西川和久の不定期コラム

プリンタ単体で写真をアップロードできる複合機!
「HP Photosmart Premium C309g」



 2009年2月、「HP Photosmart Premium FAX All-in-One C309a」と言う、FAXやADF(自動原稿送り装置)まで備えた複合機をご紹介したが、10月16日より下位モデルにあたる「Photosmart Premium C309g」が発売された。FAXそしてADFが無いモデルと考えた場合、事実上インクジェット複合機の最上位となる機種だ。さっそくレポートをお届けする。

Text by Kazuhisa Nishikawa

●C309gの仕様

 2月にご紹介した「C309a」と、今回の「C309g」の違いは、型番としては“a”と“g”、この1文字違いなのだが、比較してみるとそれなりに違う部分がある。まず、ボディの色がグレーからツヤありの黒へ大変身した。またFAXやADFが無いので、上の部分や、操作パネルのボタンの数なども随分減り、全体的にスッキリしたイメージだ。これだけでも見た感じは全く別物となる。気になったのはスキャナ部の天板の厚みが少し薄くなった事もあり、若干軽過ぎるような感じだ。スキャンするものによっては、上に重しを置く必要があるだろう。またボディの質感自体はあまり変わらないものの、天板には同社が最近ノートPCなどにも採用している波型の模様が施されている。

 インクシステム自体は「HP 178(XL)」と同じなので、印刷クオリティに変化は無い。性能も同じく「顔料系黒+染料系4色の5色独立/最高9,600×2,400dpi/1.3pl、印刷速度モノクロ33ppm/カラー32ppm」。前面給紙カセットは、普通紙と専用紙が入る2段式だ。最大枚数も125枚/20枚と変わりは無い。ただし「DVD/CDレーベルプリント」は未対応となった。自動両面印刷は標準対応だ。サイズは452×473×199mm(幅×奥行き×高さ)、重量は7.5kgと、ADFが無い分丈が低くなり、設置面積はほとんど変わらないものの、重量は2.9kg軽量化している。

 そして操作用の液晶パネルが2.4型から3.45型と大型化した。もともとタッチパネル式であるが、面積が広くなった分、操作性は向上しているものと思われる。

 全体的なイメージがC309aはどちらかと言えば事務機器だったが、C309gはコンシューマ色が強くなった。そして価格はHP Directplus価格で「21,840円」とコストパフォーマンスは高い。

フロント。309aとはガラッと雰囲気が変わり色がブラックとなった。左下にPictBridge用のUSB、そしてカードリーダが見えるがCFスロットが無くなっているリア。標準で自動両面印刷対応なのでリアにローダーがはじめから付いている。このため約9cm程度は壁などから離す必要がある。右側に電源コネクタ、USB、Ethernetがある前面給紙カセット。下のメイン給紙トレイは最大125枚、上のフォト給紙トレイは最大20枚まで
液晶ディスプレイと操作パネル。2.4型から3.45型タッチスクリーン液晶パネルへと大型化された。1.05インチの違いであるが、確実に操作性は良くなっているスキャナ。最大A4サイズの原稿台。右側手前がセット位置。ただしフィルムなど透過原稿には対応していない。天板が309aと比較して薄く軽くなっている付属品一式。ACアダプタ、電源ケーブル、USBケーブル、CD-ROM、お試しフォト用紙、インク。そしてなぜかご覧のようなポーチも入っている

 詳細な仕様は同社の製品情報を参考にして頂きたいが、簡単にまとめると以下の通りだ。

・顔料系黒+染料系4色の5色独立/最高9,600×2,400dpi/1.3pl
・印刷速度モノクロ33ppm/カラー32ppm
・補間解像度 最高19,200dpi高精細スキャナ搭載/48bit
・3.45型タッチスクリーン対応液晶パネル
・無線LAN(IEEE 802.11b/g)/有線LAN(10/100Base-TX)、USB、Bluetooth搭載
・前面2段給紙トレイ
・自動両面印刷
・452×473×19mm(幅×奥行き×高さ)、重量は7.5kg
・Windows 7対応

 このように、“C309a”と“C309g”は、「ボディの色」、「FAX、ADFそしてDVD/CDレーベルプリントの有無」、「操作用液晶パネルの大型化」、「軽量化」が主な違いとなる。無くなった部分の多くは用途にもよるだろうが、あまり問題にはならず、気にする人も少ないと思われる。ただ1点、残念な部分があるとすれば、「カードリーダからCFが無くなっている」こと。最近は対応しているデジカメやノートPCなどが減っているだけに仕方ないかも知れないが、まだ現存するメディアだけに出来れば残して欲しかった。

●セットアップ

 セットアップは、まずインクカートリッジを入れ初期化、無線LAN接続する場合は本体側の「セットアップメニュー」からネットワークへ接続、CD-ROMからドライバやアプリケーションをインストールと言う流れになる。他社も含めこの部分は同じなので、既存ユーザーはもちろん、新規ユーザーでも指示通りに設定して行けば特に難しい部分は無い。

インクカートリッジが無い状態で電源ONすると「製品セットアップウィザード」の画面になる新品を箱から出した時は、このようなキャップが付いているので外す基本4色+顔料インク(黒/大)の構成になっている。色とマークが合うようにインクカートリッジをセットする
ヘッド位置調整用にA4の普通紙が1枚必要。メイントレイへ入れておく初期化及びヘッド位置調整がはじまる約10分で全ての調整が終わり、テストパターンが印刷される。相変わらず競合他社の同等機種と比較して揺れやノイズは大きめだ

 ネットワーク関連は、無線LAN(IEEE 802.11b/g)/有線LAN(10/100Base-TX)に対応している。またC309gから「WPS」も加わった。無線LAN接続の場合、設定後、無事ネットワークへ接続できると、パネル右にある[WiFi]ランプが点灯し、液晶パネル右上に電波状況を示すバーが表示される。ただ、競合のエプソンやキヤノンは今年、WPSに加え「AOSS」にも対応している。この辺りの事情は国内市場に重点を置く両社と、ワールドワイドで展開している同社の立場の違いなのかも知れない。

メインメニュー二ページ目の「セットアップ」→「ネットワーク」を選ぶ。「ワイヤレス設定ウィザード」で近辺のワイヤレスルーターを検索しはじめる近辺のSSID一覧。該当するSSIDを選択する筆者の事務所にある無線ルーターはWPAなので、パスフレーズを入力する。これで設定が完了し、操作パネルにある[WiFi]ランプが点灯する

 パソコンへのインストールはCD-ROMをセットすると自動的にインストーラーが起動するので、メッセージに沿って操作して行くだけの作業だ。他社で見られるような、インストールするソフトウェア一覧が出たり、カスタマイズするような仕掛けは無く、[インストール]をクリックすると即ファイルのコピーがはじまる。対応OSはWindows 7 32bit/64bitを含めたWindows、MacはIntel CPUだけでなくPowerPCもサポートしている。

インストーラメニュー。CD-ROMを入れると自動的に起動する。[インストール]をクリックすると、次の選択画面などは無く、いきなりファイルコピーがはじまるインストール中。システムチェックなどを行ない、その後、ドライバ、アプリケーションの順でインストールして行く接続の種類。USB接続、Ethernet接続、無線LAN接続のどれかを選択する。今回は無線LAN接続で設定した。この時、事前に本体の設定でネットワークに接続済みの状態にする必要がある
無線LAN上にある、C309aを表示。間違いなければ、リストを選択状態にし、[次へ]をクリックネットワークの診断。パソコン側、プリンタ側のネットワーク環境をチェックプリンタのセットアップ。ネットワーク環境に問題無ければ、ネットワーク接続でのプリンタ、スキャナ、カードリーダの設定が行なわれセットアップは完了となる

 さて実際インストールして気が付いたのだが、アプリケーションは模様替えし、同社でお馴染みの「ソリューション センター」の背景が白の普通のデザインから背景が黒の今っぽいデザインへと変更された。Windows 7対応に合わせて全体を見直したものと思われる。

●単独使用/写真

 プリントに相当する[写真]メニューは、大きく分けて、「表示と印刷」、「作成」、「保存」の3つに分かれている。この中で「作成」と言うのがピンと来ないのだが、項目を見ると「アルバムページ」、「パノラマ印刷」、「定期券サイズ」、「パスポートサイズ」など、オリジナルを少し加工する処理を指しているようだ。「保存」はカードリーダから読み込んだ写真の保存先となる。

 そしてメインとなる「表示と印刷」は、回転、トリミング、写真の修正(自動/OFF)、フレームを追加(11種類)、明度(±3段階)、カラー効果(効果なし/モノクロ/セピア/アンティーク)などに対応している。この中でC309aにあった「赤目除去」が無い。もしかすると「写真の修正」で自動判断している可能性がある。

 また、写真メニューとは別立てで「クイックフォーム」が用意されている。これはカレンダー、ノート、チェックリストなど定型のフォームを印刷する機能だ。ただ五線譜や原稿用紙など、ちょっと複雑なフォームは含まれていない。

 印刷クオリティや印刷速度は、基本的に使用するカートリッジがC309aと同じなので、変わりは無い。

トップメニュー写真メニューの[表示と印刷]印刷結果(Snapfishから)

 さらに単独使用として興味深いのは、同社が運営しているオンラインフォトサービス「Snapfish」に保存してある画像へ直接アクセスし、ダイレクトプリントする機能や、カードリーダから読み込んだ画像をアップロードする機能も持っている事だ。加えてPCからサイトを通じてプリントしたり、アルバムにしたり、カレンダーにしたり……いろいろな形式の出力を有料で注文することが可能となる。もちろん友人や家族とアルバムや写真を共有する機能もあるので、皆で楽しむことができる。

 このサービスを使うにはアカウントが必要だ。さすがにここだけはプリンタから行なえずパソコンから登録しなければならない。とは言え、名前/ナマエ/メールアドレス/パスワード(確認用で2回)を入力するだけなので、特に難しい部分は無い。

 アカウント作成後、メニューの[Snapfish]ボタンを押し、ログイン画面からメールアドレスとパスワードを入力する(保存可能)。タッチパネル式の操作パネルから指で直接半角英数を押せるのでキーボードを使うようにスムーズに入力ができる。

 ログインした後は、写真のアップロードはもちろん(先の写真メニュー[保存]の保存先にもなる)、アルバムや写真を見たり、パノラマ印刷と言った「作成」に相当する機能などが本体のみで操作が可能だ。接続している回線速度などにもよるが、ネット上の写真データをまるでカードリーダに接続したメディアの中にある写真の如く扱うことができ、なかなか便利で面白い。具体的なサービス内容などはSnapfishのサイトにアクセスしてご覧頂ければと思う。

SnapfishへログインSnapfishメニューサイトにあるアルバムを表示
Snapfishのアカウント作成画面(PC)Snapfishへ保存した写真(PC)Snapfishでオーダーできるいろいろな形式(PC)

●単独使用/スキャナ

 スキャナに関しては、データの保存先を「パソコン」、「写真の再印刷」、「メディア」、「USBストレージ」と4パターン選ぶことができる。この中で写真の再印刷は厳密にはコピーとなるが、スキャナメニューに含まれている。パソコン以外の保存先はJPEGしか対応しておらず、該当アイコンを押すとフォーマットなどの確認/変更など無く、いきなりスキャンが開始となる。他社の複合機では単独スキャンでもPDFにも対応しているので、この部分に付いては明らかに見劣りする。ただ上位機種であるC309aも同じ仕ようなので仕方ない部分とも言えよう。

 パソコンへ保存の場合は、JPEG、PDF、TIFFに対応しているものの、C309aであった「OCR/RTFファーマット」は無くなった。これは、C309gの場合、OCRソフトがインストールされていないのが原因だ。

スキャンメニューパソコンに保存のみPDF対応PDFでパソコンへ保存された

●単独使用/コピー

 コピーは、「カラーコピー」、「モノクロコピー」、「設定」の3択と、左側に枚数を設定する上下の矢印があるだけと非常にシンプルだ。また、前者2つはボタンを押した途端にコピー動作がはじまる。設定は、サイズ、品質、薄く/濃く、両面コピー、プレビュー、用紙サイズ、用紙の種類、余白の変更、強調の調整ができる。この中でC309aから無くなった項目はトリミングだ。液晶パネルのサイズが大きくなった事もあり、逆にトリミング操作は楽になる可能性が高いのだが、あまり使われなかったのだろうか。

コピーメニューコピーメニューの設定コピー結果

 以上のように単独使用は、画面の構成を見て頂くと分かると思うが、非常にシンプルだ。あまり普段必要としない機能は外し、出来るだけ簡単操作になるよう設計されている。スキャン時メディアへPDF保存できないのが競合機種に劣るものの、通常使用においては十分便利に使えそうだ。さらにSnapfishへのダイレクトアップロードやダイレクトプリントは、これまでに無かった仕掛けであり、魅力的に感じるユーザーも多いのではないだろうか。

●PCからの使い勝手

 C309gでは、「ソリューション センター」そしてWebサイトの内容を必要な部分だけ選んで印刷できる「スマートWEBプリント」は残っているものの、他の付属アプリケーションが大幅に変更され、加えてOCRソフトはインストールされない。

 写真関連のアプリケーションは「Windows Live フォト ギャラリー」と「Adobe Photoshop Elements 8(30日間お試し版)」が追加された。ただし、どちらも別途ダウンロードする必要がある。特に「Windows Live フォト ギャラリー」は、Windows Vistaの「Windows フォトギャラリー」と同等の機能を持つ結構強力なアプリケーション。Windows 7から本体には含まれずユーザーの判断で使いたい場合はWindows Liveよりダウンロードすると言うスタンスに変わった。同社としてはこれを流用する方がユーザーにとっても便利との判断になったのだろう。ただこの部分に関しては今後全てのモデルがこうなるのか、C309g固有のものなのかは現時点で不明である。

 プリンタへ割り当てたIPアドレスをWebブラウザで指定すると、プリンタの状態や設定、Web経由でのスキャンなどが出来る機能は、このC309gでも有効だ。ドライバなどをインストールしていない他のPCから手軽に確認、スキャンなどができるため重宝する。

プリンタドライバ。多くの場合、左側の「印刷機能んもショートカット」で印刷するパターンを選べばOKだスキャナ用の操作パネル。もちろんPDFへの保存にも対応している本体のカードリーダがネットワークドライブとしてアサインされる
ソリューション センター。背景が白から黒へと変わったWindows Live フォト ギャラリー。Windows XPで起動したところウィンドウの形状がWindows VistaやがWindows 7っぽくなっているAdobe Photoshop Elementsのダウンロード画面。対象となるバージョンは8。10月23日発売の最新版だ

 さらに同社はiPhoneやiPod touchからダイレクトにプリントできるApp、「HP iPrint Photo」をiTunes Storeで無料配布している。写真アルバムから選び[Print]ボタンをタップするだけの非常にシンプルな作りだ。ただEPSON EP-802Aの時に紹介した「ePrint」と違い、複数選択、枚数指定や印刷サイズ、フチの有無などの細かいコントロールが出来ないのが残念な部分。今後のバージョンアップに期待したい。

HP iPrint Photo / InformationHP iPrint Photo / プリンタ一覧HP iPrint Photo / プリント画面

 以上のようにC309gは、約2万円と言う低価格で、スキャナ・コピー機能はもちろん、タッチパネル式の液晶パネル、自動両面印刷、無線LAN、Bluetooth、顔料系の黒インク、普通紙・写真用紙共に前面カセット式など、ツボは全て標準装備で押さえた正に全部入りの複合機だ。さらに単体で写真をアップロード/プリントできるSnapfishもなかなか面白い仕掛けと言える。ぜひ店頭などで見て欲しい。