西川和久の不定期コラム

持ち歩けるワークステーション級ノートPC!
HP「EliteBook 8440w」



 Core iプロセッサを搭載し、液晶パネルのサイズは14型、そしてGPUにNVIDIA Quadro FX 380Mを採用……と、ワークステーション級のパワーをノートPCに詰め込んだマシン「HP EliteBook 8440w」が届いた。どれ程の実力があるのか興味津々。早速使用レポートをお届けする。

●パワーみなぎるスペック

 同社のノートPCはいろいろなラインアップから構成されているが、今回ご紹介する「EliteBook」の位置付けは、「モバイルワークステーション」。客先で使う高性能ワークステーションや、高いパフォーマンスを維持したまま省スペース化したいなどの用途に最適なノートPCだ。「持ち運べる高性能」、「高度な基本性能」、「使い易さを追求した機能性」、そして「さまざまな組合せができるBTO」が売りとなっている。もともと、大きな会社の研究開発部門などで使うような現場を想定しているらしく、それ向けのソフトウェアなども付属しているのだが、高級ノートPCとして見ても魅力的な存在なので、いつもと同じ視点で評価している。

 また同社の場合、普通のPCとワークステーションとの違いは、アプリケーションの作動保障とサポート体制という話だ。主要なCADソフトなどのベンダーと提携し、ドライバ類も含めた動作を確認、ワークステーション専用の窓口でサポートするといった体制になっている。

 今回届いた「8440w」の仕様は下記の通り。

HP「EliteBook 8440w」仕様
CPUIntel Core i5-540Mプロセッサ(デュアルコア/2.53GHz、TB 3.06GHz/キャッシュ3MB)
チップセットIntel QM57 Express
メモリ2GB/SO-DIMM(PC3-10600 DDR3-SDRAM/最大8GB/2スロット空き1)
HDD320GB(7,200rpm)
OSWindows XP Professional Service Pack 3 適用済み
ディスプレイ14インチワイドTFTカラーHD液晶ディスプレイ/ノングレア(非光沢)、1,366×768ドット
GPUNVIDIA Quadro FX 380M(512MB)、ミニD-sub15ピン、DisplayPort
ネットワークEthernet(10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T)、IEE E802.11b/g/n、Bluetooth 2.1
その他USB 2.0×3、USB 2.0/eSATA×1、IEEE 1394、SDカードスロット、ExpressCard/54、拡張コネクタ(ドッキングステーション用)、セカンダリバッテリコネクター、200万画素Webカメラ(AF付)、オーディオIN/OUT、ステレオスピーカー、デュアルマイク、指紋認証センサー
サイズ/重量336×237×31.3~39.5mm(幅×奥行き×高さ)/約2.38kg、9セルバッテリ時 336×259×31.3-39.5mm(幅×奥行き×高さ)/約2.54kg
※どちらも光学ドライブ搭載時
バッテリ駆動時間最長約5時間/9セルバッテリ時 最長約8時間
ダイレクトショップ価格126,000円(HDD 250GB、光学ドライブ無し)から

 CPUはIntel Core i5-540M。2コア/4スレッド、キャッシュ3MB、クロックは2.53GHzでTurboBoost時に3.06GHzまで持ち上がる。本来メモリコントローラとGPUを搭載した新型CPUなので外部GPUは必要ではないのだが、ディスクリートGPUとしてNVIDIA Quadro FX 380M(512MB)を内蔵し、大幅にパフォーマンスが向上している。出力はミニD-sub15ピンに加えDisplayPortにも対応だ。CPUに関してはBTOでCore i7-620M(2コア/4スレッド、キャッシュ4MB、クロック2.66GHz/TB3.33GHz)、Core i7-720QM(4コア/8スレッド、キャッシュ6MB、クロック1.66GHz/TB2.8GHz)も選択できる。メモリスロットは2つで最大4GB×2で8GB。今回手元に届いたモデルは2GB×1だった。

 チップセットはモバイル用としては最上位のIntel QM57 Expressを採用。「Active Management Technology 6.0/Remote PC Assist Technology for Business」、「Rapid Storage Technology 9.5」などvProの機能を持つ。

 HDDは7,200rpmの高速回転モデルだ。なお今回は試作機なので320GBだが、BTOで選択可能なのは、250GB、500GB、またはSSD 160GBとなっている。振動・落下からHDDを守る 「HP 3Dドライブガード」対応だ。光学ドライブに関しては、無し、DVDスーパーマルチドライブ、Blu-ray Discドライブ、そしてもう1台HDDを搭載も可能。最近は光学ドライブを使うケースが減っていることもあり、もう1つHDDを取り付けられるのは嬉しい仕様と言えよう。なおこのHDDは、内蔵しているHDDとRAID 0/1の構成にすることも可能となっている。

 液晶ディスプレイは14型の非光沢。解像度は1,366×768ドットまたは1,600×900ドットだ。より高い解像度を選べるのはセールスポイントになる。ネットワークに関しては、Gigabit Ethernet、無線LANにIEEE 802.11n、Bluetooth 2.1など全部入りとなる上に、IEEE 1394、モデムも搭載だ。

 OSは、Windows Vista Business(32bit)、Windows 7 Professional(32/64bit)、Windows XP Professional Service Pack 3 適用済みが選択可能。さらに全て日本語版か英語版かも選べる。特に英語版まで含まれるのはなかなか珍しい。

 興味深い点としては、ポインティングデバイスにタッチパッドとポイントスティックのデュアルポイントになっていること。配色などは違うもののThinkPadのTrackPoint+タッチパッドの構成にそっくりだ。ThinkPad好きな筆者としては、レノボ以外でこの手のポインティングデバイスを見たことがなく、ちょっと驚いてしまった。もう1つ珍しいのは、カメラが2Mピクセル、そしてAF対応。多くのWebカメラはVGA程度の解像度なので、カメラとしての用途が広がる。

 6セルバッテリ時、サイズは336×237×31.3~39.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量約2.38kgとなる。普段持ち歩くノートPCとしては大きく重いが、これだけパワーのあるマシンが2kg+αにまとまっているため、ぜひ使ってみたいと思うユーザーも多いと思われる。

 なお、EliteBookシリーズとして、15.6型(1,600×900ドットまたは1,920×1,080ドット)パネルの「8540w」ラインナップされている。

へアライン加工が美しい天板。液晶パネルの角度は机に付くまで傾けることができる正面。HDDなどのステータスLED、ステレオスピーカー、パネルロックボタン、SDカードスロット。ディスプレイパネルの周囲にソフトラバーがある。カメラの横は「HP NightLight」裏面の小さいパネルを外すと、HDDやメモリにアクセスできる。中央のコネクタはドッキングステーション用。miniPCIeに1つ空きがある
左側面。USB 2.0×3、IEEE1394a、オーディオIN/OUT、Expressカードスロットタッチパッドとポイントスティックのデュアルポイント。電源スイッチの横はタッチ式のボタンが並ぶ。タッチバッドの右横は指紋認証センサー右側面。モデム、有線LAN、USB 2.0/eSATA、光学ドライブ
キーピッチは実測約19mm。ソフトなキータッチだ背面。電源入力、ミニD-sub15ピン、DisplayPortが並ぶ6セルバッテリ。バッテリACアダプタのコネクタはミッキータイプ

 梱包から取り出した第一印象は「ガッチリしたノートPC」だった。天板はヘアライン加工酸化アルミニウム、筐体はマグネシウム合金といった素材が使われ、メタリックな綺麗さに加え強度も高い。天板は最近のノートPCでありがちなストッパー無しでそのまま開くタイプではなく、しっかりとラッチで止められておりフロントのボタンを押すとロックが外れる仕掛けだ。さらに閉じた時に、ディスプレイやキーボードがあたって傷が付かないよう、ソフトラバーがディスプレイ周囲及びキーボード下に配置されている。全体的な仕上げも丁寧で、電源ONすると色々なステータスを示すLEDが色分けされ光る演出もなかなか。

 キーボードはアイソレーション・タイプではなく一般的なものだが、ソフトタッチで感触は心地よい。タッチパッドは段差があり、ボタンのストロークは少し深め。ただ軽いので、指が疲れることはない。そして何より驚くのは「ポイントスティック」があることだ。動きが若干レノボのTrackPointと違う(慣性の付き方?)のだが、少なくとも筆者にとってはこちらの方が使いやすく、スムーズにポインタを移動できる。またキーボードの上、電源スイッチと同じ列に並ぶ7つのLEDは、実はタッチ式ボタンになっていて、それぞれ「HP QuickLookボタン」、「HP QuickWebボタン」、「無線ON/OFFボタン」、「タッチパッドON/OFFボタン」、少し離れて「ミュートボタン」、「ボリュームダウンボタン」、「ボリュームアップボタン」となっている。さらに暗い場所でもキー入力しやすくなる「HP NightLight」付き。細部にわたりなかなか良く考えられている。

 液晶パネルはノングレア(非光沢)タイプ。視野角も上下左右共少し広めで写真や動画は少し地味な感じとなるが、非常に見やすい発色だ。ただ14型のパネルに1,366×768ドットは解像度的にもったいない。用途にもよるだろうが、できれば1,600×900ドットを選びたいところだ。

 熱や振動、ノイズについてはボディが大きい分、うまく処理できているようで、ほとんど気になることはない。正面に配置されているステレオスピーカーは、少しシャリシャリ気味の音で、大きさの割りにいまひとつ迫力に欠ける音質となっている。

●抜群のパフォーマンス

 今回届いたマシンのOSは、Windows 7 Professional 32bitのダウングレード権を使ったWindows XP Professionalだ。メモリは2GBであるが、XPということもあり余裕で動いている。HDDは「WD3200BEKT」(320GB、7,200rpm、キャッシュ16MB)。パーティションは2つ。HP_TOOLSとしてFAT32でDドライブが約2GB割当てられ、リカバリエリアなどは特に無く、残りは全てCドライブとなっている。

 タッチパッドとポイントスティックのデュアルポイントに対応するドライバは、Synaptics TouchStyk V2.0が使われていた。Synapticsのドライバはスタンダードだが、このポイントスティック用のTouchStykは初めてだ。

 残念なのはこのクラスでXPが快適なのは当然の結果。できればWindows 7で試してみたかった。

起動時のデスクトップ。Windows XP Professional Service Pack 3 適用済み。メモリは2GBデバイスドライバ/主要なデバイス。HDDは7,200rpmのWD1600BEKT(キャッシュ16MB)が使われているHDDのパーテーション。リカバリエリアなどはなく、2パーティションになっている

 プリインストールアプリケーションは、「HP ProtectToolsセキュリティマネージャー」、「HP QuickLook 3」、「HP QuickWeb」、「HP QuickLauchボタン」、「HP Webcam」、「HP Business Card Reader」、「HP Power Assitant」、「HP Wireless Assitant」、「HP Recovery Manager」、「HP SKyRoom」、「HP Support Assistance」など同社のツール群と、「McAfee Total Protection(60日間試用版)」、「Intervideo WinDVD Player」、「Roxio Creator Business」、「WinZip12」などが含まれる。

 ビジネスモデルと言う特徴上、指紋認証センサーやHP ProtectToolsセキュリティマネージャーを使ったパスワードなどの一括管理といったセキュリティ系が強化されている。

 中でも面白いのは「HP QuickWeb」だ。キーボードの上、パワースイッチと同列にある「HP QuickWebボタン」と連動していて、Windows起動時はWebブラウザがそのまま起動するのだが、電源OFF時にこのボタンを押すと、(おそらく)LinuxベースのWebブラウザがほんの数秒で起動する。もちろん無線LANや日本語にも対応しているので、サクッと調べたい時などは有効だ。また、Outlookのデータが見える「HP QuickLook3」も備えている。スケジュールや住所録の確認用ということだろう。

HP QuickWebHP 3DドライブガードSynaptics TouchStyk

 ベンチマークテストは、CrystalMark、そしてBBenchの結果を見たい。CrystalMarkは、最近テストした中で1番速いと思われる同社の「Pavilion dv6i」(Core i7-720M、NVIDIA GeForce GT 230M/1GB、Windows 7)と比較すると実に面白い結果となっている。ALU 34,390(31,471)、FPU 37,964(29,187)、MEM 19,950(33,879)、HDD 10,549(10,975)。カッコ内がdv6iなのだが、MEMはシングルかデュアルかの差が出ているものの、ALUとFPUに関しては本機が上だ。HDDはどちらも7,200rpmタイプなので誤差の範囲だろう。

 GPUのQuadro FX 380M/512MBとGeForce GT 230M/1GBの比較は、GDI 11,984(7,917)、D2D 4,452(7,404)、OGL 34,023(25,624)となった。D2DとOGLの性能が反対になっているのが、両者の特徴を表している。

 BBenchは、「HP Power Assitant」を使い省電力設定にしたところ、無線LANがOFFになったので、この点だけ再セット、バックライトOFF、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、WiFi/ON、Bluetooth/OFFでの結果だ。バッテリの残2%で17,633秒(4.8時間)だった。6セルバッテリだと仕様上最大約5時間。ほぼスペック通りとなった。これまでいろいろなノートPCでBBenchを動かしたが、ここまで仕様と近い値になったのは今回初めて。Core iプロセッサということもあり、あまり長時間のバッテリ駆動はできないものと思っていたが、嬉しい誤算だった。また、バックライトをOFFにしても真っ暗にならず、それなりに操作できるため実作業に近い。9セルバッテリ時、最長約8時間なので、ほぼ業務時間内はバッテリ駆動できることになる。

 このマシンの用途とはあまり関係無いかも知れないが、試しにYouTubeで1080p動画を再生したところ非常に滑らかに表示した。さすがにこのクラスのマシンになると余裕で対応できるようだ。

CrystalMark。メモリがシングルチャネルなので低い値になっているが、他に関してはさすがだBBench。バックライトOFF、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、WiFi/ON、Bluetooth/OFFでのBBenchの結果。バッテリの残2%で17,633秒(4.8時間)と結構長持ちYouTube 1080p。CPU使用率35%前後で、フルHD/30fpsを余裕で再生している


 以上のように「EliteBook 8440w」は、ガッチリした頑丈なボディに洗練された美しさを併せ持つなかなか魅力的なハードウェアだ。しかもCore i5そしてNVIDIA Quadro FX 380Mによるパワーは抜群。126,000円からという価格設定も内容を考えると非常に安い。BTOで主要コンポーネントをいろいろ選べるのも嬉しい限り。省スペースかつ持ち歩き可能でパワフルなノートPCを探しているユーザーには有力な候補となるだろう。