■西川和久の不定期コラム■
「HP Pavilion dv6i」
HP Pavilion dv6i |
先月は新製品ラッシュとなったが、日本ヒューレット・パッカードも各春モデルを発表した。今回レビュー用に届いたのは「Pavilion dv6i」。BTOによりCPUなどいろいろ組み合わせができるが、型番の“i”からも分かるようにベースはCore iとなる2スピンドルノートPCだ。早速その内容をレポートしたい。
●選べる3つのCore iプロセッサ
この「Pavilion dv6i春モデル」は、BTOでi7-720QM、i5-430M、i3-330Mと、3つのCore iプロセッサを選択できる。Core i5とi3は、先月発表されたばかりの新型CPUで、メモリコントローラとGPUをCPUに内蔵しているタイプだ。それぞれの仕様を表にまとめると、
【表1】Coreシリーズの仕様コア数/Hyper-Threading | クロック/TB時 | L3キャッシュ | TDP | |
i7-720QM | 4/8 | 1.60GHz/2.80GHz | 6MB | 45W |
i5-430M | 2/4 | 2.26GHz/2.53GHz | 3MB | 35W |
i3-330M | 2/4 | 2.13GHz/無し | 3MB | 35W |
このように、コア数、CPUクロックそして、Turbo Boostの有無、L3キャッシュの容量、TDPと全てに違いがある。特にCore i3はTurbo Boostが無いため、他の2つよりパフォーマンス的に劣るものの価格とのトレードオフだ。
対応しているチップセットはこのモデルとしては2種類あり、Intel PM55 ExpressとHM55 Express。前者はi7-720QMと同時に2009年9月に発表されたもの。対して後者は2010年1月に発表のあった新型だ。QM57 Express、QS57 Express、HM57 Expressなどと同列で、ランクとしては一番下のチップセットとなる。
今回届いたPavilion dv6i春モデルの仕様は以下の通り。基本的にBTOで一番速い構成を選んだパターンに非常に近い。
Pavilion dv6i春モデル仕様
・CPU:Core i7-720M(4Core/1.6GHz/cache 6MB/Turbo Boost時2.8GHz)
・チップセット:Intel PM55 Express
・メモリ:4GB/DDR3-SDRAM(1,066MHz)/2スロット空き0、最大8GB
・HDD:500GB(7,200rpm)
・光学ドライブ:BD/DVDスーパーマルチドライブ
・OS:Windows 7 Professional(32bit)
・ディスプレイ:15.6型ワイドHDウルトラクリアビュー・ディスプレイ 、1,366×768ドット
・GPU:NVIDIA GeForce GT 230M/1GB、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン出力
・ネットワーク:Gigabit Ethernet、IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth(V2.1+EDR)
・その他:USB 2.0×4(内1つはeSATAと兼用)、VGA Webカメラ、5in1メディアスロット、音声入出力、ExpressCard×1、HPモバイルリモコン、ALTEC LANSINGステレオスピーカー、テンキーあり
・サイズ/重量:380×258×34~41.8mm(幅×奥行き×高さ)/約2.8kg
・バッテリ駆動時間:約3.4時間
まずCPUは最上位のCore i7-720M。先の表から分かるように、4コア/8スレッド、CPUクロックは1.6GHz、Turbo Boost時は2.8GHz、L3キャッシュは6MB、TDPは45Wとなる。チップセットはIntel PM55 Express、メモリスロットは2つあり、2GB×2で4GB構成だ。GPUにはNVIDIA GeForce GT 230M/1GBが使われている。このGeForce GT230Mは、SP 48個、128bit幅/GDDR3と、ノートPC用としては、それなりに強力なものだ。
その他のインターフェイスとしては、ご覧の通り一通り揃っている。特にHDMI出力、GbE対応、HDDは7,200rpm、Blu-ray Disc/DVDスーパーマルチドライブ、ExpressCardなど、他の機種では、あったりなかったりする部分が全て揃っているのは嬉しいところ。
15.6型の液晶パネル搭載、そしてテンキー付と言うこともあり、380×258×34~41.8mm(幅×奥行き×高さ)とサイズは結構大きく、それに伴い重量も約2.8kgある。従って、いつでも持ち運ぶノートPCではなく、室内でたまに移動できるデスクトップPC替わりの用途に向いていると思われる。
デザインは同社独自の「asagiri」だ。HPによると「朝霧が夜明けとともに風に流れて晴れてゆく様子をモチーフとした “asagiri”(朝霧)」との説明がある。カラーバリエーションは無く、この「asagiri」のみとなっている。
一点だけ非常に惜しいと思うのは、BTOで選べるOSはWindows 7 Home Premium、Windows 7 Professional共に32bit版のみと言うところだ。搭載メモリ容量を考えてもここは是非64bit版も選べるようにして欲しい。
同社のHPを見ていて気が付いたことがある。付属するACアダプタの容量の違いだ。Core i3だと65Wタイプ、Core i5だと90Wタイプ、Core i7だと120WタイプのACアダプタが付属する。システムの消費電力もこれに合わせて約65W/90W/120W。Core i3とCore i7を比較すると約2倍近くも差がある。「こんなに違うのか」と驚いた次第だ。
なおBTOでCore i3を選んだ場合、Turbo Boostが無いのはもちろんであるが、チップセットは「Mobile HM55 Express」、GPUはチップセット内蔵「Intel HD グラフィックス」、そして有線LANが100BASE-TXと、それぞれスペックダウンするので、注意して欲しい。
余談になるが、同じシリーズで、型番が「dv6a」というモデルもあり、こちらは“a”が意味するように、AMD Athlon II M320/Sempron M120、そしてGPUにMobility Radeon HD 4200を搭載したものとなる。価格は、「dv6i」と比較して1ランク安くなるので、細かいスペックは違うものの、それほどパワーは必要なく、安価に購入したい場合の選択肢となるだろう。またデザインは「kirameki(煌)」となる。
仕様のところで書いたように、「dv6i」のデザインは「asagiri」のみだ。天板はもちろん、キーボードそしてパームレストも含め白が基調になっている。加えて液晶パネルの周囲は光沢ブラック、ボディの淵はシルバーと、落ち着いたイメージでまとまっている。黒がベースになっている「kirameki」は、どちらかと言えば「ギラギラ」感があるので、ちょうど逆の雰囲気だ。また、手に触れる多くの部分が白と言うこともあり、指紋あとに関してはほとんど気にならない。ただし、使い込むと汚れが目立つ可能性はある。
先述のように、このクラスは普段持ち歩くタイプではなく、主にデスクトップ替わりの用途を意図している。そのため付属のバッテリは10.8V/47Wh/4,160mAhと小さめ。バッテリ駆動時間も最大で約3.4時間。BBenchの結果は後述するが、あまりバッテリ駆動を重視している様子はない。逆にACアダプタは120Wタイプなのでかなり大きい。筆写がこれまでレビューしてきた中でも最大級だ。CPUがCore i7プロセッサなので、どうしても大容量のACアダプタが必要となる。
1,366×768ドットの15.6型ワイドHDウルトラクリアビュー・ディスプレイは、光沢なのだが、あまりテカテカしておらず、割とあっさり気味の発色だ。動画が主体なら、もっとパンチの効いた色が欲しいが、これなら長時間文字が主体の作業を行なってもあまり眼が疲れないだろう。
キーボードはテンキー付だ。このサイズになると中央がたわむものが多いのだが、必要以上にキーを強く押し込んでも全くたわみは無く、筆者的には好印象。主キーのキーピッチも19mmとこれも好み。テンキーは若干キーピッチが狭くなるものの、用途を考えれば十分。なかなか使い易そうなキーボードだ。またキーボードの上にはタッチ式のミュート、音量調整、無線LANのON/OFFボタンが付いている。特にマウスを操作せず、音量が変えれるのは非常に便利だ。
パームレストとタッチパッドは完全に分離され段差がある。ボディが大きい分、面積は十分確保され使い易い。また、タッチパッドの上にある小さいボタンでタッチパッドをロックできる。外付けのマウスなどを使う時に有効だ。ボタンに関してはクリック感はあるのだが、割と重く指に負担がかかる。今一歩微調整が欲しいところ。
ノイズや振動に関しては、パームレストに手を置くと、若干感じられる。光学ドライブが回り出す時も同様だ。また裏のスリットから少し暖かい風が出ているし、パームレストもほんのり暖かい。ACアダプタが120Wと言うこともあり、システム的にはある程度の熱は出るのだと思われるが、ボディが大きい分、うまく処理出来ているのだろう。それほど気になるものではない。
ALTEC LANSINGステレオスピーカーは、キーボード上のメッシュの部分に仕込まれている。音質は聞いた限り、高音及び低音があまり伸びずにかまぼこレンジでこもり気味だ。サイズ的にもう少し出るかと思っていたのでちょっと残念な部分。もしかするとエージングが必要なのかも知れない。とは言え、他の小型ノートPCと比較した場合は、もちろん音質はいい。音量に関してはもう少しあっても良さそうな気がするものの、それなりのパワーなのでコンテンツは十分に楽しめる。
●Core i7とGeForce GT230Mのコンビは強力だが起動時のデスクトップは、asagiriのデザインをそのまま壁紙にしている。また、ショートカットも「HP Support Assistant」1つ、加えてタスクバーに常駐しているアプリケーションも「SRS Premium Sound」、「ノートン インターネット セキュリティ 2010 60日試用版」のアクティベーション、「HP Wireless Assistant」、「Synaptics TouchPad」と、非常にあっさりしている。タッチパッドに関しては、パッドの右端でスクロール、ゾーンでのタップと、オーソドックスなものだ。
OSはWindows 7 Professional。ただし32bit版だ。冒頭で書いたように、現時点ではHome Premiumも含めBTOで64bit版は選べない。届いたマシンは4GBのメモリが実装済み。コンピュータのプロパティを見ると「2.99GB使用可能」で、既に約1GBものメモリが無駄になっている。仕様的に最大容量8GBなので、ここは是非とも64bit版も選べるようにして欲しい。
HDDは「東芝MK5056GSY」が使われている。7,200rpm、そしてキャッシュは16MBだ。パーティションは、OSとしては約455GBの1パーティションで、Cドライブのみとなっている。一方、光学ドライブは「hp BD MLT UJ240」とある。
起動時のデスクトップ | デバイスドライバ/主要なデバイス | HDDのパーテーション |
プリインストールされているアプリケーションは、音楽/写真/動画/DVDをハンドリングする「HP MediaSmart」、「Windows Live」、メディア書き込み総合ソフトウェア「Cyberlink DVD Suite」など。この辺りは、先にレビューした、同社のデスクトップPC「Pavilion Desktop PC HPE 190jp」と同じ構成だ。
Cyberlink DVD Suiteの1つである「Power Director」は、GPUのアクセラレーションにも対応している。ただし付属のバージョンは「H.264/AVC」の書き出しには対応しておらず、アップグレードが必要となる。
HP MediaSmart | HP MediaSmart/ビデオ | CyberLink DVD Suite Deluxe |
SRS Premium Sound | NVIDIAコントロールパネル | Synaptics TouchPad |
ベンチマークテストは、Windows エクスペリエンス インデックス、CrystalMark、そしてBBenchの結果を見たい。まずWindows エクスペリエンス インデックスの総合は5.9。内訳は、プロセッサが6.1、メモリが7.5、グラフィックスが6.4、ゲーム用グラフィックスが6.4、プライマリハードディスクが5.9。他のノートPCもそうなのだが、ノートPCのSATA接続2.5インチHDDは、どれも結果は同じで5.8前後。いくらCPUやグラフィックスが速くても、結果的に最下位のスコアはHDDになってしまう。バランスを取るにはSSDが欲しいところ。他の部分は、ご覧のようにかなり強力だ。メモリも速く、GeForce GT 230M/1GBは、どちらも6.4と、ノートPCとしては群を抜いている。CPUも含めトータル的なパワーはさすがと言ったところだ。
CrystalMarkは、ALU 31,471(27,471)、FPU 29,187(30,207)、MEM 33,879(23,034)、HDD 10,975(10,515)、GDI 7,917(10,707)、D2D 7,404(2,693)、OGL 25,624(16,842)。カッコ内は少し前にレビューした、Core i5-430M+Mobility Radeon HD 4330を搭載した「デル Inspiron 15」の値だ(ただしOSは64bit版)。多くの部分で上回っていることがわかる。
BBenchは、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、WiFi/ON(BluetoothはOFF)での結果だ。バッテリの残7%で5,128秒(1.4時間)だった。容量から2時間持つかなと思っていたが、やはり厳しかったようだ。これからも分かるように、バッテリ駆動は、室内のちょっとした移動などで利用する程度を想定しているのだと思われる。
ノートPCでもCore i7プロセッサ+GeForce搭載ということもあり、HP Pavilion Desktop PC HPE 190jpの時に行なったRAW現像と、TMPGEnc 4.0 XPressを使ったエンコードにかかった時間を計ってみた。前者は純粋なCPUパワー、後者はCPUとCUDA(GPGPU)のコンビネーションの速度となる。
素材や設定など条件は全て同一。RAW現像に関しては、Nikon D3XのRAW画像(6,048×4,032ピクセル)、現像ソフトは「Nikon ViewNX」だ。30枚の画像を同じ条件で連続現像。エンコードに関しては約4分の素材を使っている。結果をまとめると以下の表になる(ただし他2機種は64bit版Windows 7)。
【表2】ベンチマーク結果i7-720QM+GT 230M | Q9950+GTX 260 | i7-920+GTX 260 | |
RAW現像 | 11分56秒 | 6分2秒 | 5分19秒 |
エンコード | 5分6秒 | 4分16秒 | 3分1秒 |
エンコードに関してはQ9550+GTX 260に約1分の差なので、ある意味納得なのだが、RAW現像は2倍近い差が開いている。OSが32bitによるメモリ不足か、TBが思ったほど上がらないのか、原因は不明だ。いずれにしてもデスクトップPCにはかなわないものの、ノートPCとしては十分に速い。
TMPGEnc 4.0 XPressでのエンコード速度 |
ただし、TMPGEnc 4.0 XPressでのエンコードに関しては、面白い結果となった。画面キャプチャをご覧頂くとわかると思うが、CPU=100%、CUDA=0%となっている。これはフィルタリングにCUDAを使わず、CPUを使っていることになる(他の2機種はCPU=63%、CUDA=37%程度)。
TMPGEnc 4.0 XPressは、そのマシンのCPUとCUDAのパワーを調べどう割り振るかの最適化を行なうのだが、結果、全てCPUで処理した方が速いとの判断となったのだろう。この現象は以前、筆者のマシンでも発生していて、Core 2 Quad Q8200+GeForce 9400 GTのコンビネーションでも同じくCPU=100%、CUDA=0%だった。Core i7のパワーの前には、SP 48個程度のGeForce GT 230Mは、CUDA用途としては非力なのかも知れない。
以上のように「Pavilion dv6i春モデル」は、BTOでCore i7、i5、i3を選択でき、i7とi5の場合、GPUはGeForce GT 230Mと、かなり強力な2スピンドルノートPCを構成できる。いずれにしても、15.6型液晶パネル搭載機で、ハイパワーな1台が欲しい人にお勧めだ。