工作をしていると、物を物をくっつけることが頻繁にあります。電子部品を基板にくっつけるときは迷わずハンダごてに電源をいれますね。でも、他の物をくっつけるときは、けっこう迷うんじゃないでしょうか。物の大きさ、重さ、表面の材質、作業のしやすさ、結合の強度など、いろんなことを考えてしまいます。でも、正解はよくわからなくて、結局いつも両面テープに頼ってしまうのが最近の我々です。
両面テープは素晴らしい接合手段で、とくに住友スリーエム(以下3M)の超強力シリーズを使うとたいていのものはくっついてしまいます。ネジよりもずっと手軽。接合部が外から見えない点もいいですね。キレイに仕上がります。
しかし、我々は両面テープの性質をほとんど何も知らずに、今日まで漫然と使ってきました。それではイカンのではないか、ということで、世田谷区・用賀の3M本社へお邪魔して、両面テープをはじめとする3Mの接着・粘着関連製品の話を伺ってきたのが、今回のレポートです。
なんでもくっつく「スコッチ超強力両面テープ・プレミアゴールド・スーパー多用途」(KPS/SPSシリーズ)。パッケージには「迷ったらコレ」と書いてあります |
当初、我々は、くっつけたい物の材質や使用条件などに応じて、さまざまな両面テープを使い分ける必要があると思っていました。そのための知識を得る目的で3Mを訪問したのですが、いきなり「これで何でもくっつきます」といって1本の両面テープを渡されてしまったのです。それが「スコッチ超強力両面テープ・プレミアゴールド・スーパー多用途」で、フジテレビの「ほこ×たて」でも勝利を収めた、3Mの最新最強製品です。従来の両面テープが苦手としていた軟質塩ビにも対応し、あらゆる材料を「超強力」にくっつけます(シリコーン、フッ素樹脂加工表面には使えません)。
両面テープにおける「超強力」の定義は、JIS規格Z1541が基になっています。3Mはこの規格の「第1種」を満たすものを「超強力」と定義していて、この基準は両面テープが建築の分野で使われるようになったことから導入されました。
マンション等で使われる金属製のドアは、もともとネジや溶接で組み立てられていたのですが、それに代わるより効率的な製造方法として、両面テープ工法が取り入れられ、そうした製品を公共物件に納入する際にJIS規格が必要だったため、業界の統一基準として設定されたという経緯があるようです。自動車のドアモールも、昔はネジ止めだったものが、強力な両面テープの登場以来、両面テープ工法が主流になりました。事故や洗車機の負荷にも耐えることが証明されています。
そうした話を聞いて、我々が工作でネジの代わりに両面テープを使うことも合理的であるという確信が湧いてきました。あとは、かねてより抱いていたいくつかの疑問が解決すれば、さらに安心して使えそうです。以下はその疑問と答。
両面テープは貼ってからどのくらいの時間で安定するのでしょう?
「ダンベルのデモでは貼ってすぐに十分な強度を発揮しましたが、粘着力が最大になるのは24時間後です。超強力タイプの場合、1日経つと剥がすのが困難になります」。
それでも剥がしたいときはどうすればいいのでしょう?
「柔らかい素材の場合は、ゆっくり端からめくっていくと、基材と呼ばれる両面テープの土台が壊れて剥がれます。金属板のような固い素材の場合は、端から剥がすことができないので、基材を切る必要があります。薄刃のカッター、ピアノ線、デンタルフロスなどを隙間にいれて、基材をゆっくり切っていきます。時間がかかる作業です。手を切らないよう注意してください」。
剥がすことを前提に作られた両面テープはありますか?
「コマンドタブはつまんで引っ張るだけで、簡単にはずすことができます。粘着力は超強力両面テープに比べると弱いものの、Lタイプ1個で2~3kgは大丈夫です」。
両面テープは保管中、側面に汚れがつくのが気になります。どうすればキレイなまま保管できるでしょう?
「今後の課題ではあるのですが、多少のホコリは性能に影響しないので、あまり気にしなくてもいいでしょう。ビニール袋にいれて保管すれば十分です」。
回路基板のように電気が通っているものに対して使ってもいいのでしょうか?
「絶縁の規格には準拠していませんが、電気を通さない素材だけで作られているので、電子工作用途であれば問題ありません」。
貼り付ける面はキレイに清掃したほうがいいのでしょうか?
「多少のホコリは気にしなくてもいいのですが、油分があるときは拭き取ってください。実験ではアルコールで拭いてから貼るようにしています」。
両面テープをハサミで切ると、刃がベタベタになってしまいます。
「スコッチ・チタンコート・シザーズのべたつき防止加工がされたモデルがオススメです。また、ウェットティッシュタイプのスコッチはさみ強力クリーナーを使えば、普通のハサミについたベタベタが簡単に落ちます。一般用両面テープの場合は、手切れ性にも考慮しているので、指で切ってもかなりまっすぐ切れます」。
我々も両面テープだけであらゆる工作に対応できるとは思っていません。小さな部品や複雑な形状の物に対しては接着剤も使います。
近年、主に使ってきたのは、赤い容器の「スコッチ強力瞬間接着剤・液状多用途」。チューブがプラスチックのハードケースに覆われているので、工具箱に放り込んでもつぶれません。キャップの開け閉めもしやすく、気持ちよく使えます。取材の場で、そのことを伝えると、同じ形をした2つの瞬間接着剤が現れました。
1つはグレーの容器に入った「ジェル多用途」。粘度の高い液体なので、垂直面に塗ってもタレることなく使えます。作業性のよさでオススメの製品とのこと。もう1つは黒い容器の「耐衝撃」。もともと衝撃には弱いとされる瞬間接着剤の弱点をクリアして、オモチャの修理や模型工作に適した特性になっています。
瞬間接着剤についても、いくつか質問しました。
たとえばプラモデルの小さな部品をつける場合、貼り付けてから何秒くらい押さえておけばいいのでしょう?
「5~6秒程度押さえておけば十分です。ジェルは少し遅いので、10秒くらいが目安です」。
広く塗り広げたほうがいいのでしょうか?
「瞬間接着剤は、湿気に反応して硬化します。広く塗ってしまうと空気中の湿気が届きにくくなってしまうので、点、点、点と塗ってください」。
指先について皮がくっついてしまったらどうするのが正しいのでしょうか?
「湿気で硬化すると言いましたが、水分が多すぎると硬化しない性質もあります。水に浸してゆっくり動かしてください。じきに取れます。接着剤が化学反応を起こして熱くなることがあるので、水に浸けることが大事です」。
「スコッチ強力瞬間接着剤ジェル多用途」はグレーの容器。作業性のいい瞬間接着剤です。我々はこれを主力瞬間接着剤に採用しました |
我々からの質問が切れたところで、「瞬間接着剤よりは時間がかかるんですが、超強力両面テープのように、何でもくっつく接着剤があるんです」という口上とともに登場したのが「スコッチ超強力接着剤プレミアゴールド・スーパー多用途」です。この製品が今回の取材における1番の驚きだったかもしれません。
従来は接着が難しかったポリプロピレン、ポリエチレン、シリコーンゴムなどにも対応し、接着に適さない物は貴金属だけ。なぜ貴金属はダメなのかと言うと、接着力があまりに強いので、誤ってくっついてしまったら困るだろう、という配慮からそう記載しているようです。
これ1本であらゆる素材に対応できるので、ホームセンターの店員さんによっては、お客さんから「○○をくっつけられるのはどれですか?」と聞かれたとき、○○が何であってもこの接着剤を勧める人もいるとか。確かに対象の材質を考えずに使えるのは大変安心です。さっそく我々も1本常備することにしました。
現在、接着剤の色が異なる3種類が販売されています。白、黒、透明の3種で、中でも透明タイプは今年発売されたばかりの最新モデル。接着面が目立たないので、どんな素材に対しても使いやすそうです。
何でもくっつく「スコッチ超強力接着剤プレミアゴールド・スーパー多用途・透明」。2012年発売の最新鋭接着剤です |
3Mの製品は文具店やホームセンターで売られているものだけでなく、医療品やエレクトロニクスなど極めて広い分野に渡っています。本社ショールームでそうした製品の一端を見ることができました。ここからは、そこで我々の目を引いた製品や技術をいくつか取り上げます。
今回取材にご協力いただいたのは、コンストラクション及びホーム・インプルーブメント事業部の中井幸男さん、芝崎和孝さん、コーポレートコミュニケーション部の高田文人さんのお三方です。「これ1つで何でもくっつきます」という予想を上回る明快な回答を何度も聞くことができ、とてもスッキリした気分で帰路についた我々でした。