西川和久の不定期コラム
キヤノン「MAXIFY MB5330」
~新ブランド「MAXIFY」のインクジェット複合機
(2014/8/28 13:00)
キヤノンは8月28日、ビジネス用インクジェットプリンタおよび複合機の新ブランド「MAXIFY」と、同ブランドにラインナップされる5モデルを発表、10月から順次出荷を開始する。一足早く編集部から最上位モデルの試作機を借用できたので、試用レポートをお届けしたい。
新ブランド「MAXIFY」の最上位モデル
これまで同社の複合機を含むインクジェット系プリンタは、「PIXUS」ブランドで統一されていたが、今回ビジネス用のブランドとして、新たに「MAXIFY」を追加した。
一般的に、家庭用は速度より写真品質や静音性が求められ、ビジネス用は速度とドキュメントの扱いやすさを重点に置く。相反する要素が多いため、1つのブランドで両立させるのが難しかったのと同時に、各ブランドそれぞれでニーズにあった品質向上を目指すのが、2つのブランドに分けた理由だと思われる。
今回発表があったのは、スモールオフィス向けのMB5330(2段カセット/40,000円前後)、MB5030(1段カセット/30,000円前後)、iB4030(2段カセット/20,000前後)と、ホームオフィス向けのMB2330(2段カセット/25,000円前後)、MB2030(1段カセット/20,000円前後)の5モデル。iB4030だけプリンタで、ほかは複合機だ。
特徴としては、筐体全体を艶消しブラックで統一。高黒濃度、耐マーカー性/耐水性/耐擦過性の特徴を持つ専用の新インク採用。モノクロで約23ipm、カラーで約15ipm(MB2030のみ約16ipm/11ipm)の高速性。A4普通紙250枚もしくは250枚×2の給紙トレイ搭載などがある。
待機時消費電力が約1.0W、TEC値(Typical Electricity Consumption/国際エネルギースタープログラムに適合するための基準となる値)が約0.3W(MB5530/MB5030/MB2330)、約0.2W(MB2030/iB4030)という省エネ設計など、オフィス用途に的を絞った設計がなされている。
今回手元に届いたのは、最上位モデルの「MB5330」だ。主な仕様は以下の通り。
Canon「MAXIFY MB5330」の仕様 | ||
---|---|---|
プリンタ部 | 印刷解像度 | 600×1,200dpi |
インク | 4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)、独立型インク(顔料系) | |
両面印刷(自動) | 標準対応 | |
給紙容量 | 最大250枚×2段(普通紙) | |
用紙サイズ | A4~A5、L判/2L判/KG、六切、はがき、封筒など | |
スキャナ部 | センサー | CIS×2 |
原稿サイズ | A4/レターサイズ | |
解像度 | 主走査1,200dpi/副走査1,200dpi | |
液晶ディスプレイ | タッチ対応3.0型TFT | |
インターフェイス | USB×2(PC接続用×1、ホスト用×1)、Ethernet、IEEE 802.11b/g/n無線LAN | |
サイズ/重量 | 約463×394×351mm(幅×奥行き×高さ)/約13.1kg | |
価格 | オープンプライス(店頭予想価格:40,000円前後) |
速度はA4普通紙プリントでモノクロ約23ipm/カラー約15ipm。ADFコピーもモノクロ約21ipm、カラー約10ipmと高速だ。この速度を実現するため、プリント時には1枚目をプリントしつつ2枚目を送り込む「重ね連送」や、両面コピー/スキャン時、CISを2つ搭載し裏表同時にデータをスキャンするなどの技術が用いられている。
インクカートリッジの特徴は先に書いた通りだが、加えてランニングコストは、PIXUS MXシリーズ(MX923)の場合、モノクロ約2.5円/枚、カラー約8.1円/枚だったのに対し、それぞれ約1.8円、約6.1円と、72%/75%へ低減されている。普通紙の最大積載枚数は250枚×2段カセットで計500枚。
また、あらかじめ設定したスケジュールに沿って、例えば17:00に電源オフ、9:00に電源オンができ、電力コストの削減と管理負荷の軽減が可能だ。ただし電源オフ時はFAX受信不可なので、使い方によっては効果が薄いかもしれない。
液晶パネルはカラーでタッチ対応、非光沢の3.0型を搭載している。そのほかのインターフェイスは、USBメモリなどを接続するUSBポート(前面)、PCへ接続するUSBポート(背面)、ネットワークは、EthernetとIEEE 802.11b/g/n無線LAN(アクセスポイントモード対応)。そしてFAXも搭載。
サイズは約463×394×351mm(幅×奥行き×高さ)、重量約13.1kg。価格はオープンプライスで40,000円前後となる。
筐体は非光沢のブラックで統一され、オフィスでも自宅でもマッチするデザインだ。ただ、光沢ブラックよりホコリなどは目立ち難いものの、思ったよりも指紋が付いた。給紙トレイが2段なので高さが351mmあるが、見た目にはそれほど大きく感じない。
前面左側にUSBメモリなどが接続できるUSBポート、背面右側にPC接続用のUSB、Ethernet、外部電話ライン、FAXライン。下に電源コネクタを配置。メディアリーダ系がないのは少し惜しいところだが、主にオフィス用途なのでUSBメモリだけでいいという割り切りなのだろう。
排出トレイは本体内に収まるよう畳まれており、運用時には引っ張り出す必要がある。また給紙トレイはA4時、そのままでは奥行きが足らず用紙が入らないため、トレイ自体を引き延ばす。この関係で7cmほど飛び出す形となり、上蓋がないことからホコリなどが溜まりやすいかも知れない。
操作パネルは、[電源]ボタン、FAXのメモリLED、[ホーム]ボタン、[戻る]ボタン、タッチ対応の液晶パネル、[モノクロ]/[カラー]スタートボタン、[ストップ]ボタン、アラートLEDと並び、分かりやすいレイアウトだ。
液晶パネルは非光沢で映り込みもなく良好だが、明るさ・発色・コントラストはほどほどといったところ。タッチの反応は今どきのスマートフォンほどスムーズではない。特にスクロール操作が気になったが、一度設定が終わってしまえば、タッチ(押す)操作がほとんどなのでさほど問題にはならないだろう。
操作パネル上のメニュー、第1階層は3ページで構成され、順にコピー/スキャン/FAX/クラウド、カスタム設定/無線LAN設定/メモリーダイレクト/使用実績、ECO/サイレント/セットアップの並びになっている。下にはLANの切り換え/現在の推定インクレベル/カセット用紙情報の登録をすぐに呼び出せるようショートカットを配置。
「メモリーダイレクト」は、USBメモリの中にあるデータから直接印刷する機能だ(単独使用/プリントに相当)。写真(JPEG)か文書(PDF)を指定、表示されたリストから選ぶことができる。
文字入力はQWERTY配列で文字と数字/記号をシフトで切替える一般的な構造となっている。タッチ対応なので直感的に入力でき、扱いやすい。
動作音などに関しては、次項で掲載する動画を参考にして欲しい。(印象には個人差もあるだろうが)自宅でも扱えるレベルに収まっている。動画後半で現れる、裏面印刷時の横揺れが気になるところか。
単独使用/コピー
コピーは原稿を原稿台に置くか、ADFにセットし、モノクロかカラーのボタンを押せばコピーが始まる(プレビュー対応)。この時、印刷設定で枚数/倍率/濃度/用紙サイズ/用紙種類/給紙位置/印刷品質/レイアウト/ADF両面読取設定/両面印刷設定/部単位で印刷/枠消しコピーなどの設定が可能だ。
単独使用/スキャン
スキャンは、パソコン/メールに添付/USBメモリー/転送先フォルダーへデータを保存できる。「パソコン」と「メールに添付」に関してはUSB接続かネットワーク上にあるPCへデータを転送。転送先フォルダは事前に「Canon Quick Toolbox」を使って登録する。
この時、読取サイズ/データ形式(JPEG/PDF/高圧縮/TIFF)/解像度(75/150/300/600dpi)/プレビュー/ADF原稿向き/ADF両面読込設定/原稿の裏写り低減/モアレ低減/輪郭強調の調整が可能だ。
単独使用/FAX
基本的にFAX送信は、原稿をセットし、直接電話番号を入力/電話帳/リダイアルでモノクロまたはカラーボタンを押せば通信が始まる。左側の2つのアイコンは読取画質と読取モードの設定。さらに詳細は機能一覧で、電話番号登録/受信モード設定/メモリー照会/レポート・リスト印刷/FAX用紙設定などを行なえる。
受信に関しては、印刷はもちろん、USBメモリもしくは転送先フォルダへデータを保存可能だ。ただしこの設定はここの画面では行なえず、セットアップ/本体設定/FAX設定/自動保存設定を“する”にすることで2択が表示されるため、気が付きにくいかも知れない。
単独使用/クラウド
クラウドに関しては、Scan to E-Mail、Evernote、Dropbox、Google Drive、OneDrive、Attach to Webmail、Scan to Office document、Web定型フォーム印刷、お知らせ……と機能豊富だ。参照するにしても保存するにしても利用するサービスのアカウントが必要なものが多く、当然ながら、初期使用時にIDとパスワードを要求される。
また標準では設定されていないが、登録/削除の登録のリストを見るとFacebookやPicasaウェブアルバム、Flickr、Photos in Tweetsなど、多くのサービスが含まれている。ただ、さすがに汎用のPCと比較すると動作が重いため、これらのサービスに含まれるデータはPC側で管理し、必要に応じて本機の機能を使うようにした方が快適だと思う。
単独使用/その他
主に設定関連となるが、無線LANセットアップ(おすすめ設定/手動設定/その他の設定)、使用実績(各機能で使用した枚数表示)、ECO(両面印刷設定/電源管理)、サイレント(サイレントモードで使用しない/する/指定時間だけ)、設定(メンテナンス/本体設定/Webサービス設定/Webサーバー問合せ/推定インクレベル)など数多くの項目がある(第2階層以降は多すぎるので省略)。
このように、今時の複合機はプリント、コピー、スキャン、FAXはもちろん、PCやクラウドとの連携なども含まれており、その機能全てを(PCと比較して)小さなパネルだけで設定/管理するのは厄介になってきた印象を受ける。一部、後述するリモートUIでも操作や管理を行なえるので、基本設定が終わったあとは、できるだけWebブラウザ経由で処理した方がラクそうだ。
PCでの使い勝手
今回セットアップは、事前にWi-Fiでの接続を本体側で設定済みにした後、Windows 8.1から行なった。2つ目の画面キャプチャで実機が見つかっているのが分かる。ほぼ全ての手順の画面キャプチャを掲載したので参考にしていただきたい。
標準でインストールされるソフトウェアは、「MPドライバー」、「取扱説明書」、「マイプリンタ」、「短縮ダイアルツール」、「Quick Toolbox」、「読取革命Lite」、「Easy-WebPrint EX」、「お知らせメッセンジャー」。「XPSドライバ」と「OCN用追加辞書(中国語/韓国語)」はチェックが外れている。
以降は使用許諾、MPドライバーなど基本的なソフトウェア、続いて、「キヤノンお知らせメッセンジャー」、「読取革命Lite」とインストールされる。警告ダイアログへの対処さえ間違えなければ、つまずくこともないだろう。
インストール後は、デスクトップに「Canon MB5300 series電子マニュアル」、「キヤノンお知らせメッセンジャー」、「読取革命Lite」が追加され、「Canon Quick Toolbox」と「Canon IJ Network Scanner Selector EX」が常駐する。
プリンタのプロパティは、クイック設定/基本設定/ページ設定/ユーティリティと4つのタブに分かれている。しばらく同社の複合機を操作していないが、おそらく、この辺りの設定項目はほかの同等機種とほぼ同じだと思われる。唯一違うのはFAXを内蔵している関係で、通常用とFAX用で2つのプリンタが追加されることだろう。
「Canon電子マニュアル」は、同社お馴染みのソフトウェアで、かなり以前から同梱されている。「キヤノンお知らせメッセンジャー」は、プリンタに関わらず同社のいろいろな情報を取得できるソフトウェアだ。カテゴリ毎にオン/オフでき、必要な情報だけピックアップすることも可能だ。
Canon Quick Toolboxは、本機だけでは対応できない各種設定/管理などを行なうツールとなる。項目は、プリンタ情報(後述するリモートUI)、短縮ダイヤル設定、転送先フォルダー設定、スキャン、クラウド(Canon IJ Cloud Printing Center/ログイン画面)、取扱説明書(オンライン)、操作説明となる。
最後の3つに関してはインターネットに接続される。また、スキャンだけは設定や管理が中心のほかの項目とは種類が違い、本機のスキャナを使ってPCにデータを取り込む機能となる。
本体でWebサーバーが動いているため、プリンタのIPアドレスをWebブラウザでアクセスすると以下のような画面が表示され、先のCanon Quick Toolbox/プリンター情報がこれに該当する。また管理者パスワードを設定すれば、ID/パスワードによるアクセス制限も可能だ。
余談になるがレスポンシブWebデザインになっており、スマートフォンなどでアクセスすると、左側のメニュー部分が画面いっぱいに表示され、右側は項目を選択すると別ページで表示する。
内容は、プリンターの状態、ユーティリティ、AirPrint設定、Google Cloud Print設定、メールからプリント設定、IJ Cloud Printing Center設定、セキュリティ、使用実績、ファームウェアのアップデートと、基本的に管理系のみであり、例えばリモートスキャンや、PDFをドラッグ&ドロップして印刷などの運用系には対応していない。
以上のようにキヤノンの「MAXIFY MB5330」は、生産性/高画質、経済性、ユーザビリティに優れた複合機だ。従来のPIXUSと新ブランドMAXIFYを分けたことで、よりビジネス用途としての位置付けを明確にしている。
長年複合機を手掛けてきた同社だけに、試作機の状態でも特に気になる部分はなく完成度は非常に高い。オフィス用として新型の複合機を探しているユーザー全てにお勧めしたい逸品と言えよう。