■笠原一輝のユビキタス情報局■
IDF 2010の最大の話題は、筆者の記事でも、他の著者の記事を見てもSandy Bridgeであることは疑いの余地が無いだろう。Sandy BridgeではCPUコアに手が入っただけでなく、CPU、メモリコントローラがCPUオンダイになり、CPUとGPUで共有するLLC(Last Level Cache)の存在など新機構が満載で、従来製品に比べてプロセッサの処理能力だけでなく、グラフィックス処理能力の大きな向上も期待できる。
そうした中、ライバルのAMDとて指をくわえてみているわけではない。世界中からIDFに参加するために渡米しているPCメディア関係者を集めて、AMDの新しい省電力コア“Bobcat”(ボブキャット)を採用したGPU統合アーキテクチャ「Zacate」(ジカット、開発コードネーム)のワーキングサンプルを初めて公開した。
●ネットブックや薄型ノートPCなどがターゲットとなるBobcatアーキテクチャすでに明らかになっているとおり、AMDが“Fusion”(フュージョン)と呼ぶ、CPUとGPUが1チップになった統合型プロセッサAPUは、2つの製品が開発されている。
1つはLlano(ラノ)で、もう1つがBobcat系だ。Llanoは、現行製品で言えばPhenomやPhenom IIなどに置き換わる製品で、ハイエンドからメインストリームまでのデスクトップPCとノートPCをカバーする。
これに対してBobcatは、これまでAMDの製品がカバーしてこなかったような2つのエリアをカバーする。1つは薄型ノートPCの市場で、これまでAMDのプロセッサは消費電力が大きく、カバーすることができていなかった。Intel製品ではULV(Ultra Low Voltage)と呼ばれるような製品がそれで、この市場は完全にIntel製品に独占されてきた。もう1つの市場がネットブック市場だ。この市場もAMDは対応する製品をリリースできておらず、Intelの独占市場となっていた。
つまり、Bobcatは、これまでAMDがカバーできなかった新しい市場にチャレンジする製品ということができるだろう。
従来のPCではCPU、GPU、I/Oコントローラがそれぞれ存在していた | フュージョン世代ではCPU、GPU、メモリコントローラなどが1つのダイに統合される |
●ZacateとOntarioの2つのプロセッサが存在するBobcatアーキテクチャ
なお、Bobcatの開発コードネームは、アーキテクチャの総称としてのコードネームで、具体的な製品としてはZacateとOntario(オンタリオ、開発コードネーム)の2つの製品が存在している。
2つの違いは、ターゲットとなる市場で、Zacateは熱設計消費電力(以下、TDP)が18Wで薄型ノートPCやSFFデスクトップPCなどがターゲット、OntarioはTDPが9Wでネットブックなどがターゲットになるという。なお、AMDによれば2つのダイは同一であり、TDPで差別化をしているということだ。ただ、現時点ではTDPの違いが何で生じているのか、クロック周波数なのか、それとも他の要因であるのかは現時点では明らかにされなかった。
AMDによれば、ZacateとOntarioはいずれもデュアルコアのx86プロセッサとDirectX(Direct3D) 11世代のGPUコア、メモリコントローラが1チップになっているという。メモリコントローラはチャネル数などは非公開だが、DDR3-1333に対応しており、低電圧のDDR3のSO-DIMMに対応しているのだという。この低電圧のDDR3 SO-DIMMは、1.35Vで動作するDDR3を利用したメモリモジュールで、一般的な1.5VのDDR3を搭載したSO-DIMMに比べて低消費電力で済む。IDF 2010の会場では、SamsungなどDRAMベンダーがこのSO-DIMMを公開しており、DRAMベンダーもAMDのプラットフォームで利用可能であると認めていた。
AMDによれば、ZacateとOntarioはTSMCの40nmプロセスルールで製造され、パッケージはBGAで提供されることになるという。ZacateとOntarioの出荷は2010年第4四半期中が予定されており、その後にOEMメーカーから搭載製品がリリースされることになるという。
BobcatにはZacateとOntarioの2つの製品が存在する | IntelのAtomとデュアルコアPentiumとZacateの比較 | IDF 2010の展示会場に展示されたSamsungの1.35V対応SO-DIMM。ZacateとOntarioにも利用できるものと思われる |
●ZacateベースのノートPCプロトタイプのデモを公開
ZacateとOntarioのGPUコアはDirect3D 11世代のコアになるという。DirectCompute、OpenCL 1.1などに対応しているほか、AMDのビデオデコードエンジンであるUVDの最新版であるUVD3に対応しているのだという。
AMDが公開したのはここまでで、Direct3D 11世代のGPUであっても、それがEvergreen(Radeon HD 5000シリーズ)世代なのか、それとも、まもなくAMDがEvergreenの後継としてリリースする予定の「Northern Islands」(ノーザンアイランズ、開発コードネーム)世代なのかは明らかにしなかった。ただし、UVD3に対応していることから考えてもZacateとOntarioのGPUコアはNorthern Islands世代であると考えるのが自然であり、実際OEMメーカー筋の情報でもそれを裏付ける情報は多い。
今回AMDがデモしたのはZacateベースのシステムで、形こそデスクトップのようになっていたが、液晶ディスプレイなどのコンポーネントはノートPC用が用意されており、ノートPCとしてのデモだった。低い消費電力というAMDの主張を裏付けるように、ヒートシンクは実際に指で触ってみると熱く感じなかった。つまり人間の体温よりも低くなっているということで、これはAMDの主張を裏付けるものだと言っていいだろう。
デモには3Dゲームが利用されており、比較にはIntel Core i5が搭載されたノートPCが用意されており、実際に同じゲームを走らせてZacateの方が滑らかにプレイできる様子などが公開された。
Zacateの表と裏。パッケージはBGAで、製造はTSMCの40nmプロセスルールで行なわれる | 現行のPhenomIIのパッケージとの比較 |
Zacateが動作しているシステム、形はデスクトップのようだが、コンポーネントはノートPC用で、ノートPCのプロトタイプ | マザーボード。中央の黒いヒートシンクの下にはチップセットがあると思われるが、今回はチップセットに関する情報は非公開 |
●Llanoは第2四半期に顧客へ出荷、2011年の前半中には市場へ
Llanoは2011年の第2四半期に顧客向けに出荷予定 |
2011年にはデスクトップ向けとなるLlanoが投入される。AMDが公開した資料によれば、Llanoは4コアのx86プロセッサとDirect3D 11世代のGPUが内蔵されることになるという。LlanoのGPUは、基本的にはZacateとOntarioに内蔵されているGPUコアと同じ世代になるが、シェーダプロセッサなどの点でGPU性能には差が付けられているという。特にAMDは言及しなかったが、UVD3のビデオエンジンが内蔵さていることはほぼ間違いないだろう。
なお、UVD3の詳細に関してAMDは今回は明らかにしなかったが、1月に行なわれたInternational CESの段階で次世代GPU(Evergreenの後継GPU)で、Blu-ray 3Dのコーデックとして利用されているMPEG-4 MVCのハードウェアデコードエンジンを内蔵する方針であることを明らかにしているため、UVD3でこの機能が追加されることはほぼ間違いないだろう。
AMDによれば、Llanoの顧客への出荷時期は2011年の第2四半期が予想されており、搭載製品が市場に投入されているのは2011年の前半中が見込まれているとのことだった。
(2010年 9月 16日)