モバイラーが憧れた名機を今風に蘇らせる
第11回
シャープ「MURAMASA PC-CV50F」
~暗黒時代を生き抜いたEfficeon搭載小型モバイル
(2016/3/19 06:00)
これまでコラムで何度か述べてきたが、2000年前後はミニノートにとっての黄金期だった。メーカーと機種の選択肢が多く、自由に選べた。東芝の「Libretto」から始まり、日本ビクターの「InterLink XP」、ソニーの「バイオU」、カシオの「CASSIOPEIA FIVA」、富士通の「LOOX S」……など、10型以下のノートが目白押しだった。
しかしその黄金期も、2003年辺りを境目に陰りが出てきた。小型Windowsモバイルの走りであったLibrettoは、2002年の「L5」を最後にリリースされなくなった。バイオUはCrusoeからCeleron 600Aに変わった「バイオU101」がリリースされたが、それ以降のモデルはキーボードがなくなっている。CASSIOPEIA FIVAは2001年暮れに終息。LOOX Sも2003年半ばで最終モデルを迎える(以降、光学ドライブ搭載の「T」だけがCrusoeからCentrinoに代わり生き残った)。
そういった意味で、今回ご紹介するシャープの「Mebius MURAMASA PC-CV50F」(以下CV50F)は、そんな“暗黒時代”に生まれた、異例の7.2型液晶搭載ミニノートである。
暗黒時代を生き抜いたMURAMASA
そもそもなぜ2003~2004年がミニノートにとって暗黒時代となってしまったのか。1つに、ミニノートに多く採用されたTransmeta Crusoeの性能に、ユーザーが見切りをつけたことが挙げられる。Crusoeが登場したWindows Me/2000時代であれば、さほど性能に不自由はなかったのだろうが、登場当初から「重い」と評されたWindows XP(特に新インターフェイスのLuna)を走らせるためには、いささか性能が不足していた。加えて、ソフトウェアでx86コードをネイティブのVLIWに変換するオーバーヘッドがあり、実アプリの動作においても“一息置く”ため、これも不評の一因であった。採用したPCメーカー各社もこの性能に対する不満の声が届いていたのだろう。
当時、この声を製品に反映して開発されたとされるのが、ソニーのバイオU101であった。バイオU101に搭載されているモバイルCeleron 600Aは、当時Intelから発表されたものではなく、「ソニーがIntelにとくにお願いして作っていただいた」ものだとされている。このプロセッサは後に富士通の「LOOX T」でも採用されたのだが、一時ソニーだけが供給を受けられたものに違いはない。
加えて、日本国内では2000年にもノートPCのシェアがデスクトップPCを上回ったと言われており、Intelは早くもCentrinoプラットフォームで対応したのだが、Transmetaはその間新製品……というより、モバイルに特化したプラットフォームを投入しなかった。Crusoeの後継としてCentrinoを同じプラットフォームに載せるためには、設計を一新する必要があり、これが当時ソニー以外、難しい事情でもあったのだろう。
そんな時代でも、Transmetaを意欲的に採用し続けたのがシャープであった。例えば1月には、軽量薄型モバイル「PC-MM1」のクロックを従来の867MHzから1GHzに引き上げた「PC-MM1-H3W」を投入し、年末には、世界で初めてEfficeonを搭載した薄型軽量モバイルノート「PC-MM2」を発表した。CV50FはこのPC-MM2に続く2番目のEfficeon搭載ミニノートとなる。
ちなみに、2003年~2004年辺りにTransmetaのみならずAMDの採用も減っており、この辺りは当時話題になったインテルの独禁法違反も絡んでくるのでは? という読者もおられるだろう。しかし先述の通り、そもそも当時両社にはノート市場のニーズを満たせるプラットフォームがなかったので、PCメーカーの視点から見ても積極的に採用すべき理由が見当たらなかったと思われる(つまりソニーのU101と同じ考え方だ)。
もっとも、魅力的な製品がなく採用が増えなければ、新製品開発に回す資金もないという“ジリ貧”になることは明白だ。そういう意味では、頑なにTransmetaやAMDを採用し続けたシャープは偉い(笑)。
最初で最後のEfficeon搭載ミニノートだがシャープ渾身の一作
CV50Fはわずか1世代でモデルチェンジも行なわれず終息した。加えて、ノートPCに採用したのはシャープだけで、さらに10型未満のミニノートは本製品だけなので、全世界的に見ても最初で最後のEfficeon搭載ミニノートである(つまり、Libretto 20/30以上にレア)。とは言え、シャープとしてはかなり力を入れて開発された製品となっている。
まず、シャープが独自に開発した超高開口率技術を用いた7.2型の「ワンダーピクス液晶」を採用している点が挙げられる。シャープと言えばやはり液晶のイメージが強いのだが、本製品はその印象を裏切らない出来となっている。ワンダーピクス液晶は、当時の従来技術と比較して開口率を20%向上させたとしており、そのためバックライトの透過率が向上し、より高精細(つまり画素密度が高い)な液晶が実現できる。
当時のモバイルノートは10.4型で1,024×768ドット(XGA、約123dpi)表示が当たり前で、ワンランク下のサイズだと、例えば6.7型で800×600ドット(SVGA、約149dpi)か、8.9型で1,024×600ドット(WSVGA、約133dpi)に限定されてしまい、PCとしての使い勝手が大きく損なわれてしまう。一方で本製品は7.2型ながら1,280×768ドット(約207dpi)という高解像度を実現。当然、文字はその分小さくなるが、情報量が増え使い勝手が良くなる。このサイズでこの解像度は当時としてかなり画期的だった。
実際に11年経った今見ても、非常に繊細な表示を実現しながらも、明るくて見やすい。液晶だけ見るなら、これが11年前のノートPCだとはまず思わないだろう。製品情報のページでは「印刷に迫る高精細で、写真や地図も美しい。」として紹介されているが、異論の余地はない。
ただし当時はダイレクトボンディング技術がなかったことに加え、パネル表面と表面の保護層の間の空間もそれなりにあり、保護層も光沢仕上げのため、ワンダーピクス液晶の素晴らしい表示性能を100%引き出せているわけではない。この辺りはちょっと惜しいなと思う。
もう1つ特徴的なのは、Phoenix Designのトム・シェーンヘル氏が手がけたとされる本体デザイン。デザインにこだわったPCは今となってはさほど珍しいものではないが、当時外国人デザイナーを起用してまでデザインされたPCは珍しいだろう。本製品はモバイラーはもとより女性も新規ターゲットに据えており、そのためデザインにもこだわった。
天板および底面の中央部はフラットで、エッジにかけてなめらかなカーブを描く。しかしディスプレイ側のエッジは非常に薄いが、中央部にかけて膨らんでいるため、ぽっちゃりとした印象を受ける。加えて、キーボードやディスプレイの枠も大きめに取られており、ややもったいない気がする。この辺りは分解のパートでも詳しく見ていきたい。
細かいところを挙げると、キーボード側は中央にかけて凹んでおり、一方液晶側は膨らんでいる。ワンダーピクスの液晶モジュールがよほど厚いのだろうか。パームレストが凹んでいるおかげで、キーピッチが狭く、元から打ちにくいキーボードの使いにくさに拍車をかける原因ともなっている。
また、側面から見た時の一体感を高めたかったためだろうが、USBポートなどには全てカバーが取り付けられている。当初から一体感の高いUSBポートとシャーシの設計にすれば、こんな使い勝手やデザインを低下させるような構造は省けただろうから、ちょっと精彩を欠くイメージは拭えない。工業製品だから機能を実現する上では仕方ないだろうが、せっかく有名デザイナーを招いたのだから、できるだけオリジナルコンセプトを損なわないよう実製品に反映して欲しかったものだ(もっとも、オリジナルのデザインがどうだったかは分からない)。
インプレス入社後、ショッピングクレジットで買った
デザインや使い勝手に関して突っ込みが多いのだが、それは筆者が実ユーザーだったからである。筆者が2004年にインプレス入社して以来、しばらく「InterLink XP」を使っていたのだが、PC Watchに移籍してからはモバイルノートを一新しようと思い、CV50Fを購入したのである。
当時は駆け出しの契約社員で、さほど資金が豊富ではなかった。これがCV50Fを選んだ理由でもあったのだが(資金が問題でなければレッツノートRかバイオノート505エクストリーム行ってた)、初めて24カ月のショッピングクレジットローンを組んで買ったノートPCでもある。
液晶が光沢でやや見にくく、キーボードがちょっと打ちにくかったということ以外は、性能的にも十分で至って快適なノートであったので、2009年の「VAIO Type P」が出て乗り換えるまでは個人的なノートとして所持していた(会社では、2007年暮れにThinkPad X61を導入して使っていたが)。途中でバッテリが持たなくなってからは外付け大容量バッテリで拡張したりした。メモリは256MBで、Windows XP SP2が導入されてから「遅いなぁ」と感じる場面もあったが、本機のメモリはメーカー交換のみで高価だったので、結局メモリは増やさず利用し続けた。
ちなみに本製品には“お遊び”としてリモコンで文字入力ができる機能が搭載されていたが、これはさすがに使わずじまいだった。もともとキーボードが打ちにくいのに、リモコンのダイヤルでさらにチマチマ文字入力するのはさすがにナンセンス。せめてソニーの「バイオU」みたいに、ケータイテンキー入力の小型版でも付いていたら評価が変わっていただろう。
ユニークな機能としてはもう1つある。それは本体左側面にMini USBポートを備えており、電源オフ時にほかのPCに接続すると、内蔵HDDを外付けHDDのように使う「DirectHD」機能だ。Crusoe搭載薄型MURAMASA PC-MMシリーズから引き継いだ機能なのだが、非常に画期的であった(と言っても今でもこの機能を実装しているPCは聞いたことがない)。メインマシンとちょっとしたデータのやり取りなどには大変便利である。
特徴ばかり書いてスペックを忘れていたが、CPUはEfficeon TM8600 1GHz、メモリは256MB、HDDは20GB、標準搭載のOSはWindows XP Home Editionである。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は19万円前後だった。本体サイズは約225×158×30.1~31.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量は880gと、Mebiusシリーズ最小/最軽量モデルであり、ミニノートに相応しいサイズ感となっている。
シャープ製半導体もちゃんとあるCV50F
Efficeonという世にも珍しいCPUが使われているので、これは中を分解して見なくてはならない。実は購入した当初から一度も分解したことがない。早速分解して中を見てみよう。本機はキーボード面が逆さまのバスタブという珍しい構造となっており、ここで側面の剛性が保たれているため、底面と爪によるはめ込みがなされておらず、底面のネジ6本外して、各種ポートカバーを開けた状態にすれば、すぐに中へアクセスできる(スピーカーのケーブルが繋がっている点だけは注意)。
カバーを開けてから、液晶、トラックパッド、バッテリのコネクタ1本ずつ外し、見えるネジ全てを外したらマザーボードを裏返せるようになる。そこで無線アンテナとキーボードのケーブルを外せば、マザーボードを取り出せる。構造は単純明快で、ノートPCを分解した人であれば図解いらずだ。これまで多くのミニノートを分解してきたが、ここまで分解にヒヤヒヤしなくてもいいノートは初めてである。
マザーボードは“コ”の字をしており、空きスペースが目立つ。例えば底面で言えばHDDの下、ビデオチップの上はほぼ空きだし、表面は無線LANモジュール付近に空きがある。本体はそれなりに小さいのだから、基板に多少余裕がある分には問題ないのだが、本体デザイン優先ではなく小ささ優先で基板が開発されていたら、もう一回り小さいフォームファクタができたのではないだろうか。先述の通り、キーボードと液晶のフレームに余裕があるので、この両方を活かすのであれば基板サイズをもう少し削って欲しかったところだ。
さて、主要チップを見ていこう。心臓部となるCPUには、TransmetaのEfficeonが採用されている。本製品に採用されている「TM8600」は第1世代のEfficeonで、台湾TSMCの130nmプロセスで製造されている。従来のCrusoeから大幅に性能を改善したプロセッサで、Pentium Mに対抗しうる性能を備えている、とされる。CV50Fのベンチマークデータはあまりないので、この辺りは後半で検証してみたいところだ。
ちなみにシュリンクした90nmプロセスの「TM8800」もあるが、そちらは日本の富士通で製造されている。TM8800では、新たにWindows XP SP2でサポートされたデータ実行防止機能(DEP)をハードウェアでサポートするNXbitをサポートするわけだが、残念ながら本機は非対応、ということになる。
このNXbitおよびSSE2命令は、Windows 8以降CPUのサポートが必須であり、非対応の場合インストールの段階で停止する。本機はNXbitは非対応だがSSE2対応ということで、ものは試しということでWindows 10を別のマシンでインストールして本機に戻し起動しようと試みたが、やはり起動しなかった。
なお、本機のメモリは256MBしかないのだが、一応256MBでもWindows 10は動作するらしい。しかし、Windows 10のインストーラ自体、RAMディスクを作ってテンポラリとして使うが、メモリ256MBではその容量分を確保できず、ブルースクリーンになるので先に進まない。まあ、いずれにしても本機でWindows 10は動かないと見た方がいいだろう。
余談だが、TM8800を搭載した1.26kgでDVD内蔵のモバイルノート「PC-MP70G」では、メモリを1GBに増設すればWindows 10が動作する可能性がある。うまく行けばおそらく世界で唯一のEfficeon搭載Windows 10ノートになるであろう。所持しているユーザーは是非チャレンジしてみて欲しいところである(笑)。
ビデオチップには、Mobility Radeonが採用されている。と言ってもこれまでの記事で多く取り上げたCrusoe時代の「M6-M」ではなく、16MBのメモリ(Samsung製)を統合したMCM(Multi-Chip Module)形状の「M6-C16」だ。M6-MはPCI接続であったが、M6-C16はAGP接続に変更されている。
当時、同じくビデオメモリ16MB搭載のRadeon採用機に、バイオU101があった。そちらは、ひっそりハードウェアT&Lに対応していたことが明らかとなっていたので、本製品も対応しているのではと期待して買ったのだが、デフォルトではハードウェアT&Lどころか、Direct3DやDirect Drawに対する対応も切られていた。調べてみるとどうやらドライバの制限のようだ。
実際、Windows XP SP3標準のドライバに差し替えるとDirect DrawやDirect3Dが動作するし、非公式のOmega Driver(現在サイトは閉鎖されている)などを導入していやればハードウェアT&Lもきちんと使える。バイオU101で使えるのだから、ある意味当たり前なのだが、おそらくサポートや発熱の観点から、カスタマイズでオフにされたのだろう。ちょっともったいない話ではある。
チップセットには、ALiの「M1563M」が採用されている。従来のCrusoeではノースブリッジをCPU内に内包しており、サウスブリッジとの接続にPCIを採用していたが、Efficeonではこの接続にAMDと共通のHyperTransportを用いた。しかしこうして振り返ってみると、Efficeonはマイクロアーキテクチャだけでなく、Crusoeから周辺インターフェイスも一新されていることが分かり、大変興味深い。
メインメモリは着脱できるモジュール式だ。先述の通り、CV50Fはメーカーによるメモリアップグレードサービス(256MB→512MB)を提供している。ただ本体サイズからして、独自モジュールではなくMicro SO-DIMMの採用も可能であっただろう。この点もやや惜しまれる。本機に搭載されているメモリチップはNanya製の「NT5DS16MBT-3K」(DDR3-333 2.5-3-3対応DDR SDRAM/2.5V/256Mbit/66ピンTSOPIIパッケージ)である。
そのほか目立つ主要チップとしては、18bit/全二重対応のAC'97準拠オーディオコーデック「Realtek ALC202」、リコー製のPCカード/SDカード両対応のシングルチップインターフェイスIC「R5C811」、Intersil製と見られるIEEE 802.11b対応無線LANモジュール、ICS(IDT)のクロックジェネレータ「9248AG-195」、ホットキー機能などを実現するためとみられるルネサス製の1チップマイコン「M306K9FCLRP」、Pericom製のバススイッチ「PI3B16861A」、2ポートスイッチ「PI3B3861L」などが見える。
電源周りはMaxim Integrated製で固められており、バッテリチャージャーの「MAX1772」、ノートPC用メイン電源コントローラ「MAX1977」、デュアル高効率ステップダウンコントローラ「MAX1845」、ノートブックCPUステップダウンコントローラ「MAX1718」などがある。
ちなみにこのMAX1718のデータシートを見ると、「for Intel Mobile Voltage Positioning(IMVP-II)」書かれている。IMVPはCPUのクロックに応じてプロセッサ電圧VCCをコントロールする機能だが、このチップがEfficeonの本機に搭載されるということは、EfficeonのLongRunはこのIMVPに準じた実装をした可能性はある(もっとも、なんらかの形でシャープが互換性のある形で独自実装した可能性もあるが、分析してみないことには分からない)。
ユニークなチップは2つある。1つ目はメモリモジュールに下に隠されたシャープ謹製の「LHF00L01」で、おそらくBIOSが格納されているであろう、16Mbitフラッシュメモリである。このコラムをここまでやってきたが、シャープ製のICは初めてだ。
2つ目NEC製の「μPD720130GC」だ。型番ですぐに察しが付いている読者もおられようが、本製品はUSB-IDE変換コントローラである。これは先述のDirectHDを実現するために実装されているだろう。近くに実装されているPricomのバススイッチも、この機能に関連している可能性は高い。
全体的に見渡すと、機能は非常に豊富だが、ミニノートにしてはスペースがややもったいない印象。設計当初から本体サイズを切り詰めるようなことは考えてなかったのかもしれないが、であればインターフェイス周りはもう少し余裕があるものを採用して欲しかったところ。とは言え、当時このスペックをこの筐体に押し込めたこと自体、高く評価してもいいだろう。
ヤフオクで3,240円、HDD内容クリアな1品を購入
筆者はこのモデルのオーナーであったが、残念ながらVAIO Type P購入時に手放してしまっているので、今回はヤフオクで落札した。落札価格は3,240円だった(追加で送料500円、決済手数料204円かかっている)。
CV50Fはあまりオーナーが多くないようで、ヤフオクに出品されるのは年に1~2台あるかどうか程度である。以前フラットケーブルが切れていると思われるジャンク品も出品されていたのだが、さすがにそれでは個人的に修理が利かないためパスした。今回落札したのはHDDが完全にフォーマットされただけで、特に起動に問題がない製品である。
実際に届いた製品を起動してみたところ、確かにHDDはリカバリパーティションを含めて消去されていた。というわけで修復はまずOSのインストールから、と言ったところだろう。
機械的には大したトラブルはなく、CPU冷却ファンの軸音がややうるさいのと、天板の浅い擦り傷が目立つ(これはこの機種の宿命とも言える)程度。後者は諦めるとして、前者はグリスアップで修復していくことになるだろう。バッテリはさすがにWindows XPを起動画面まで持っていくのがやっとなぐらいしか持たないが、本機の用途については既に据え置いて使うアテがあったので、マザーボードからコネクタを抜いて運用する。
無難にWindows XPをインストール
まずはOSのインストールの問題から解決しよう。実は最初、Windows 10のインストールを試みた。なかなか無謀だとは思われるかも知れないが、ものは試しだ。まずUSBメモリでWindows 10のインストールディスクを作成しブートしてみたが、先述の通り、メインメモリが1GBないとRAMディスク作成できず、インストーラがそこで停止する。
そこでDirectHD機能をフルに活用し、別のマシンに本機を外付けHDDとして接続、VMwareでメモリ2GBある環境を作って、外付けHDDをそのままディスクとしてマウントしてそこからインストール、インストールが完了したら切り離し、起動を本機で行なおうと考えた。HDDが遅いためインストールに2時間ぐらいかかったが、結局起動する段階でリセットがかかるループから抜け出せなかった。やはりメモリ容量不足以前の問題に、CPUのNXbitのサポートは必須のようだ。
NXbitがなくても起動するWindows 7でも……とも考えたが、今時Aeroが使えない環境で大して快適でもないWindows 7を走らせるのは微妙かな~と思った。一方UbuntuのようなLinux OSも、最近はNXbitやPAEをサポートしていない古いCPUに対応しなくなったようで、これもまた微妙ではある。
というわけで結果的に、本体に貼ってあるWindows XP Home Editionのライセンスを活かすことにした。これならばドライバの問題も起こらないだろうし、問題なく使えるからだ。ただDirectHDを使ったインストールを試みたもののうまく行かず、結局USBの光学ドライブを繋いでインストールすることにした。案の定Mobility Radeonは認識されなかったが、手動でWindows XP標準のドライバを当てたところ無事動作した。一方サウンドカードも認識されなかったが、これはRealtekの公式サイトからダウンロードしたドライバを当てることで対策した。
無線LANのドライバは配布されていないので、プラネックスのCFカード型のLANカード「CF-10T」を用いてネットワークに接続し、Windows Update経由で各種セキュリティパッチを当てる。ちなみにこのWindows Updateの実行時間はCrusoeのバイオUと比較して段違いで、バイオUが3時間を要したところ1時間未満で終了した。Efficeonの性能恐るべし(笑)。
ファンの騒音については、バイオUの回と同じくしてファンのフレームをこじ開け、軸にたっぷりグリスを塗る。ついでに、CPUやGPUとの接地する部分に関しても、高性能グリスを塗る。これで音がかなり静かになった上に、熱もしっかり出てくるようになった。
据え置く先は
さて、いよいよお待ちかね(?)の実用パートだ。今回はバッテリを抜いて据え置いて運用するということで、高解像度で美しいワンダーピクス液晶を活かした使い方をしたい。
当初フォトフレームという使い方も考えたのだが、それではいかんせん芸がないので、Amazon.co.jpで安く販売されている熱帯魚鑑賞ソフト「AQUAZONE水中庭園 HYBRID Perfect 淡水編」を購入し、インストールしてみた。
AQUAZONEは言わずと知れた熱帯魚“飼育”シミュレーションソフトなのだが、今回購入したAQUAZONE水中庭園 HYBRID Perfect 淡水編は鑑賞に特化しており、飼育的な要素はまったくない。その代わり水槽に入る熱帯魚は自由にカスタマイズでき、スクリーンセーバーとしても動く。
ちなみにこのソフトを選んだ最大の理由は、対応OSはWindows XPはもとより、98SE/Me/2000もサポートし、CPUはCeleron 667MHz以上、メモリは64MB以上、HDD空き容量は200MB以上、ビデオカードもDirectX 8.1対応でビデオメモリ16MB以上あれば動くとされるため。本機で動くことはほぼ確実であった。
さて、実際に動かしてみたところだが、まあ今時の最新グラフィックスと比べるまでもなく貧弱なのは仕方ないとして、動きもかなりぎこちない。やはりMobility Radeonでは力不足であったか……と思ったが、水槽の魚を金魚から小さめのグッピーにしたら、スムーズなとても動きになった。どうやら金魚系はポリゴンが多くて処理が追いつかなかったらしい(笑)。
ワンダーピクスの綺麗な発色や精細さはもちろんのこと、ポリゴンの粗も目を凝らして近づいて見ないかぎり分からない。48時間連続起動してみたが、特に問題はないようだ。というわけで、緑や自然が全くなく殺伐とした弊社オフィスのデスク脇に、AQUAZONEを起動したCV50Fを置くことで、そこをオアシスと化すことに成功した。
モバイルツールに対する姿勢に高く評価したい
シャープは2010年、個人向けPC事業から撤退した。そのリソースを電子書籍の「GALAPAGOS」に注力するとし、端末を数機種リリースしたが、それもスマートフォンやタブレットの低価格化、および汎用OSアプリ化に取って代われ、今やシャープの個人向けコンピュータデバイスは、電子辞書を除き皆無に等しい状態である。
振り返ってみると、シャープはPDAの「ザウルス」シリーズを始め、「MURAMASA」を経過し、「NetWalker」や「Wilcomm D4」に至るまで、個人向けモバイルデバイスに対して積極的な姿勢を最後まで見せたが、結局グローバルで桁違いの事業を展開するような企業には価格面で競争できなくなり事業が終息していったと思われる。
それでも評価したいのはシャープが独自性を持った製品を投入する姿勢だ。本機に搭載されたワンダーピクス液晶は言うまでもないが、Efficeonの採用やDirectHDなど、既にコモディティ化が始まっていたPCの世界で独自の世界観を築き上げようとしていた。ザウルスやNetWalkerでもその傾向が見られ、「技術好きなモバイラーの心理をよく分かってるなぁ」と感心させられる。
今や鴻海に買収される寸前のシャープだが、日本のモバイラーを支えてきた一企業として、賞賛と感謝を示したい。
【表】購入と復活にかかった費用(送料/税込み) | |
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PC-CV50F | 3,240円 |
AQUOAZONE 水中庭園 HYBRID Perfect 淡水編 | 2,780円 |
合計 | 6,020円 |