笠原一輝のユビキタス情報局

クリエイターのフィードバックを元に改善を図った「VAIO Z Canvas」

〜開発者にその詳細を聞く

VAIO株式会社商品プロデューサー商品企画担当ダイレクター伊藤好文氏(左)、VAIO Z Canvasプログラムマネージャー 宮入専氏(右)

 2014年の10月に米国で行なわれたAdobeのクリエイター向けイベント「Adobe MAX」において初めて参考展示された「VAIO Prototype Tablet PC」(その時の記事はこちら)が「VAIO Z Canvas」として、5月から販売開始されることが明らかにされた。

 VAIO Z Canvasは12.3型の2,560×1,704ドットの解像度を持つタッチ液晶を備えるスレートタブレットで、プロセッサとしてCore i7のHプロセッサというモバイル向けとしては最上位クラスのクアッドコアプロセッサを備えていることが大きな特徴となっている。

 今回、そのVAIO Z Canvasの開発を担当したVAIO株式会社 商品プロデューサー商品企画担当ダイレクターの伊藤好文氏と、VAIO Zプログラムマネージャーの宮入専氏のお二人に商品化に至った経緯、またプロトタイプ機の発表から変わった部分に関してお話を伺ってきた。

フォトグラファー、イラストレーター、グラフィックスデザイナー、アニメーターなどさまざまなクリエイターからのポジティブなフィードバックを得る

 VAIOが5月に販売を開始すると発表したVAIO Z Canvasは、その誕生から非常に特異な経緯で情報公開がされていった製品と言える。通常PC製品というのは、発表まである程度秘密が保たれ、製品の発表と同時に情報が公開されていく。これに対して、VAIO Z Canvasは2014年10月のAdobe MAXで一般に公開され、その後もVAIOが主催するイベントや、先週末に行なわれていたCP+のようなイベントを含め、さまざまな場で「VAIO Prototype Tablet PC」として公開されてきた。それを通じて得た顧客からのフィードバックを元に、改良が加えられ、今回の製品化に至った製品がVAIO Z Canvasなのだ。

 伊藤氏は「お客様のリアクションは好感触だった。我々が想定していたのはフォトグラファー、イラストレーター、グラフィックスデザイナーの方々だったが、実際には映像系の4K動画を扱う方、アニメーション制作会社の方、ゲーム制作会社の方、打ち込み系のアーチストの方までさまざまなクリエイターの皆様に興味を持って頂けた。皆様口々にいつから売ってくれるんだと言っていただける状況だった」と語る。

 VAIO Z Canvasの製品概要は別記事で触れている通りだが、まとめると


  • プロセッサ:Core i7 Hプロセッサ(クアッドコア、Iris Pro Graphics)
  • メインメモリ:最大16GB
  • ストレージ:最大1TB SSD
  • ディスプレイ:12.3型 2,560×1,704ドット、Adobe RGBカバー率95%、デジタイザペン対応
  • OS:Windows 8.1 Pro Update 64bit

となる。

 宮入氏によれば「熱設計には力を入れて設計した。特に注力したのは、CPUのクロックを落として熱量を下げるなど安易な手段に頼るのではなく、しっかりと放熱機構を利用して放熱すること。言うまでもなくクロックを落とすと生産性が下がることになるので。このVAIO Z CanvasのZ-engine(筆者中:マザーボード+冷却機構)ではファンが2個以上入っている」とという。つまり、VAIO Zとは異なり、ファンの数が3個や4個の可能性があることを示唆した。このサイズにファンが3つ以上入っている姿は想像できないが、実際の中身は製品発売の段階で見せていただけるとのことだったので、今後のさらなる情報公開に期待したい。

VAIO Z Canvas。主な仕様はCore i7 Hプロセッサ(クアッドコア、Iris Pro Graphics)、最大16GBメモリ、最大1TB SSD、12.3型 2,560×1,704ドット液晶ディスプレイ

顧客からのフィードバックにより、ブラックから指紋が目立たないシルバー系へ

 今回の製品版のVAIO Z Canvasは、10月にAdobe MAXで公開されて先週のCP+で公開されていたVAIO Prototype Tablet PCと比較して、大きな違いがある。それが筐体色だ。

 伊藤氏によれば、ユーザーのフィードバックとして一番多かったのが、色が黒だと指紋が目立ちやすいという点だった。そのため、キーボードの裏面と本体の背面をシルバーに変更し指紋が目立たない色に変更した。しかし、内部に関しては、操作、編集に利用するという観点で、映り込みを抑えるためブラックのままにした。また、キーボードのパームレスト部分の塗装も変更し、もう少ししっとりするような感触のブラックに調整した。

 このように、筐体色は顧客のフィードバックにより変更したが、逆に変える必要が無いほど好評だった部分もあった。それがスタンドだ。MicrosoftのSurface Pro 3など、最近のこうしたスレート型タブレットでは、本体にスタンドを備える製品が増えつつある。

 VAIO Z Canvasのスタンドはユニークで、スタンドは本体の底部からヒンジで開くようになっており、20度〜80度程度(筆者目視の推定値)の角度で使うことが可能になっている。宮入氏によればこの新しい構造のスタンドが、クリエイターの感性に響く部分があったという。液晶が綺麗だと一生懸命説明しても、その間ずっと裏を見ているユーザーも多かったほどだという。実はこのスタンドはVAIO Z Canvasにとって骨格となる部分で、それがそのまま生かせることになったので、当初予想していたよりも早く製品化が可能になった。

キーボードの裏面と本体の背面がシルバーに変更された。これは顧客の指紋が目立つというフィードバックを受けたため
従来のVAIO Prototype Tablet PC(上)と製品版のVAIO Z Canvas(下)
従来のVAIO Prototype Tablet PC(奥)と製品版のVAIO Z Canvas(手前)、ボタンやスタンドの形状などハードウェアに関しては変更がない
本体の左側面。USB×2、SDカードスロット、Mini DisplayPort、HDMI、Gigabit Ethernet、ACアダプタ端子
本体の右側面、ペンホルダを取り付けるアタッチメント、ボリュームボタン、電源ボタン
本体の上面、写真向かって左(本体の右上に相当)にあるボタンがタッチ機能の有効、無効ボタン。写真向かって右(本体の左上に相当)にあるボタンがショートカットメニューを呼び出すボタン

新しいショートカットアプリでクリエイターの使い勝手を改善

 ソフトウェア面での改良も行われている。具体的には、Adobeのクリエイター系アプリケーションなどを使う場合に多用されるキーボードショートカットを、タッチで代理する機能がそれだ。

 AdobeのPhotoshopやIllustratorなどのアプリケーションを使う際は、キーボードショートカットを多用する。VAIO Z Canvasは、無線接続のキーボードでそれらを利用できるが、例えば出先などでキーボードがない環境でもキーボードショートカットが使いたいというのが、クリエイターのニーズとしてある。

 そこで、VAIO Z Canvasでは、左上のボタンを押すとキーボードショートカットキーのバーが表示。これはアプリケーションを自動的に避けて表示され、ワンタッチでコピー&ペーストなどのショートカット操作がワンタッチでできる。これはVAIO Prototype Tablet PCにもあった機能だが、VAIO Z Canvasでは、右上のボタンでタッチをオフにしてペンだけで使っている状態でも、この部分のショートカットキーバーだけはタッチで操作できるようにした。

 また、キーボードショートカット以外にも、、CPUファンの設定(静かさ優先か、性能優先か)、ペンの筆圧モードの変更、液晶のカラーモードの変更などができるようになっている。例えば、カラーモードの変更では、D65(6500K)とD50(5000K)と色温度の変更ができる。一般的なノートPCやタブレットでこのように色温度が切り替えられる製品というのは少ない。Adobe RGBですべてを完結する場合にはD65を利用するのが良いが、雑誌などではD50が利用されるため、切り換えるられるのはクリエイターにとっては重要な機能になる。

 伊藤氏によれば、2,560×1,607ドットという3:2のアスペクト比のパネルを採用しているのも、クリエイターの用途を意識したからだという。12.3型で3:2になると、ほぼA4と同じサイズになっている。写真という観点に立てば、一眼や、高級デジカメも3:2のアスペクト比になっていることも意識した。また、3:2だと、横にした時でもパレットを置いてもそれなりの作業領域が取れる。

本体の左上に用意されているショートカットメニューを呼び出すボタン
ディスプレイに表示されているショートカットメニュー、きちんとアプリケーションをよけて表示される
ボタンでタッチが無効になっていても、このショートカットメニューだけはタッチで操作が可能
ショートカットボタンに割り当てるショートカットはユーザーにより調整が可能

デジタイザペンは筆圧カーブをユーザーが好みに併せて調整可能に

 ペンに関しても大きな強化がなされている。VAIOのデジタイザペンには、N-Trigのものが採用されている。N-Trigのデジタイザペンは他社の方式に比べて視差が小さいとされており、最近Windowsデバイスで採用例が増えている。メジャーな所では、MicrosoftのSurface Pro 3にも採用されており、アプリケーション側の対応も進んでいる。既にAdobeのアプリケーションでは、筆圧検知の機能などがサポートされており、今後Windows環境でデファクトスタンダードのような存在になると思われる。

 N-Trigのペンを語るときに、よく欠点とされるのが、筆圧検知の階調が256段階しかない点だ。競合他社の製品は1,024段階だったり、2,048段階とより多い階調をサポートしている。ハードウェアの機能として階調が多い方がいいのは言うまでもないが、問題はそれをどこまでユーザーが必要としているかだ。

 宮入氏は「ハードウェアに関しては256段階だが、ソフトウェア的には1,024段階をダイナミックに扱えるようになっている。それをソフトウェアでマッピングし、筆圧が柔らかい人、標準の人、堅い人に合わせたプリセットを用意しているほか、筆圧のカーブを2点ユーザー側で指定して調整できるようにしている」と説明する。ユーザーのニーズに合わせた書き味を実現するという点でアドバンテージがあるという。

 実際、2014年10月の公開以来、さまざまなユーザーからフィードバックを受けたそうだが、例えばマンガ家からは視差が非常に小さいので、現在紙でやっている作業をそのまま移行できそうだとか、現在他社のペンタブレットを使っているユーザーからは、端までずれなく書けるという点が良い、と言った評価を受けたという。宮入氏によれば「実際に使っていただくと、スペック以上にいいねという反応を頂くことが多い」とのことで、これまで他社方式のデジタイザペンに慣れ親しんできたクリエイターから高い評価を受けたことで自信を深めているようだ。

 もっとも、こればっかりは実際に触ってみなければなんとも言えない。キーボードやマウスもそうだが、入力デバイスというのは結局のところユーザーが最も使いやすいと感じるのは、理屈よりも好みや慣れだったりする部分があるし、食わず嫌いもある。筆者はクリエイターではないので、クリエイターとしての評価はできないが、少なくともビジネスパーソンとしては、N-tirg方式のペンには書き味の良さがあり、他社方式に比べて視差の少なさなどは明確なメリットだと感じている。是非とも今後公開されるであろう製品版などでその書き味を試してみて欲しい。

MacBook ProやMacデスクトップとも一緒に使って欲しい

 伊藤氏によれば、この製品は、例えばクリエイターが今使っているデスクトップMacやMacBook Proなどを全て置き換える製品ではなく、むしろそれらと一緒に使ってもらいたいという。「この製品はVAIOとしては初めてMini DisplayPortがついている。それはやはり、クリエイターが作業机などで、DisplayPortのついたディスプレイを使っているだろうということを意識したから。作業机ではMacなどと一緒にDisplayPortのディスプレイで使って、外で作業する時は、VAIO Z Canvasを持ち出す」。そうした使われ方も想定しているという。

 以前は、ソフトウェアのライセンスは、OSプラットフォーム別にかかるという体系だったが、Office 365やAdobe Creative Cloudのようなサブスクリプション型の価格体系の場合には、その区別なく2台や5台という台数ベースの形になっている。このため、WindowsとMacを混在して利用するハードルも以前に比べて下がってきている。そうした中で、現在はMacを中心に使っているクリエイターが、モバイルはVAIO Z Canvasでというのは確かにあり得るシナリオだろう。

 最後に、VAIO Z Canvasの発売まで時間があるのは、現在ユーザーのフィードバックを元に、現在もキーボードショートカットの機能などを中心にソフトウェアの改修を続けているためだという。ぜひともさらに完成度を高めて、さらに多くのクリエイターの要望を満たせる製品として販売されることを願う。

(笠原 一輝)