■西川和久の不定期コラム■
2009年4月にAMD Yukonプラットフォーム採用ノート「HP Pavilion dv2」が登場したばかりだが、早くもCPUの強化などを含む秋モデルが投入された。価格帯的に8万円未満でネットブックの上を狙っているこのノートPC。その実力が気になるところだ。試作機が届いたので早速チェックする。
この春に「HP Pavilion dv2」が発表された時は、国内初のAMD Yukonプラットフォーム採用ノートPC、しかもネットブック+α程度の価格帯ということで、かなり注目を集めた。
一般的なネットブックとの大きな違いは、CPUにAthlon Neo MV-40(1.60GHz)、チップセットはAMD M690G、GPUはチップセット内蔵もしくはATI Mobility Radeon HD 3410(512MB)、そして12.1型ワイド液晶パネル1,280×800ドット(WXGA)といったあたりか。
ここに並べた特徴だけでもネットブックと比較してポテンシャルが上なのがわかるだろう。しかも販売価格は量販店モデル(チップセット内蔵GPU)で5.5万円前後、外付けスーパーマルチドライブとATI Mobility Radeon HD 3410を搭載したDirectplus扱いモデルが69,300円。当時の少し高めのネットブックと完全にクロスするレンジだった。春モデルの詳細は、本城網彦氏の記事を参考にして頂きたいが、特に画面が狭いという理由でネットブックを敬遠しているユーザーもこれなら納得だと思われる。
その「HP Pavilion dv2」に、CPUなどを強化した「秋」モデルが発表された。春モデルと仕様的にどこが違うのか簡単な表にまとめた。ただし、先に書いた様に、量販店モデルと同社のDirectplus扱いモデルでかなりスペックが違っている。従って春モデルで2パターン、秋モデルで2パターンの計4パターンでの並びとなる。
【表】各モデルの仕様
春・量販店 | 春・Directplus | 秋・量販店 | 秋・Directplus | |
OS | Vista Home Basic | Vista Home Premium | ||
CPU | Athlon Neo MV-40 | Athlon Neo X2 Dual Core L335 | Turion X2 Dual Core L625 | |
チップセット | AMD M690G | |||
ディスプレイ | 12.1型/1,280×800 | |||
GPU | チップセット内蔵 | ATI Mobility Radeon HD 3410(512MB) | ||
メモリ | 2GB(1スロット/最大4GB) | |||
HDD | 160GB | 320GB | 250GB | 320GB |
無線 | IEEE 802.11b/g | IEEE 802.11a/b/g/n+Bluetooth | IEEE 802.11b/g | IEEE 802.11a/b/g/n+Bluetooth |
光ドライブ | n/a | スーパーマルチ | n/a | n/a |
価格 | 55,000円前後 | 69,300円 | 70,000円前後 | 79,800円 |
このほか、共通の仕様として、USB 2.0×3、Ethernet、HDMI 1.3b出力、ミニD-Sub15ピン、5in1メディアスロット(SDカード(SDHC)/MMC/メモリースティック(PRO)/xD-Picture Cardスロット)、Webカメラ(30万画素)、音声入出力など。サイズは293×242×24~33.5mm(幅×奥行き×高さ)。重量約1.7kg。12.1型とパネルが大きい事もあり、少し重めとなる。バッテリ駆動時間は6セルで約3.6時間だ。
ここで気になる点があるとすれば春モデルと秋モデルの価格差だろう。量販店モデルでは+約1.5万円だ。CPUがAthlon Neo MV-40からAthlon Neo X2 Dual Core L335へ、GPUがチップセット内蔵からATI Mobility Radeon HD 3410(512MB)へ、HDDが160GBから250GBへと強化されている。また、OSがWindows Vista BasicからHome Premiumへ変更されているのでこの差額も含まれる。
まずCPUに関しては、「Athlon Neo MV-40」は、シングルコアで動作クロックが1.6GHz、L2キャッシュが512KB、消費電力が15Wだ。対して「Athlon Neo X2 Dual Core L335」は、デュアルコアで動作クロックが1.6GHz、L2キャッシュが512KB、消費電力が18Wだ。前者がそのままデュアルコアになったCPUと思っていいだろう。
チップセット「AMD M690G」に内蔵しているGPUは「ATI Radeon Xpress 1250」とほぼ同性能。シェーダユニット数が4基、動作クロックは400MHzの構成だ。対して「ATI Mobility Radeon HD 3410」は、H.264などHD動画に対応し、性能も高い。
OSの価格差を考えると、この2つの違い+HDD 90GB増量で約1万円前後となるだろうか。単に価格だけ見ると値上げしたように見えるものの、能力差を考慮するとリーズナブルだ。さらに同社は「Windows 7 フリーアップデートキャンペーン」を行なっており、Home Premiumなら無料でWindows 7へアップグレードできる(Vista Basicは対象外)。
また、最上位の秋・DirectplusモデルはCPUが「Turion X2 Dual Core L625」になっている。L335と作動クロックこそ同じだがL2キャッシュが1MBだ。秋・量販モデルから+9,800円となるが、HDD 70GB増量、無線LANのa/b/g/n対応、Bluetooth 2.0+EDRも加わるので、更にお買い得感がある。
●使用感とパフォーマンス
今回試したのはDirectplusモデルだ。従ってCPUはTurion X2 Dual Core L625、HDD 320GB、IEEE 802.11 a/b/g/11n、Bluetooth 2.0+EDRとなっている。まずWindows エクスペリエンス インデックスの値を見たところ、4.0~5.4(CPUは4.5)。これはデュアルコアのAtom 330プロセッサ+GMA950でWindows Vistaを動かした場合とゲーム用グラフィックス(2.8)以外はよく似た値であり、実際操作した感じも大差無い。ただし、GMA950はゲーム用グラフィックスのスコアが極端に悪く、更に動画支援機能が無いため、描画関連はこのPavilion dv2の方が圧倒的に上だろう。
さすがに1,280×800ドット(WXGA)の解像度で12.1型ワイド液晶パネルは、一般的なネットブックとは比較にならないほど快適だ。10万円越え級のノートPCと全く同じ感覚で操作できる。グレアタイプで映り込みはあるものの、コントラストが高く、発色もなかなか良い。
キーボード周りはボディが大きい分、余裕があり、パームレスト部分も十分広い。このパームレストやキーボード、タッチパッドはツルツルした感触で金属質だ。タッチパッドは滑りが良く扱い易いものの、キーボードのキーを打ったフィーリングは少し異質な感じがする。たわむことは無くしっかりしているのだが、どうも筆者には合わなかった。また、タッチパッドのボタンは結構硬い。この点は個人差があると思うので、是非店頭で試して欲しい。ノイズはボディに耳を近づけると聞こえる範囲。そして1時間ほど触っていると、ボディやキーボード、パームレストなどが意外と熱を持つのが気になった。
各インジケータが青く光る。またボディ側面がシルバーなので反射して綺麗だ | タッチパッド中央上のボタンを押すとLock/UnLockができる。橙色はLock中 | 12.1型液晶(XGA)1.65kgのTinkPad X31よりワイド画面な分、一回り大きい |
いつも筆者が気にするスピーカーの音であるが、カタログ上には「Altec Lansingステレオスピーカー、SRS Premium Sound」との記述がある。だからかどうかは不明であるが、このクラスとしては音質も音量も良い方だと思われる。また重量が約1.7kgとあるが、実際片手で持ち上げるとそこまでの重さを感じない。全体的なバランスが良いのかもしれない。
1点不満があるとすれば、HDMIまで搭載した全部入りのノートPCにも関わらず、有線LANだけはなぜか多くのネットブックと同じ10/100BASEになっている点だ。NASを使う場合など、Gigabit対応と比べて転送速度にかなり差が出る。コスト的も今となっては大差無く、できれば見直して欲しい部分である。
添付ソフトウェアは「ノートン・インターネットセキュリティ2009(60日間試用版)」、「CyberLink DVD Suite」、そして同社オリジナルの「HP MediaSmart」となる。このHP MediaSmartは全画面でDVDビデオ、音楽、写真、動画などを再生できる。あまりいろいろアプリケーションが入っていない点は筆者的には好みである。
Windows エクスペリエンス インデックス。参考までにAtom 330プロセッサ+GMA950だと、4.3/4.5/4.1/2.8/5.9となる | CrystalMark 2004R3/Mark | CrystalMark 2004R3/CPU。Turion X2 Dual Core L625は、65nmプロセス、AMD64及びAMD-VがONだ |
ベンチマークテストとしては「Windows エクスペリエンス インデックス」と「CrystalMark 2004R3」の値を参考にして欲しい。これを見る限り、CPU、GPU、HDDなど主要コンポーネントで凹凸は無く、平均的になっている事がわかる。10万円越えの普通のノートPCよりは部分的に劣るかも知れないが、ネットブックとは比較にならないパワーを持つ。操作してCPUがパワー不足とか、GPUが遅いとか、何かがボトルネックとならず、均等の取れた使い勝手の良いノートPCに仕上がっている。
春モデルと異なり、最近では超低電圧版CPUを搭載したノートPCが+1万円程度で登場している。従って価格レンジ的には、ネットブック =< ソニーVAIO W < Pavilion dv2 < ULV版CPU搭載ノートPCと、ちょうど数万円の隙間にはまり込んだ格好となる。数多くのネットブックを触った筆者の経験上、ネットブックかそれ以上かの差はいろいろな意味でかなり大きい。また、ソニーVAIO Wを間に入れたのはGMA950を使っているにも関わらず、10.1型1,366×768ドットの液晶パネルを搭載しているからだ。
こうして考えると3万円台から約1万円刻みでいろいろなノートPCをユーザーが選択できる時代になり、これはこれで喜ばしいことだ。その中で「ちょっと上」のポジション狙いのPavilion dv2は、なかなか面白く、そして意欲的なノートPCと言えるのではないだろうか。