多和田新也のニューアイテム診断室

1万円前後のDirectX 11対応GPU「Radeon HD 5670」



 既報の通り、AMDは1月14日、ミッドレンジ向けGPUの新製品「Radeon HD 5670」を発表した。搭載製品はすでに自作ショップなどで販売されており、安いモデルなら1万円弱という価格帯になっている。ここでは、AMDのリファレンスボードを用いて、この製品のパフォーマンスを見てみることにしたい。

●SP400基の「Redwood」コアを採用

 Radeon HD 5670はDirect X11に対応したGPUとなる。主な仕様は表1のとおりで、Radeon HD 5000シリーズにとって3種類目のコアとなる「Redwood」を使用している。図はそのブロックダイヤグラムである。

【表1】Radeon HD 5670の仕様

Radeon HD 5670Radeon HD 4670Radeon HD 5750
プロセスルール40nm55nm40nm
コアクロック775MHz750MHz700MHz
SP数400基320基720基
テクスチャユニット数20基32基36基
メモリ容量1GB/512MB GDDR51GB/512MB GDDR3/DDR31GB/512MB GDDR5
メモリクロック
(データレート)
1,000MHz
(4GHz相当)
1,000MHz(2GHz相当,GDDR3使用時)
900MHz(1.8GHz相当,DDR3使用時
1,150MHz
(4.6GHz相当)
メモリインターフェイス128bit128bit128bit
ROPユニット数8基8基16基
ボード消費電力(アイドル)15W非公開16W
ボード消費電力(ピーク)64W75W未満86W

 SIMDアレイ×5基構成で、ROPユニットは8基。その先のメモリコントローラは32bit×4で128bitとなる。メモリインターフェイスは上位モデルのRadeon HD 5700シリーズと同等だが、SIMDアレイ、ROPユニットはちょうど半分のスペックとなっている。

【図1】Radeon HD 5670(Redwood)のブロックダイヤグラム

 そのほか、ディスプレイ出力のパイプラインはRadeon HD 5800シリーズ(Cypress)が6系統、Radeon HD 5700シリーズ(Juniper)が5系統だったが、これが4系統に制限されている。

 メモリはGDDR5をサポート。容量は512MBと1GBが標準仕様として提案されている。メモリクロックは1GHzで、データレートは4Gbpsとなる。

 今回テストするのは、AMDより借用したRadeon HD 5670のリファレンスボードである(写真1)。Radeon HD 5000シリーズのリファレンスデザインでは初めて1スロットで収まるクーラーを採用している。クーラーの外観は、後掲のRadeon HD 4670のクーラーと酷似している。

 また、PCI Expressビデオカード用の電源端子も備えていない。先述の表のとおり、Radeon HD 5670のピーク消費電力は64Wとされており、PCI Expressスロットから供給可能な75Wに収まるからだ。この点もRadeon HD 5000シリーズでは初めての仕様である。

 ブラケット部はDVI、HDMI、DisplayPortの構成になっている(写真2)。ローエンド寄りのミッドレンジ向けGPUということで、ミニD-Sub15ピンを搭載した製品も見かけられ、この構成は製品選びの際にチェックすべきポイントといえるだろう。

【写真1】Radeon HD 5670のリファレンスボード【写真2】リファレンスボードのブラケット部

●1万円前後のミッドレンジを比較する

 ではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示したとおりである。ここでは1万円前後で販売されている代表的なGPUを対象とした。使用したビデオカードは写真3~6である。

【表2】テスト環境
ビデオカードRadeon HD 5670(512MB GDDR5)
Radeon HD 4770(512MB GDDR5)
Radeon HD 4670(512MB GDDR3)
GeForce 9800 GT(512MB,GDDR3)
GeForce 9600 GT(512MB,GDDR3)
グラフィックドライバVersion.8.69-091211a-093208E(β)GeForce/ION Driver 195.62
CPUCore i7-860(TurboBoost無効)
マザーボードASUSTeK P7P55D EVO(Intel P55)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

 AMD3製品のドライバは、Radeon HD 5670のレビュワー用にAMDが配布したβドライバを使用。NVIDIA2製品はテスト時点で最新のWHQLドライバであるGeForce/ION Driver 195.62を使用している。

 なお、本コラムのビデオカードのテストにおいては、1,024×768ドット、1,280×1,024ドット、1,600×1,200ドット、1,920×1,200ドット、2,560×1,600ドットの解像度からテスト対象のハードウェアに応じて2~3種類を選択してきたが、今回から基本的にワイド画面のアスペクト比へ変更することにした。具体的には1,024×600ドット、1,280×800ドット、1,650×1,080ドットといった解像度へ変更する。今回はこのうち1,280×800ドット、1,650×1,080ドットの2種類を実施している。

【写真3】Radeon HD 4770のリファレンスボード【写真4】Radeon HD 4670のリファレンスボード
【写真5】GeForce 9800 GTを搭載する、ASUSTeK「EN9800GT HYBRIDPOWER/HTDI/512M【写真6】GeForce 9600 GTを搭載する、ASUSTeK「ASUSTeK EN9600GT/DI/512MD3

 まずは3DMarkの2つ、「3DMark Vatange」(グラフ1、2)、「3DMark06」(グラフ3、4)の結果を見ておきたい。Radeon HD 5670の立ち位置としては、ミッドレンジ製品であるRadeon HD 4670やGeForce 9600 GTに対して優位性が強い一方で、やはりハイエンド製品の一角であるRadeon HD 4770に比べると、やや不利な場面が目立つ。

 ただ、GeForce 9800 GTに迫る結果を見せるほか、Feature Testでは全般にバーテックス処理やシェーダによる演算性能が重視されるテストで、比較対象に対してまずまずの結果が得られる傾向が見られる。この辺りは世代が変わった製品だけに、設計上重視したポイントの違いが出ているといえる。

【グラフ1】3DMark Vantage(Graphics Score)
【グラフ2】3DMark Vantage(Feature Test)
【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0(Feature Test)

 「BattleForge」(グラフ5)は、DirectX 11を使うことでパフォーマンスが伸びる傾向があるテストである。Radeon HD 4770に対してはそれをもっても敵わない結果となったものの、GeForce 9800 GTに対しては優位性がある。

 絶対的なフレームレートという意味では、もう少し解像度を落としたくなるが、それでもフィルタ類を適用した際の性能の落ち込みがGeForce 9800 GTよりも少ないという点は魅力あるポイントといえる。

【グラフ5】BattleForge

 「BIOHAZARD 5 ベンチマーク」(グラフ6)の結果もBattleForgeの結果に近い。Radeon HD 4770の優位性は目立つものの、GeForce 9800 GTに対してはフィルタ適用時のフレームレートの落ち込みが小さいという点でRadeon HD 5670の良さが出ている。こちらは1,280×800ドットにフィルタを適用したときの平均フレームレートが60fpsを超えているあたり、実用的にもより意味のある性能差といえる。

【グラフ6】BIOHAZARD 5 ベンチマーク

 「COMPANY of HEROES Tales of Valor」(グラフ7)は、これまでとはちょっと違った傾向で、GeForce 9600 GT/Radeon HD 4670と、GeForce 9800 GTの間ぐらいの性能に収まっている。フィルタ類の適用による傾向の違いもとくになく、ハイエンド製品との差が明確に出た結果といえる。

【グラフ7】COMPANY of HEROES Tales of Valor

 「Crysis Warhead」(グラフ8)については、どの製品も実用レベルの性能に達していない。単純に性能の善し悪しでいえば、Radeon HD 5670もまずまずのスコアで、やはりフィルタ類を適用した際に、比較対象に対して良好な傾向を示している。

【グラフ8】Crysis Warhead

 「Darkest of days」(グラフ9)は、GeForce 9800 GTに比べるとやや劣るものの、GeForce 9600 GTには強さを見せている。ただ、フィルタ類を適用した際にスコアの落ち込みが大きいという点は、これまでの結果では見られなかったものだ。タイトルによってはこうした結果もあり得るというサンプルになっている。

【グラフ9】Darkest of days

 「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ10)は今回からテストに加えたものだ。DirectX 9 APIをベースに描画を行なうが、DirectX 11対応GPUの場合には、DirectX 11のフィーチャーを用いた描画追加される格好になる。そこで横並びのテストはDirectX 9ベースで行なう。xmlで書かれた設定ファイルの中の“forcedx9”という項目をTrueに指定すればDirectX 11対応GPUでもDirectX 9による描画となる。これに加えて、DirectX 11での実行結果も付記する形にした。

【グラフ10】Colin McRae: DiRT 2

 結果は、DirectX 11を有効にした場合は描画クオリティが大きく変わるだけあってフレームレートは大きく落ち込む。DirectX 9同士の比較では、Darkst of Daysに近い結果といえるだろう。つまり、GeForce勢に比べて、フィルタ類を適用した際のフレームレートの落ち込みが小さい傾向となっている。

 「Far Cry 2」(グラフ11)のRadeon HD 5670はGeForce2製品に対して、それほど差は大きくない。ただし、GeForce 9800 GTよりはGeForce 9600 GTに近いフレームレートになっており、製品セグメントの違いが表れた結果になっている。

【グラフ11】Far Cry 2

 「Left 4 Dead 2」(グラフ12)は前作と入れ替わりでテストに加えた。テストするデモなどは撮り直しているが、前作のテスト意図と同じく、SourceEngineを用いたタイトルの例としてテスト対象にしている。結果はRadeon HD 5670もまずまずの性能を出せており、GeForce 9800 GT並みの性能となった。ミッドレンジ製品の比較対象とは一線を画している。

【グラフ12】Left 4 Dead 2

 「Tom Clancy's H.A.W.X」(グラフ13)はちょっと特異な結果が出ている。Radeon HD 5670でフィルタを適用した際のスコアの落ち込みが大きいのである。Radeon HD 4670の結果と比べても差は顕著だし、ほかのテストでここまで極端な結果は見られないことから、ハードウェアに依存した問題とは考えにくい。ドライバレベルで解消できる問題ではないかと思われる。

【グラフ13】Tom Clancy's H.A.W.X

 「Unreal Tournament 3」(グラフ14)はGeForce勢が強さを見せており、GeForce 9600 GTに対してもRadeon HD 5670は不利な結果が出ている。とくにフィルタ適用時のフレームレートの落ち込みが大きい。絶対値では実用レベルにあるタイトルだけに、この差は影響も大きいといえるだろう。

【グラフ14】Unreal Tournament 3

 「World in Conflict」(グラフ15)もRadeon HD 5670はフィルタ適用時のフレームレートの落ち込みが少々気になる結果となっている。非適用時であればGeForce 9800 GTに近いフレームレートであるのに対して、フィルタを適用したさいにはGeForce 9600 GTよりも低い結果になっている。

【グラフ15】World in Conflict

 最後に消費電力の測定結果である(グラフ16)。ちなみに、Radeon HD 5670のアイドル時は上位のRadeon HD 5000シリーズと同様、コアクロックが157MHz、メモリクロックが300MHzまで落ちる。

【グラフ16】消費電力

 ここではRadeon HD 5670がミッドレンジ製品らしい電力に落ち着いている。Radeon HD 4670よりはやや多くの電力を消費しているが、性能を考えれば納得できる範囲ではなかろうか。性能比較で多く取り上げることになったGeForce両製品よりは安定して省電力に収まっており、好印象を受ける。

●1万円前後のミッドレンジ製品の定番になるか

 結果を見てくる際に、性能面でGeForce 9800 GTとの比較に言及する部分が多くなった。製品のセグメントを考えれば、このこと自体がRadeon HD 5670の良さを示していると思う。GeForce 9800 GTより勝るとは言い難い結果ではあるが、GeForce 9600 GTに対しては優位性のある結果が多い。旧製品となったRadeon HD 4670に対しては性能面で大きな差を付けたほか、電力もかなり近いレベルで抑えられている。

 問題は、価格帯が近いRadeon HD 4770には水をあけられたことだ。GeForce 9800 GTもこの価格帯としては良い性能を持っている。DirectX 10.1/10対応という点は気になるもののコストパフォーマンスの良い製品として、まだまだ存在感が強い。

 それでも、Radeon HD 5670はDirectX 11対応であることから、これからリリースされる対応ゲームタイトルの利用を検討しているユーザーには価格の面でも存在価値がある。短期的にはDirectX 10.1/10世代の高コストパフォーマンス製品を選択するほうが高い満足を得られるだろう。しかし、Radeon HD 5670はもう少し長い目で見る必要がある製品ではないかと思っている。