西川和久の不定期コラム

Windows 7搭載の超薄型ネットトップ「Endeavor NP12-V」



Endeavor NP12-V

 今回は、自作PCを除けば多分最安値レンジのWindows 7搭載機だと思われる、エプソンダイレクトの「EndeavorNP12-V」をご紹介する。

 価格は驚きの32,800円から。サイズは20×153.5×198.5mm(幅×奥行き×高さ)と非常にコンパクトだ。CPUにAtom 230プロセッサを搭載していることから、ジャンル的にはネットトップになるだろうか。早速その使用感などをレポートしたい。

 なお、今回試用したのは試作機のため、実際の製品とは異なる場合があることをあらかじめお断りしておく。

●ちょっと変わったチップセット搭載

 Atom 230プロセッサを搭載したネットトップと言えば、チップセットはお馴染みIntel 945GC(GMA950ビデオ機能内蔵)もしくはIONプラットフォームを思い浮かべると思うが、NP12-Vは「SiS672(ビデオ機能内蔵)+SiS968」と珍しい構成になっている。

 このチップセット自体は、2007年初旬に発表された少し古めのもので、それ以前のチップセットSiS671/771シリーズでは、内蔵グラフィックス「Mirage 3」でWindows Aeroを作動させることはできるものの、パフォーマンス的な問題があり、「Mirage 3+」を内蔵した「SiS672」を発表した、という時代背景がある。資料によると、従来から10%ほどのパフォーマンスアップが見込めるらしい。主なアーキテクチャは、「DirectX 9/ShaderModel 2.0」に対応、ピクセルシェーダユニットをハードウェアで実装し、加えて「Real Video Technology」と呼ばれる動画支援機能も搭載している。また、メモリは最大4GBまでの対応だ。

 SiS627のサウスブリッジとして組み合わせるのは「SiS968」。HD Audio、RAID 0/1対応のSATA×2、IDE×1チャネル(2デバイス)、USB 2.0×8ポート、PCI×6、PCI Express x1×2などの機能を持っている。また、使用していない機能への電源供給停止機能があり、省エネにも一役買っている。実際、NP12-Vの消費電力は最大47.6W、通常時15.2W、スタンバイ時1.07W、電源OFF時0.74Wとかなり低い。

 同社はこれまで同じハードウェアでWindows XPを搭載した「NP11-V」を出荷していたが、今回、Windows 7を搭載の「NP12-V」が新たに発表された。価格はBTOの内容によるが、前者が26,800円から、後者が32,800円からと併売している。OSの違いだけで6,000円の差だ。また先のグラフィックス仕様で分かるように、Aeroにも対応。ただし、注意点として、Windows XPモデルは「ファンレス」、今回のWindows 7モデルは「ファンあり」となっている。

CPU:Atom 230プロセッサ
チップセット:SiS672(ビデオ機能内蔵)+SiS968
メモリ:1GB/DDR2-1GB×1(1スロット/空き0)
HDD:160GB
OS:Windows 7 Home Premium(32bit)
ディスプレイ:ミニD-Sub15ピン、チップセット内蔵「Mirage 3+」
ネットワーク:Gigabit Ethernet(1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T)
その他:USB 2.0 全面×2/背面×4、音声入出力
サイズ/重量:20×153.5×198.5mm(幅×奥行き×高さ)/740g(フットスタンド込み)

 仕様はご覧のように非常にベーシックだ。無線LANやBluetoothは非搭載、グラフィックスのデジタル出力も無いが、用途と価格を考慮すると納得の範囲だろうか。逆にLANがGbEなのはNASなどと併用する時にありがたい。

 面白いのは、液晶ディスプレイのVESAマウント部に取り付けられる専用ブラケット「一体型キット」をオプションで提供していることだ。この他にも18型の液晶ディスプレイとのセットや、スピーカーとDVDスーパーマルチドライブとのセットなども用意されている。

 唯一、不安要素があるとすれば1GBのメモリだ。内蔵グラフィックスMirage 3+が占有するメモリ空間は128MB固定。従ってこの時点でメインメモリは減る。加えてOSは軽くなったとは言え、Windows XPよりは重いWinodws 7。筆者はこれまで1GBでWindows 7を使ったことが無いため、どの程度のパフォーマンスになるのか想像が付かない。この点については後半で調べてみたい。なお、このメモリ1GBは、BTOでも変更することができず、1GB固定になっている。

フロント。電源スイッチ、USB 2.0×2、音声入出力左側面。特にインターフェースは無く、「EPSON」のロゴなどがある。また表面はツルツルしている背面。ミニD-Sub15ピン、USB 2.0×4、Gigabit Ethernet、電源入力、音声出力
右側面。左側とは違い、表面はザラザラしている付属品。ACアダプタ、キーボード、マウス、フットスタンド、リカバリーDVD、ドライバCD、小冊子、電源ケーブル重量は実測で613g。ただしフットスタンドは含まれていない
フットスタンドの裏。オモリがあり、更に滑り止めが全面にある開け閉めがやり辛いカバー。このように何かを挿さないと半端に閉まってしまうAspireRevo ASR3610-A44とのツーショット。AspireRevoも小さくて薄いネットトップだが、NP12-Vは更に上をいく

 まず届いて少し驚いたのが、梱包がやけに長細いことだった。「ボディは小型なのに大げさだな」と開けたところ、その幅の原因はキーボードと言うのが判明した。写真からも分かるように、キーボードはフルサイズで10キー付き。ディスプレイと一緒に並べば違和感は無いものの、本体とのみ比較した場合は異様に大きく感じる。

 肝心の本体は、さすがに小さく薄い。「AspireRevo ASR3610-A44」より更にコンパクトだ。この薄さの中に、フロントにはUSB 2.0×2、音声入出力、背面にUSB 2.0×4、LAN、電源入力、音声出力を配置している。

 ちょっと気になった部分は、フロントのインターフェイス部分だ。普段は見えないようにカバーが付いているのだが、これがなかなか開き難く、更に開けっ放しにならず手を離すと半端に閉まってしまう。このような理由もあって、掲載した写真は、USBメモリが刺さった状態になっている。若干使い辛いので、改善の余地がありそうだ。

 逆に「これは良い」と思ったのは「フットスタンド」。同じネットトップのAspireRevo ASR3610-A44では、単にV字の形をした軽いプラスチックスタンドだったので、何かするにもすぐ本体が動いてしまうのだが、このNP12-Vに付属するフットスタンドの底にはオモリが張られ滑り止めもあり、結構ズッシリ重い。もちろん、USBポートへ何かを挿す場合は、本体を持っていないと動いてしまうが、電源ON/OFF程度では動かないので扱い易い。ちょっとしたことであるが、軽くて薄いボディなだけに、このような工夫はユーザーとしてありがたい。

 熱に関してはCPUファンが回り続けるような重い処理をずっと行なっているとほんのり熱を持つ。ノイズは上部のスリットへ耳をあてて、やっと少し聞こえる程度だ。スペック上は約20dBと静音性は高い。

 付属のキーボードとマウスは、どちらもUSB接続タイプだ。質感などはあくまでも同梱レベルだが、だからと言って使えないようなものではない。このクラスとしては標準的なクオリティーだ。

●32bit版Windows 7 Home Premium搭載

 先に書いたように、メモリ1GBでWindows 7搭載と、パフォーマンス的にどうなのか気になるところだ。

 はじめて電源をONにすると、ユーザー名の設定やネットワークの設定など、Windows 7の初期設定が行なわれるが、ここまでの動作に関しては特に重い雰囲気は無く、一通りの入力が終わるとデスクトップが表示される。もちろんAeroはON。この状態で使用メモリは約400MB弱だ。メニューを開いたり、フォルダを見たり、軽く操作したところ、Atom 230、そしてメモリ1GBを意識するほどは遅くはない。

 とは言え、全体的には切れが無いので、「パフォーマンスの情報ツール→視覚効果の調整」で、アニメーション系のエフェクトを全てOFFにしてみたら、少し動きが良くなった。なおテストした解像度は1,024×768ドット(XGA)。仕様上は最大解像度1,920×1,200ドット(WUXGA)までの対応となっている。

シンプルなデスクトップ。AeroはON搭載している160GBのHDDは「Hitachi HTS545016B」HDDは160GBワンパーティションだ

 HDDは160GB、ワンパーティションで、Cドライブに割当てられている。使用ドライブは「Hitachi HTS545016B」。デバイスドライバのCPUはHyper-ThreadingがONで2CPU相当となっているのが分かる。メモリはMirage 3+がメインメモリ128MBを占有するので、実質「895MB」となっている。

 プリインストールのアプリケーションは少なく、「マカフィー・PCセキュリティーセンター 90日期間限定版」、「i-フィルター 5.0 1ヶ月試用版」、そして同社オリジナルの「PCお役立ちナビ」など。PCお役立ちナビは、キーワードで検索すると、ローカルもしくはローカル+ネットで関連する情報を表示するQ&Aシステムだ。

PCお役立ちナビお客様満足度アンケート初期設定ツール

 さてベンチマークテストを行なった結果であるが、まずWindows エクスペリエンス インデックスの総合スコアは何と「1.0」。内訳は、プロセッサ2.3、メモリ3.9、グラフィックス1.0、ゲーム用グラフィックス3.0、プライマリハードディスク5.4だ。

 プロセッサの2.3はAtom 230プロセッサなので仕方ないにしても、グラフィックスが1.0はさすがに辛い。ゲーム用グラフィックスは3.0と頑張っているものの、用途的にはこの値が逆の方が良かったかも知れない。CrystalMarkの結果を見ても同様の傾向が現れ、CPU、メモリ、HDDなどは一般的なネットブックとあまり差が無いが、グラフィックス性能はGMA950に劣っている。

 また、動画支援機構「Real Video Technology」に対応したソフトウェアが入っていない関係から、動画の再生はCPUとグラフィックスのパワーに依存してしまう。試しにYouTobeのHD動画を再生したところ、パラパラ漫画になってしまった。この時、CPU使用率はずっと100%だ。Windows 7に入っているサンプルHD動画再生時も90%前後を行なったりきたり。システム的にHD動画を再生するには明らかにパワー不足。

 しかし、例えばここに掲載している画面キャプチャは、もちろん実機で画面を取り込んでいるのだが、日頃行なっている作業をしても、ハイパフォーマンスマシンと比較すれば何をするにしても一呼吸おく感じになるが、特に不満もなく処理できている。ネットワークを経由したファイルコピーも同様だ。またWebブラウザでスムーズスクロールを行なうと少し波打つ感じがしないでもないが、十分実用範囲だった。これから考えても、HD未満の動画再生、写真や文字中心の処理を主に行なうなら問題無い。

Windows エクスペリエンス インデックス総合は1.0。グラフィックスが足を引っ張っているのが分かるCrystalMark。CPU、メモリ、HDDなどは、同クラスのネットブックと比較して大差無い。やはりグラフィックス性能は今一歩サンプルHD動画再生時のCPU使用率。ご覧のようにCPUをほぼ使い切っている状態で、動画支援機構は効いていない

 以上のように、Windows 7においてメモリ1GBでのパフォーマンスが気になる前に、グラフィックスのパフォーマンスの方が先に気になると言う結果となった。仮にメモリ不足なら2GBのものと入れ替えれば済むものの、チップセット内蔵グラフィックスに関しては交換できない。この点をどう見るかによって大きく評価が別れるところだろう。

●メモリを2GBへ交換した結果……

 ほぼ本文を書き終えたところで、内部の写真も撮ることになり、せっかくなのでメモリを2GBへ増やし再度ベンチマークテストを行なって見ることにした。メーカー保証が効かなくなるものの、内部へアクセスするのは比較的簡単だ。

 まず、ボディの周囲にある小さいネジを6つ外す。内2つは、フロントのカバーの中にある。後は、内側から引っかかっている爪を細いマイナスドライバーなどを使って根気強く外して行くだけの作業となる。

 無事外れると、内部はHDD、そしてCPUファン、メモリなどが見える。ファンはかなり小型で、この状態のまま電源をONにしWindowsを使ってもほとんど音は聞こえなかった。

本体を開けたところ。全部で6本のネジを外す。内2つはフロントのカバーの中にある。後は根気強く内部で引っかかっている爪を細いマイナスドライバーを使って外して行く本体内部。NP12-Vはファンありだ。この状態になればメモリやHDDは簡単に交換できるメモリ増設。1GBメモリを手持ちの2GBメモリへ交換した結果、驚くべきことが判明

 さて、準備が整ったところで、手持ちの2GBメモリと交換し、マシンを起動。無事動くのを確認し、コンピューターのプロパティを見るとメモリは「2.00GB(1.87GB使用可能)」となっている。

 そしてWindows エクスペリエンス インデックスを測り直した結果、総合スコアが「1.0→2.3」へ上昇した。内訳は、プロセッサ2.3(2.3)、メモリ4.4(3.9)、グラフィックス3.2(1.0)、ゲーム用グラフィックス3.0(3.0)、プライマリハードディスク5.4(5.4)(カッコ内はメモリ1GBの値)。

 このように、メモリとグラフィックスのスコアが大幅に向上しているのが分かる。この値はIntel 945GC(GMA950ビデオ機能内蔵)並の数値と言える。ただCrystalMark値は変化無し。測定の方法が違うとは言え、この点は腑に落ちないものの、実際、Windows 7を操作すると明らかに体感速度が違い、より動きが良くなり、ワンテンポ待つような感覚が減った。フォルダー内のサムネイルもパラパラ出るのではなく、素早く表示される。これはかなりのパフォーマンスアップだ。

 これだけの差があるならぜひBTOでメモリ2GBの選択ができるように、もしくはコストの問題もあるだろうが、標準でメモリ2GBを搭載して欲しいところだ。やはりWindows 7をメモリ1GB、メインメモリ共有タイプのGPUで運用するのは無理があると思われる。

2GB時のタスクマネージャ。メモリ2GBに増設し実質1.87GB使用可能。使用メモリは500MB前後になっている2GB時のWindows エクスペリエンス インデックス。総合が2.3=プロセッサの値に変わった。何とメモリが3.9→4.4、グラフィックスが1.0→3.2へ上昇している2GB時のCrystalMark。CrystalMarkに関してはメモリ1GBも2GBもほぼ同じ(誤差の範囲)となっている

 標準の1GBメモリでは、Windows エクスペリエンス インデックス、グラフィックスのスコアが1.0、YouTubeのHD動画がコマ落ちしたり……と、特に動画再生能力は劣るが、写真や文字中心の処理であればそれなりにオペレーションできる。どちらかと言えばホビー用途より、軽い事務処理など、ビジネス用途で安価・静音・省エネ・省スペースなどを求めるユーザーのニーズにマッチするネットトップではないだろうか。