■多和田新也のニューアイテム診断室■
AMDは3月2日、統合型チップセットの上位モデルとなる「AMD 890GX」を発表。内蔵グラフィックのDX10.1対応や、新しいサウスブリッジが目玉となる製品だ。この製品のパフォーマンスをチェックしてみたい。
●新サウスブリッジのSB850はSATA 6Gbps対応AMD 890GXは、同社のグラフィックス統合型チップセットでは上位クラスに位置付けられるモデルとなる。現在はここにAMD 790GXという存在がいるが、これを置き換える格好となる。
そのブロックダイヤグラムは図1のとおり。参考までにAMD 790GXのブロックダイヤグラムを図2に示している。
グラフィックス機能はRadeon HD 4290と呼ばれ、RV620をベースとしたコアになる。AMD 790GXの内蔵グラフィックスであるRadeon HD 3300との主な相違点は、DirectX 10.1への対応、Universal Video Decoderが2.0へアップデートされた点の2つだ。40基のSteaming Processor、700MHzの動作クロックは同じスペックとなっている。
AMD 790GXは2008年に登場。2009年に登場したAMD 785Gは動作クロックが低いながらもDX10.1/UVD2対応を果たしており、上位モデルもようやく新世代へ移行したということがいえる。
外付けビデオカードとの連携機能も備えている。従来はHybrid Cross Fireと呼ばれたこの技術だが、AMD 890GXでは「AMD Dual Graphics」と呼ばれる。2月始めに登場したRadeon HD 5450との組み合わせで利用が可能だ。AMDが提示するパフォーマンスデータを図3、4に示しておく。
【図1】AMD 890GX+SB850のブロックダイヤグラム |
【図2】AMD 790GX+SB750のブロックダイヤグラム |
【図3】AMD 890GX+Radeon HD 5450の組み合わせによる、Dual Graphicsの性能向上を示したスライド | 【図4】同じくAMD 890GX+Radeon HD 5450の構成で、Dual Graphicsを用いることで、より高い解像度でも同じフレームレートを出せることを示したもの |
ノースブリッジ-サウスブリッジ間のインターフェイスも変更されている。AMD 890GXはAlink Express III、AMD 790GXはAlink Express IIとなる。とはいえ、帯域幅自体はPCI Express x4相当の2GB/secで同等で、Alink Express IIIはプロトコルがPCI Express Gen 2に準拠したのが違いとなる。後方互換性を持っているので、例えばAMD 890GXにSB7xxを接続したりすることも“技術的には”可能とのことだ。
そのサウスブリッジであるが、AMD 890GXでは、新たにSB850が投入されている。SB850の最大の特徴といえるのは、SATA 6Gbpsのサポートで、これを6ポート備えている。USBポートも12基から14基へ増加した。
また、AMD 890GXに限った話ではないが、最近のAMD製チップセットはノースブリッジ側にグラフィック用のPCI Express 2.0 x16とは別に、汎用で使えるPCI Express 2.0インタフェースを備えている。このことから、こちら側へUSB 3.0コントローラを接続することで、PCI Expressがボトルネックになることなく使えることも、同社の資料ではアピールされている(図5)。
【図5】SATA 6Gbpsをサウスブリッジに内蔵したほか、ノース側のPCI Express 2.0でUSB 3.0コントローラを接続することで、各インタフェースの帯域幅をフルに発揮させられる環境であることをアピールする |
さて、今回テストに用いるのは、ASUSTeKから借用した「M4A89GTD PRO」である(写真1)。IOパネル部のディスプレイ出力端子はミニD-Sub15ピン、HDMI、DVI-Dを備える(写真2)。また、SidePort用メモリとして、128MBのDDR3メモリを搭載している(写真3)。
インタフェース周りでは、まずSATAポートを6基備えている(写真4)。この6ポートはいずれも6Gbps対応となっている。ちなみにリアインターフェイス部にeSATA端子を1ポート備えているが、こちらは6Gbps対応にあまり意味がないこともあって、サウスブリッジ側ではなく、これはIDE供給用にも使われているJMB361側から伸びているようだ。
リアインターフェイス部には青色で区別されるUSB 3.0ポートも備えているが、これはおなじみとなっているNEC製のコントローラが用いられている(写真5)。
拡張スロットはPCI Express x16×2基、PCI Express x1×1、PCI Express x4×1、PCI×2の構成。PCI Express x8×2相当によるCrossFire Xも可能な構成だ。ちなみに、本製品には「VGA Switch Card」と書かれたボードが付属しており、ビデオカード1枚をPCI Express x16接続として使用する際には、このカードを装着しておく必要がある(写真6~8)。そうしないと、1枚しか接続していなくてもPCI Express x8相当で動作してしまうので注意が必要だ。
このほかユニークなフィーチャーとしては、Core Unlockerスイッチが挙げられる(写真9)。これはDenebコアを採用したトリプル/デュアルコア製品のコア復活をサポートする機能で、このスイッチを有効にするだけでクアッドコア化が可能になるというもの。コア復活の可能性をより高めていることが特徴として挙げられている。
●AMD 790GXとの性能比較
写真10 AMD 790GX+SB750を搭載する、ASUSTeKの「M4A78T-E」 |
それではベンチマーク結果を紹介したい。環境は表に示したとおりで、ここではAMD 790GX+SB750搭載マザーと比較する。AMD 790GX搭載マザーはASUSTeKの「M4A78T-E」である(写真10)。
ここでは既存環境からのアップグレードを想定しており、HDDもとくにSATA 6Gbpsに対応したものは使用していない。ビデオカードは装着せず、内蔵グラフィックスを使用。ドライバはAMDから提供されたAMD 890GX対応のβドライバを用いている。
【表】テスト環境
チップセット | AMD 890GX+SB850 | AMD 790GX+SB750 |
マザーボード | ASUSTeK M4A89GTD PRO | ASUSTeK M4A78T-E |
CPU | Phenom II X4 965 Black Edition | |
メモリ | DDR3-1333(1GB×2/9-9-9-24) | |
グラフィックス機能 | Radeon HD 4290 | Radeon HD 3300 |
グラフィックスドライバ | Version. 8.71.3-100205a-095750E β | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS) | |
電源 | CoolerMaster Real Power Pro 1000W | |
OS | Windows 7 Ultimate(32bit) |
まずは一般的なアプリケーションベンチを見ておきたい。テストはSandra 2010aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05(グラフ2)、PCMark Vantage(グラフ3)、CineBench R10(グラフ4)、CineBench R11.5(グラフ5)である。
【グラフ1】Sandra 2010a Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark |
【グラフ2】PCMark05 |
【グラフ3】PCMark Vantage |
【グラフ4】CineBench R10 |
【グラフ5】CineBench R11.5 |
CPUが同じ環境であるため、ここでの差はあまりない。それでもPCMark VantageではAMD 890GXのほうが良好な結果を示すものが多いのは気に留めておきたいポイントだ。PCMark Vantageは誤差が大きいベンチソフトであることから5回実行の平均値を出しており、さすがにスコア差が200を超えるような結果は誤差とはいいづらいと思っている。
その理由の1つに考えられそうなのがHDD周りの性能だ。PCMark両ソフトともに、わずかではあるがAMD 890GX+SB850のほうが良好な結果が出ている。詳細なデータを見ると、とくにリード周りは安定して良い結果を出す傾向が見られた。SATAコントローラの特性によるものと思われるが、SB850はSATA 3GbpsのHDDを接続した場合でもSB750より良好な性能を見せる傾向が出たのは好印象のポイントとなった。
ちなみに、次のテスト紹介へ移るまえに、CineBenchについて補足だが、ここではビデオカードを用いたOpenGLによる描画テスト結果も掲載している。このスコア差はそれほど大きくはないものの、若干ながらAMD 890GXが良好な結果を見せている。
次は3Dベンチマークの結果である。3DMark06および同VantageのCPUテスト(グラフ6)、3DMark VantageのGraphicsテスト(Entry設定、グラフ7)、3DMark06(グラフ8)、3DMark05(グラフ9)、BIOHAZZARD 5 ベンチマーク(Low設定、グラフ10)、Enemy Territory:Quake Wars(High設定、グラフ11)、Far Cry 2(Low設定、グラフ12)、ストリートファイターIVベンチマーク(High設定、グラフ13)、Unreal Tournament 3(Middle設定、グラフ14)、FINAL FANTASY XI for Windows - Vana'diel Bench 3(High、グラフ15)、である。各クオリティ設定を、ここに記載した設定に揃えてテストしている。
その結果であるが、同じ性能である、と一言でまとめて差し支えないほど差が小さいものになった。Far Cry 2のようにAMD 790GXのほうが良い結果が出る傾向があるほどで、SP数が同じで、動作クロックも同じであることから、3D性能に関しては据え置かれた格好といえる。
最後に消費電力のテストである(グラフ16)。同じRV6xx世代のコアで、かつ動作クロックも同じ両製品であるが、アイドル時、ロード時ともにAMD 890GX環境が低消費電力となる傾向を示している。具体的に何が良くなったのか、この結果だけで判断するのは難しいが、上位製品の消費電力が順当に下がったことは歓迎できるだろう。
【グラフ16】消費電力 |
●Phenom上位モデルと組み合わせる本命チップセットへ
以上のとおり結果を見てくると、既存環境の置き換えという面で見ても、HDD周りや消費電力で前世代からの進化を感じる結果となった。少なくとも目立って性能が下がるということがないのは安心材料といえる。
そもそも、先に下位モデルのAMD 785GがDX10.1化したことで、AMDのグラフィックス統合型チップセットはややイビツな状況となっていたのは事実だ。これが解消され、より新しいサウスブリッジを搭載してきたとなれば話は変わる。
PCI Express x8×2構成のCrossFire Xにも対応し、SATA 6Gbpsにも対応できる本チップセットは、Phenom II X4を用いたハイエンドチップセットの本命となり得る存在だ。
現時点で分かっている搭載製品の価格帯は130~180ドルと幅があるが、このドル価格から推測するに、1万5千円~2万円のレンジが登場時の相場となりそうだ。AMD 785G搭載製品が安価なだけに割高に感じられるかも知れないが、この価格帯はAMD 790GX登場時と似たようなものであり、妥当性を欠くものとはいえないだろう。