西川和久の不定期コラム

新型Atomを使ってファンレスサーバーを作る



D510MO

 1月早々、GPUとメモリコントローラを統合した新型Atomを搭載Mini-ITXマザーボードが登場した。シングルコアのAtom D410を使った「Intel D410PT」、デュアルコアのAtom D510を使った「Intel D510MO」、そしてFOXCONN「D51S」の3種類だ。その中からIntel D510MOを使いファンレスサーバーを構築してみたい。


●新型Atom+チップセット搭載Intel D510MO

 従来、Intel 945GCチップセットを使うAtom 230や330プロセッサは、チップセット側にGPUとDDR2メモリコントローラを内蔵、計3チップ構成となっていた。しかし開発コード「Pine Trail」の新型Atomプロセッサは、冒頭に書いたように、GPUとメモリコントローラーをCPUへ統合し、新型チップセット「Intel NM10」と組み合わせることにより、2チップ構成へと簡略化。消費電力の大幅な削減や低コスト化がウリとなっている。平均消費電力は従来比で約20%低減しているということだ。

 シングルコアのAtom D410は、クロック1.66GHz、2次キャッシュ512KB、TDP 10W。デュアルコアのAtom D510は、クロック1.66GHz、2次キャッシュ512MB×2、TDP 13Wとなっている。内蔵GPUはGMA 950からGMA 3150へ変わったものの、仕様的にコアクロックは400MHz、ビデオメモリは最大256MB、DirectX 9.0c、シェーダモデル3.0(ソフトウェア対応)、動画支援機構無しと、GMA 950とほぼ同じで相変わらずWindows 7向けな仕様ではない。

 メモリコントローラを内蔵したことにより、オーバーヘッドが若干減り、少しパフォーマンスが向上する程度だと思われる。Hyper-Threadingは従来のAtomプロセッサ同様ON。従って、シングルコアで2スレッド、デュアルコアで4スレッドとなる。Intel 64も有効なので、BIOSでONになっていれば、64bit OSも利用できる。

 さて今回購入したのはD510MOだ。シングルコアのAtom D410を搭載したD410PTとの価格差はたった1,500円。しかもD410PTのLANはGbE非対応と、あえて選ばなければならない理由も無い。またデュアルコアのD510を使った別製品としてFOXCONNのD51Sもあるのだが、若干安いもののこちらはファンつきだ。Intelのマザーボードはどちらもファンレスなので、消去法で考えるとD510MOとなる。購入価格は、7,980円。ショップにもよるが、8千円前後のようだ。

□Intel D510MOの仕様

  • CPU:Atom D510(クロック1.66GHz、2次キャッシュ512MB×2、TDP 13W)
  • チップセット:Intel NM10 Express
  • メモリ:DDR2-667/800、2スロット/最大4GB(但しシングルチャンネル作動)
  • グラフィックス:内蔵 GMA3150/アナログRGB出力のみ
  • ネットワーク:Realtek RTL8111DL(GbE)
  • インタフェース:USB 2.0×7(4つはバックパネル、2つはフロント用、1つはUSBフラッシュ・メモリ用)、SATA×2(3.0Gb/s対応)、PCI×1、PCI Express Mini Card×1、RealTek ALC662 6CH HD Audio Codec
  • サイズ:Mini-ITX(17×17cm)/ヒートシンクの高さ約4cm
パッケージ。簡単なマニュアル、バックパネル、ドライバCD、SATAケーブル×2正面。SATA×2、メモリスロット×2。大きいヒートシンクはCPU用。チップセットは左横にある背面。ボード上にはコネクタがあるものの、パラレルとシリアルポートが無い。LAN/USB 2.0×2の後ろに見える黒いコネクタが、PCI Express Mini Card用
上から。2つのメモリスロットが特徴的。以前のモデル(D945GCLF/D945GCLF2)はメモリスロットの前に電源コネクタがあったが、ヒートシンクの後ろになり、扱い易くなった。田形のコネクタが無くなっている各コネクタ。バックパネルには出ていないが、パラレルとシリアルポート、S/PDIFなどのコネクタがあるのが分かるD945GCLFとの比較。大きいヒートシンクでCPUは隠れているが、それでもD510MOの方が部品点数が少なくスッキリしている

 新しいチップセット、Intel NM10 Expressになって良くなった点がもう1つある。それは最大メモリが4GBになったこと。Intel 945GCは最大2GB。Windowsマシンで使うにしても、Linuxなどサーバーマシンで使うにしても、この+2GBの差は大きい。64bit OSの時にも有効だ。ただし、メモリへのアクセスは、相変わらずシングルチャネル、そしてDDR3には対応していない。もともとAtomプロセッサは高性能を望まないシステム向けなので、仕方ない部分かも知れない。

D510MOをケースへ組み込んだところ。D510MOの電源コネクタは2×12タイプだったが、2×10タイプでも問題無かった(後ろ4pin余る状態)。また、「Intel D945GCLF」はファンが高く電源ユニットに干渉していたが、D510MOはヒートシンク自体は大きいものの、高さは低めで干渉していない

 さて、今回システムを組み立てるにあたって、既存のものを流用した。少し前にAcer「AspireRevo ASR3610-A44」(Atom330+IONプラットフォーム)を購入した関係で、あまり出番の無くなってしまった「Intel D945GCLF」(Atom 230プロセッサ搭載)を使ったキューブ型の自作PCのマザーボードをそのまま入れ替える形をとる。ただし、HDDは流用せず、メインマシンでWindows Vistaを使っていた頃のブートドライブが、初期型SSD「PhotoFast G-Monster 64GB」だったのを交換して余っているのでそれを利用する。若干プチフリ気味であるものの、用途を考えれば十分だろう。またもともと付いているDVD-ROMドライブはIDE接続なので、今回は配線せずダミーとなっている。


●Windows 7で試す

 従来のAtomプロセッサ+Intel 945GCチップセットの構成は、2009年/2008年と、飽きるほど触っているが、この新型は今回はじめて。まず、Windows 7がどれだけ動くか興味があったのでインストールしてみた。64bit版でメモリは2GBだ。

 この時、注意する点があるとすれば、出たばかりのCPUとチップセットと言うこともあり、インストール直後はVGA表示、Windows Updateを使ってもディスプレイドライバは見つからなかった。システムINFも含め、素直にドライバCDから必要なドライバ類をインストールするのが現時点では無難である。

タスクマネージャ/パフォーマンスなど。Windows 7は64bit版。メモリは2GBデバイスマネージャー。Atom D510プロセッサはHyper-Threadingに対応しているので4CPU相当になっているGMA 3150のプロパティ。ビデオ設定/カラーコントロール
Windows エクスペリエンス インデックス。エクスペリエンス インデックス総合 3.1。CPU 3.4、メモリ 4.6、グラフィックス 3.1、ゲーム用グラフィックス 3.1、プライマリハードディスク 5.9CrystalMark。Atom 330を搭載したIONプラットフォームと比較して、ALU、FPU、MEMはD510MOの方が若干速くなっている

 Atom 330プロセッサとIntel 945GCチップセット+GMA 950でWindows 7 64bit版の Windows エクスペリエンス インデックスとCrystalMarkのデータを筆者は持っていないので、Acer「AspireRevo ASR3610-A44」、Atom 330プロセッサを搭載したIONプラットフォームと値を比較したい(カッコ内がIONプラットフォーム)。

 Windows エクスペリエンス インデックス総合 3.1(3.3)、CPU 3.4(3.3)、メモリ 4.6(4.5)、グラフィックス 3.1(4.3)、ゲーム用グラフィックス 3.1(5.3)、プライマリハードディスク 5.9(5.3)となる。

 プライマリハードディスクに関しては、もともとSSDかHDDかの差があるので比較は無意味だとして、CPUは0.1ポイントプラス、そしてメモリもDDR2シングルチャンネルで動いている割に、DDR3デュアルチャンネルで動いているIONプラットフォームより0.1ポイントプラスだ。この辺りは、CPUクロックが若干上がっているのと、メモリコントローラーをCPU内に持っている強みだろうか。同じ傾向がCrystalMarkにも現れている。

 グラフィックス系に関しては、さすがにIONプラットフォームが圧倒的だ。GDIまでは何とか頑張っているものの、D2DやOGLに関してはかなりの差が付いている。なおこの値はメモリにDDR2-800を搭載した場合で、DDR2-667を使うとメモリは4.6のままであるが、グラフィックス 2.9、ゲーム用グラフィックス 3.0と値が落ち込む。体感的にも分かる差なので、システムを組む場合は、DDR2-800を用意したい。

 実際この環境でWindows 7を触ってみると、SSDの効果もあるだろうが、割と普通に動いている。AspireRevoとの差もGPUが関係するアプリケーションやコンテンツを扱わない限りあまり感じられない。割とバランス自体は良いようだ。気になる点としては、IE8のスムーズ・スクロールが少しヌメヌメ波打つ感じになる事だった。

 CPUの上にある大型ヒートシンクは、触ったところほんのり温かい程度。一応ケースのリアにシステムファンを付けているが、これならSSDもほとんど発熱が無いので、電源ユニット以外は完全にファンレスでも使えそうに思える。この辺りも新型CPUとチップセットの省エネ効果だろう。

 とは言え、従来のAtomプロセッサと比較すれば若干速くなるものの、ベンチマークの結果から分かるようにAtomプロセッサはAtomプロセッサでしかない。CULV CeleronやCore系には及ばない。過度の期待は禁物だ。参考までに、Celeron SU2300を搭載したASUS「UL20A」だと、Windows エクスペリエンス インデックスは総合3.3。プロセッサ 3.9、メモリ 4.7、グラフィックス 3.5、ゲーム用グラフィックス 3.3、プライマリハードディスク 5.4だ。

●Linuxでサーバーに仕上げる

 実は今回の購入目的はWebサーバーにすることだった。以前、さくらインターネットの新サービスに使われている、オリジナルサーバーがAtom 330プロセッサを使ったものだと知ったのも、その理由の1つとなる。記事をご覧頂くと分かると思うが、このオリジナルサーバーは、ファンありのシステムボード(多分ベースは「Intel BOXD945GCLF2」)、2.5インチHDD×2でミラーリングしている。それを今回「Intel D510MO」を使って、ファンレス、そしてSSDで構成しようと言うものだ。

 CPUクロックも若干上がり、メモリアクセスも速くなっているので、トータル的にパフォーマンスアップも見込め、メモリは最大4GB。個人用途程度のデータベースをガンガン使うようなWebアプリもそれなりに動く。

 OSは、使い慣れているCentOS 5.4のx84_64(64bit版)とした。新しいAtomプロセッサとチップセットは、CPU側にGPUやメモリコントローラーを内蔵しているので、それに対応しているのかなと思ったものの、インストールDVDで起動したところ、何事も無かったように、グラフィカルインストーラーが適正な解像度で立ち上がった。カーネルパニックも発生せず、デスクトップ環境無し、Serverコンフィギュレーションで無事動いている。

uname -aを実行。Kernelのバージョンは、2.6.18-164.9.1.el5のSMP/64bit版なのがわかる後述するWordPressを動かした時の状態。httpdとmysqldが動いているのが分かる。メモリはまだまだ余裕だ/proc/cpuinfo。Atom D510を認識、processor 0~3(1~3は次ページ以降)、4CPU相当で動いている

 パフォーマンスを調べるために、まずWordPressをインストールした。WordPressはデータベースのMySQLなどを使い、動的にページを生成するので、使ってみるとおおよそのシステムパフォーマンスが分かる。筆者のブログには使っていないものの、他のサイトでいろいろインストールした経験があるので、いつもテストに使っている方法だ。結果は上々。共有タイプのレンタルサーバーでWordPressを動かすよりかなり速い。pvの多いサイトは厳しいかも知れないが、個人のサイトであれば十分使えそうだ。

WordPressの管理画面。共有タイプのレンサバではもっと表示が重く、イライラする事が多いWordPressでのダミーブログ。ページを動的に生成しているので、システムのパフォーマンスが分かりやすい。まあまあと言ったところか筆者のブログ全753件を再構築。現在のサーバーでは約24秒、今回作ったシステムでは約48秒。2倍遅いことになる

 次に筆者の使っているブログエンジン、sb 1.23Rのデータをそのまま、このサーバーへコピー、環境を整え全記事を再構築したところ、48秒かかった。これは現在使っているサーバーよりちょうど2倍遅い値。全記事の再構築は滅多に行なわないので、この程度の差であれば我慢できる範囲だ。

 さて、新型Atomプロセッサを使ったサーバーは、省エネ&省スペース。予想通り結構使えるサーバーとなりそうだ。ただファンレスとは言っても、システムボードだけで、リアパネル(これは多分必要無い)と電源ユニットにファンがあり、半端なファンレスPCとなっているが、そのうち見合うケースや電源ユニットを購入し、完全にファンレスとしたいところ。

BlueOnyx。BlueQuartzには無かった、MySQLやTomcatなどの項目が左側のパネルにある

 そろそろ原稿を書き終えようと、現在のサーバーで使っている、複数のサイトをWebベースで管理できるBlueQuartz(CentOS 4.x/PHP4ベース)がその後、どうなったか気になり検索したところ、CentOS 5.x/PHP5ベースになったBlueOnyxを見つけたので、早速インストールした。単に新しいシステムに対応しただけでなく、MySQL5、Tomcat、Webの帯域制限など、機能も増えている。cmuと呼ばれるBlueQuartzの環境設定などを引き継ぐツールも入っているので、引越しも簡単そうだ。少しテストしてこれをベースにしてみたい。

 いずれにしても現在筆者のブログなどを運営しているサーバーマシンは「DELL PowerEdge 750」。Pentium4 3GHz、メモリ1GB、HDD 250GB×2(SATA/RAID1)と、それなりなのだが、発熱が多く、ファンの音もうるさく、複数のサイトが入っているとは言え、1万pv/日も無いWebサーバーにこのマシンを使うのはあまりエコではない。テスト後、機会をみて今回のマシンへ切り替えたいと思っている。

 新型のAtomプロセッサとIntel NM10 Expressの組み合わせは、省エネで、クロックが若干上がり、メモリーコントローラをCPU内に持った事によるシステム全体のパフォーマンスアップ、そしてGPU性能の向上が見られ、更に最大メモリが4GB。Windowsを動かすにしても、Linuxで使うにしても扱いやすくなった。加えてIntel D510MOはファンレス。静音性はもちろん、電源ユニット以外はメンテナンスフリーとなる。価格も8千円前後と気軽に購入でき、お勧めの逸品だ。