多和田新也のニューアイテム診断室

低価格帯のラインナップを広げるAMDの新GPU「Radeon HD 5570」



 AMDは2月9日、ローエンドGPUの新製品となる「Radeon HD 5570」を発表。先月発表された「Radeon HD 5600シリーズ」、先週発表された「Radeon HD 5450」の間を埋める低価格帯GPUだ。この性能をチェックしていきたい。

●GDDR3を組み合わせたRedwoodコアの製品

 AMDは今年に入ってから、DirectX 11に対応したミッドレンジ~ローエンド、つまり低価格帯GPUのリリースを続けている。1月14日にはSP 400基のRedwoodコアを用いた「Radeon HD 5670」、2月4日にはSP 80基のCedarコアを用いた「Radeon HD 5450」をリリースしており、今回発表された「Radeon HD 5570」はその両製品の間を埋める製品となる。

 その製品仕様を表1、ブロックダイヤグラムを図1に示した。SIMDエンジン5クラスタのSP 400基、ROPは2クラスタの8基、128bitメモリインターフェイスの仕様で、本製品にはRedwoodコアを用いていることが分かる。

【表1】Radeon HD 5570の仕様

Radeon HD 5570Radeon HD 5670Radeon HD 4670Radeon HD 4650Radeon HD 5450
プロセスルール40nm40nm55nm55nm40nm
コアクロック650MHz775MHz750MHz600MHz650MHz
SP数400基400基320基320基80基
テクスチャユニット数20基20基32基32基8基
メモリ容量1GB GDDR31GB/512MB GDDR51GB/512MB GDDR3/DDR3512MB DDR21GB/512MB GDDR3/DDR2
メモリクロック
(データレート)
900MHz(1.8GHz相当)1000MHz
(4GHz相当)
1000MHz(2GHz相当,GDDR3使用時)
900MHz(1.8GHz相当,DDR3使用時)
500MHz(1GHz相当)~800MHz(~1.6GHz相当)
メモリインタフェース128bit128bit128bit128bit64bit
ROPユニット数8基8基8基8基4基
ボード消費電力(アイドル)9.69W15W非公開非公開6.4W
ボード消費電力(ピーク)42.7W(Typical:38W)64W59W48W不明(Typical:19.1W)

【図1】Radeon HD 5570のブロックダイヤグラムとアーキテクチャの特徴

 上位モデルであるRadeon HD 5670との違いは動作クロックとメモリの種類だ。注目は使用するメモリの違いであろう。RadeonシリーズはRadeon HD 4000シリーズからGDDR5の採用を始め、当初のRadeon HD 4800シリーズから、その後Radeon HD 4770へと少しずつ下位のセグメントへGDDR5の適用範囲を広げてきた。

 Radeon HD 5000シリーズでは、Radeon HD 5800/5700シリーズに続き、Radeon HD 5670という1つ下のセグメントへもGDDR5適用を進めた。しかし、その下となる今回のRadeon HD 5570ではGDDR3を採用。さらに下のRadeon HD 5450もGDDR3を採用しており、今回の製品がメモリ種別の境界線となっている。

 ちなみに消費電力であるが、ピーク時は42.7Wだが、AMDでは一般的な使い方(Typical)での消費電力として38Wを提示しており、表中では併記している。

 さて、今回使用するのはAMDから借用したリファレンスボードである(写真1)。ブラケットパネルはフルサイズだが、ボードはロープロファイルに適応できるサイズとなっており、実際の製品もロープロ対応品が多くなると見られる。ブラケット部のインターフェイスはミニD-Sub15ピン、DVI-I、HDMIとなっている(写真2)。

 メモリはSamsungのGDDR3メモリである「K4W1G1646E-HC11」を使用(写真3)。最大900MHz動作が可能なメモリで、これを8枚搭載して、1GBのメモリ容量となっている。

【写真1】Radeon HD 5570のリファレンスボード【写真2】ブラケット部はミニD-Sub15ピン、DVI-I、HDMIの構成【写真3】ビデオメモリはSamsungのGDDR3メモリを搭載。1Gbitのチップが8枚で1GBの容量となっている

●Radeon HD 4600シリーズ、GeForce GT 240との性能比較

 それではベンチマーク結果の紹介をしていきたい。環境は表2に示したとおりで、比較対象としてRadeon HD 4600シリーズ、GeForce GT 240を選択した。使用機材は写真4~6のとおり。

 なお、Radeon HD 4670のドライバのみ異なっているのは、Radeon HD 5670の記事からデータを流用したことに依る。Radeon HD 5570と新規に計測したRadeon HD 4650は、Radeon HD 5570のテスト用にAMDがリリースしているレビュワー向けβドライバを用いている。

【表2】テスト環境
ビデオカードRadeon HD 5570(1GB GDDR3)
Radeon HD 4650(512MB DDR2)
Radeon HD 4670(512MB GDDR3)GeForce GT 240(512MB GDDR5)
グラフィックドライバVersion.8.69-091211a-093275E(β)Version.8.69-091211a-093208E(β)GeForce/ION Driver 196.21
CPUCore i7-860(TurboBoost無効)
マザーボードASUSTeK P7P55D EVO(Intel P55)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

【写真4】Radeon HD 4670を搭載するAMDリファレンスカード【写真5】Radeon HD 4650を搭載する、Sapphire Technologyの「HD4650 512M DDR2 PCI-E HDMI/DVI-I LP【写真6】GeForce GT 240を搭載する、ASUSTeKの「ENGT240/DI/512MD5

 「3DMark Vatange」(グラフ1、2)、「3DMark06」(グラフ3、4)の結果は、全体にGeForce GT 240の結果が優れるものとなった。これにはGDDR5の効果もあると見られる。Radeon HD 5570は、Radeon HD 4650に対しては優れた結果を見せるものの、Radeon HD 4670とはどちらともつかない結果が出ている。

 ざっくり分けると3DMark VantageではRadeon HD 5570、3DMark06ではRadeon HD 4670が良好な結果といえる。この3DMark06でRadeon HD 5000シリーズが劣る傾向は、Radeon HD 5670のテストでも出たもの。それでも、Radeon HD 4650よりは良い結果なのだから良しとすべきかも知れない。

 さらに言えば、3DMark Vantage、3DMark06ともに、シェーダユニットの演算能力が問われるPerlin Noiseの結果が良好だった点も着目しておくべきだろう。

【グラフ1】3DMark Vantage Build 1.0.1(Graphics Score)
【グラフ2】3DMark Vantage Build 1.0.1(Feature Test)
【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0(Feature Test)

 「BattleForge」(グラフ5)はDirectX 11で性能が伸びる傾向があり、Radeon HD 5570には多少有利なテストとなる。が、AA/AFを適用した際にRadeon HD 4670のフレームレートを下回るという結果になった。ただ、Radeon HD 4650やGeForce GT 240には安定して上回るフレームレートを出せている。

【グラフ5】BattleForge

 「BIOHAZARD 5 ベンチマーク」(グラフ6)はRadeon HD 5570にとっては辛い結果となった。Radeon HD 4670、GeForce GT 240のいずれにも劣るフレームレートとなっている。絶対値を見ても、WXGAでAA/AF非適用時に平均60fpsを下回るあたりで、実用的にも厳しい。

【グラフ6】BIOHAZZARD 5 ベンチマーク

 「COMPANY of HEROES Tales of Valor」(グラフ7)は、過去の結果でも同セグメントの製品ならばNVIDIA製GPUのフレームレートが良好な結果が出ているが、ここでもその傾向は強い。気になるのはRadeon同士の結果で、AA/AFをかけなければRadeon HD 5570、AA/AFを適用するとRadeon HD 4670が良いフレームレートを出す点。BattleForgeでも見られた傾向がここでも表れている。

【グラフ7】COMPANY of HEROES Tales of Valor(Patch v2.601)

 「Crysis Warhead」(グラフ8)は実用的とは言い難い低いフレームレートであるため、少々参考にしづらい結果となった。NVIDIA製GPUが良い結果を出すのは過去の結果からも妥当なところ。Radeon同士の比較では、Radeon HD 4670を安定して上回れているところは、ひとまず好印象を受ける結果といえるだろう。

【グラフ8】Crysis Warhead (Patch v1.1)

 「Darkest of days」(グラフ9)も、これまでに出ていた傾向が見られる結果となった。すなわち、AA/AFをかけなければRadeon HD 4670を上回るフレームレートを出せる一方で、AA/AFをかけたときの落ち込みが大きいというものだ。非適用時のGeForce GT 240との差がわずかなだけに、この点が、ライバルメーカーの製品に対するビハインドといえる結果になってしまっている。

【グラフ9】Darkest of days

 「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ10)については、Radeon HD 5570のみDirectX 11有効時のテスト結果も載せているが、これは参考値である。DirectX 9実行時同士で比較すると、傾向はバイオハザード5に近いといえるだろうか。Radeon HD 5570/4670の間では、AA/AF適用時にRadeon HD 5570のほうがフレームレートの落ち込みが大きい傾向はあるが、これまでのテストに比べると、その度合いは小さい。

【グラフ10】Colin McRae: DiRT 2

 「Far Cry 2」(グラフ11)の結果も大局的にはバイオハザード5に近い傾向といえるが、面白いのはWSXGA+のときに、AA/AFを適用したときのほうがRadeon HD 4670に対して良いフレームレートとなった。ほかのタイトルでこうした結果が出ておらず、Far Cry 2固有の結果であるのが気になるところではあるが、こうしたこともあり得るという例にはなっている。

【グラフ11】Far Cry 2 (Patch v1.03)

 「Left 4 Dead 2」(グラフ12)も、これまでの傾向と近い。GeForce GT 240が多少良い結果を出す一方、Radeon同士であればRadeon HD 4670が良好ながら、AA/AF非適用時ならRadeon HD 5570も健闘を見せる、といった結果である。

【グラフ12】Left 4 Dead 2

 「Tom Clancy's H.A.W.X」(グラフ13)は、Radeon HD 5570が伸び悩みを見せたタイトルだ。Radeon HD 4670にほかのタイトル以上の差を付けられた。

 このテストについては、むしろRadeon HD 4650を意識しなければならないフレームレートである。AA/AF非適用時ならば、10FPS程度差を付けているが、AA/AFが適用されるとこの差はぐっと縮まる。SP数、ROP数で劣る部分はないのだが、こうした傾向が見られるのはRadeon HD 5570の特色といっていいだろう。

【グラフ13】Tom Clancy's H.A.W.X

 「Unreal Tournament 3」(グラフ14)も、やはり似たような結果だ。GeForce GT 240、Radeon HD 4670の両製品に対して劣る一方で、Radeon HD 4650との差は大きく、この製品間の性能差も明確になっている。

【グラフ14】Unreal Tournament 3 (Patch v2.0)

 「World in Conflict」(グラフ15)の結果も、これまでに出てきた結果と大差ない傾向にある。やはりAA/AFを適用したときにRadeon HD 4670との差が開く傾向も出ており、この点はRadeon HD 5570の特性といってよさそうである。

【グラフ15】World in Conflict(Patch v1.011)

 最後に消費電力の測定結果である(グラフ16)。ここのRadeon HD 5570は優秀な結果といえるだろう。アイドル時、ロード時ともに比較対象を下回る消費電力に留まっている。性能面で勝るRadeon HD 4650と同等程度の消費電力であることが、本製品の消費電力とパフォーマンスの性能を一段高めたことを顕著に表している。

【グラフ16】消費電力

●電力面での効率を増したことが魅力の製品

 以上のとおり結果を見てくると、Radeon HD 4670の性能には若干追いつけず、しかもAA/AF適用時のフレームレートの落ち込みが大きい、という性能面で位置付けできる製品といえそうだ。ただし、Radeon HD 4650からはおおむね1.5~2倍程度の性能向上が期待できる。これはメモリ帯域幅の向上が大きいだろう。

 問題は価格だ。本製品は1万円弱の価格帯での投入が見込まれている。Radeon HD 4670が同等か、さらに安い価格で買える可能性を考えると、当初はやや割高感があるかも知れない。

 ただ、本製品はDirectX 11対応という点と、消費電力の優位性がある。と言っても、DirectX 11に関しては、本製品が積極的にゲームに使われるものでない以上、重視する人は少ないかも知れない。

 しかし消費電力は、このクラスの製品において重要なファクターといえる。Radeon HD 4670と比べて性能は劣るものの、消費電力は抑えられている。どちらの差もそれほど大きなものではなく、これは、利用者がどちらの性格の製品を求めるかによるだろう。Radeon HD 4670の流通在庫はまだまだ多く、購入検討の対象となり得ることを考えると、この価格帯のGPUに、新たな性格を持った選択肢が生まれたことを歓迎したい。