笠原一輝のユビキタス情報局

Calpellaをブラッシュアップして進化したHuron River



 「次世代モバイルプラットフォームは、Calpellaに比べて消費電力が下がり性能は大きく向上する」。

 Intel副社長兼PCクライアント事業部 事業部長 ムーリー・イーデン氏は、Sandy Bridge世代のモバイルプラットフォームに関してこう説明した。Intelの幹部が次世代のモバイルプラットフォームに関してこの表現を使わなかった例は、筆者の記憶する限り一度もない。つまり、「Huron River」(ヒューロン・リバー)も基本的には前世代の改良版としての位置づけを持った製品ということになる。

 実際、Huron Riverの詳細を見ていくと、Calpellaの弱点だった部分の改良が進んでおり、より魅力的なプラットフォームになっていることは間違いない。本記事ではそうしたHuron Riverのプラットフォーム面の魅力に関して解説していきたい。

●2011年1月のInternational CESでの発表に備えブランド名などが続々決定

 今回Intelは“公式には”Sandy Bridgeのモバイルプラットフォームのコードネームが何であるのか語っていない。すでに述べたとおり、今回のIDFではSandy Bridgeの技術的な詳細を語ってはいるが、どうしてもマーケティング的な話をしなければならなくなるプラットフォームに関しては、Sandy Bridgeの正式な発表が行なわれる予定のInternational CESで詳細を明らかにするようだ。このため、そのコードネームである“Huron River”もアナウンスをしていないのだろう。

 以前の記事の復習になるが、Huron Riverは以下のようなコンポーネントから構成されている

【表1】Huron Riverを構成するコンポーネント(一部筆者予想)
プロセッサIntel Core i7/5/3 (Sandy Bridge-QC/DC)
チップセットIntel 6 Series Chipset (Couger Point)
無線LAN/WiMAXIntel Centrino Ultimate-N 6300 (Puma Peak)
Intel Centrino Advanced-N+WiMAX 6250 (Kilmer Peak)
Intel Centrino Advanced-N 6230 (Rainbow Peak)
Intel Centrino Advanced-N 6205 (Taylor Peak)
Intel Centrino Advanced-N 6200 (Puma Peak)
Intel Centrino Wireless-N+WiMAX 6150 (Kelsey Peak)
Intel Centrino Wireless-N 1030 (Rainbow Peak)
Intel Centrino Wireless-N 1000 (Conder Peak)
Crane Peak 130
Crane Peak 100
※黄色はCalpellaから継続

 以前の記事よりアップデートされたのは主にブランド名で、プロセッサのSandy BridgeはCore i7/5/3、チップセットのCouger PointはIntel 6 Series ChipsetであることがIDF 2010で明らかにされた。

 無線LAN/WiMAX通信モジュールのブランド名に関してはIntelはIDF 2010で公開しなかったが、OEMメーカー筋の情報によれば表1で示した通り、以前Rainbow Peakと呼ばれていた製品がIntel Centrino Advanced-N 6230、Taylor Peakと呼ばれていた製品がIntel Centrino Advanced-N 6205というブランド名になったという。さらに、継続されるIntel Centrino Advanced-N+WiMAX 6250(Kilmer Peak) のローコスト版としてIntel Centrino Wireless-N+WiMAX 6150(開発コードネームKelsey Peak、ケルセイピーク)が追加されるという。また、ハイエンドである3x3をサポートするIntel Centrino Ultimate-N 6300(Puma Peak)とその2x2版であるIntel Centrino Advanced-N 6200(Puma Peak)は継続される。

 加えてローエンド向けにIntel Centrino Wireless-N 1030(Rainbow Peak)、Crane Peak 130、Crane Peak 100の3製品が投入されるほか、Calpellaで提供されていたIntel Centrino Wireless-N 1000(Conder Peak)が継続販売される。

IDF 2010でSandy Bridge搭載ノートPCとして展示されたノートブックPCプロセッサのブランド名はCore i7、Core i5、Core i3であることが発表された

●Sandy Bridge-QCとSandy Bridge-DCの2つのダイが存在している

 すでに別記事でも触れているとおり、Sandy Bridgeのマイクロアーキテクチャ設計の特徴はモジュラーデザインが採用されていることで、コアのコンポーネントの各種増減が可能になっている。例えば、CPUコアは4コアデザインが基本だがそれを2コアにしたり、従来のL3キャッシュに相当するLLC(Last Level Cache)もフルデザインでは各コアあたり1つずつになっているがそれを2コアで1つにしたり、メモリコントローラは標準で2チャネル構成だが、それを3チャネルにしたり、逆にシングルチャネルにしたり、といったことが可能になっている(デザイン上できるという話であって、実際の製品構成ではまた別の話になる)。

 IntelはPC向けのSandy Bridgeには2つのバリエーションを用意しており、それがSandy Bridge-QCとSandy Bridge-DCになる。

【図1】Sandy Bridge-QCとSandy Bridge-DC(筆者作成)

 OEMメーカー筋の情報によれば、QCとDCの差はコアの数とLLCの容量で、QCがクアッドコアでLLCが8MBという構成であるのに対して、DCはデュアルコアでLLCは4MBとなる。なお、この場合の容量はコア上に実装されている最大容量で、SKU構成時に4MBが3MBになったり、8MBが6MBになったりという例もある。このあたりは、異なるSKU間の差を広げたいというマーケティング的なニーズからであるのと、AMDのトリプルコアと同じ考え方で、キャッシュの一部を殺すことで歩留まりの向上を実現させるという製造上のニーズもある。

 気になる消費電力だが、Intelのイーデン副社長は「熱設計消費電力はCalpella世代と大枠は変わっていない」と、Huron River世代のSandy Bridgeも熱設計消費電力(以下TDP)はCalpella世代と同程度だとしている。実際OEMメーカー筋の情報によれば、Huron River世代のSandy BridgeのTDPはExtreme版が55W、通常版のQCが45W、通常版のDCが35Wとなっているほか、低電圧(LV)版が25W、超低電圧(ULV)版が18Wになっていると伝えており、Calpella世代から変わっていないことを裏付けている。

 Huron Riverは2段階で投入される計画だ。第1段階として、International CESで通常版が発表され、第2四半期にLV版とULV版を投入する計画だ。なお、OEMメーカー筋の情報によれば、通常版には下記のようなSKU(製品種別)が投入される予定だという

【表2】Sandy BridgeのノートPC向けSKU(筆者予想)
ブランドプロセッサナンバーベースクロックTB時最高クロックコア数L3キャッシュグラフィックスベースクロックグラフィックスTB時クロックTDPHT対応vPro対応AES-NI対応パッケージ
Core i72920XM2.5GHz3.5GHz48MB0.65GHz1.3GHz55WPGA
Core i72820QM2.3GHz3.4GHz48MB0.65GHz1.3GHz45WPGA/BGA
Core i72720QM2.2GHz3.3GHz46MB0.65GHz1.3GHz45WPGA/BGA
Core i72620M2.7GHz3.4GHz24MB0.65GHz1.3GHz35WPGA/BGA
Core i52540M2.6GHz3.3GHz23MB0.65GHz1.3GHz35WPGA/BGA
Core i52520M2.5GHz3.2GHz23MB0.65GHz1.3GHz35WPGA/BGA

 プロセッサー・ナンバーの仕組みはデスクトップPCと同じで、第2世代のCore iを示す1桁目に2の数字が追加され、数字の後ろにアルファベットの1ないしは2レターが入ることになる。OEMメーカー筋の情報によれば

XM=Extreme Editionのモバイル版を示す
QM=クアッドコアのモバイル版を示す
UM=超低電圧版を示す
LM=低電圧版を示す
M=デュアルコアの通常電圧版を示す

という意味を持つことになるという。

●低消費電力版チップセットを追加

 チップセットとなるCouger Point(Intel 6 Series Chipset)には以下のようなSKUが用意されている。

【表3】Intel 6 Series ChipsetのノートPC向けSKU(筆者予想)
 HM67UM67HM65QM67QS67
小型パッケージ
CPU内蔵GPU対応
vPro対応
Intel AT対応
RAIDRAID 0/1/5/10AHCIAHCIRAID 0/1/5/10RAID 0/1/5/10
USB 2.01414141414
SATA(うち6Gbps)6(2)6(2)6(2)6(2)6(2)
PCI Express(CS側)88688
PCI

 表を見て気が付くことは、PM67やPM65などのCPU内蔵GPUが使えないSKUが存在しないことだ。つまり、外付けGPUだけを使うというオプションがなくなっているのだ。

 技術的にはこの流れは十分理解できるものだ。というのも、すでに単体GPU側は、NVIDIAにせよ、AMDにせよ、スイッチャブルグラフィックスの技術を導入している。NVIDIAに関してはOptimus TechnologyというWindows 7が2つのグラフィックスドライバをロードできる機能を利用してシームレスに切り替える技術を導入済みであり、従来のスイッチャブルグラフィックスのユーザーが自分で切り替えるという面倒さがなくなりつつある。現在、AMDはそうした機能を持っていないが、次世代以降でそうした機能を導入する計画があるとOEMメーカー筋は伝えている。そうであれば、すでにCPUに内蔵されているグラフィックス機能と切り替えて使った方がバッテリ駆動時間が伸びる。

 なお、UM67を除くHM67、HM65、QM67、QS67はいずれも現行製品であるHM57、HM55、QM57、QS57の代替製品となる。位置づけも同様で、QS67だけが超小型パッケージを採用する仕様となる。新しいSKUとなるUM67は、LV版、ULV版のSandy Bridgeのリリースと同時期に投入される。UM67はチップセットの低電圧版という扱いで、HM67が3W台半ばのTDPになるのに対してUM67は1W台前半のTDPに収まることになるという。これにより、特にLV版やULV版を搭載するノートPCの消費電力を下げることに大きく貢献することになるだろう。

●Bluetooth機能を持つRainbow Peakとローコスト版のCrane Peakが追加

 すでに冒頭で説明したとおり、Huron Riverプラットフォームでは、Calpella世代から引き継ぐ製品に加えて多数の無線モジュールをサポートする。サポートするアンテナの数、対応するIEEE 802.11の規格(AGNに対応か、5GHz帯には対応しないGNか)、WiMAXないしはBluetoothがモジュール上に搭載されているかなどで違いがあり、まとめると以下のようになる。

【表4】Huron Riverでサポートされる無線モジュールと機能(筆者予想)
 IEEE 802.11アンテナWiMAXBluetooth
Intel Centrino Ultimate-N 6300 (Puma Peak)AGN3x3
Intel Centrino Advanced-N+WiMAX 6250 (Kilmer Peak)AGN2x2
Intel Centrino Advanced-N 6230 (Rainbow Peak)AGN2X2
Intel Centrino Advanced-N 6205(Taylor Peak)AGN2x2
Intel Centrino Advanced-N 6200 (Puma Peak)AGN2X2
Intel Centrino Wireless-N+WiMAX 6150 (Kelsey Peak)GN1x2
Intel Centrino Wireless-N 1030 (Rainbow Peak)GN1X2
Intel Centrino Wireless-N 1000 (Conder Peak)GN1X2
Crane Peak 130GN1x1
Crane Peak 100GN1x1

 前世代との違いは既報の通りRainbow Peakの開発コードネームで呼ばれるBluetooth機能を搭載した製品が提供されることだろう。また、さらにローコスト製品のニーズに応えるため、開発コードネームCrane Peak(クレインピーク)が追加されたことだ。Crane Peakは無線LANのアンテナは1本のみで、Bluetoothを搭載しているSKUと搭載していないSKUが用意される。新興国などの成長市場向け製品と位置づけられ非常に低コストで提供されることになりそうだ。

●いわゆるCULVプログラムもHuron River世代でも継続へ

 こうして見てくるとHuron Riverは、Calpellaの後継として機能アップが盛り込まれており、より魅力的な正常進化と考えて良いだろう。

 なお、Intelのイーデン副社長によれば、Intelのマーケティング戦略も基本的にはCalpellaと差はないという。例えば、コンシューマ向けの薄型ノートPC向けコンポーネント、いわゆるCULVと呼ばれるマーケティングプログラムは、Huron River世代でも続けられることになる。「次世代のモバイルプラットフォームでもコンシューマ向け薄型ノートPC向けには同じプログラムを継続する」(イーデン氏)との通り、いわゆるCULV(IntelはすでにCULVとは呼んでいない)は、ビジネス向けの機能(vProなど)が使えないという縛りだけでフル機能を利用できる状況が続きそうだ。

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはHuron Riverの通常版をInternational CESで発表し、LV版とULV版に関しては第2四半期に発表する予定になっている。OEMメーカーもそのスケジュールに沿って開発を進めており、International CESでそのうちのいくつかを目にすることになるだろう。

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(2010年 9月 22日)

[Text by 笠原 一輝]