており、従来のWindowsタブレットに比べれば圧倒的に安価だ。

 さらに、MicrosoftブースやIntelブースには、未発表のEncore 2の7型と見られる製品も展示されていた。液晶ディスプレイは1,200×768ドットと低価格Androidタブレットでよく採用されている解像度のディスプレイが採用されており、8型よりもさらに安価で提供される製品だと考えることができる。

東芝のEncore 2。左側が8型、右が10.1型
10.1型のEncore 2のシステムのプロパティ。CPUがAtom Z3735G(Bay Trail Entry)であること、メモリが1GBであることがわか
8型Encore 2のシステムのプロパティとデバイスマネージャ。CPUはAtom Z3735G(Bay Trail Entry)でメモリは1GB。Wi-FiはRTL8723BS
8型のEncore 2のストレージは32GBのeMMCになっていた
10.1型のEncore 2の液晶は10.1型1,280×800ドット
東芝のEncore 2の7型と見られる未発表製品。やはりAtom Z3735G(Bay Trail Entry)とメモリ1GBというスペックで、液晶は7型1,280×768ドットと低価格Androidと同じデバイスが採用されていた。当然8型の199ドル以下の製品で販売されると見られる
SouthDigitalのW110Aは10.1型搭載で、EntryではないBay Trail(Atom Z3735D)を搭載
EmdoorのEM-8280はもともとIA Androidタブレットとして設計された製品だが、すでにWindowsが動いている。EntryではないBay Trail(Atom Z3735E)を搭載

0ドルWindowsを適用するための条件の1つがWindows 8.1 with Bing

 これらのデバイスに展示されていたWindows 8.1 with Bingだが、Microsoftはその詳細を明らかにはしていない。しかし、筆者がOEMメーカーなどに取材したところ、実はこのWindows 8.1 with Bingは、これまで伝えられてきた0ドルWindowsそのものであることが分かった。つまり、Windowsのライセンス料を0ドルにするための条件が、このWindows 8.1 with Bingを搭載することなのだ。

 鋭い人は、「Buildで発表された、0ドルWindowsの条件は9型未満だったじゃないか、なのに東芝のEncore 2は10.1型がある」という疑問を持つだろう。その通りなのだが、こうした条件は実は簡単に変わることが多いし、そもそもMicrosoftはこれまでの同様のプログラムでも多数の例外を認めてきた。従って、今後も基本ルールにはない製品が登場してくる可能性も十分にある。Encore 2の10.1型はそうした例外の1つだと考えることができる。基本は9型未満という条件だと、多くのOEMメーカー関係者が証言している。また、このほかにも、CPUなどハードウェアの仕様にも要件は課されていると、OEMメーカーの関係者は指摘しており、Bay Trail(Entryかどうかは要件では無い)もCPU指定の中に入っている。

 なお、従来のSSP(Smaller Screen Program)で適用されてきたWindows+Officeで大幅割引というキャンペーンも引き続き継続しているという。従って、Officeが無料でバンドルという条件を満たすためには、引き続きこちらの要件も満たす必要がある。現時点では日本のOffice 2013 Home and Businessのバンドル条件がどうなるかは、明確ではない。

 また、すでにSSPベースで発表されているWindowsタブレットも、OEMメーカーが選択すれば、今後はWindows 8.1 with Bingを搭載することが可能になる。従って、秋頃に登場するモデルなどには、このWindows 8.1 with Bingが採用されてさらに価格が下がるという可能性も充分にある。

MicrosoftがタブレットでGoogleに逆襲か

 今回Microsoftにせよ、Intelにせよ、こうしたWindows 8.1 with Bingを搭載したWindowsタブレットを多数のブースに並べたのは、そうした動きが業界のトレンドになりつつあることを、来場者、特にOEMメーカーの関係者に対して印象づけるためだ。

 Buildからわずか2カ月でここまで……という感想を持つかもしれないが、実際にはBuild以前からこの動向は準備されてきたようだ。Intelのリファレンスデザインが4月上旬から準備してOEM/ODMメーカーに配布し、それをもとにODMメーカーが作成してこのCOMPUTEXで展示するというのは、中国のODMメーカーがいくら身軽でも無理だ。関係者によれば、Bay Trail Entryのリファレンスデザインは昨年からメーカーに対して配布されており、それを元に設計を進めていた中、Buildの前にMicrosoftから0ドルWindowsの計画を伝えられ、大急ぎでWindows 8.1 with Bingを搭載した製品を用意した、ということだったそうだ。

 ただ、そうした業界の内幕はともかくとして、今回Microsoftは、COMPUTEXにやってきた報道関係者、流通業者などに対し、低価格Windowsタブレットが急速に立ち上がっている印象を与えることに成功した。今年の後半に向けて、世界に先行している日本市場だけでなく、世界市場で出回ることで、タブレット市場でGoogleに差をつけられているMicrosoftの本当の逆襲が始まることになるだろう。

(笠原 一輝)